井口健二のOn the Production
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2017年06月25日(日) エレファントカシマシ/REBECCA 渋谷公会堂、スターシップ9、ウインター・ドリーム 氷の黙示録

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『エレファントカシマシ〜1988/09/10 渋谷公会堂〜』
『REBECCA〜1985.12.25 渋谷公会堂〜』
およそ30年前に渋谷公会堂(ネーミングライツが設定される
前の正に渋公)で行われたコンサートの記録映像がDVD化
されることになり、試写が行われた。
「エレファントカシマシ」の映像は、撮影の状況が良く判ら
ないのだが、ホリゾントの幕も揚げられ、後ろの機材もむき
出しという状況で、登場したヴォーカルも「何だこれ」とい
うような舞台だが…。
そこに舞台の上(移動)、下手舞台袖、舞台下、さらに1階
観客席の中央、左、右というカメラ配置で、しかもそれぞれ
に2台ずつという布陣で、正に舞台での演奏を多角的に記録
しようという意気込みが感じられた。
因に、それぞれ2台というの撮影がフィルムで行われている
ためで、舞台上のカメラでは頻繁に交換をしている様子も観
られるもの。そのために客席の灯りも点いたままという、普
通では考えられない状況での撮影が行われている。
しかしお蔭で客席の様子も明瞭に見られるもので、すでに取
り壊されて更地になった渋公の在りし日の様子には懐かしさ
も込上げた。なお観客は歓声は挙げるが着席のままというの
は、そういう指示があってのものなのだろう。
そしてその舞台ではアンコールも含めて14曲が歌われるが、
ヴォーカルはほぼ70分間を歌いっぱなしで、しかもその声量
の大きさには、しみじみと若さの素晴らしさを見せつけられ
る感じがした。
そして映像はフィルム撮影の真価を目の当たりにする、見事
な記録になっているものだ。

なおBlu-ray、DVDの発売は7月26日だが、その前の7月
11日には東京のZepp Tokyoと大阪のZepp Nambaで一夜限りの
プレミア上映も行われるとのことで、そこでは会場のPAを
フル活用した爆音上映となるようだ。
「REBECCA」の映像はWORLD CONCERT TOURの一環として行わ
れたもので、こちらは所謂ライヴの記録という感じの観客席
も総立ちというコンサートの模様が記録されている。
そしてこちらは女性ヴォーカルのMCも交えてのコンサート
の様子だが、ヴィデオ撮影での画質は多少落ちるものの、そ
の歌声にはやはり圧倒される。しかもそれが後半にどんどん
盛り上がる様は、正に当時の熱気を感じさせてくれた。
そしてこちらでは、アンコールにとんでもないサプライズが
あって本当にアンコールかと思わせるが、さらにその後で当
時のヒット曲を歌う際には、ヴォーカルの疲労も考えたのか
観客席が唱和する声も聞こえ、それは感動的だった。

こちらのDVDの発売も7月26日だが、実はこの記事の更新
日の6月25日に、東京は新宿バルト9ほか、全国15都道府県
19劇場で一夜だけのプレミヤ上映が行われる。紹介はぎりぎ
りになったが情報はお伝えするものだ。
因に本作の上映時間は、事前の紹介では95分だったが、完成
品は110分程度になったようだ。

『スターシップ9』“Orbiter 9”
アメリカの配信会社ネットフリックスの制作スタッフがスペ
インの新進監督と組んで産み出したオリジナルのSF作品。
物語の始りは若い女性1人だけが乗り組む宇宙船。恒星間を
航行しているらしいが、酸素の備蓄が乏しく酸素濃度は1%
に抑えられている。しかし彼女の発した救難信号でようやく
救援のエンジニアがシステムの修理に訪れる。
ところがそれは彼女にとって両親の遺言ヴィデオ以外で初め
て出会う人間であり、初めて見る男性であった。そしてぎこ
ちない雰囲気で修理を見守り、修理を終えたエンジニアは帰
還の準備を始めるが…。

出演は、2002年『キャロルの初恋』でゴヤ賞新進俳優賞受賞
のクララ・ラゴと、2011年『X-MEN:ファースト・ジェネレ
ーション』でハリウッド進出を果たしたアレックス・ゴンザ
レス。
他に、2008年9月紹介『永遠のこどもたち』などのベレン・
ルエダ、同年5月紹介『コレラの時代の愛』などのアンドレ
ス・パラらが脇を固めている。
脚本と監督は、短編作品で多数の受賞に輝いているアテム・
クライチェ。2012年のVariety紙で「注目すべき若手スペイ
ン映画製作者」の1人に選ばれたという俊英の長編デビュー
作だ。
上記以降の物語の展開は、エンジニアの不自然な登場の仕方
などからSF映画を観馴れている人には大方見当がついてし
まうと思うが、本作ではそこから先がちょっとSFの常識を
超えるものになっている。
それはテーマが人道を超えた危険な秘密研究だということを
考慮しても、軍隊がそこまでやれるのかという範疇なのだ。
具体的には無警告での非武装民間人の射殺なのだが、それが
許可される程の秘密なのかという点に疑問が生じる。
一方、実は映画の初めの方でちょっと引っ掛るニュースらし
きものが描かれていて、その点が以後は全く触れられないの
だが、もしかするとここにはもっと巨大な秘密が隠されてい
るのではないかという考えが浮かんできた。
そうなると、後半に登場するペルソナを使った映像システム
がひょっとしてアーサー・C・クラークの『幼年期の終り』
へのオマージュのようにも見えて、これはとんでもない発想
の基に作られた物語のようにも思えてきた。
実は、プレス資料に掲載された監督のインタヴューにはその
ような言及は全くないので、単なるこちらの思い込みかもし
れないが、いろいろ考えるとSF的には面白いものが見つか
るかもしれない。そんなことを感じさせる作品だ。

公開は8月5日より、東京はヒューマントラストシネマ渋谷
他で、全国順次ロードショウとなる。

『ウインター・ドリーム 氷の黙示録』
               “2307: Winter's Dream”
上記の『スターシップ9』とセットで宣伝されている24世紀
の終末世界を背景にしたSF作品。
それが自然現象か核戦争によるものは良く判らなかったが、
地球が冷え切った未来世界。人類は地中に残った僅かな地熱
を頼りに生き延びているが、あまり危機感もなくドラッグな
どに溺れている。
というのも実際の労役は寒さに順応するように作られた人造
人間に拠っているためで、そのため人類の末裔たちは働くこ
とも必要なくなっているのだ。ところがそこに人造人間たち
の反乱がおきる。
そんな状況で主人公は最初の反乱で妻を殺された警備隊長。
その後はドラッグに溺れていたが、反乱の主謀者の足跡が見
つかりその後を追うべく任務に復帰することになる。そこに
はそれなりにアクティヴな隊員も揃っていたが…。

出演は、本作の原案も提供しているポール・シドゥと、イギ
リス出身のブランデン・コールス、それに2014年の東京国際
映画祭受賞作に主演していたアリエル・ホームズ。
脚本と監督は、2011年1月紹介『ブルー・バレンタイン』の
共同脚本で知られるジョーイ・カーティス。本作はシドゥが
カーティスにアイデアを話して実現したものだそうだ。
宣伝資料には『猿の惑星』や『宇宙戦争』といった題名が並
んでいるが、本作のテーマはどちらかというと今年続編が公
開される『ブレード・ランナー』に近いものだろう。あるい
は2015年12月紹介『オートマタ』も挙げられる。
つまり人類自らが生み出したものが、人類自身の生存競争を
脅かす。その意味では『オートマタ』の時にも書いたように
『2001年宇宙の旅』からの系譜に乗った作品だ。最近この種
の作品が散見されるのは時代の流れなのかな?
なお撮影は極寒のバッファロー平原や、今まで撮影許可が下
りたことのなかったキングス・キャニオン国立公園の洞窟な
どで行われ、VFXなどではない本物の過酷な条件の中での
撮影だったようだ。
そして本作は、プレミア上映されたLAインディー映画祭で
最優秀監督賞を受賞したのを皮切りに、バッファロー国際映
画祭、ボストン・サイエンスフィクション映画祭、ハリウッ
ド・リール・インディペンデント映画祭などで作品賞に輝い
ているそうだ。

公開は、東京では7月15日より開催の「カリテ・ファンタス
ティック!シネマ・コレクション」の1本として上映され、
以降、全国順次ロードショウとなる。

この週は他に
『ベイビー・ドライバー』“Baby Driver”
(2008年5月紹介『ホット・ファズ』などのエドガー・ライ
トが、脚本、製作総指揮も兼ねた監督最新作。ヘッドフォン
から流れる音楽に載せて超絶のドライヴィングテクニックを
魅せる主人公と、そのテクニックを利用して銀行強盗を計画
する犯罪組織のボス。見事なカースタントを絡めて、ライト
監督特有の毒に満ちたコメディが展開される。主演は2017年
5月紹介『ダイバージェント』シリーズに出ていたアンセル
・エルゴート。その脇をケビン・スペイシー、ジェイミー・
フォックス、2016年7月31日『高慢と偏見とゾンビ』などの
リリー・ジェームズらが固めている。主人公が犯罪に巻き込
まれる経緯なども納得できる巧みな作品。これなら文句なし
だ。公開は8月19日より、全国ロードショウ。)
『山村浩二 右目と左目で観る夢』
(2002年に『頭山』でアメリカ・アカデミー賞短編アニメー
ション部門に日本人では初めて正式ノミネートされた作家の
最新作を集めた作品集。上映されるのは『怪物学抄』(2016)
『Fig(無花果)』(2006)『鶴下絵和歌巻』(2011)『古事記 日
向篇』(2013)『干支 1/3』(2016)『five fire fish』(2013)
『鐘声色彩幻想』(2014)『水の夢』(2017)『サティの「パラ
ード」』(2016)の9作で、全体の上映時間は54分となってい
る。作品はかなりシュールなものからそれなりにリアルなも
のまで様々で、内容も飛んだものから教訓がありそうなもの
までヴァラエティに富んでいる。観ているだけで楽しい作品
集だ。公開は8月5日より、東京は渋谷のユーロスペース他
で全国順次ロードショウ。)
『銀魂』
(「週刊少年ジャンプ」連載のコミックスを、小栗旬主演で
実写映画化した作品。幕末に黒船ではなく宇宙人が来襲し、
一気に科学文化が進んでしまった日本=江戸を舞台にした侍
アクション…? 共演は菅田将暉、橋本環奈、長澤まさみ、
岡田将生、中村勘九郎、堂本剛と若手では中々の顔触れが揃
っている。ただ上記の設定からの現実の歴史とのすり合わせ
みたいなものがあまり描かれず、SFとしては物足りない感
じがした。もっとも脚本監督の福田雄一は元々そんなものに
は興味はないらしく、その既存の設定の中だけで物語を構築
しようとしているようだ。多分そういったものが現代の若い
観客には受けるのだろう。SF的にもう一捻りあれば…とは
思うが。公開は7月14日より、全国ロードショウ。)
『ロスト・イン・パリ』“Paris pieds nus”
(カナダの極北部の村で暮していた女性が、ひょんなことか
らパリにやって来た顛末を描いたコメディ。2010年5月紹介
『アイスバーグ』と『ルンバ』のドミニク・アベル、フィオ
ナ・ゴードン夫妻の製作、脚本、監督、主演による作品。プ
レス資料には、「ジャック・タチの再来」などとあったが、
アベル(ドム)の登場シーンなどは、タチなら決してやらな
かったものだろう。作品は基本的に夫妻の本業である道化師
の技に拠っているもので、2人のダンスシーンなどには、タ
チよりチャップリンを思い出した。いずれにしてもノスタル
ジックな作品だ。共演に今年逝去した名女優エマニュエル・
リバが登場する。公開は8月5日より、東京は渋谷のユーロ
スペース他で全国順次ロードショウ。)
『きっと、いい日が待っている』“Der kommer en dag”
(1960年代後半の時代背景でデンマーク・コペンハーゲンの
養護施設を舞台にした実話に基づくとされる作品。貧しい家
庭の兄弟が、病弱な母親と別れて施設に収容される。しかし
そこはしつけとは名ばかりの体罰が横行する場所だった。そ
んな環境で兄弟は空気のような存在であれと言われるが…。
日本でもまたぞろ戸塚ヨットスクールが頭をもたげているよ
うだが、子供に対して常にそのような環境はあるようだ。そ
れを告発するのは正義ではあるが、そこにノスタルジーが絡
まると危うさが生じる。本作はデンマークのアカデミー賞で
6冠を達成し興行も大ヒットしたそうだが、そんな危険も感
じる問題作だ。公開は8月5日より、東京はYEBISU GARDEN
CINEMA他で全国順次ロードショウ。)
『リベリアの白い血』“Out of My Hand”
(ニューヨークを拠点に活動している福永壮志が、撮影監督
村上涼のアイデアを基に脚本、監督、編集を手掛けた作品。
リベリアのゴム農園で働いていた男が労働環境の改善を目指
して立ち上がるが弾圧される。その後、単身ニューヨークに
来てタクシー運転手となった男は、移民の現実に直面して行
く。村上はアフリカでの撮影中にマラリアに罹りアメリカに
帰国後に死去。アメリカシーンは別の撮影監督が引き継いで
完成されている。そんな様々な想いの籠った作品だが、日本
人にはちょっと判り難いところもあるかな? リベリアの現
実などはもう少し説明が欲しい感じもした。でも世界の現実
が垣間見られる作品にはなっている。公開は8月5日より、
東京はアップリンク渋谷他で全国順次ロードショウ。)
『カーズ クロスロード』“Cars 3”
(2006年6月紹介の第1作、2011年7月紹介の第2作に続く
シリーズ第3話。第1作の公開の時は子供の頃に憧れだった
アメリカテレビドラマの舞台「ルート66」の現在の姿を見せ
られて衝撃だったが、そこから新たな道が開けることに嬉し
さも感じた。それが第2作では完全にモーターレースの話に
なって、それはそれで面白くはあったが、第1作の思いとは
ちょっと違った感じにもなっていた。そして第3作は、さら
にモーターレースの世界を描き尽そうという感じで、この点
に関心のある観客にはこれでいいかな? 大体「ルート66」
に関心のある世代の方が稀有だからこれも仕方ないだろう。
ただ主人公の身の処し方には、もう少し何か欲しかった感じ
もしたが。公開は7月15日より、全国ロードショウ。)
『海底47m』“47 Meters Down”
(2011年1月紹介『塔の上のラプンツェル』で主人公の声を
担当したマンディ・モーアと、テレビシリーズ『ヴァンパイ
ア・ダイアリーズ』などで知られクレア・ホルトが姉妹役で
共演する海底パニック作品。人食いザメが遊弋する海域に檻
に入って潜水するツアーに参加した姉妹が、吊り具の故障で
檻のまま47mの海底に沈下。徐々にボンベの酸素が尽きてい
く中での決死の脱出劇が描かれる。かなり凝ったシチュエー
ションだが意外と説得力があって、さらに途中の展開にも上
手い捻りが随所に織り込まれていた。僕はダイヴィングはし
ないので、知っている人が見たらどうかは判らないが、素人
目にはこれは怖いと思わせる作品だ。公開は8月12日より、
東京はシネマート新宿他で全国順次ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二