井口健二のOn the Production
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2017年08月06日(日) ゲット・アウト

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『ゲット・アウト』“Get Out”
黒人コメディアンのジョーダン・ピールが製作、脚本、監督
を務めるホラー作品。
主人公は白人の恋人を持つ黒人のカメラマン。そんなカップ
ルが結婚を決め、彼女の実家に挨拶に行くことになる。その
時、主人公は肌の色の違いを危惧するが、彼女は「父は3選
のオバマにも投票したはず」と一蹴する。
しかしその実家に向かう途中で主人公は、白人警官の横柄な
対応にも遭遇する。そして到着した彼女の実家は、周りを森
に囲まれた大邸宅だが、主人公はそこに黒人の使用人がいる
ことに違和感を覚える。
それでも彼女の両親は大歓迎で、やがて近隣の人も集まった
パーティも開かれるが…。主人公はそこに招かれた少数の黒
人の姿にさらに違和感を深めていた。そしてその違和感は恐
怖へと繋がって行く。

出演は、2014年『キック・アス』続編などのダニエル・カル
ーヤと、コメディエンヌのアリソン・ウィリアムズ。他に、
2013年『キャプテン・フィリップス』などのキャサリン・キ
ーナー、2013年12月紹介『ウォルト・ディズニーの約束』な
どのブラッドリー・ウィットフォードらが脇を固めている。
物語の成り行きは、後半のアイデアを先に思いついて、そこ
から前半が作られたと思われるが、いずれにしてもアメリカ
で消えない人種差別へのメッセージを込めた作品であること
は間違いない。
しかし本作では、逆に黒人の頑健さなどが強調されて優越主
義が見え隠れするのはご愛嬌だ。しかも監督は当初、結末で
主人公が逮捕されるヴァージョンを撮影したが、公開直前に
変更したのだそうで、その辺の思惑も面白いところだ。
もっとも一緒に試写を観た知人からは、「最期に主人公が他
の黒人を勧誘していたらもっと面白い」という発言が出て、
それは本当に凄いと思わされた。でもこの監督ではそれはな
さそうだ。
因に上記の当初の結末は、DVDには収録されるとのこと。
それにしても、アメリカの人種差別の根の深さが痛いほどに
見える作品だ。
なおコメディアンの監督がデビュー作でホラーを撮ったこと
に関しては、監督自身が「コメディもホラーもいろいろな要
素が絡み合うことでは同じ」と語ったそうで、この意見には
賛同するところだ。

公開は10月27日より、東京はTOHOシネマズシャンテ他にて、
全国ロードショウとなる。

この週は他に
『汚れたダイヤモンド』“Diamant noir”
(宝石の研磨で財を成した一族。しかしそこには兄弟の確執
があった。主人公の父親は研磨中の事故で指を失い、そのた
め一族を追い出される。その息子は強盗団に入り、一族への
復讐の時を伺う。ところが手引きのために一族の中に入り、
家族として迎えられた主人公に葛藤が生まれる。物語は複雑
だが、それなりに整理されて中々の復讐劇が描かれていた。
出演は今年5月14日「フランス映画祭」で紹介『ポリーナ、
私を踊る』などのニールス・シュナイダーと、2010年7月紹
介『ソルト』などのアウグスト・ディール。監督は俳優でも
あるアルチュール・アラリが務めた。公開は9月中旬、東京
は渋谷ユーロスペース他で全国順次ロードショウ。)
『茅ヶ崎物語』
(加山雄三やサザン・オールスターズを誕生させた神奈川県
茅ヶ崎市の音楽事情を、大手レコード会社に勤務した同市在
住の人物が検証するドキュメンタリーと、彼が企画した桑田
佳祐初ライヴの様子を神木隆之介らの出演で再現ドラマにし
て綴った作品。ただし本作では別の学者が歴史を紐解くが、
その説は日本の海岸線の街の全てに共通するもので、それと
茅ヶ崎音楽との繋がりは意味不明。ラストの映像を見るに、
もっと桑田に沿った作品にして良かったのではないのかな?
茅ヶ崎音楽の発祥については2008年4月紹介『サンシャイン
・デイズ』が的確だったと思うが、本作でその点に全く触れ
ないのも解せなかった。公開は9月16日より、東京はTOHOシ
ネマズ六本木ヒルズ他で2週間限定ロードショウ。)
『ナラタージュ』
(行定勲監督、松本潤、有村架純の共演で、2006年版「この
恋愛小説がすごい」第1位に輝いた島本理生原作の映画化。
高校時代に危ういところを演劇部顧問の教師に救われた女性
が、大学生になって後輩の舞台の応援に呼ばれる。しかしそ
れは高校時代に秘めた感情を再燃させるものだった。恋愛ド
ラマの様相を取りながら主人公の秘めた心情を解いて行く謎
解きの要素もあり、かなり複雑な作品になっている。ただし
作品はさらに後の時代から振り返る展開になっており、そこ
までの繋がりに多少の違和感が残ってしまった。素直に物語
だけを楽しめばよいのだろうが…。公開は10月7日より、東
京はTOHOシネマズ六本木ヒルズ他で全国ロードショウ。)
『チェイサー』“Kidnap”
(2013年10月紹介『ザ・コール 緊急通報指令室』などのハ
ル・ベリー主演で、目の前から子供を誘拐された女性が単独
で犯人を追い詰めて行く姿を描いたノンストップアクション
作品。上記主演作もアメリカで横行する誘拐事件をテーマに
したものだったが、本作ではそれがすでに産業と呼べるもの
になっていることを背景にしている。そして主人公は目の前
から子供を連れ去った犯人の車を追跡し追い詰めて行くのだ
が、その展開の強烈なこと。これは日本の女優では到底かな
わない、ハリウッドのハル・ベリーだからこそ出来る作品と
言えるかもしれない。そんな「映画」を堪能させてくれる。
監督は長編2作目のルイス・プリエト。今後に期待の新鋭の
作品だ。内覧中の試写を見せて貰ったもので、公開期日は未
定だが、年内予定になっている。)
『ダンケルク』“Dunkirk”
(第2次大戦初期の1940年5月〜6月に行われたダンケルク
撤退作戦を、2014年11月紹介『インターステラー』などのク
リストファー・ノーラン監督がIMAX-3Dで映像化した作品。
実はマスコミ試写が通常版2Dのみだったので作品の全貌は
観られていない。しかし民間船も動員された撤退作戦の様子
や、スピットファイア対メッサーシュミットの空中戦など、
これをIMAX-3Dで観られたらさぞかしだろうという感覚には
なる作品だった。しかもノーラン監督は、この様子を3つの
時間軸の同時進行というトリッキーな構成で描いており、そ
のノーラン・ワールドも体感できる作品だ。公開は9月9日
より、2D/3D/IMAX-3Dで全国ロードショウ。)
『ソウル・ステーションパンデミック』“서울역”
(2017年7月紹介『新感染 ファイナル・エクスプレス』の
前日譚となるヨン・サンホ監督によるアニメーション作品。
物語は実写作品と同様の感染症に始まるパニックを描いてい
るが、実写作がほぼアクションに終始したのに対して、本作
ではその間でかなり壮絶な人間模様が展開される。これが見
事で、正直なところ監督の興味は主にそちらに向いているよ
うにも思える。でも実写作の演出は見事だったし、そこにこ
の人間模様が織り込まれたら、これは本当に凄いことになる
という思いはした。監督のアニメーション作品は前回題名紹
介『我は神なり』に続く第3作で、残る第1作も観たいもの
だ。本作の公開は9月30日より、東京は新宿ピカデリー他で
全国ロードショウ。)
『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 激突 ルウム会戦』
(1979年に放送開始されたシリーズでキャラクターデザイン
などを務めた安彦良和が自ら手掛けたマンガの映像化。因に
本作は新シリーズの第5作だが、前作までで一つの話が完結
し、本作からは新たな展開が始まるようだ。とは言え僕自身
はオリジナルシリーズを見ていた世代でもないし、本作だけ
では不明の点も多かった。でもまあオリジナルからのファン
にはこれで良いのだろうし、そこにとやかく言う資格は僕に
はない。特に本作の副題にはそれなりの意味もあるようだ。
ただ本作を観ていて時々画面がスタンダードになったり、H
Dサイズになるのは気になったもので、その理由は知りたい
と思ったところだ。公開は9月2日より、東京は新宿ピカデ
リー他、全国35館にて4週間の限定ロードショウ。)
『夜間もやってる保育園』
(以前多発した事故により法制度が定まり、公的に認められ
るようになった夜間保育園。本作は東京の繁華街に所在する
一つの保育園を主な取材先として、その現実が抱える問題な
どが描かれる。個人的には子供も成長して保育園の世話にな
る状況ではないが、いろいろ見聞きする機会はあるし関心は
寄せていた。従って内容には先に承知のものも多かったが、
これらをちゃんと伝えることに関しては今までなかった作品
のように思える。その点で実に喜ばしい作品だった。しかも
題材を暗く捉えずに、極力前向きに描いていることにも好感
が持てるもので、さらにそこに問題点はしっかりと指摘した
素晴らしい作品になっている。公開は9月30日より、東京は
ポレポレ東中野他にて全国順次ロードショウ。)
『立ち去った女』“Ang babaeng humayo”
(昨年のベネチア国際映画祭でグランプリの金獅子賞に輝い
たフィリピンの鬼才ラブ・ディアス監督による上映時間3時
間48分に及ぶ人間ドラマ。冤罪で30年間投獄されていた女性
が真犯人の告白により釈放され、女性は真の黒幕に復讐する
ため行動を開始する。そんな彼女の前に苦しみを抱える様々
な人たちが現れ、彼らの協力により彼女は一歩ずつ黒幕に近
づいて行く。かなり濃密に描かれた作品で、長い上映時間を
飽きさせなかった。主演は1970年代から映画界を中心に活躍
し、メディア局ABS-CBNの前会長も務めたチャロ・サントス
・コンシオ。女優の17年ぶりの復活も話題になっている作品
のようだ。公開は10月より、東京は渋谷シアター・イメージ
フォーラム他にて全国順次ロードショウ。)
『AMY SAID』
(多くの個性派俳優が所属するマネージメント会社ディケイ
ドが設立25周年を記念して製作した群像ドラマ。20年前に自
ら命を絶った女性の命日に集まった元映画研究会の面々が、
彼女が最後に残した言葉を巡って心をぶつけ合う。出演は三
浦誠己、渋川清彦、中村優子、山本浩司、松浦祐也、テイ龍
進、石橋けい、大西信満、村上淳。他に村上虹郎、渡辺真起
子らが脇を固めている。監督は数多くのCFや博覧会の映像
を手掛けてきた村本大志。劇場公開作品は1997年、2004年に
継いで3作目のようだ。スナックでの集まりを中心にした舞
台劇のような会話劇だが、そこに外部の人間も関ってそれな
り凝った人間ドラマが展開される。公開は9月30日より、東
京はテアトル新宿他で全国順次ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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