井口健二のOn the Production
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2017年05月07日(日) ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー リミックス、ジーサンズ はじめての強盗、ウィッチ、ゴールド 金塊の行方、約束の地 メンフィス

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー リミックス』
          “Guardians of the Galaxy Vol. 2”
2014年8月紹介ディズニー=マーヴェル作品の続編。前作で
図らずも大宇宙の危機を救ってしまった落ちこぼれ軍団が、
再び宇宙存亡の危機に直面する。
主人公は幼い頃に宇宙人に掠われた地球人。地球で観ていた
テレビシリーズ『ナイトライダー』の主演者デビッド・ハッ
セルホフを父と信じて苦難の宇宙暮らしを生き延びてきた。
そんな彼の前に本物の父と名告る人物が現れる。しかもその
人物は神様だった。
ところがこの神様は、宇宙中の知的生命体を殲滅し、自分だ
けの宇宙にしようと目論んでいた。しかし1人では難しいた
め、宇宙中に子種をばらまいて協力者を作ろうとした。その
1人が主人公だったというのだ。そして試練を生き抜いた主
人公を自分の協力者にするというのだが…。
これに宇宙規模の犯罪組織の内部抗争や、独自の規律を重ん
じるオタク国家の惑星なども絡んで、落ちこぼれ軍団の活躍
が描かれる。

出演は、前作に引き続いてのクリス・プラット、ゾーイ・サ
ルダナ、デイヴ・バウティスタ、マイクル・ルーカー、カレ
ン・ギラン、それにヴォイスキャストのブラッドリー・クー
パーとヴィン・ディーゼル。
さらにゲスト出演は2016年1月紹介『ヘイトフル・エイト』
などのカート・ラッセル、それに韓国系のポム・クレメンテ
ィエフ、2015年8月紹介『コードネームU.N.C.L.E.』などの
エリザベス・デビッキに加えて、シルヴェスター・スタロー
ンも登場する。
脚本と監督も前作に引き続き、2007年11月紹介『スリザー』
などのジェームズ・ガンが担当した。
主人公が誘拐されたのが1980年代。少年は亡き母親がウォー
クマンに入れてくれた70年代ポップスのリミックステープを
宝物にしていた。ということで本作にも懐かしのポップスが
満載となっている。その乗りの良さはアメリカでの大ヒット
も理解できるところだ。
それに今回の半神半人という設定も、少し前に同様の設定の
作品があったばかりでこれは理解され易そうだ。ただ僕は吹
替版で観たが、台詞中の「神」という言葉で、もしかしたら
Half-Godかな?というところがあり、少し気になった。でも
まあ大した問題ではない。
なお最後に「次回に続く」と出るが、その前に『アベンジャ
ーズ』に参戦の計画もあるようで、落ちこぼれ軍団の活躍は
まだまだ続くようだ。

公開は5月12日より、全国ロードショウとなる。

『ジーサンズ はじめての強盗』“Going in Style”
いずれもオスカー受賞者のモーガン・フリーマン、マイクル
・ケイン、アラン・アーキンが顔を揃える社会派コメディ。
3人が演じるのは、アメリカの基幹産業だった工場で数10年
を務め上げた老人たち。年金生活はカツカツだが、何とか平
穏な余生を送れるはずだった。ところが社会情勢の変化で住
宅ローンの金利が跳ねあがり、さらに会社が海外企業に買収
されて年金も打ち切られることになる。
そんな折、仲間の1人が銀行での折衝中に銀行強盗に遭遇。
その手際のよいスマートな犯行に、ふと自分たちにもできる
のではないかと思いつく。しかも銀行の被害は保険で補填さ
れるというのだ。斯くして、伝手を頼って装備の調達や銃器
の訓練を始めるが…。

共演は、オスカー2度ノミネートのアン=マーグレットと、
2011年3月紹介『世界侵略:ロサンゼルス決戦』などの子役
のジョーイ・キング。他に2017年4月紹介『アイム・ノット
・シリアルキラー』などのクリストファー・ロイド、2013年
12月紹介『スティーラーズ』などのマット・ディロンらが脇
を固めている。
監督は、2015年『WISH I WAS HERE 僕らのいる場所』などの
ザック・ブラフ、脚本は、2015年『ヴィンセントが教えてく
れたこと』などのセオドア・メルフィ。両作とも試写は観て
いて、共に心温まる素敵な作品だったと記憶しているが、自
分のテリトリーではなかったので割愛したものだ。
因に脚本は、1979年にジョージ・バーンズ、アート・カーニ
ー、リー・ストラスバーグらが共演した同名の作品に基づく
とされている。
何たって名優たちの共演に、脇にも芸達者が揃っているから
安心して観ていられる作品だ。とは言うものの最後はちょっ
と驚かされたもので、この結末は日本映画ではいろいろ配慮
して採用されないのではないかな。
それにしても、犯行に使うマスクがレーガンやニクソンでな
く、この人たちというのもさすがハリウッドという感じで、
これが向こうでは受けるんだよね。因に1979年のオリジナル
ではマルクス3兄弟だったようで、その変遷も興味深い。
いずれにしても、これはハリウッドらしさが横溢した作品と
言えそうだ。もっとも銀行の横暴と不透明な年金問題、それ
に警察の無能ぶりは、世界共通のテーマかもしれないが。

公開は6月24日より、全国ロードショウとなる。

『ウィッチ』“The VVitch: A New-England Folktale”
1630年のアメリカ東部ニューイングランド州を舞台に、実際
に当時あったとされる事象に基づいて映画化された作品。
登場するのは祈りを欠かさない敬虔なクリスチャンの一家。
夫婦と年頃の娘、長男と双子、そして赤ん坊の7人家族。そ
んな一家だったが、周辺住人との宗教観の違いが原因で入植
地を追い出されてしまう。
そしてやってきたのは原野広がる土地。そこで家を立て羊を
育てながらの暮らし始まる。ところが突然一番下の子の姿が
消える。それは狼の仕業か、それとも魔女の行為か。父親は
娘を魔女と疑い、疑心暗鬼が家族をバラバラにする。
新機軸のホラーと言う触れ込みのようだが、観客を瞬間驚か
せるより、じわじわと恐怖に陥れる感覚で、確かにこの感じ
は久しくなかったかもしれない。でもこれがホラーの本来の
形とも言えるものだ。

出演は、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の2014年
作に出ていたというラルフ・エイネソンと、2012年7月紹介
『プロメテウス』に出ていたというケイト・ディッキー、そ
れに2017年3月紹介『スプリット』などのアニヤ・テイラー
=ジョイ。
他に、ハービー・スクリムショウ、ルーカス・ドースン、エ
リー・グレンガーといういずれもニューイングランド地方の
訛りを話せる子役たちが一家の子供たちを演じている。因に
この子役には、物語の性質上、保護者の説得が大変だったそ
うだ。

脚本と監督は、本作が長編デビュー作となるロバート・エガ
ースが担当した。なお次回作には『吸血鬼ノスフェラトゥ』
(1922)のリメイクへの抜擢が決まっているそうだ。
魔女というとヨーロッパを思い浮かべがちだが、最近はアメ
リカでの魔女伝説の話をやたら観るようになってきた。それ
はハリウッドがアメリカだから当然ではあるが、近年その研
究が進んでいることも理由になりそうだ。
本作も企画から完成までに5年以上が費やされたと言われ、
その間に脚本を執筆したエガースは徹底的な調査を行ったと
のこと。その成果はインディペンデンス・スピリット賞での
脚本賞・監督賞のW受賞に繋がっている。
その他にもサンダンス映画祭の監督賞など、数多くの受賞に
輝いている作品だ。

なおプレス資料に公開は7月22日よりと記載されているが、
上映館などは紹介されていなかった。

『ゴールド 金塊の行方』“Gold”
1995年に起きたカナダBre-X社による鉱山捏造事件を基に、
時代背景を1980年代に移してドラマ化した作品。
登場するのは祖父から3代続く探鉱師という家柄の男性。し
かし時代の流れは大企業有利に傾き始めている。そして親か
ら継いだ会社も倒産の危機にある。
そんな男が最後の勝負でインドネシアに向い、以前に巨大金
鉱を発見した地質学者の男を訪ねる。その男も以前手にした
金は使い果たしていたが、最近見つけた奥地の土地が有望だ
と言い切る。
そして何とか資金を調達して掘り出したサンプルは、過去の
全世界の金の総産出量に匹敵する巨大金鉱の証明だった。そ
の情報は直ちに世界を駆け巡り、主人公の会社の株価は天井
知らずで上がり続けるが…。

出演は、製作も兼ねる2014年11月紹介『インターステラー』
などのマシュー・マコノヒー、2013年1月紹介『ゼロ・ダー
ク・サーティ』などのエドガー・ラミレス、2012年1月紹介
『ヘルプ・心がつなぐストーリー』などのブライス・ダラス
・ハワード。
監督は、2005年12月紹介『シリアナ』などのスティーヴン・
ギャガン。脚本は、2001年『トゥームレイダー』以来の劇場
作品となるパトリック・マセットとジョン・ツィンマン。脚
本家2人は主にテレビの仕事をしているようだ。
基となっている事件は比較的最近のもので、主謀者にはイン
サイダー取引などの罪が課せられたようだ。そこで本作では
背景を1980年代にしているものだが、終盤のヘリコプターの
下りは実際の事件にもあったものだ。
しかしその事実関係はいまだに謎に包まれた部分のようで、
従って映画のその後の展開は創作されたものと思われる。た
だ映画の中でも主人公は善意で巻き込まれたように描かれ、
全ての仕掛けは地質学者なのかな。
一方、その地質学者はもっと早く終らせるつもりだったが、
主人公が頑固で結局ここまで行ってしまった…、という辺り
の描写が、脚本の妙のようにも感じられた。正しくあったら
痛快という感じの物語だ。
因に、監督のギャガンは2000年『トラフィック』のオスカー
脚本賞受賞者で、製作総指揮には2005年11月紹介『クラッシ
ュ』でオスカー脚本賞受賞のポール・ハギスが名を連ねてお
り、本作では2人は脚本にクレジットされていないが、この
布陣は強力なものだ。

公開は6月1日より、東京は日比谷のTOHOシネマズシャンテ
他で、全国ロードショウとなる。

『約束の地、メンフィス』“Take Me to the River”
アメリカ合衆国テネシー州メンフィス。20世紀中葉には音楽
で隆盛を誇ったこの街に、音楽を呼び戻そうと試みて行われ
たアルバム制作の模様を記録したドキュメンタリー。
メンフィスはエルヴィス・プレスリーの自宅があったことで
も知られる街だが、ここは第2次世界大戦後の一時期には白
人、黒人を区別することなく音楽を創造する街であり、数知
れないミュージシャンがここから世界に羽ばたいた。
さらにはビートルズやローリング・ストーンズ、U2、レッ
ド・ツェッペリンらがこの地でアルバムを制作し、彼ら自身
が新たな音楽性に目覚め、その豊かな音楽性を世界に広めた
場所でもある。
そんな街で過去の隆盛を取り戻すための試みが始まる。それ
はこの街を故郷とするレジェンドのミュージシャンたちと、
この街で生まれた若手のミュージシャンとを世代を越えて集
め、互いにセッションをさせようというものだ。
そこで行われるセッションは9回10曲。そこに参加するのは
ブッカー・T&MG’sや、ザ・ステイプル・シンガーズ、
それにスヌープ・ドッグなどグラミー賞に輝いたり、ロック
の殿堂入りを果たしているレジェンドたち。
そのセッションに、2011年『ハッピー・フィート2』に声優
で参加して話題になったリル・ピーナッツや、2005年『ハッ
スル&フロウ』でオスカー受賞のフレイザー・ボーイ(セド
リック・コールマン)などの若手が参加する。
そこにはレジェンドたちの歴史や思いを若手に伝え、メンフ
ィスの音楽の流れを再興しようという思いもある。そのため
セッションの合間にはインタヴューなども多彩に行われ、そ
れらも収められている。
また2008年に亡くなったアイザック・ヘイズの記念館も登場
し、そこに飾られた1972年『黒いジャガー』のオスカー像を
黒人初というのは1964年『野のユリ』シドニー・ポアチエが
いるので誤りだが、その奥のキャデラックは凄かった。
因に本作を企画したルーサー・ディキンスンが映画の最初に
「もっと早く始めるべきだった」と語っているのは、このヘ
イズのことを指したのだと思うが、この作品の収録後にも、
出演したレジェンドの何人かが亡くなっているものだ。
という貴重な映像の収められた作品だが、映画の後半ではメ
ンフィスの栄光が消えた原因というべき事件も紹介される。
それは1968年キング牧師の暗殺事件に端を発したもので、実
は邦題の『約束の地』というのは牧師の言葉に拠っている。
その暗殺によって再燃した黒人と白人の対立が、両者の融合
で始まったメンフィスの音楽を没落させてしまう。しかし時
代は再び融合の時を迎えている…というのが、作品の一番言
いたかったことかもしれない。

公開は6月17日より、東京は新宿K's cinema他で、全国順次
ロードショウとなる。


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井口健二