井口健二のOn the Production
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2017年05月14日(日) 第25回フランス映画祭、パワーレンジャー

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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6月22日〜25日に、東京・有楽町朝日ホール/TOHOシネマズ
日劇で開催される第25回フランス映画祭で上映される作品の
試写が開始されたので、今回はその中から4本を紹介する。

『エタニティ 永遠の花たちへ』“Éternité”
2009年7月紹介『ココ・アヴァン・シャネル』などのオドレ
イ・トトゥ、2012年2月紹介『アーティスト』などのベレニ
ス・ベジョ、2010年2月紹介『オーケストラ!』などのメラ
ニー・ロラン共演で、三代100年に亙る悲哀に満ちた一族の
歴史を描いた作品。フランスの作家アリス・フェネル原作の
映画化で、監督は1993年『青いパパイヤの香り』でアメリカ
アカデミー賞外国語映画部門にノミネートされたフランス在
住のヴェトナム人監督トラン・アン・ユン。一見幸せそうな
一家だが、その歴史は多数の死に彩られている。それは病や
事故など様々な原因で次々に一族を襲う。豪華女優陣の共演
で画面は泰西名画のように華やかだが、その現実との落差が
強烈に感じられた。男女で評価の異なる作品かも知れない。
映画祭では6月25日に上映、一般公開は今秋に東京はシネス
イッチ銀座他でロードショウとなる。

『ポリーナ、私を踊る』“Polina, danser sa vie”
ボリショイバレーで学ぶ若き女性ダンサーが自らの理想を求
め彷徨い成長して行く姿を描いた作品。バスティアン・ヴィ
ヴェス原作の映画化で、監督にはドキュメンタリーも手掛け
るヴァレリー・ミュラーと、コンテンポラリーのコレオグラ
ファーで多数の受賞に輝くアンジュラン・プレオカージュが
共同で当っている。主演は本作でデビューを飾ったアナスタ
シア・シェフツォア。その脇を2013年2月紹介『コズモポリ
ス』などのジュリエット・ビノシェらが固めている。2017年
4月30日題名紹介『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン』と内
容が符合することに驚いた。特にロシアにおけるバレリーナ
の状況などは、先にドキュメンタリーを観ていたお蔭で充分
に理解ができた。これは併せて観ることをお勧めしたい。映
画祭では6月25日に上映、一般公開は10月28日より、東京は
ヒューマントラストシネマ有楽町他でロードショウとなる。

『あさがくるまえに』“Réparer les vivants”
1人の若者の死から始まるヒューマンドラマ。その若者は夜
明け前に恋人のベッドを抜け出し、友人と共に浜に向かう。
そしてサーフィンに興じた若者を悲劇が襲う。斯くして脳死
状態になった若者に回復の見込みはなく、病院は両親に移植
のための臓器の提供を依頼する。という物語が、医師や移植
コーディネーター、さらには移植を待つ患者など多角的な視
点で描かれる。こう書くとかなり事務的な展開のように感じ
られるかもしれないが、作品は実にヒューマニズムに溢れた
素晴らしい作品になっている。実際に僕は観終えて臓器提供
の意思表示をする気にもなったものだ。文学賞にも輝いたメ
イリス・ド・ケランガル原作の映画化で、監督は注目の女性
監督カレル・キレヴェレが担当した。映像も素晴らしい。映
画祭では6月23日に上映、一般公開は9月16日より、東京は
ヒューマントラストシネマ渋谷他でロードショウとなる。

『セザンヌと過ごした時』“Cézanne et moi”
サント=ヴィクトワール山の連作などで知られるポスト印象
派の画家ポール・セザンヌと、映画ファンには1952年『嘆き
のテレーズ』や1956年『居酒屋』の原作者として知られる文
豪エミール・ゾラの交流を描いた作品。富豪の息子セザンヌ
とイタリア人移民の息子ゾラは幼い頃からの親友だったが、
セザンヌ画家の道を進むために親に勘当され、ゾラはいち早
く文才を認められる。斯くして境遇の逆転した2人だがその
友情は続いていた。2012年12月紹介『よりよき人生』などの
ギョーム・カネと、2014年『イブ・サンローラン』などのギ
ョーム・ガリエンヌ。2人のギョームが芸術家の苦悩を名演
で表現する。監督は、2003年6月紹介『シェフと素顔と、お
いしい時間』などのダニエル・トンプソン。映画祭では6月
24日に上映、一般公開は9月、東京はBunkamura ル・シネマ
他で全国順次ロードショウとなる。

以下は通常の試写作品。
『パワーレンジャー』“Power Rangers”
1993年に放送開始されたというアメリカ版『スーパー戦隊』
シリーズの劇場版。同系統の作品は1995年、97年にも製作が
あるようだが、今回は完全新作として登場するものだ。
物語の発端は太古の地球。そこでは惑星の命運を巡る戦いが
繰り広げられていた。しかし星を守っていた5人の戦士たち
が倒され、最早という時に司令官が悪の戦士の封印に成功。
そのまま時は現代へと移って行った。
そして登場するのは、田舎町の高校の通う少し落ちこぼれの
若者5人。その内の1人が別の1人を助けたことから事態が
動き始める。そして2人が向った先は立ち入り禁止の鉱山の
一角、そこには偶然他の3人も居合わせる。
そして掘り出された5色のメダルを手にした若者たちは新た
なパワーレンジャーとして敵に立ち向かうことになる。しか
し同時に悪の戦士も甦っていた。その戦いを前にパワーレン
ジャーになるための訓練が始まるのだが…。

出演は、オーストラリア出身&本作でハリウッドデビューの
デイカー・モンゴメリー、2016年『オデッセイ』などのナオ
ミ・スコット、2015年映画デビューのR・J・サイラー、ビ
ルボード誌ラテンチャート1位に輝いたこともあるベッキー
・G、中国出身で2016年7月17日題名紹介『モンスター・ハ
ント』などのルディ・リン。
これに『ハンガーゲーム』シリーズなどのエリザベス・バン
クス、2016年4月紹介『トランボ』などのブライアン・クラ
ンストンらが脇を固めている。またロボットの声優を『スタ
ー・ウォーズ/フォースの覚醒』でBB−8を担当したビル
・ヘイダーが務めている。
脚本は2017年2月紹介『キングコング髑髏島の巨神』などの
ジョン・ゲイティンズ、監督は2014年のデビュー作以来2作
目というディーン・イズラライトが担当した。
アメリカ版のテレビシリーズは、1992年日本放映の『恐竜戦
隊ジュウレンジャー』に基づいているのだそうで、本作でも
そのメカが登場する。その辺は懐かしく感じる人もいるのか
もしれない。
ただ、基本的にテレビシリーズだと30分枠のものを2時間越
えの作品にしているもので、展開のテンポなどはかなり違っ
ている。しかしその分のドラマはじっくりと描かれており、
観客層は日本のテレビより少し高めかな。
寧ろ1993年のアメリカでの放送開始当時に熱狂したファンが
成長して子供と一緒に観に来ることを想定しているようにも
思える作品だ。その大人の鑑賞の目にも充分応えられる作品
になっている。
それと、日本のテレビシリーズだとクライマックスの戦いが
ビル街で、何となく腰まで埋もれている感じが定番だが、本
作は田舎町が背景で、見るからに巨大な戦いが迫力満点に繰
り広げられる。それも魅力的だ。
この戦いで街の大半が破壊されるが、考えてみると倒れた敵
の身体は黄金の塊だから、事後の復興は贅沢に行えそうだ。

公開は7月15日より、全国ロードショウとなる。
なお日本語吹き替え版は、勝地涼、広瀬アリス、古田新太、
山里亮太らが声優を務めるようだ。


この週は他に
『地獄愛』“Alleluia”
(2004年『変態村』という作品で話題になったファブリス・
ドゥ・ヴェルツ監督による2014年の作品。シングルマザーが
結婚詐欺に引っ掛るが、その正体を知った後も男に惹かれて
しまう。そして兄妹と偽って詐欺の相棒になるが、犯行中の
男の行為に嫉妬心が募り…。実話に基づくとされるもので、
同じ話は1970年に『ハネームーン・キラーズ』として映画化
され、フランソワ・トリュフォーらに絶賛された。今回はそ
の旧版も同時公開される。因に本作はオースティンファンタ
スティック映画祭で作品、監督、主演男女優の4冠に輝いて
いる。また監督は本作を3部作の第2弾と位置づけ、第3弾
も計画しているそうだ。公開は7月1日より、R15+措定で
東京は新宿武蔵野館他にて全国順次ロードショウ。)
『鎌倉アカデミア 青の時代』
(敗戦後の鎌倉に4年半だけ存在した大学校のドキュメンタ
リー。そこでは林達夫、高見順、中村光夫らの学者、文化人
が教鞭を執り、その学舎からはいずみたく、山口瞳、前田武
彦、高松英郎、勝田久、川久保潔、鈴木清順らが巣立った。
この学校のことは以前から知ってはいたが、その設立の経緯
や廃校に追い込まれる事情などは詳らかではなかった。その
ようなことが描かれた作品。監督は2000年『火星のわが家』
などの大嶋拓。因に監督はアカデミアの教授の1人で、最後
まで存続に尽力した青江瞬二郎の長男。作品は10年前の記念
式典から始まるが、すでに故人も多く、もっと早く作って欲
しかった作品だ。公開は5月20日〜26日の1週間、新宿K's
cinemaにて連日12:30からの1回上映となる。)
『ボンジュール、アン』“Paris Can Wait”
(フランシス・フォード・コッポラの妻で夫や娘の作品を裏
で支えてきたエレノア・コッポラが、80歳にして劇映画監督
デビューを果たした作品。映画プロデューサーの妻がカンヌ
映画祭からパリまで、夫のビジネスパートナーの男性と車で
2人旅の顛末を描いたロードムーヴィ。カンヌを出てすぐに
サント=ヴィクトワール山が登場し、実は前日に上記の『セ
ザンヌ…』を観ていたので顔がほころんでしまった。その後
も、リヨンのリュミエール兄弟の記念館など映画ファンには
嬉しい風景が次々に登場し、主人公らに供されるワインやグ
ルメと共に旅をした気分になる作品だ。出演はダイアン・レ
イン、アルノー・ヴィアール、アレック・ボールドウィン。
公開は7月7日より、全国ロードショウ。)
『ぼくらの亡命』
(2011年6月紹介『ふゆの獣』などの内田伸輝監督による同
作以来の第3作。本作でも訳アリの男女が彼らには冷たい社
会を彷徨う。男は引きこもりが高じて郊外の川べりでテント
暮らしのホームレス。女は美人局の片棒で新宿大ガード下が
仕事場の街娼。そんな女を男が見初め現実を教えるために拉
致してしまうのだが…。どうしようもないというよりは遣る
瀬無い感じの物語だ。出演は2014年塚本信也監督の『野火』
に出ていたという須森隆文と入江庸仁、映画は2作目にして
主演の櫻井亜衣、2016年1月紹介『女が眠る時』に出ていた
松永大輔ら、主にインディペンデンス映画系の俳優で固めら
れている。公開は6月24日より、東京は渋谷ユーロスペース
他で全国順次ロードショウ。)
『ふたりの旅路』“Magic Kimon”
(2005年ロシアのアレクサンドル・ソクーロク監督『太陽』
でも共演のイッセー尾形と桃井かおりが再共演したラトビア
のマーリス・マルティンソーンス監督によるちょっとファン
タスティックな要素もある作品。神戸の街で心を閉ざしたま
ま1人暮らしを続けていた女性が着物ショウへの出演でラト
ビアの首都リガを訪れる。そこで彼女は不思議な体験に遭遇
する。それは観客が傍から見ていると早くから事実関係に気
付くが、当事者にとってはこれが現実かもしれない、そんな
2人の微妙な関係が巧みな演技で表現されて行く。共演は主
にラトビアの俳優のようだが、日本のシーンで木内みどりと
石倉三郎が顔を出している。公開は6月24日より、東京は渋
谷ユーロスペース他で全国順次ロードショウ。)
『トータスの旅』
(2017年4月2日題名紹介『ポエトリー・エンジェル』を送
り出した田辺・弁慶映画祭で昨年上映され主演の木村知貴が
男優賞を受賞した作品。亀をペットに生真面目に生きてきた
男が妻を亡くし、反抗期の息子との2人暮らしとなる。そこ
に破天荒な生活の兄が現れ、結婚するから式に参列しろと強
引に父子を旅に連れ出す。斯くして兄の婚約者と亀も一緒の
ロードムーヴィが始まるが…。最初はかなり強引だが、徐々
にドラマが展開されて行く。その脚本は意外性もあって巧み
と言える。ただ旅の目的地などが明確には提示されず、それ
は物語に関係ないと言われればそれまでだが、それでは主人
公との思いの共有が阻害されるような感じがした。公開は、
東京でのイヴェント上映は終了したが、大阪では6月10日〜
16日にシネ・リーブル梅田にてレイトショウされる。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二