井口健二のOn the Production
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2017年04月16日(日) 皆はこう呼んだ鋼鉄ジーク、こどもつかい、ラストコップ THE MOVIE

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーク』
             “Lo chiamavano Jeeg Robot”
1975年〜76年に放送された永井豪(ダイナミック・プロ)原
作、東映アニメーション製作によるテレビシリーズにインス
パイアされたイタリア製の実写作品。因にスクリーンには上
記の邦題と同じ題名が日本語で表示されるが、原題にはそれ
に添えられたイタリア語を記しておく。
主人公はこそ泥が稼業の男。今日も高級腕時計を盗み、警察
の追手を巻こうと街中を疾走する内、川に飛び込む。これで
追手の目は眩ますが、底に沈んでいた放射能マークの付いた
ドラム缶の中身をしたたか飲み込んでしまう。
このため川から這い出た彼の体調は最悪になってしまうのだ
が、その日から彼の身体は異常なほどに強靭になっていた。
そして最初はそれを悪事に利用していた主人公だったが、兄
貴分が殺され、彼はその娘の面倒を観ることになる。
その娘は少し知恵遅れ気味で、アニメの「鋼鉄ジーク」が大
好き。そしてそのアニメのヒーローに彼を見立てるようにな
る。その真剣な眼差しに、彼の生活態度も徐々に変化して行
き…。

出演は、2012年4月紹介『ジョルダーニ家の人々』などのク
ラウディオ・サンタマリア、2012年10月28日付「東京国際映
画祭」で紹介したコンペティション作品『ニーナ』などのル
カ・マリネッリ。それに本作でドナッテロ賞の最優秀女優に
輝いたイレニア・パストレッリ。
監督は、本作が長編デビューとなるガブリエーレ・マイネッ
ティ。脚本も長編デビューのニコラ・グアッリャノーネ。な
お監督は製作も兼ねているようだ。
上記のように、題名が日本語で表記されるくらいに原作への
リスペクトが感じられる作品で、しかも直接リメイクするの
ではなく、自分の生活に落とし込むことで、作品への思いの
丈を目一杯に表現している感じのする作品だ。
特にアニメ好きの少女の思いに主人公が感化されて行く過程
が、単純にリメイクするのではない、さらに上位のリスペク
トも感じられる作品になっている。日本産アニメの海外での
リメイクが続いているが、そこにも一石を投じそうだ。
幸い原作者の永井豪さんには知遇を得ており、近々会う機会
もあるので、これは本人の意見も聞いてみたいものだ。

公開は5月20日より、東京は新宿武蔵野館、ヒューマントラ
ストシネマ有楽町他で、全国順次ロードショウとなる。

『こどもつかい』
『呪怨』シリーズなどの清水崇監督が、ジャニーズ滝沢秀明
を主役に迎えた最新ホラー作品。
登場するのは新人記者。その記者が今追っているのは、郊外
の街で起きた連続不審死事件。その事件に共通するのは先に
子供が失踪し、その3日後に子供の周囲の大人が死亡。そし
てその大人たちは子供に恨まれていたようなのだ。
一方、記者には恋人がいて、保育園に勤める彼女はちょっと
した行き違いで1人の園児の恨みを買ってしまう。しかもそ
の子が失踪する。ところがその子が記者の前に姿を現し、そ
の子はある歌のようなものを口ずさむ。
その歌が連続不審死の鍵になると考えた記者は、恋人の命を
救うため、その歌の謎を解こうと奔走するが…。

滝沢以外の出演者は、Hey!Say!JUMPの有岡大貴、2016年1月
紹介『太陽』などの門脇麦。さらに2016年7月17日題名紹介
『オーバー・フェンス』などの子役の中野遥斗、2013年9月
紹介『ルームメイト』などの尾上寛之、2013年8月紹介『陽
だまりの彼女』などの西田尚美らが脇を固めている。
清水監督作品では2016年5月紹介『雨女4DX』や、2017年
2月5日題名紹介『ブルーハーツが聴こえる』など。さらに
2017年3月19日題名紹介『バイオハザード:ヴェンデッタ』
の製作にも関るなど、次々に清水ブランドが発表されている
が、その中で本作は原点に還った作品と言えそうだ。
それはテーマが恨みによる呪いであり、さらにそこに過去の
因縁が関ると共に、ノスタルジーも感じさせる仕掛けなど、
正に王道のホラー作品と言えるものだ。そのホラームードが
一杯の雰囲気にまず嬉しくなった。
ただし過去の清水作品では、恨みなどのあまりの理不尽さが
怖さを増幅させる反面、納得できない側面もあったのだが。
それが本作では過去の経緯などがかなり丁寧に描かれ、納得
は出来たが、恐怖感という意味では少し薄れたかな?
でもこの点に関しては、最近の日本のSF映画と称する作品
の多くが、ムードが先行して納得できない作品ばかりなのに
対しては、良い傾向とも思えたものだ。
とまあグダグダと書いてしまったが、実は本作で滝沢が演じ
ているキャラクターに関して情報開示の規制がされており、
具体的に紹介をすることができない。でもこれが結構巧みに
演じられていて楽しめた。
しかもこれが、ジャニーズがここまでやっていいのか…? 
と思うくらいに見事なキャラクターになっている。シリーズ
化も期待したい。

公開は6月17日より、全国ロードショウとなる。

『ラストコップ THE MOVIE』
2016年放送のドラマシリーズからの劇場版。元々はドイツの
テレビシリーズの舞台を日本に変えたリメイクで、2015年に
スペシャル番組が放送され、その後ネット配信で連続ドラマ
化、さらにそこからテレビシリーズが誕生したものとのこと
だ。それがキャストをそのままに劇場用の映画となった。
主人公は捜査活動中に爆発に巻き込まれ、以後30年間昏睡状
態が続いていたという刑事。そのため容姿は老けたが、気骨
は30年前の熱血刑事のままという設定だ。そんな刑事が猪突
猛進、難事件に挑んで行く。
そして今回のお話は、主人公の勤務する警察本部に、A.I.
が試験導入されるところから始まる。マザーコンピュータに
リンクした小型ロボット風のそのA.I.は、人間の行動を予
測し、犯人の逃走経路などを算出できるという。
しかし主人公にとってそんなA.I.は、理解の外となる典型
的なもの。斯くしてそのA.I.に対抗せざるを得なくなった
主人公たちだったが、そこに国家の基幹を揺るがす大事件が
発生する。

出演は、唐沢寿明、窪田正孝。それに佐々木希、藤木直人、
小日向文世、宮川一朗太、田山涼成、伊藤沙莉、升毅、マギ
ーらテレビシリーズの面々が総登場する。さらに加藤雅也、
吉沢亮らが今回のゲスト出演のようだ。
脚本と監督は共にテレビシリーズも手掛けているコンビで、
脚本は2012年2月紹介『幸運の壺』などの佐藤友治、監督は
2010年4月紹介『書道ガールズ』などの猪股隆一が担当。因
に佐藤は1人で全脚本を担当しているようだ。
A.I.の具現化とされるフナッシー様小型ロボットのVFX
が良くて、合成なども見事だった。そう言えば、猪股監督は
以前の紹介作でもVFXを使いこなしていたから、その辺は
手馴れているのだろう。
さらに銃撃戦や格闘技アクションなどもふんだんに織り込ま
れている。またそこに突拍子もない発明品が登場するのもご
愛嬌という感じで、それらもそれなりに展開には収まってい
た。しかも大掛かりな空中戦まで登場する。
ということで劇場用にスケールアップした作品と言えそうだ
が…。実は今回の作品では、せっかくのA.I.が物語の後半
ではあまり活かされていないのが多少物足りない。これでは
ただの奪い合いの対象物にしかなっていないのだ。
ここにはやはり主人公とA.I.の連係プレイみたいなものが
欲しかったところかな。その辺を少し脚本で練り込んでくれ
たらより良くなったと思えるのだが。

公開は5月3日より、全国ロードショウとなる。

この週は他に
『フィフティ・シェイズ・ダーカー』
                “Fifty Shades Darker”
(2015年公開『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』から
主なキャストもそのまま再演した続編。ただし監督は前作か
ら変更になっている。原作は女性に評価されたSM小説との
ことで、男性の身では中々が評価し難い。前作の時は試写は
観たが、紹介は遠慮してしまった。ただし女性監督が撮った
前作は描写がかなり生々しかったが、男性監督になった今回
はそれなりに落ち着いて観られたかな。その辺は観客の見方
も含めて評価は分かれそうだ。でも前作と同じセットが登場
するとやはり思い出しては仕舞うものだ。出演はダコタ・ジ
ョンスンとジェイミー・ドーナン。監督は1997年『チェンバ
ー 凍った絆』などのジェームズ・フォーリーが担当した。
公開は6月、全国ロードショウの予定。)
『裁き』“Court”(インド映画)
(前々回題名紹介『アムール、愛の法廷』に続く、刑事裁判
の法廷を舞台にした作品。被告席に座るのは老歌手。常々反
体制的な歌を歌っている彼が自殺を勧める歌を歌い、それに
よって自殺者が出たという罪状で逮捕されたものだ。しかも
彼はマラーティ語しか喋らず、若い弁護士は裁判自体の不当
性を訴えるが、貧富の差や民族の差別などで、裁判は良い方
向には向かわない。文化の違いとは言え、それだけでは言い
切れないようなインドの現状(?)が描かれる。監督は短編
映画で数多くの映画祭で受賞しているチャイタニヤ・ターム
ハネー。長編第1作の本作でヴェネツィア国際映画祭で作品
賞などに輝いた。公開は7月より、東京は渋谷ユーロスペー
ス他で全国順次ロードショウ。)
『まるでいつもの夜みたいに』
(2005年4月16日に急逝したフォーク歌手高田渡が、その死
の16日前に高円寺の居酒屋で行った最後のワンマンライヴの
模様を記録した作品。撮影の経緯は良く判らないが、三鷹の
自宅を出てから電車に乗り会場に着くまでの様子も写されて
いる。しかし会場での撮影もカメラは1台だけで、しかも演
奏者の横からというのが、会場の狭さもあって妙な臨場感を
生んでいる。それは稀有な作品だ。そして歌われるのは初期
の名作「しらみの旅」から後期の作品まで網羅されており、
1970年以前に生で観ていた僕には懐かしさも込上げてきた。
さらにその間の語りも絶妙で、今更ながらその才能を再認識
することもできた。公開は4月29日より、東京は渋谷UPLINK
他で全国順次ロードショウ。)
『VIVA! 公務員』“Quo vado?”
(2017年2月26日題名紹介『日々と雲行き』と共に、Viva!
イタリア vol.3として上映される同国で史上最高興行記録を
打ち立てたというコメディ作品。公務員天国と言われた国が
政変で人員削減に乗り出す。それに抵抗する一人の職員との
すったもんだが描かれる。政権側は退職金を吊り上げる一方
で、彼を国内の僻地から北極圏まで転勤させるのだが…。そ
の先々で彼は満足を得てしまう。そしてついに任地はアフリ
カ奥地、それでも彼は巧みに困難を切り抜ける。主演は共同
脚本も手掛けるケッコ・ザローネ。海外のコメディは国情が
合わない場合もあるが、本作は日本でもありそうな話で、手
放しで楽しめた。公開は5月27日より、東京はヒューマント
ラストシネマ有楽町他で、全国順次ロードショウ。)
『パーソナル・ショッパー』“Personal Shopper”
(多忙なセレブに代って衣装などの調達を行う女性を描いた
作品。主人公はパリとロンドンを行き来しながら高級ファッ
ションブランドの選択をして行く。そんな彼女はある連絡を
待っている。それは先に病で亡くなった双子の兄が冥界から
連絡をすると言い残したものだ。そして彼女の携帯電話に謎
のメッセージが着信する…。主演は前回紹介『カフェ・ソサ
エティ』などのクリスティン・スチュアート。監督のオリヴ
ィエ・アサイヤスとは2014年『アクトレス』に続いてのコラ
ボレーションとのことだ。女優が次々に華麗なファッション
に身を包むのも魅力的だが、ミステリアスな物語も気になる
作品だ。公開は5月12日より、東京はTOHOシネマズ六本木ヒ
ルズ他で、全国ロードショウ。)
『ワイルド・スピード ICE BREAK』
            “The Fast and the Furious 8”
(2015年『ワイルド・スピード SKY MISSION』に続くヴィン
・ディーゼル主演カーアクション映画の第8弾。前作は撮影
中の主演者1人の不慮の死で、ファミリーという形式の物語
の先行きが不透明になってしまったが、本作でその出発点が
まず主人公のファミリーとの決別というのは仕方がないとこ
ろだろう、それはもちろん理由があってのことなのだが…。
ということで物語はベルリン、ニューヨーク、アイスランド
を舞台に壮大に繰り広げられる。特に終盤の氷原のシーンは
1968年公開『10億ドルの頭脳』を思い出させるもので、久々
の光景に感動すら覚えてしまった。共演はミシェル・ロドリ
ゲス、ドウェイン・ジョンスン、ジェイスン・ステイサム。
公開は4月28日より全国ロードショウ。)
『八重子のハミング』
(2007年4月紹介『夕凪の街 桜の国』などの佐々部清監督
が故郷の山口県を舞台に若年性アルツハイマーに罹った女性
とその夫を綴った実話の映画化。徐々に記憶を失って行く妻
に寄り添う夫の、辛く苦しいけれど幸せな日々が描かれる。
佐々部監督は2007年作も大手からそっぽを向かれ、苦労して
映画化したと語っていたが、本作でもそれに近い状況だった
ようだ。それは確かに中々アピールし難い内容かもしれない
が、これは今こそ描くべきものであるし、それをしっかりと
描き切ってくれたことに感謝をしたい。出演は映画の主演は
初めてという升毅と、28年ぶり映画出演の高橋洋子。他に、
朝加真由美、井上順、梅沢富美男ら。公開は5月6日より、
東京は有楽町スバル座他で全国順次ロードショウ。)
『家族はつらいよ2』
(昨年3月公開山田洋次監督作品の続編。山田監督は前作で
1969年の『男はつらいよ』第1作の時と同じ手ごたえを感じ
たそうで、1年後の第2作が誕生した。前作のテーマは熟年
離婚だったが、今回は最初に運転免許の返納から後半は孤独
死の問題に迫っている。それは「死」という重いテーマでは
あるが、その重さだけに終らせない巧みさは流石ベテラン監
督の技と言えそうだ。出演は前作と同じ橋爪功、吉行和子、
西村雅彦、夏川結衣、林家正蔵、中嶋朋子、妻夫木聡、蒼井
優の一家に加え、小林稔侍、風吹ジュン、劇団ひとり、笑福
亭鶴瓶らが脇を固めている。またイメージポスターとタイト
ルデザインを横尾忠則が手掛けている。公開は5月27日より
全国ロードショウ。)
『20センチュリー・ウーマン』“20th Century Women”
(2011年11月紹介『人生はビギナーズ』で自らの父親を描い
たマイク・ミルズ監督が、1979年に生きるシングルマザーと
その息子を描いた作品。この年号はレーガン政権誕生の前年
であり、エイズも顕在化する以前の歴史の転換点なのだそう
だ。そんな時代にちょっと羽目を外しながら生きている人々
の姿が思い出と憧れも込めた目で描かれている。出演はアネ
ット・ベニング、エル・ファニング、2016年11月27日題名紹
介『マギーズ・プラン』などのグレタ・ガーウィグ。母親が
1924年生まれ、息子が1964年生まれの設定で、僕には少し前
後にずれてしまった感じかな。でもまあこんな時代だったと
いう思いはした作品だ。公開は6月3日より、東京は丸の内
ピカデリー他で全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二