井口健二のOn the Production
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2017年08月20日(日) 仁光の受難

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『仁光の受難』
2016年バンクーバー国際映画祭でプレミア上映されて大評判
となり、その後に釜山、ロッテルダムなど世界各地の映画祭
で上映された日本映画が逆輸入、凱旋公開される。
物語の背景は侍のいる時代。とある寺に仁光という名の僧侶
がいた。勤勉な性格の僧侶は寺でも一番の修行を積んでいた
が、彼には一つの悩みがあった。それはモテ過ぎること。村
に托鉢に行けば老若を問わず女に言い寄られ、男だけの寺で
も怪しい空気に取り囲まれる。
それを自らの不徳とする彼はさらに厳しい修行に励むが、そ
の悩みは中々解消されない。そして托鉢も止められて一人寺
に居た日、忍び込んだ村娘の色香が彼を襲う。そこで至らぬ
自分に気付いた僧侶は修行の旅に出ることにするが…。その
旅でさらなる試練が彼に襲い掛かる。
そこに男の生気を吸い取る妖怪・山女や、人斬りに捉われて
妖怪と化した武士などが絡み、仏道と世俗が織りなす摩訶不
思議な物語が繰り広げられる。

主演は、2015年『BLACK ROOM』などの監督としても知られ、
2002年12月紹介『六月の蛇』など塚本晋也監督作品の常連俳
優でもある辻岡正人。他に元ストリッパーの若林美保、舞台
俳優の岩橋ヒデタカらが脇を固めている。
脚本と監督は、学生映画の出身でCFなども手掛けるフリー
ランスディレクターの庭月野議啓。自身の長編デビュー作と
なる本作は、製作も務める庭月野がクラウドファンディング
を活用して完成させたそうだ。
さらに劇中曲では、世界的に活躍する尺八奏者の神永大輔が
独特の雰囲気を醸し出している。
作品には女声ナレーションが添えられて「日本昔ばなし」の
ような趣だが、その実写の映像はR−12指定を受けるほどの
もの。さらにそこに浮世絵や曼荼羅を模したアニメーション
などが加味されて、摩訶不思議な作品に仕上げられている。
しかも侍なども登場する内容だから、これは海外の映画祭で
は大受けすること間違いなしの作品だ。そしてそれは海外で
は爆笑も呼んだそうだが、日本人の目で観ても愉快この上な
い作品になっている。
R指定の描写もそれなりに濃厚で、他の宗教でここまでやっ
たら問題にもなりそうだが、仏教のおおらかさも感じる作品
だ。そのバランス感覚も含めまた1人、日本映画の枠を超え
た新たな才能の開花が観られるものだ。

公開は9月23日より、東京は角川シネマ新宿にてロードショ
ウとなる。

この週は他に
『問いかける焦土』“Lektionen in Finsternis”
(2012年1月紹介『忘れられた夢の記憶』などのヴェルナー
・ヘルツォーク監督で、1992年に発表された湾岸戦争が背景
のドキュメンタリー。基は前年の戦争で破壊放火された油井
の消火活動を記録するものだったようだが、そこに監督は人
類によって破壊される地球の未来を見つめる。人類が創造し
た都市と、業火の燃え盛るまるで異惑星のような風景とが、
監督本人がSFのようだと語る摩訶不思議な映像を作り上げ
ている。以前にNHKで放送されたこともあるようだが、そ
の際には肝心のシーンがカットされていたとのこと。今回は
初めてその全貌が一般公開される。東京では10月7日〜27日
に新宿K's cinemaで開催「ヘルツォーク特集2017」の中で
上映され、以降全国順次ロードショウ。)
『HiGH&LOW THE MOVIE 2 END OF SKY』
(EXILE HIROの企画プロデュースで2016年公開された作品の
続き。前作は観ていないが、若者たちが取り仕切る暴力に満
ちた街区を舞台に、内での抗争と外からの敵には団結して対
抗する姿が描かれる。街区の名前は構想するグループの頭文
字からSWORDと名付けられているが、それが「スウォード」
と発音されているのは洒落のつもりなのかな? そこにはそ
れなりのルールもあって、そこから逸脱すると官憲が乗り込
んでくるようだ。そんな中での物語が展開される。EXILEの
メムバーが主要な役を演じる他に、窪田正孝、林遣都、中村
蒼、斎藤工らの若手俳優が脇を固め、さらに津川雅彦、岸谷
五郎らのベテランも登場する。台詞のある役が100人を超え
るそうだ。公開は8月19日より、全国ロードショウ。)
『エンドレス・ポエトリー』“Poesia Sin Fin”
(2016年9月紹介『虹泥棒』などのアレハンドロ・ホドロフ
スキー監督による2014年『リアリティのダンス』に続く自伝
シリーズの新作。前作では故郷トコピージャの漁村に暮らす
幼少時代が描かれたが、本作では首都サンティアゴでの青年
時代が描かれる。とは言うものの作品は、監督らしい摩訶不
思議な雰囲気に彩られたものだ。そしてその撮影を、2016年
11月27日題名紹介『壊れた心』などのクリストファー・ドイ
ルが担当、こちらもその雰囲気を倍加させている。なお本作
の流れで次回作があるとすればヨーロッパ編となるようで、
いろいろな人との交流も始まるその作品を是非ともみたいも
のだ。本作の公開は11月18日より、東京は新宿シネマカリテ
他で全国順次ロードショウ。)
『リミット・オブ・スリーピング・ビューティ』
(インディーズ映画で注目を集めてきた二宮健監督が、ゆう
ばり国際ファンタスティック映画祭2015で審査員特別賞を受
賞した作品を、商業映画デビュー作としてセルフリメイク。
小さなサーカス小屋でマジシャンのアシスタントをしている
女性が、催眠術にかかる演技をしている内に幻想と現実の狭
間の世界に紛れ込む。出演は2016年9月18日題名紹介『ひか
りをあててしぼる』などの桜井ユキと、2017年1月紹介『3
月のライオン』などの高橋一生。他に山谷初男、満島真之介
らが脇を固めている。内容は原案、脚本も務める監督の心象
世界だから周りはそれに従えばよい。繰り広げられる映像の
氾濫に身をゆだねて楽しむ作品だ。公開は10月21日より、東
京は新宿武蔵野館他で全国順次ロードショウ。)
『南瓜とマヨネーズ』
(2006年『ストロベリーショートケイクス』などの原作で知
られる漫画家・魚喃キリコの代表作とされる作品の映画化。
ミュージシャンを目指す恋人のため内緒で風俗に勤め始めた
女性。その現実を知った恋人は真面目に働き始めるが…。彼
女は過去の男と再会し、ダメと知りつつその優しさにのめり
込んで行く。出演は臼田あさ美、太賀。その脇をオダギリジ
ョー、清水くるみ、光石研らが固めている。脚本と監督は、
2012年9月紹介『BUNGO ささやかな欲望』の中の「注文の多
い料理店」を担当した冨永昌敬。原作は1990年代の作品のよ
うだが、都会の片隅では今でもこんなことってあるのだろう
なあ、と思わせる物語が展開される。公開は11月11日より、
東京は新宿武蔵野館他で全国ロードショウ。)
『先生! 、、、好きになってもいいですか?』
(2011年2月紹介『高校デビュー』などの河原和音原作少女
コミックスからの映画化。女子生徒がクールで生真面目な教
師に恋をし、その気持ちを素直にぶつけるが…。出演は広瀬
すず、生田斗真。他に竜星涼、森川葵、健太郎、比嘉愛未ら
が脇を固めている。監督は、2013年8月紹介『陽だまりの彼
女』などの三木孝浩。脚本は2015年『心が叫びたがってるん
だ。』などの岡田麿里が担当した。前々回『ナラタージュ』
に続いてジャニーズ主演のよく似た感じの話だが、行定作品
は小説の映画化で本作はコミックス。その辺の違いが映画化
に現れているのも面白く感じられた。なお題名は当初原作の
ままだったが変更されたようだ。公開は10月28日より、東京
は新宿バルト9他で全国ロードショウ。)
『泥棒役者』
(2011年12月紹介『ワイルド7』などの関ジャニ∞丸山隆平
初単独主演という作品。天才的な開錠の腕を持つが真っ当に
生きようとしていた若者が、昔の仲間に脅されて最後の仕事
として絵本作家の家に忍び込む。ところがそこで新米編集者
に作家本人と間違われ、何とか取り繕おうとしてすったもん
だが始まる。共演は市村正親、石橋杏奈、宮川大輔、ユース
ケ・サンタマリア、片桐仁、高畑充希、峯村リエ。脚本と監
督は、2012年9月紹介『Tiger & Bunny: The Beginning』の
脚本を担当した西田征史。舞台劇のような作品だが、脚本は
オリジナルのようだ。ただもう一捻り欲しいかな。出来たら
舞台に掛けて練り込んでみたい。公開は11月18日より、東京
はTOHOシネマズ新宿他で全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二