井口健二のOn the Production
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2017年07月09日(日) ナミヤ雑貨店の奇跡、ザ・マミー 呪われた砂漠の王女、少女ファニーと運命の旅

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『ナミヤ雑貨店の奇跡』
2016年8月14日題名紹介『疾風ロンド』など東野圭吾原作の
映画化。原作は2011年に雑誌連載で発表、翌年に出版されて
中央公論文芸賞を受賞している。
登場するのは3人の若者。彼らはある犯罪を犯して逃亡しよ
うとするが、用意した車がエンストし、止む無く下見で見つ
けた廃屋に隠れる。彼らの犯行には彼らなりの正義があった
が、犯罪であることには変わりがない。
そんなことで心が揺れる中、閉じたシャッターの郵便受けに
一通の手紙が投函される。その廃屋は過去に悩み相談で話題
になった街の雑貨店だった。そしてその手紙に記載された相
談は、彼らの過去に関わるものだった。
どうやらその郵便受けは過去からの手紙を受け取っているよ
うで、その手紙に回答することで彼らは自らの過去の出来事
が実現するように仕向けるのだが…。それはある悲劇にも繋
がっていた。

出演は、ジャニーズ(Hey! Say! JUMP)の山田涼介、2017年
6月紹介『二度めの夏、二度と会えない君』の村上虹郎、前
回題名紹介『心が叫びたがってるんだ。』の寛一郎。
他に、成海璃子、門脇麦、林遣都、鈴木梨央、山下リオ、萩
原聖人、小林薫、吉行和子、尾野真千子、そして西田敏行ら
が脇を固めている。
監督は2017年6月4日題名紹介『彼女の人生は間違いじゃな
い』などの廣木隆一。脚本は2016年12月11日題名紹介『キセ
キ あの日のソビト』などの斉藤ひろしが担当した。
テーマ的には、2006年7月紹介『イルマーレ』及びそのオリ
ジナルの2000年韓国映画に通じるかな。時空を超えた手紙の
やり取りが過去の出来事に影響して行くというお話だ。これ
はジャンルとしてはSFということになるものだが…。
最近のこの種の作品では、昨年大ヒットした『君の名は』な
どもそうだが、SFのテーマを扱っている割にはその理由付
などが不明瞭で、しかも主人公たちがそのことに全く疑問を
抱かない。
それをそれでいいとしてしまえるのは、このようなSF的な
テーマがそれなりに一般に認知されている証ということにも
なるが、以前からのSFファンとしては何となく落ち着かな
い気分にもなるものだ。でもまあこういうSFの浸透もあり
なのだろう。
しかも本作では、過去の出来事と現在との繋がりが実に巧み
に描かれていて、それは中々のドラマを作り上げていた。そ
れは全体のドラマ作りも見事なもので、最近エピソードばか
りでストーリーのない作品に辟易していた者としては、久々
に納得の作品だった。

公開は9月28日より、全国ロードショウとなる。

『ザ・マミー 呪われた砂漠の王女』“The Mummy”
過去にはユニヴァーサル・ホラーとして勇名を馳せたハリウ
ッドの老舗映画会社がDark Universeという新たなブランド
を立ち上げ、名作のリブートに乗り出すとする第1弾。
物語の背景は現代。中東の戦乱で古代の遺跡が次々に破壊さ
れる中、主人公は手に入れた地図を頼りにとある村にやって
来る。その村は過激派に占拠されていたが、いろいろあって
ミサイル攻撃が行われ、村の地下の遺跡が発見される。
その遺跡はペルシャ領内にあったがエジプトの様式であり、
その謎を解くため地下に眠っていた棺をイギリスに輸送する
ことになる。その輸送は主人公が地図を手に入れた女性考古
学者の指揮で行われるが…。
その棺に生きたままミイラにされて閉じ込められていた古代
の王女が復活。王女は世界征服の野望に燃え、超能力を駆使
して周囲にいた者たちを支配し始める。そんな中で主人公は
女性考古学者と共に呪いに立ち向かう。

出演はトム・クルーズと、2015年8月紹介『キングスマン』
などのソフィア・ブテラ、2014年『アナベル死霊館の人形』
などのアナベル・ウォーリス。さらにオスカー俳優のラッセ
ル・クロウらが登場する。
脚本は2017年2月紹介『パッセンジャー』などのジョン・ス
ペイツと、2014年6月紹介『ALL YOU NEED IS KILL』などの
クリストファー・マッカリー。監督は2013年6月紹介『スタ
ー・トレック イントゥ・ダークネス』などの脚本家のアレ
ックス・カーツマン。監督は長編第2作のようだ。
同じ原題で知られる1932年公開のオリジナル(邦題:ミイラ
再生)は、ミイラで発見された古代の僧侶が甦り、自らが仕
えた王女の復活を目論むというものだった。しかし今回のリ
ブートではミイラは王女のもの。そしてその王女が直接恐怖
をまき散らすのだ。
これではリブートというより、丸っきり新たなストーリーと
言えるが、本作にはさらに仕掛けがあって、実はクロウの演
じているのがDr. ヘンリー・ジキル。そして彼の研究室には
2017年2月紹介『キングコング髑髏島の巨神』のエンドロー
ル後にも匹敵のとんでもないものが並んでいるのだ。
ここで先に書いたDark Universeというブランド名を考える
と、これはディズニー=マーヴェルの「アベンジャーズ」、
ワーナー=DCの「ジャスティス」に並ぶ新たなチームの展
開が見えてくる。それがクロウ、クルーズの共演に対抗する
ことになるのかな?
因に、Dark Universeでは、2019年の公開予定でハビエル・
バルデム出演の“Bride of Frankenstein”が発表されてい
る他、ジョニーデップ出演の“The Invisible Man”、さら
に“Van Helsing”などが計画されているようだ。これらが
1本化された物語になるのだろうか。

本作の公開は7月28日より、全国ロードショウとなる。

『少女ファニーと運命の旅』“Le voyage de Fanny”
現在はイスラエルで暮らすユダヤ人女性の第2次大戦中の
実体験を描いた作品。
フランス東北部のイタリア占領地区は、ナチスの占領地区
に比べるとユダヤ人への迫害は緩かった。しかしイタリア
の降伏が伝わると様相が一変する。そこで支援者に匿われ
ていた少女らは、両親と別れスイスへ脱出を図る。
ところが乗っていた列車の運行が停止され、引率の大人が
いないまま少女たちは独力でスイスを目指すことになる。
しかも最年長の少女はドイツ語なまりがひどくて人前では
話せず、13歳の主人公に重責が負わされる。
それでも何とか機転を利かせながら国境を目指す少女たち
だったが…。状況は刻々と悪化していた。

出演は、主人公ファニー役に舞台経験はあるが映画初出演
のレオニー・スーショウ。ただし他の8人の子供たちには
かなり実績のある子役が選ばれているようだ。
さらに大人の役では、2006年4月紹介『ロシアン・ドール
ズ』などのセシル・ドゥ・フランス、元レーシング・ドラ
イヴァーというステファン・ドゥ・グルート、2016年公開
『エタニティ永遠の花たちへ』などのヴィクトール・ムー
トレらが脇を固めている。
監督は、2013年6月20日付「フランス映画祭2013」で
紹介『アナタの子供』などのジャック・ドワイヨン監督の
実娘で、2007年のデビュー作がカンヌ映画祭での上映及び
セザール賞にノミネートされ、本作が3作目のローラ・ド
ワイヨン。
因に監督はユダヤ人ではないため、この作品を手掛けるこ
とには相当悩んだようだが、フランスの歴史を伝える上で
重要な作品と考えて踏み切ったとのことだ。
その作品は、戦争をその最大の被害者である子供の視線で
描くという信念が見事に結実したもので、1952年『禁じら
れた遊び』などにも比肩する作品が完成した。
また、映画後半のスイスに向かう風景は『サウンド・オブ
・ミュージック』も思い出させ、その中でつかの間、屈託
なく遊ぶ子供たちの姿は最高のメッセージに思えた。
それにしても、ここに描かれるのはフランス国内でのユダ
ヤ人弾圧の真実であり、それはある意味フランスの負の歴
史である訳で、これをフランス映画界が描いたことも称賛
したい。

公開は8月11日より、東京は日比谷のTOHOシネマズ・シャ
ンテほかで、全国ロードショウとなる。

この週は他に
『蠱毒(こどく) ミートボールマシン』
(2006年7月紹介作品に続くシリーズ第3作? 監督は前
作の山口雄大に代って、前作の特殊造形を務めた西村喜廣
が担当している。山口監督の前作では、着ぐるみ同士のス
プラッターに疑問を感じたが、本作もその路線は継承、た
だし血飛沫の量はさらに増加して、殺陣にもいろいろ工夫
はされていたようだ。そしてタイトル通りの古来の呪術み
たいなものが背景に置かれてはいるのだが、その部分が判
りはするけどもう少し丁寧に欲しかったかな。そこにオド
ロオドロしさがあるとまた違った面白さになったとも思え
た。出演は田中要次、初主演作だそうだ。共演に百合沙。
他に仁科貴、斎藤工らが脇を固めている。公開は8月19日
より、東京は新宿武蔵野館他で全国順次ロードショウ。)
『パターソン』“Paterson”
(ジム・ジャームッシュ監督による前作から4年ぶりとい
う最新長編作品。アメリカ東部の小都市を舞台に町と同じ
苗字のバス運転手の7日間が描かれる。それは事件らしい
出来事も起こらない淡々としたものだが、詩人でもある主
人公には常に新鮮な風景が展開する。出演は2015年『SW
フォースの覚醒』などのアダム・ドライヴァ。共演に『P
OTC最後の海賊』などのゴルシフテ・ファラハニ。他に
永瀬正敏。また本作でカンヌ映画祭でパルムドッグ賞受賞
のアメリカン・ブルドッグが名演技を見せるが、惜しくも
撮影後に他界したそうだ。公開は8月26日より、東京は新
宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町他で、全国
順次ロードショウ。)
『彼女がその名を知らない鳥たち』
(イヤミスの旗手の1人とされる沼田まほかるの原作を、
2016年『日本で一番悪い奴ら』などの白石和彌監督が蒼井
優、阿部サダヲを主演に招いて映画化した作品。蒼井が演
じるのは典型的な悪女。阿部が扮するのは彼女を愛し続け
るダサい男。しかし女の気持ちは以前に別れた男性を思い
続けている。という典型的に嫌な話だが、そこからミステ
リーが始まり、男性観客の自分としては案外阿倍が扮した
男に共感する物語になっていた。共演に松坂桃李、竹野内
豊。展開も面白く、謎解きも納得できる巧みな作品。中盤
で阿部のマッサージを受けながら蒼井が呟く台詞が凄い。
公開は10月28日より、東京は新宿バルト9、有楽町スバル
座他にて全国ロードショウ。)
『アンダー・ハー・マウス』“Below Her Mouth”
(ユニセックスで評判のモデルを主演に据えて女性同士の
性愛を描いた作品。主人公は父親の跡を継いで屋根大工と
して働く女性。そんな彼女がとある現場で目下の家の女性
に目を止める。そして編集者として成功する彼女とバーで
再会した2人は情熱的な関係を持つようになるが…。男性
観客の自分としては、内容的に2013年のカンヌ国際映画祭
パルムドール受賞作『アデル、ブルーは熱い色』を思い出
してしまうが、女性はどうなのかな。本作は監督のエイプ
リル・マレン、脚本のステファニー・ファブリッツィら、
主要スタッフほとんどが女性という布陣で撮られており、
その独自性が出ているかどうか? 公開は10月7日より、
東京はシネマート新宿他で全国順次ロードショウ。)
『ひいくんのあるく町』
(2011年に設置された4年制大学・日本映画大学で第3回
卒業制作として作られた47分のドキュメンタリー。青柳拓
監督の故郷である山梨県南部の市川大門町。その町で多く
の住民から愛されている知恵遅れのひいくん。その男性を
中心に、徐々に変化して行く故郷の街が描かれる。その町
は和紙の生産と花火大会で有名だったが…。「ひいくんが
いなくなったら寂しいなあ」という監督の思いが、失われ
て行く町の風物と重なってある種の共感を呼ぶ。でも何と
なく上手く纏まり過ぎて、何かもう一歩踏み込んで欲しか
ったかな。でもそれをやったら、今この作品が持つ良さは
消えたのだろう。公開は9月2日より、東京はポレポレ東
中野他にて、全国順次ロードショウ。)
『ドリーム私たちのアポロ計画』“Hidden Figures”
(1960年代前半。宇宙開発でソ連に後れを取ったアメリカ
が必死の努力を続けた時代のNASAで、その躍進を支え
た3人の実在の黒人女性の姿を描いた作品。ケネディ大統
領が誕生し、キング牧師が公民権を叫ぶ時代。NASAに
は多くの女性が進出していたが、黒人差別は根強く残って
いた。そんな中でも数学に天分を発揮する主人公は次々に
難問を解決するが、彼女の職場には白人との共用トイレが
無かった。出演はタラジ・P・ヘンスン、オクタヴィア・
スペンサー、ジャネール・モネイ。他にケヴィン・コスナ
ー、キルスティン・ダンスト、マハーシャラ・アリらが脇
を固めている。公開は9月29日より、東京はTOHOシネマズ
シャンテ他で全国ロードショウ。)
『三度目の殺人』
(2011年3月紹介『奇跡』などの是枝裕和監督が、2013年
『そして父になる』の福山雅治、2015年『海街diary』の
広瀬すずと、初参加の役所広司。さらに満島真之介、市川
実日子、松岡依都美、橋爪功、斉藤由貴、吉田鋼太郎らの
配役で描いた弁護士ドラマ。主人公は法廷で勝つことだけ
が狙いの刑事弁護士。しかし今回の案件は殺人の前科を持
つ男の二度目の殺人で、このままでは極刑を免れない。そ
こで無期懲役への減刑を狙うが、被告人の証言は接見の度
に変り、その意図が掴めない。そして主人公は犯行そのも
のに疑問を感じるが…。事件の背景にあるものや死刑の是
非など、世間に一石どころか、二石も三石も投じるような
作品だ。公開は9月9日より、全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二