井口健二のOn the Production
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2017年07月23日(日) あなたそこにいてくれますか、アウトレイジ最終章、3ねんDぐみガラスの仮面 とびだせ私たちのVR

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『あなた、そこにいてくれますか』
               “당신 거기 있어줄래요”
2010年8月紹介『メッセージ そして、愛が残る』の原作で
知られるフランスの作家ギヨーム・ミュッソが2006年に発表
した小説“Seras-tu là?”を、韓国で映画化した作品。
主人公は戦乱の地にも人道的に赴くような中年の医師。彼が
とあるアジアの村でただ一人診療に当たっていた時、赤ん坊
を連れて現れた老人から不思議な丸薬を手渡される。それは
飲むと過去に戻り、過去を修復できるという薬だった。
そんな主人公には過去に別れた愛しい女性がおり、試しに服
用した彼は、その女性と若き日の自分が愛を育む場所に辿り
着く。しかしその女性との別れは必然であり、また彼には、
その別れによって誕生する今まさに愛おしい娘がいた。
女性の運命や親友との離別など、様々なドラマが時間旅行を
切っ掛けに巻き起こってくる。その中で、彼の見い出す最善
の道とは…?

出演は、2012年4月紹介『ワンドゥギ』などのキム・ユンソ
クと、韓国の独立系映画に数多く出演してきたというピョン
・ヨハン。他に女優姉妹の妹のチェ・ソジン、2016年7月紹
介『ミスワイフ』などのキム・サンホ、テレビドラマに多く
出演のアン・セハらが脇を固めている。
監督は2009年『キッチン 3人のレシピ』などのホン・ジヨン
が担当。
原作者はファンタシーやSFのプロパーではないようだが、
交通事故に遭ったことから死について考えるようになり、そ
の結果として『メッセージ』の原作や本作の原作が生み出さ
れたようだ。
その内容は、SF的ではあるが作者の視点はそこには向いて
いないようで、正に人の生死を巡る物語が展開される。特に
本作の究極の選択とも言えるシチュエーションは、SFでは
あまり扱われなかったテーマかもしれない。
恐らくSFではこのようにシビアな状況は好まれないものだ
ろう。しかしこの原作者は、そこにこそある見事な人間模様
を紡ぎ出した。そしてその結末は甘くはあるが、自分がSF
ファンとして納得できるものになっていた。
一部のSFファンではこの甘さを嫌う人もいるかもしれない
が、僕にはタイムパラドックスの処理にも矛盾がなく思え、
正直に言って「やられた…」という感じかな? 正に脱帽と
いう感じの作品だ。
それと映画の中で最近の作品では珍しい描写が続き、これは
何かと思っていたら、最後の思わずニヤリとしてしまった。

公開は10月14日より、東京はシネマート新宿、ヒューマント
ラストシネマ渋谷他で、全国ロードショウとなる。

『アウトレイジ最終章』
2010年6月及び2012年8月に紹介した北野武監督主演による
ヤクザ映画シリーズの完結編。
物語は前作の最後で国外逃亡したビートたけし演じる主人公
が、韓国組織から任された済州島の店で日本のヤクザがトラ
ブルを起こすことから始まる。その落とし前を付けるため、
主人公は日本に戻ることを決意し、それは主人公と日本の組
織との最終決着へと繋がって行く。
そこに日韓の裏組織の関係や、国内では東西の組織の対決、
さらにはそれぞれの組織の内部抗争、取り締まり側の状況な
どが絡んで、かなり多くの人数の動くそれなりな人間模様が
描かれて行く。

共演は、西田敏行、塩見三省、白竜、松重豊ら前作からの続
投組に加えて、大森南朋、ピエール瀧、岸部一徳、大杉漣、
原田泰造、池内博之らが新たに参加している。舞台も韓国に
まで広がる拡大版だ。
ということで以下は個人的な感想になるが、本シリーズは、
一時はヴァイオレンス卒業を宣言していた北野監督が原点?
に立ち返った作品だった。その経緯には多少自分なりの思い
入れもあったもので、そのシリーズが完結したことにはそれ
なりの感慨も湧いてくる。
ただし、上ではそれなりな人間模様と書いたが、映画の中で
のそれぞれは比較的あっさりと描かれていて、前作からの流
れも判り易い。これは前作からの間隔が5年も空いてしまっ
たこともあるのだろうが、判り易さは優先されているように
も感じられた。
しかも説明過多にせずドラマを作るのは、いろいろ難しさも
あったのだろう。そのためか本作は、ある意味内容が淡泊で
もあって、いろいろの部分をもう少し描き込んで欲しかった
ところもある。でもその辺は最近の日本映画の状況には合わ
ないのかもしれない。
いずれにしても、本作で北野監督は再びある意味での卒業を
宣言している訳で、これで次の作品への期待が増してくる。
正直には、本作では決着を急ぎ過ぎているかな?という思い
もあり、それだけ次の作品への想いが高まっているようにも
感じる。
それが新たなヴァイオレンスの表現か? はたまたアートへ
の再挑戦か? その進化形を早く知りたいという思いも募る
作品だ。

公開は10月7日より、全国ロードショウとなる。

『3ねんDぐみガラスの仮面 とびだせ私たちのVR』
前回の『東京タワーお化け屋敷』に続いて、今回は横浜駅西
口に常設されている「DMM・VRシアター」において7月
22日から9月3日まで行われる美内すすえ原作に基づく公演
を一般公開の前日に鑑賞させて貰った。
作品は原作の連載開始40周年を記念して2016年10月から12月
まで放送された短編テレビアニメを拡大したもので、3頭身
にデフォルメされたキャラクターによる原作のパロディが、
30分の物語で展開される。
その物語は、主人公たちの「VRシアター」出演が決定し、
その開演が3日後に迫っているのにまだ演目も決まっていな
いという状況で始まり、月影千草の無茶苦茶な指導の許、演
目は「桃太郎」となるのだが…。
北島マヤが持つ天性の閃きと、姫川亜弓の対抗心、さらには
桜小路優のキャラクターが昔話を新たな次元へと引き上げて
行く。その一方で速水真澄とその影武者の聖唐人はとんでも
ない冒険に巻き込まれていた。

声優は、月影役の田中敦子以下、阿澄佳奈、大久保瑠美、梶
裕貴、小野大輔、それに本作から新登場の聖役に緑川光。
脚本はテレビシリーズの構成も務めた赤尾でこ、監督は『秘
密結社鷹の爪』のスピンオフ作品などを手掛けるべんぴねこ
が担当した。
物語は典型的なパロディという感じだが、日本のパロディと
称するものによくある下品さや悪意のようなものは無くて、
見ていて気分は良いものだった。それにギャグのセンスも大
人の鑑賞に堪えるものになっていた。
そしてこの鑑賞会には原作者も来場していて、上演後には囲
み取材も行われたのだが、元々関西出身で「お笑いは好き」
という原作者は本作にも満足のようで、それも立ち会って良
かったと思えたところだ。
そして実は個人的にはこの劇場のシステムにも興味があった
のだが、使われているのはPepper's ghostと呼ばれる150年
ほど前に発明された舞台の演出技術を応用したもので、シス
テム自体はディズニーランドのホーンテッド・マンションな
どでも見ることができるものだ。
しかしこの劇場ではそれに最新の映像技術を組み合わせてお
り、これによってアニメーションのキャラクターが舞台上を
立体映像のように動き回れる仕組みになっている。実際には
これらのキャラクターは2Dなのだが、それが3Dのように
錯覚されるのもその効果と言えそうなものだ。
ただし現状では、スクリーンは天井まで最大限に設置されて
いるのだが、写される映像には限界があって、上下の動きに
制約のあるのが残念なところ。それにキャラクターの前後の
動きなどにも、もう少し工夫ができそうな気もした。
上記の囲み取材では、原作者にもっと直接的に関る気持ちは
ないかと質問してみたが、そういう外部の発想が技術を進化
させる切っ掛けになることもある訳で、そんなことが起きた
らさらに嬉しいとも思えたところだ。

「VRシアター」の具体的な場所は、JR及び東急横浜駅の
南口に向かう地下道突き当りから西側に出て、相鉄ムービル
の隣り。実際には河を渡る歩道橋からムービルの中のエスカ
レーターを下りて外に出た左側だ。
作品も面白かったが、特に映像技術に興味のある人は観てお
くとよいと思えるものだ。

この週は他に
『あさひなぐ』
(2007年にちばてつや賞の一般部門大賞受賞でデビューした
漫画家こざき亜衣が、2011年よりビッグコミックスピリッツ
で連載、小学館漫画賞受賞のコミックスを、「乃木坂46」の
メンバー主演で映画化した作品。脚本と監督は、2008年8月
紹介『ハンサム★スーツ』などの英勉。英は2017年5月21日
題名紹介『トリガール!』も監督しているが、この手の作品
を撮らせると本当に上手い。本作でもその才能はいかんなく
発揮されている。物語は他愛ないが、例えば物語の初めの方
で剣道と薙刀道の違いが説明され、その成程と思わせるタイ
ミングで一気に引き込まれてしまった。こういうのが映画で
は大事なのだろう。公開は9月22日より、TOHOシネマズ新宿
他で全国ロードショウ。)
『人情噺の福団治』
(関西演芸協会第10代会長で、上方落語協会理事も務める上
方落語家桂福團治を追ったドキュメンタリー。自身が声帯ポ
リープで一時声を失った事などから弟子に障害者を取ったり
手話落語の普及などにも務めているという言うなれば美談的
なドキュメンタリーだが、実は弟子でもある長男の政治思想
などからいろいろな問題も露見される。その辺がまあ単純に
は楽しめない作品になってしまった。事実は事実だから仕方
ない面はあるが、難しいところだ。東京での公開は9月2日
より、アップリンク渋谷にてモーニングショー。なお本人が
三重県出身のため名古屋地区などでは先に公開されたおり、
また日本橋の三重県アンテナショップでも試写会が行われた
ようだ。)
『西遊記2 妖怪の逆襲』“西遊2伏妖篇”
(チャウ・シンチー製作による2014年公開『西遊記〜はじま
りのはじまり〜』“西游・降魔篇”の続編。中国製の西遊記
では2016年7月紹介のシリーズもあるが、VFXも多用でき
る作品は競合してもそれぞれに客が呼べるのだろう。ただし
本作ではシンチーは製作脚本のみで、監督は2014年6月紹介
『ライズ・オブ・シードラゴン』などのツイ・ハークが担当
している。出演はクリス・ウー、ケニー・リン、2016年11月
紹介『人魚姫』のリン・ユン、さらにスー・チーらが脇を固
めている。お話は、原作にもある比丘国での出来事だが、本
作ではそれを大規模なセットやVFXで描き尽す。その派手
さは原作を超えていると言えそうだ。公開は9月8日より、
東京はTOHOシネマズ六本木他で全国でロードショー。)
『あさがくるまえに』“Réparer les vivants”
(2017年05月14日付「第25回フランス映画祭」で紹介済み。
2度観る価値のある作品だ。)
『散歩する侵略者』
(劇作家・前川知大が率いる劇団イキウメの舞台を、2015年
『岸辺の旅』でカンヌ国際映画祭ある視点部門で監督賞を受
賞した黒沢清監督が脚色映画化した作品。数日間行方不明だ
った夫が別人のようになって帰ってくる。そして街では不可
解な事件が頻発し、それを追うジャーナリストがある事実に
気付く。出演は長澤まさみ、松田龍平、長谷川博己。他に前
田敦子、満島真之介らが脇を固めている。内容は『盗まれた
町』のような「静かな侵略」テーマのはずだが、途中にかな
りの騒動になるシーンがあり、その整合性が気になった。監
督はSFの理解者だと思うので辻褄の会う説明は用意されて
いると思うのだが…。公開は9月9日より、東京は新宿ピカ
デリー他で全国ロードショウ。)
『スイス・アーミー・マン』“Swiss Army Man”
(『ハリー・ポッター』のダニエル・ラドクリフが死体役を
演じる、多分今年観た中では最も珍妙な作品。主演は2012年
10月紹介『LOOPER』などのポール・ダノ。その主人公は海で
遭難し、無人島で絶望していた時に、浜に打ち上げられた死
体を見つける。その死体はガスで膨らんで浮力があり、主人
公はその死体に跨って脱出を図るが…。題名はスイスアーミ
ーナイフの人間版ということで、そこからいろいろなことが
巻き起こる。正にとんでもない展開の物語だが、その全体が
嫌味なく纏められているのには感心した。脚本と監督はCM
ディレクター出身のダニエル・クワン&ダニエル・シャイナ
ート。公開は9月22日より、東京はTOHOシネマズシャンテ他
で全国順次ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二