井口健二のOn the Production
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2017年05月21日(日) 第25回フランス映画祭、十年 Ten Years、ダイバージェントFINAL

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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今回も、6月22日〜25日に有楽町朝日ホール/TOHOシネマズ
日劇で開催される第25回フランス映画祭で上映される作品の
中から3本を紹介する。

『パリは今夜も開演中』“Ouvert la nuit”
『エタニティ…』のオドレイ・トトゥが主演するパリの劇場
を舞台にした作品。トトゥが演じるのは劇場支配人の右腕的
立場にいる女性。劇場の次の演目は日本から招いた演出家に
よる作品だが、初日の前日になるも給料の未払いなどで混乱
が続いている。しかも肝心の支配人が小切手帳を持ったまま
姿を現さない。そこにようやく支配人が現れるが…。支配人
は再び夜のパリの街に彷徨い出てしまう。共演は、本作の監
督も務める2011年10月31日付「東京国際映画祭」で紹介『チ
キンとプラム』などのエドゥアール・ベアと、2013年2月紹
介『アンタッチャブルズ』などのサブリナ・ウアザニ。物語
はかなりのドタバタ調とロマンティックが交錯して多少混乱
気味かな。全体的には軽い作品として了解は出来るのだが。
なお本作は映画祭では6月24日に上映されるが、一般公開は
未定となっている。

『夜明けの祈り』“Les Innocentes”
第2次大戦終戦直後のポーランドで起きた、実話に基づくと
される作品。幕開けは修道院。敬虔な夜明けの祈りが続く中
でけたたましい叫び声が聞こえてくる。その声に1人の修道
女が雪道に飛び出し、かなり先のフランス赤十字の野戦病院
を訪ねる。そこでポーランド人は診ないという言葉にめげず
懇願する修道女に、1人の看護婦が密かに同行を決意する。
そして彼女が修道院で観たものは…。ソ連崩壊後、赤軍によ
る非人道的行為が次々に明るみに出されるが、中でもこれは
極め付きという言葉に値する。それはフランス人看護婦によ
る英雄的な行いとして描いてはいるが、過去のソ連を非難す
る舌鋒も鋭い作品だ。監督は2009年7月紹介『ココ・アヴァ
ン・シャネル』などのアンヌ・フォンテーヌ。出演は後日紹
介予定『世界にひとつの金メダル』などのルー・ドゥ・ラー
ジュ。映画祭では6月24日に上映、一般公開は8月5日より
東京は新宿武蔵野館他で全国順次ロードショウとなる。

『愛を綴る女』“Mal de pierres”
日本語にも翻訳されているミレーナ・アグスの原作(邦訳題
祖母の手帳)を、アラン・レネ監督『アメリカの伯父さん』
などのベテラン女優で、本作でセザール賞監督賞にノミネー
トされたニコール・ガルシアが、2007年『エディット・ピア
フ』でオスカー受賞の国際女優マリオン・コティアールを主
演に迎えて映画化した作品。今なら“境界性人格障害”と診
断されるのかな。そんな女性を主人公に、人妻でありながら
入院先の療養施設でインドシナ戦争の傷病兵に惹かれてしま
う女性の姿が描かれる。しかしその顛末は予想外の展開とな
る。途中ではかなりファンタスティックな様相にも描かれて
おり、後半の展開には緊張と共に感動も訪れた。映画祭では
6月24日に上映、一般公開は10月7日より東京は新宿武蔵野
館他で全国順次ロードショウとなる。

以下は通常の試写作品。
『十年』“十年 Ten Years”
2015年に香港返還20周年を期して製作された5つの短編から
なるオムニバス。
本作は、香港の中規模映画祭でプレミア上映され、その後に
単館で上映が始まるも、口コミで徐々に観客動員を伸ばし、
遂には同日封切りの『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』
を週間興行成績で撃破したという。
それぞれの物語は映画製作時から10年後の2025年を想定し、
起こり得る話が描かれている。
その1本目は「エキストラ」。テロ対策法を何としても成立
させようと偽物のテロ攻撃を仕掛ける政治団体の話。2本目
は「冬のセミ」。街で集めたいろいろなものを標本にしてい
る男女の話。それらが消されてしまう現実があるようだ。
3本目は「方言」。香港の公用語だった広東語が禁止され、
その中での普通語(北京語?)が話せないタクシー運転手の
話。そんな彼にはその他にもいろいろな規制の網がかけられ
て行く。
4本目は「焼身自殺者」。早朝のイギリス領事館の前で起き
た事件。目撃者はおらず、身元も不明だったが…。5本目は
「地元産の卵」。香港で最後の養鶏場が閉鎖され、少年団は
書店で地元という言葉の入った書籍を摘発する。
中国映画を観続けて来ていると、何となくこれらの作品の背
景にあるものは理解できるような気がする。それは紅衛兵で
あったり、文化大革命であったり…。それがまた繰り返され
ようとしているのかな。
現実がどうであれ、香港の人々にそれに対する危機感のある
ことは、明確に理解できる物語たちだ。その危機感はこの作
品が本国で上映禁止になったことでも裏付けられる。現実に
言葉狩りは起きているのだから。
その言葉狩りを描いた5本目で、その結末に登場する書籍に
は日本人として「オォ!」という気分にもなった。その本に
「地元」という言葉があったとは思えないが、禁書にされる
理由は沢山ありそうだ。

監督は、1本目がクォック・ジョン、2本目がウォン・フェ
イハン、3本目はジェヴォンズ・アウ、4本目がキウィ・チ
ョウ、5本目はン・ガーリョン。アウが2010年3月紹介『冷
たい雨に撃て、約束の銃弾を』の脚本で知られる他は、ほぼ
無名の人たちのようだ。
また出演者も、5本目に2013年12月紹介『大捜査の女』など
のリウ・カイチーが出ている他は、ノースターの配役となっ
ている。その作品が大ヒットを記録したのだ。正にネガティ
ヴキャンペーンが裏目に出たという作品だ。
公開は7月22日より、東京は新宿K's cimema他にて、全国
順次ロードショウとなる。
香港の近未来の話ではあるが、アメリカや日本もこうならな
いとは限らない。そんな危機感も覚える作品だ。


『ダイバージェントFINAL』“Allegiant”
ヴェロニカ・ロス原作、ヤングアダルト小説シリーズの映画
化で、2014年、2015年公開作に続く第3作。
実は前2作も試写は観ているがここでの紹介はしなかった。
それは第1作では、アクション映画としては面白かったが、
SF映画として物語の世界観が曖昧で、全体像を掴みかねた
もの。その世界観が第2作ではさらに曖昧な感じだった。そ
れが第3作にしてようやく明らかになった。
物語の舞台は世界崩壊後のシカゴ・シティ。高い壁に囲われ
たその街はいくつかの派閥に分けられた住民によって管理さ
れ、子供はある年齢になるとその派閥に分類される。そして
生涯をその派閥のために生きることになっていた。
そんな中で主人公はどの派閥にも属さない異端者と分類され
てしまう。そこから主人公による街の成立の意味を探る旅が
始まるのだが…、というのが第1作の大体の物語。第2作で
はその旅で新たな派閥が見つかるが…。
この種のディストピア物では、基本的にその世界の成立に至
る謎解きがテーマになるが、第1作、第2作では、主人公た
ちの周囲の話ばかりで、基本のテーマに立ち入ることがなか
った。それが僕には不満だった。
でも考えてみれば、現実の世界はそんなもので、僕らはこの
世界の成り立ちなど気にもせず暮らしている訳で、さらには
最近の若者の政治への無関心などが、この作品には反映され
ていたのかもしれない。
それが第3作では一気にディストピアの背後にあったものが
明らかにされる。それで僕としてはようやくほっとできたも
ので、そこに至る冒険や、そこでの主人公たちの立ち振る舞
いにはやっとSFを感じることもできた。
そのSF感自体は悪いものではないし、壮大な映像も含めて
ようやく観たいものを観ることができた感じもした。出来る
ことならこの部分の伏線を散りばめた第1作、第2作を改め
て観てみたいとも思ったものだ。
正直、前2作を観ていなくても、シリーズの全体像は本作だ
けでも大よそ想像がついてしまうもので、前2作を観逃した
人も本作だけで充分SF感は楽しむことができる。そしてそ
れなりの結末は描かれているものだ。

出演は3作通じてのシャイリーン・ウッドリー、テオ・ジェ
ームズ、マイルズ・テラー、アンセル・エルゴート、ゾーイ
・クラヴィッツ。第2作からのナオミ・ワッツ、オクタヴィ
ア・スペンサー。それに本作でジェフ・ダニエルズが加わっ
ている。
監督は、ドイツ出身で2010年12月紹介『RED/レッド』、
2013年8月紹介『ゴースト・エージェント』などのロベルト
・シュヴェンケが担当した。
なお本作で映画シリーズは完結だが、この後にナオミ・ワッ
ツらの出演によるテレビシリーズが続くようだ。


この週は他に
『トリガール!』
(2017年には第40回が開催される読売テレビ主催「鳥人間コ
ンテスト」に参加する大学サークルを描いた青春ドラマ。原
作は芝浦工業大学がモティーフだそうで、実は僕自身がその
大学のOBなもので興味津々で観に行った。そんな目で観て
いると開幕からニヤニヤし通しで、学バスの様子や、学校名
は変えられているのに、駐車している車のナンバープレート
まで気を使っているのには嬉しくもなったところだ。物語の
展開はまあまあ有り体という感じだが、こんなザ・青春とい
う感じのドラマをたまに観るのも良い。出演は、土屋太鳳、
間宮祥太朗、高杉真宙、池田エライザ。監督は2008年8月紹
介『ハンサム★スーツ』などの英勉。公開は9月1日より、
東京はTOHOシネマズ新宿他で全国ロードショウ。)
『パイレーツ・オブ・カリビアン最後の海賊』
 “Pirates of the Caribbean: Dead Men Tell No Tales”
(情報解禁前のため割愛)
『ブレンダンとケルズの秘密』“The Secret of Kells”
(2016年6月26日題名紹介『ソング・オブ・ザ・シー 海の
うた』のトム・モーア監督による2009年製作の長編第1作。
9世紀に完成されたというケルズの書。キリスト教で典礼用
の四福音書が収められた世界で最も美しい装飾写本とされる
書物の成立を巡る物語が素晴らしいアニメーションで語られ
る。8世紀初頭にスコットランドのアイオナ島で制作が始ま
ったとされる書物はヴァイキングの脅威に曝された修道士と
共にアイルランドのケルズにやってくる。しかしその土地も
ヴァイキングに襲来の怯える中、1人の少年が書物の完成の
ために奔走する。それは危険や脅威に満ち、出会いも訪れる
冒険だった。公開は7月下旬、YEBISU GARDEN CINEMA他で
全国順次ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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