井口健二のOn the Production
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2017年06月18日(日) 二度めの夏二度と会えない君、Heart and Hearts Korean Film Week、ワンダーウーマン

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『二度めの夏、二度と会えない君』
2008年10月紹介『青い鳥』、2013年2月紹介『恋する歯車』
などの中西健二監督によるSF的な要素を持つ作品。原作は
ライトノベル大賞・優秀賞受賞者赤城大空の同名小説。
それは夏の初め、転校してきた女子生徒が川辺で弾いていた
主人公のギターを聞き、「一緒にバンドやろうよ」と誘うこ
とから物語は始まる。2人の通う高校はあるバンドの出身校
であり、そのバンドは学園祭の演奏で注目された。
そこで彼女も学園祭でのバンドデビューを夢見て転校してき
たのだが…。そのバンドの人気ゆえのトラブルで、学校では
以来、生徒のバンド活動は禁止となっていた。しかし彼女は
めげずにバンド仲間を集め続ける。
そんな彼女には哀しい運命が待ち受けているのだが、主人公
はその全てを知っていた。なぜなら彼は半年後の未来から時
間を超えて戻って来たのだ。そして半年前からやり直すこと
ができる主人公は…。
前と同じ行動を続けながら、あることだけはしないことを心
に決めていた。

出演は、2015年10月紹介『さようなら』などの村上虹郎と、
小学6年でバンドを結成して「いま最も勢いのあるガールズ
バンド」と言われる「たんこぶちん」のVo.&Gt.で、演技は
初挑戦の吉田円佳。劇中の歌は本物だ。
他にAKB48の加藤玲奈、モデル出身の金城茉奈、2017年
4月紹介『トモダチゲーム』などの山田裕貴。さらに本上ま
なみ、菊池亜希子らが脇を固めている。
時間を超える方法が…正にタイムスリップで、前々回に紹介
したこともあったのでニヤリとしてしまった。
内容的にはタイムスリップ物の傑作と言える2005年3月紹介
『バタフライ・エフェクト』の裏返しのような感じで、前と
同じにしたいのに少しずつずれて行くというのは面白い発想
に思えた。
それでも主人公は何とか同じ結末に持って行く訳だが、そこ
での最後の変更点がいろいろと考えさせられた。もしかして
時間を超えたのは彼だけではないかもしれない。それが彼の
運命に作用する。そのためにもう1人がする行動…。
そんなことを考えると物語の別の面が見えてきて、案外深い
作品のようにも思えてきた。上に書いた中西監督の2作もそ
れぞれ気に入った作品だが、2008年2月紹介『山桜』などの
長谷川康夫の脚本も注目してよさそうだ。

公開は9月1日より、東京は新宿バルト9他にて全国ロード
ショウとなる。

続いては以前予告したHeart and Hearts Korean Film Week
と題された特集上映4作品を紹介する。
『空と風と星の詩人 尹東柱の生涯」“동주”
韓国で国民的詩人とされる人物の若き日を描いた作品。最初
の舞台は第2次大戦中の韓国。共に勉学に励むいとこ同士の
2人の少年は日本への留学を決意する。それは情勢からみて
も安全とは言えない決意だった。そして日本に来た2人は、
迫害に遭いながら徐々に抗日の運動に巻き込まれて行く。そ
んな中で主人公は詩作を続け、それを支援する日本人も現れ
るが…。出演はカン・ハヌルとパク・チョンミン。監督は、
2016年公開『王の運命』などのイ・ジュニク。日本軍人の描
き方がステレオタイプのようにも思えるが、最近の日本映画
ではこの手の描写が少ないから、案外判り易く観られるかも
しれない。

『あの人に逢えるまで』“민우씨 오는 날”
2012年1月紹介『マイウェイ』などのカン・ジェギュ監督に
よる上映時間28分の作品。主人公は毎夕食時になると食卓に
愛する人の好物を並べ彼の帰りを待っている。しかし何時に
なっても彼は帰ってこない。そんなある日、役所の人が来て
彼に会いに行こうと言われる。そして乗ったバスには老人が
大勢同乗していた。出演はムン・チェウォンと2012年8月紹
介『高地戦』などのコ・ス。南北朝鮮の離散家族の問題に現
代のもう一つのテーマを絡めて、見事に描き上げた珠玉とい
う言葉もぴったりと言える作品だ。特に結末のシーンには目
を見張らされた。VFXがこれほどの効果を上げる作品も珍
しいだろう。

『春の夢』“춘몽”
街のチンピラ、北朝鮮出身の作業員、小金持ちのボンボンの
3人の男が屯するバラック建ての飲み屋。3人の目当てはそ
の店を1人で切り盛りする女店主だ。彼女には介護が必要な
父親がいて、3人はその父親の面倒も観たりもする。そして
いつも飲んだくれているパラダイスのような場所。そこに謎
の男が現れて波風が立ち始める、監督は中国出身のチャン・
リュル。出演はハン・イェリ、ヤン・イクチュン、ユン・ジ
ョンビン、パク・チョンボム。南北問題を抱える国情などい
ろいろな側面はあるが、日本でも同じような状況にはなるこ
ともありそうだ。そんなある意味普遍的な青春ドラマが展開
される。

『バッカス・レディ』“죽여주는 여자”
2007年1月9日付「東京国際映画祭」で紹介『多細胞少女』
などのイ・ジェヨン監督による現代韓国ソウルの裏の顔を描
いた作品。主人公は高齢者を主な客にする街娼。本人も高齢
者だが「死ぬほど上手」というテクニックで彼女目当ての客
も多いようだ。そんな彼女は、街を彷徨う混血の幼い男の子
を家に連れてきたりもする。そして彼女の許には「生きるの
が辛い}と告白する客も現れる。そんな周囲の人々の希望に
応えようとする主人公だったが…。出演は、2011年5月紹介
『ハウスメイド』などのユン・ジョヨン。後半の展開にはか
なり重く感じるものもあるが、これが現代社会だろう。この
展開も韓国特有の側面もあるが、日本にも通じる作品だ。

Heart and Hearts Korean Film Weekは、東京はシネマート
新宿にて7月22日−8月11日、大阪はシネマート心斎橋にて
7月29日−8月11日に開催される。

『ワンダーウーマン』“Wonder Woman”
1970年代後半のテレビシリーズも懐かしい、DCコミックス
きってのスーパーヒロインを描いた作品。
2016年『バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生』
に登場したワンダーウーマンだが、今回の作品ではその起源
が描かれる。
故郷は神秘のベールに包まれたセミスキラ島。そこは女性だ
けのアマゾン族の国であり、長い年月に亙って人類の目から
は隠されていた。そして島の女王の娘ダイアナは、全ての言
語と全ての武芸に通じる女戦士として育てられていた。
ところが航空機の登場で島の海域への侵入が可能となり、図
らずも人間の男性が登場することになる。彼(スティーヴ)
はイギリス諜報部のスパイで、折しも世界大戦中のドイツに
潜入して秘密兵器の情報収集に当っていた。
しかし遂に手に入れた科学者のノートと共に単葉機で逃走中
を追ってきた戦闘機に撃墜され、島の海域に墜落したのだ。
さらに彼の後を追ってドイツ軍の艦船も侵入してきた。斯く
して戦闘となり、女戦士たちは辛くも勝利するが…。
彼の証言から世界に危機が迫っていると知ったダイアナは、
その陰に潜む人知を超えた存在を察知し、スティーヴと共に
島を出てロンドンに赴き、世界平和に貢献することを使命と
して活動を開始する。
因に背景となっている戦争が第1次大戦だと判って観ている
と、この秘密兵器には震撼する。それが第2次大戦では原子
力爆弾へと繋がって行く訳だが、それはハリウッド映画では
描けない話かな?

出演は、『ジャスティスの誕生』でも同じ役を演じたガル・
ギャドットと、『スター・トレック』シリーズなどのクリス
・パイン。他にロビン・ライト、デヴィッド・シューリス、
2016年12月紹介『汚れたミルク』などのダニー・ヒュースト
ンらが脇を固めている。
監督は、2004年8月紹介『モンスター』でシャーリズ・セロ
ンにオスカーをもたらしたパティ・ジェンキンス。6月2日
に全米公開された本作は、女性監督作品では史上最高の興行
記録を樹立している。
映画の開幕にはウェイン(バットマン)からのプレゼントが
登場して、本作が『ジャスティスの誕生』の続きであること
が明示される。そして物語はそのプレゼントによって呼び起
こされた思い出として語られるものだ。
従って本作の続きが現代の『ジャスティス・リーグ』になる
ことは明白となったもので、取り敢えずの次回作は、年末公
開の作品への登場になるようだ。その他にワンダーウーマン
単独の活躍も期待したいが…。

本作の日本公開は8月25日より、2D/3D/IMAXでの全国
ロードショウとなる。

この週は他に
『米軍(アメリカ)が最も恐れた男 その名は、カメジロー』
(第2次大戦後のアメリカ統治下における沖縄で、立法院議
員や那覇市長を歴任し、沖縄返還以前の国政参加選挙から衆
議院議員としても活動した政治家の姿を追ったドキュメンタ
リー。2017年1月紹介『標的の島』など米軍支配下の沖縄の
現状を伝えるドキュメンタリーは何本か観ているが、その根
底にある沖縄返還時のことはあまり明白ではなかった。本作
はそこにいた瀬長亀次郎という人物を中心に、その事実関係
を描いた作品にもなっている。そこでは本土の日本人が昭和
天皇を筆頭に、沖縄を米軍に売り飛ばした経緯が語られる。
この事実を日本人は深く受け止めなくてはいけない。公開は
8月26日より、東京は渋谷のユーロスペース他にて全国順次
ロードショウ。)
『逆光の頃』
(マンガ家タナカカツキが1988年に発表したデビュー作を、
2012年11月紹介『ももいろそらを』などの小林啓一監督が映
像化した作品。京都の町並みなどを背景に高校2年生の主人
公の仲間との別れや喧嘩、それに淡い初恋などが描かれる。
原作は叙情派とも呼ばれる作品だそうで、吹き出しなども最
小限に描かれているようだが、本作でそれがどこまで伝えら
れているか…。ただ京都の風物の描写は目を見張るほどに美
しく、それを観るだけでも充分の満足できる作品になってい
る。出演は2017年05月21日題名紹介『トリガール!』などの
高杉真宙。他に葵わかな、清水尋也、金子大地、佐津川愛美
らが脇を固めている。公開は7月8日より、東京は新宿シネ
マカリテ他で全国順次ロードショウ。)
『俺たちポップスター』
        “Popstar: Never Stop Never Stopping”
(2008年11月紹介『無ケーカクの命中男』などのジャド・ア
パトーが製作を務め、Saturday Night Liveのレギュラーだ
ったコミックトリオTHE LONELY ISLANDのアンディ・サムバ
ーグ、ヨーマ・タコンヌ、アキヴァ・シェイファーが製作、
脚本、音楽、出演(後2人は監督も)を務める音楽が題材の
フェイク・ドキュメンタリー。幼馴染3人のバンドから1人
がソロデビューするが…。ポップスターの栄光と挫折が描か
れる。物語自体は有り勝ちかなとも思えるが、さすがSNL
絡みという豪華なゲストが様々なコメントで観客を楽しませ
る。と言っても音楽に疎いと半分も判らないが、判る範囲だ
けでも相当の顔触れが登場している。公開は8月5日より、
東京は新宿シネマカリテ他で全国順次ロードショウ。)
『怪盗グルーとミニオン大脱走』“Despicable Me 3”
(情報解禁前のため割愛)
『三里塚のイカロス』
(1966年6月の佐藤首相の発表に始まる現成田国際空港を巡
る三里塚闘争で、1970年以降に農民支援の目的でその土地に
入った新左翼系学生たちの現在を追ったドキュメンタリー。
そこにはそのまま農家に嫁いだ女子学生たちや、開港直前の
1978年3月に管制塔に突入して開港を延期させた闘士らへの
インタヴューなど、正に歴史を生きた人々の生の声が記録さ
れている。実を言うとこの出来事は僕自身の学生時代とも重
なるもので、学友の中にも支援で現地に入った者もおり、他
人事では見られない作品だった。その一方で当時の航空公団
側の人物も登場して当時の苦しさを語る姿には、双方に残し
た傷の大きさも感じさせた。公開は9月上旬に、東京は渋谷
のシアター・イメージフォーラム他で予定されている。)
『幼な子われらに生まれ』
(2008年10月紹介『青い鳥』などの重松清が1996年に発表し
た原作の映画化。バツイチ同士の結婚で、妻の連れ子2人の
他に新たな命が誕生するとき、父親と連れ子との間に確執が
生じる。現代にかなりある得ると思える物語を、浅野忠信、
田中麗奈、宮藤官九郎、寺島しのぶらの出演と、2009年5月
紹介『刺青/匂ひ月のごとく』などの三島有紀子監督で描い
ている。映画的には上記の出演者に子役も含めて見事に表現
されている。ただ、映画の物語は浅野の側から描くが、これ
を寺島の側から考えた時に納得できない部分があり、さらに
子供の年齢などの辻褄があっているかどうか、内容は良いと
思えるだけにその辺が引っ掛ってしまった。公開は8月26日
より、東京はテアトル新宿他で全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二