井口健二のOn the Production
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2017年06月04日(日) time slipという言葉について、丸

 今回は少し違う話題から。
 先日テレビのクイズ番組を見ていてちょっと気になる問題
があった。それは複数の英単語らしきものが並ぶ中で、和製
英語を引いたら負けという設問だった。そして単語群の中に
は3つの和製英語が含まれているという。そこでナイターと
バックミラーはすぐに判ったが、もう1つが判らなかった。
 ところが回答者がタイムスリップを引いた時に負けの表示
が出て、これは和製英語で正しくはタイムトラベルだと解説
された。しかし僕はtime travel と time slipは概念が異な
るし、そもそもtime slipが和製英語か疑問に感じた。
 そこでSF仲間の集会でその話をしたら、すでに僕が行く
前にその話題になっていたようで、すぐに以前に翻訳された
P・K・ディックの『火星のタイムスリップ』の原題は何だ
ろうという話になった。
 その原題は“Martian Time Slip”。原書が出版されたの
は1964年だとのことで、その時代に日本でtime slipという
言葉が使用されていたとは考えられない。従ってこの言葉は
正式に英語であり、設問は誤りだという結論になった。
 さらに後日この件を調べてくれた人がいて、「広辞苑」や
「新明解国語辞典」、「岩波国語辞典」、「大辞林」などに
タイムスリップという項目が立てられていていずれも和製英
語と認定されているとのことだ。
 その中で、「広辞苑」では1998年刊行の第5版からこの項
目があるそうで、この辺が元凶のように思える。
 一方、海外の文献では、翻訳もされているピーター・ニコ
ルズ編の『SF百科事典』には「TIMESLIP」の項目があり、
そこには1956年のイギリス映画が上っているとのこと。因に
その作品は、1968年『チキ・チキ・バン・バン』などのケン
・ヒューズ監督によるものだそうだ。
 また『SF百科事典』の「TIMESLIP」の項目には、1979年
の角川映画『戦国自衛隊』のアメリカ公開題名としても上っ
ているそうで、日本でもこの映画の宣伝にタイムスリップと
いう言葉が使われたのが、一般に知られた始りのようだ。
 いずれにしてもクイズ番組の問題は誤りで、タイムスリッ
プと答えた人は負けではなかった訳だが、最近「広辞苑」に
項目のあるなしだけで正答/誤答を決めるクイズ番組も観た
りして、その権威付に多少の危惧も感じるところだ。
 なお、僕が考えるtime travelの概念は、『バック・トゥ
・ザ・フューチャー』などのように装置を使って意図的に行
う時間旅行。それに対してtime slipは、自然現象などで起
きるもので、正に『戦国自衛隊』は典型と言えるものだ。
 ここで1つ思い出したのだが、多分その公開当時に渋谷で
開かれていた一の日会で、スリップを女性の下着に引っ掛け
て、それを着ると時間旅行ができるという冗談を言っていた
気がする。
 でもその場合は装置を使って意図的に行うのだから、time
slipではなくて、time travelに当るものだ。
 以上、こんなことを書いていて更新が遅れてしまった申し
訳ない。

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『丸』
「ぴあフィルムフェスティバル2014」に選出され、その後に
バンクーバー国際映画祭やロッテルダム国際映画祭、さらに
MoMA主催で新人監督の登竜門とされる「New Directors/New
Films 2015」でも上映されたという鈴木洋平監督作品。
登場するのは、親の家の2階の自室に引き籠っているニート
の男。そこに女が訪ねてきて布団に引き込む。そしてことが
終って起き上がった女が、1点を指さしたまま硬直する。さ
らに振り返った男も硬直する。
やがて帰ってきて2階に上がった父親も同じになり、異常を
感じた母親は警察を呼ぶが、部屋に入った警官も次々同じ状
態になる。そして発砲が起き、父親が死亡する。その状況を
警察は父親が拳銃を奪って自殺したと発表するが…。
実は立て籠もりの状況から近くで取材していた記者がいて、
彼は決定的な証拠写真を撮っていた。

出演は、2013年12月紹介『神奈川芸術大学映像科研究室』な
どの飯田芳、2016年1月紹介『太陽』に出ていたという木原
勝利。さらに本作のプロデューサーも務める池田将らが脇を
固めている。
海外や地方の映画祭での上映はあったようだが、今回の試写
は都内ではPFF以来の上映だったようだ。そういう作品だ
が、内容的に商業レヴェルに達しているかというと面はゆい
ところで、PFFの作品にはそういうのが多い。
でもまあ見所があるから海外にも紹介されている訳で、その
辺の期待値は高いと言える。
それで本作では「丸」と称されるのかな、その部屋に浮かぶ
球体が際立っているもので、それを巡る展開が物語の肝とな
る。その存在はまあSF的とも言えるもので、僕としてはそ
の辺から評価を考えてみたい。
その存在自体は、2014年4月紹介『黒四角』などにも通じる
もので、案外有り勝ちなものだ。しかしそこに『黒四角』の
ような政治思想は持ち込まずに、社会状況で描いている点は
オリジナリティと言える。
ただ僕としてはこの「丸」の存在をもう少し丁寧に描いて欲
しかった。映画の中の説明では空から降りてきたらしいが、
その辺の経緯をもう少し描き込んで欲しかった。さらにこれ
は地球の中心に向かって降りているようなのだが。
それなら例えば地球を突き抜けてリオデジャネイロ辺りに出
現するとか、それは制作費の関係で無理だったかもしれない
が、何かその辺の一工夫も欲しかった感じだ。そんなものが
あったら、もっと評価しやすい作品になったと思われる。
でもまあこの作品は監督の長編第1作な訳だし、『太陽』の
入江悠だって最初の長編はSFでよく判らなかったし、この
監督もこれからに期待したいものだ。

公開は7月8日より、東京は渋谷のシアター・イメージフォ
ーラム他で、全国順次ロードショウとなる。

この週は他に
『フェリシ―と夢のトゥシューズ』“Ballerina”
(2011年10月30日付「東京国際映画祭」で紹介『最強のふた
り』の製作陣が、2011年7月紹介『カンフー・パンダ』など
のアニメーターを招いて制作したパリ・オペラ座が舞台のバ
レエアニメーション。主人公は孤児院で育った少女。踊るこ
とが大好きなその少女が少年と共に脱走してオペラ座のバレ
エ学校を目指す。そこに怪我で道を閉ざされたプリマや富豪
の娘、ロシア貴族の息子などの支援者やライヴァルが絡む。
お話は有りがちだなものだが、ノスタルジックなパリの景観
など、見所は様々に用意されている。そしてバレエの振り付
けはオペラ座の振付師が担当したものだそうで、それも見事
だった。主人公の声をエル・ファニングが当てている。公開
は8月16日より全国ロードショウ。)
『ローサは密告された』“Ma' Rosa”
(2016年11月5日付「東京国際映画祭」で紹介『アジア三面
鏡:リフレクションズ』の一編を手掛けたブリランテ・メン
ドーサ監督による本年のアメリカアカデミー賞外国語映画賞
フィリピン代表に選ばれた作品。マニラのスラム街でロケが
敢行され、警察組織の腐敗などが暴かれて行く。主人公は駄
菓子屋を営む女性だが、裏の商売が密告され、逮捕を免れる
には多額の見逃し金を要求される。そして子供たちがその金
の工面に奔走する。リアルな下層階級の生活ぶりに震撼とす
るが、警察署に普通に2つ入り口があるのには、笑うという
より感心させられた。この世界の現実を僕らはもっと知らな
ければいけないのだろう。公開は7月、東京は渋谷のシアタ
ー・イメージフォーラム他で全国順次ロードショウ。)
『世界にひとつの金メダル』“Jappeloup”
(ロサンゼルスとソウル、2つのオリンピックに出場した馬
場馬術フランス代表の騎手とその愛馬を巡る実話の映画化。
その馬は気性が荒く場体も小さかったが、跳躍力が素晴らし
かった。その馬を弁護士の道を捨てて幼い頃からの夢に挑む
主人公が調教する。その成果は直に表れ始めるが…。道は遥
かに遠かった。脚本と主演は2001年11月紹介『ヴィドック』
などのギョーム・カネ、監督は2009年5月紹介『ココ・シャ
ネル』などのクリスチャン・デュゲイ。監督は馬場馬術の元
カナダ代表だそうで、経験者のカネと共にその魅力を最大限
に描いている。2017年5月21日付「フランス映画祭」で紹介
『夜明けの祈り』のルー・ドゥ・ラージュらが共演。公開は
初夏、東京はシネマート新宿他で全国順次ロードショウ。)
『旅する写真家レモン・ドゥパルドンの愛したフランス』
                 “Journal de France”
(報道者として世界中の様々な出来事の現場に立ち会うと共
に、ドキュメンタリー監督としても数多くの作品を発表して
きた写真家が、倉庫に眠る膨大なフィルムを妻で録音技師の
クローディーヌ・ヌーガレと共に纏めた作品。その中には、
大統領選挙の舞台裏やパリ市の裁判所での審理の模様など、
普通ではちょっと入れない場所での記録も含まれている。そ
の一方で機材をバンに積み込んだだけの1人旅で写真家が行
う独自の思想に基づく撮影の様子なども織り込まれ、写真家
のいろいろな側面が観られる作品にもなっている。それにし
ても最近写真家の人物ドキュメンタリーが多いように感じる
が、何故なのだろう。公開は9月、東京は渋谷のシアター・
イメージフォーラム他で全国順次ロードショウ。)
『便利屋エレジー』
(2013年から作品を発表している土田準平監督の第3作にし
て今年2本目の作品。監督は昭和時代のテレビドラマのテイ
ストを志向しているようで、本作はそんな感じで観ると理解
しやすい作品になっている。その本作に登場するのは家庭づ
くりに失敗した男性が営む便利屋。あまり仕事はなく、保育
園のイヴェントの手伝いなどもしている。そんな時、園児の
1人がお父さんに会いたいと言い出す。その仕事を受けるこ
とにした便利屋だったが…、両親の離別には深い事情があっ
た。出演は鈴木貴之、ダレノガレ明美、寺井文孝。他に風見
しんご、麻木久仁子らが脇を固めている。お話は悪くはない
が、もう一捻りくらい欲しいかな。公開は6月24日より、東
京は池袋シネマ・ロサ他で全国順次ロードショウ。)
『彼女の人生は間違いじゃない』
(2003年11月9日付「東京国際映画祭」で紹介『ヴァイブレ
ータ』などの廣木隆一監督による出身地福島県を舞台にした
作品。主人公は、原発避難の仮設住宅で父親と2人暮らしの
女性。彼女は市役所に勤務しているが、週末になると英会話
の勉強と称して夜行バスで上京し、デリヘルのアルバイトを
している。そんな主人公を中心に歪み切った福島の今が描か
れる。福島問題は関心があるし、その現実が出身者の目線で
語られる。その気持ちは理解するし、監督としてやらざるを
得ない作品だろう。それを監督の守備範囲に引き込んで描い
ている訳だが、何か監督自身も気持ちの整理がついていない
ような、そんな不安感にも襲われた。公開は7月15日より、
東京は新宿武蔵野館他で全国順次ロードショウ。)
『ボン・ボヤージュ〜家族旅行は大暴走〜』“A fond”
(昨年『世界の果てまでヒャッハー!』という作品が日本公
開で話題になったニコラ・ブナム監督の最新作。父親が新車
を買ってバカンス旅行に出掛けた一家が、高速道路でとんで
もない事態に襲われる。フランス製のアクション映画は近年
目覚ましいが、コメディは昔はそうでもなかったが最近は何
かピントが合わず、観ていて苛々が先に来ることが多い。本
作もそんな感じだったが…。それが高速道路に入った辺りか
ら様相が一変した。それは見事なアクションコメディで切れ
味も良く、心の底から楽しませて貰った。シチュエーション
は現代への皮肉にも取れ、事態がエスカレートして行く様も
これは有りそうだ。公開は7月22日より、東京はヒューマン
トラストシネマ渋谷他で全国順次ロードショウ。)
『関西ジャニーズJr.のお笑いスター誕生』
(2016年3月紹介『目指せ♪ドリームステージ!』に続く、
ジャニーズ関西系メンバー主演の青春ドラマ第4弾。第1作
は観ていないが大部屋俳優、第2作は時代劇の忍者、第3作
は地元アイドルと来て、第4作は関西では本命と言えるお笑
い芸人の話だ。これをやるのはそこそこ勇気が要ったと思う
が、関東の人間にはその出来は判断できない。でも素人目に
はそれなりに笑えるものになっていたと思う。出演は2016年
12月11日題名紹介『PとJK』に出ていたという西畑大吾と
前作にも出演の藤原丈一郎。他に室龍太、草間リチャード敬
太、向井康二。さらに森脇健児、森口瑤子らが脇を固める。
監督は助監督出身でテレビ版『釣りバカ日誌』なども手掛け
る石川勝己。公開は8月26日より全国ロードショウ。)
『あしたは最高のはじまり』“Demain tout commence”
(2016年10月紹介『インフェルノ』などのオマール・シー主
演によるイクメン?ドラマ。主人公は海岸リゾートで気楽に
暮すビーチボーイだったが、突然現れた女性に赤ん坊を押し
付けられる。そこで赤ん坊を抱えて女性の後を追った主人公
は空路ロンドンへ。ところが財布を失くし、困ったところに
彼の身の動きを見染めた映画関係者に声を掛けられ、一躍人
気のスタントマンになるが…。成長して通訳も務めるように
なった娘との幸福な生活。それでも娘の母親を探す彼に、残
された時間は少なかった。共演は、DJ Gloとしてアルバムも
リリースしている2004年生まれのグロリア・コルストンと、
2012年12月紹介『人生、ブラボー!』などのアントワーヌ・
ベルトラン。公開は9月9日より、全国ロードショウ。)
『レイルロード・タイガー』“鉄道飛虎”
(今年のアメリカアカデミー賞で名誉賞を授与されたジャッ
キー・チェン主演によるアクション作品。背景は1941年の中
国本土。鉄道に勤める主人公は、民衆に横暴な振る舞いをす
る日本軍の軍事物資の荷抜きなどもしていたが、抵抗はその
程度だった。ところが逃亡する八路軍の兵士を匿ったことか
ら彼とその仲間に重大な任務が与えられる。それは物資輸送
の要となる鉄道橋の爆破だったが…。その作戦は全くのノー
プラン、しかし期限だけが迫っていた。共演は人気K-POPの
元メムバーだったファン・ズータオ、チェンの息子のジェイ
シー・チャン。それに日本から池内博之が参加している。監
督は2010年9月紹介『ラスト・ソルジャー』などのディン・
シェン。公開は6月16日より、全国ロードショウ。)
『きみの声をとどけたい』
(2009年7月紹介『サマー・ウォーズ』などのマッドハウス
が制作したちょっとファンタスティックな要素もある青春ド
ラマアニメーション。舞台は鎌倉・藤沢を模した海岸の町。
主人公はその町に暮らす女子高生。彼女はある偶然からミニ
FMの存在を知り、気付かず送信してしまう。それが1人の
少女の耳に届くが…。主人公は言霊の存在を信じており、そ
れが運命を変えて行く。声優は昨年開催された新世代発掘・
育成プロジェクトで選出の片平美那、田中有紀、岩淵桃音、
飯野美沙子、神戸光歩、鈴木陽斗実。他に三森すずこ、梶裕
貴、鈴木達央、野沢雅子。物語は法律的なところなどもそれ
なりに抑えられており、観ていて違和感はなかった。脚本は
石川学、監督は2013年『プリキュア』などの伊藤尚往。公開
は8月25日より、全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。
なお、この週はさらにフランス映画祭で上映される1作品の
試写も行われたが、次週あと2本観られるので、纏めて紹介
する。


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井口健二