井口健二のOn the Production
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2017年04月09日(日) ジェーン・ドウの解剖/アイム・ノット・シリアルキラー、パージ:大統領令、ラプチャー 破裂

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『ジェーン・ドウの解剖』“The Autopsy of Jane Doe”
『アイム・ノット・シリアルキラー』
             “I Am Not a Serial Killer”
松竹エクストリームセレクションと称して紹介される内の、
第1弾と第2弾。
第1弾は3人一家の惨殺事件。屋内での犯行だが外部からの
侵入の痕跡はなく、遺体には逃げようとして果たせなかった
形跡がある。そしてその地下室から下半身が埋められた全裸
の女性の遺体が見つかる。
ジェーン・ドゥと仮名の付けられたその遺体に外傷はなく、
しかも今死んだばかりのようだった。そこでその遺体は検視
官の許に運ばれ、親子の検視官の手で解剖が始まるが…。そ
れは正に異様と言える遺体だった。
解剖の手順が克明に紹介され、それ自体がかなり衝撃的なも
のだが、特に残酷描写というものではなく、それなりに節度
を持って描かれている。そしてそこからの展開がさらに驚異
的なものになる。
それはジャンル映画としてそれなりにちゃんと作られたもの
になっており、僕にとっては興味深く観られたものだ。

出演は、2013年9月紹介『REDリターンズ』などのブライ
アン・コックスと、2013年8月紹介『ある愛へと続く旅』な
どのエミール・ハーシュ。他に2012年7月紹介『空飛ぶペン
ギン』などのオフィリア・ラヴィボンド。そして遺体役はロ
シア出身モデルのオルウェン・ケリーが演じている。
脚本は、2008年11月紹介『ターミネーター:サラ・コナー』
がデビュー作でテレビで活躍のイアン・ゴールドバーグの劇
場映画デビュー作。監督はノルウェー出身で2010年『トロー
ル・ハンター』が話題になったアンドレ・ウーヴレダル。
第2弾は小さな町で起きた連続殺人事件。主人公はその町の
葬儀社の息子16歳。少年は学校でいじめられている訳ではな
いが、いつも怯えて暮らしている。それはいつ自分が凶暴に
なるか心配だったのだ。
そんな少年が殺人被害者のバラバラ遺体を間近で観る機会を
得て、そこから殺人犯の推理を開始する。それは彼自身が殺
人者に共感を持った結果でもあった。そしてついに殺人者を
特定するが…。
実は、映画ではここからの展開がかなり飛んでいて、観てい
て呆気に取られる思いだった。正直には前半の展開を突き詰
めて行ってもそれなりの作品になったと思うが、作り手は別
段名画を作ろうという考えではなかったのだろう
そう考えれば本作は、それなりに強烈ではあるし、ジャンル
映画としては面白いものになっている。

出演は、2009年11月紹介『かいじゅうたちのいるところ』な
どのマックス・レコーズと、『BTTF』などのクリストフ
ァー・ロイド。
脚本・監督は、2005年『エイリアン・パンデミック』でオー
スティンファンタスティック映画祭などを制したビリー・オ
ブライエンが担当している。
公開は第1弾が5月20日より、第2弾が6月10日より、いず
れも東京は新宿シネマカリテ他で、全国順次ロードショウと
なる。

『パージ:大統領令』“The Purge: Election Year”
2015年6月に第1作と第2作を纏めて紹介した近未来テーマ
シリーズの第3作。
今回の物語の年号は2025年、次期大統領選挙に向けた運動が
始まる中での首都ワシントンDCが舞台となる。その選挙は
18年前に始まったパージの是非を問うものであり、それは政
策を実施した勢力と反対勢力との対決の場にもなっている。
そんな中で行われるパージの日、反対勢力の中心人物で次期
大統領候補の女性上院議員に「合法的」な暗殺の指令が出さ
れる。しかもその女性議員は、政権側に内通した者の裏切り
により安全な自宅を出て街を彷徨う羽目に陥た。
そして街には、様々なやり方でパージに抵抗している人々が
いた。

出演は、前作に引き続いてのフランク・グリロと、3作全て
に登場のエドウィン・ホッジ。他に、2006年11月紹介『サン
タクローズ3』などのエリザベス・ミッチェル、2009年9月
紹介『ファイナル・デッドサーキット』などのミケルティ・
ウィリアムスン。
さらに2009年7月紹介『アドレナリン/ハイ・ボルテージ』
と『ワイルド・スピードMAX』に出ていたというJ.J.
ソリア、2016年12月11日題名紹介『アイヒマンの後継者』な
どのベティ・ガブリエルらが脇を固めている。
脚本・監督は、前2作に引き続いてのジェームズ・デ・モナ
コ。製作は『トランスフォーマー』シリーズなどのマイクル
・ベイと、『パラノーマル・アクティビティ』シリーズなど
のジェイスン・ブラムが担当している。
プレス資料によるとデ・モナコは4年前に全ての脚本を書き
上げていたということだが、ここまでの3部作の展開は実に
見事と言える。それは第1作ではイーサン・ホークらのハリ
ウッドスターの出演で物語の設定を描き、第2作では街中で
の民間人の闘い、そして本作で政治の世界が舞台となる。
この拡大のさせ方が実にスマートで、しかも第2作で民間人
を護って活躍した人物が今回は反対勢力の政治家を護るとい
うのも納得できる展開になっている。とまあうまく作られた
シリーズと言えるのだが…。
実は今回はちょっと困った事象にぶつかってしまった。
と言うのは、前2作の年号は確か2022年と2023年で、本作は
その2年後という設定なので2025年というのはいいのだが、
最初のパージの開催がその18年前というのは、第1作のプロ
ローグで2017年とされていたのと話が合わない。
それは2007年の見間違いかとも考えたが、第1作のアメリカ
公開が2013年でそれより前の設定というのも考え難い。それ
に本作で2025年に大統領選挙というのも、合衆国の政治カレ
ンダーには合わないものだ。
海外の情報サイトではすでに2018年公開として第4作の告知
も上っているようで、この矛盾をどう解消してくれるのか、
それも楽しみになってきた。

本作公開は4月14日より、緊急ロードショウとなっている。

『ラプチャー 破裂』“Rupture”
2009年10月及び2010年7月に紹介の『ミレニアム』シリーズ
でブレイクしたノオミ・ラパス主演で、謎の実験に巻き込ま
れた女性を描いた作品。
主人公はシングルマザー。その主人公が我が子を車で学校に
送った帰路で周到に準備された拉致に遭う。そして連れ込ま
れた謎の実験施設で彼女は拘束され、嫌いなものを執拗に押
し付けられるという人体実験に曝される。
そんな中で彼女は別の被験者から情報を得たり、一旦は拘束
から逃れることもできるのだが…。果たしてその実験の目的
は? そして実験者の正体は…?

共演は、2013年2月紹介『ラストスタンド』などのピーター
・ストーメア、2014年6月紹介『マレフィセント』などのレ
スリー・マンビル、2012年9月紹介『アルゴ』などのケリー
・ビシェ、2008年10月紹介『イーグル・アイ』などのマイク
ル・チクリス。
脚本は2009年6月紹介『30デイズ・ナイト』などのブライ
アン・ネルスン、監督は2003年6月紹介『セクレタリー』な
どのスティーヴン・シャインバーグ。因に原案は2人の共同
となっており、シャインバーグは製作総指揮にもクレジット
されている。
脚本のネルスンは2006年『ハードキャンディ』がサンダンス
映画祭で話題になり、監督のシャインバーグの上記作もサン
ダンスで話題になったもので、共に申し子と言える顔合わせ
となっている。しかも共にちょっと特殊な性癖を描いていた
ので、本作の拉致もそういう見方になりそうだ。
しかし僕の立場からすると、ある目的を持った特異な実験を
描いている点ではSFの範疇に入るものだし、作品中では明
確にはされないが、実験者の正体にもSF的な興味の湧く作
品になっている。なお正体については、監督が「続編を作る
ことができたら明確にする」と語っているものだ。
そしてその実験については、このアイデア自体は他にもあり
そうだが、見方を変えると上記の『ジェーン・ドウの解剖』
に通じるところがあるのも面白かった。そのテーマでは他に
も類似する作品はあるはずで、アメリカ人には比較的好まれ
るアイデアのようだ。

公開は6月3日より、東京はヒューマントラストシネマ渋谷
他で全国ロードショウされる。

この週は他に
『夜に生きる』“Live by Night”
(『アルゴ』などのベン・アフレック脚本、監督、主演で、
2010年『シャッター・アイランド』などのデニス・ルヘイン
の原作を映画化した作品。禁酒法時代を背景に、ボストンの
警察官の息子に生まれながら、反発して悪の道に入って行く
男の姿が描かれる。しかもさらなる危険や思わぬ障害など、
政治も絡んで日本人には想像もつかない世界が繰り広げられ
る。共演はエル・ファニング、シエナ・ミラー、ゾーイ・サ
ルダナと旬な女優が顔を揃え。さらにクリス・メッシーナ、
クリス・クーパーらが脇を固めている。正にハリウッド・ノ
アールという感じで、129分の上映時間が短く感じられる作
品だった。公開は5月20日より、全国ロードショウ。)
『ろんぐ・ぐっどばい〜探偵 古井栗之助〜』
(2016年1月紹介『華魂幻影』などの脚本家いまおかしんじ
が、レイモンド・チャンドラー原作、ロバート・アルトマン
監督の1974年作にオマージュを捧げて監督したという作品。
主人公は施設で育った身寄りのない男。探偵を名乗っている
が、施設時代から世話になった女性に裏社会の怪しげな仕事
を斡旋して貰って暮らしている。そんな男に来た新たな依頼
は、自殺した娘に盗まれた500万円を探すというものだった
が…。主演はテレビ『あまちゃん』などの森岡龍。他に蜷川
みほ、手塚夏生、仁科あい。さらに諏訪太郎、松本妃代らが
脇を固めている。原作はハードボイルド小説の名作と言われ
るが、日本の社会でそれを描くのは中々難しそうだ。公開は
5月20日より、渋谷ユーロスペースでレイトショウ。)
『今宵、ほろ酔い酒場で』
(酒場詩人と呼ばれるらしい吉田類が案内役を務める3話の
オムニバス。1話目はアイドルに嫌気がさして逃げてきた若
い女性を巡る話。2話目は妻の帰省中に怪しげな酒場を訪れ
た真面目なサラリーマン。3話目は事業に失敗して行く当て
もなく、故郷の酒を置く酒場にやってきた男。まあいずれも
現代にありそうな話で、登場する酒場もありそうなのかな?
ただ自分も酒を嗜む者としては、ここに登場する人たちのよ
うな飲み方はしないもので、多少違和感を感じて仕舞った。
出演は伊藤淳史、松本妃代、津田寛治。テレビでは『ワカコ
酒』や映画版もある『深夜食堂』など、酒場が舞台の作品は
ブームのようで、この作品もその1本かな。公開は6月10日
より、角川シネマ新宿他で全国ロードショウ。)
『きらめく拍手の音』“반짝이는 박수 소리”
(CODA=Children of Deaf Adults。耳の聞こえない親
を持つ聴者の監督が、両親の姿を追ったドキュメンタリー。
父親は元サッカー選手だそうで、2010年5月紹介『アイ・コ
ンタクト』を思い出した。本作もその作品と同様に、自分が
健常者であると中々知ることのない世界が描かれている。そ
こに僕らはどうしても憐れみを感じてしまい、それではいけ
ないという思いもするのだが、こればかりは仕方がない。た
だ本作ではカラオケのシーンに明らかに別の感動を覚えた。
このような作品を観ることで、少しでも彼らのことを知り、
そこから今、自分が何をするべきかを考える、そこが重要と
思える作品だ。公開は6月より、東京はポレポレ東中野他で
全国順次ロードショウ。)
『ラオス 竜の奇跡』
(史上初の日本・ラオス合作映画とされる作品。田舎の故郷
を出て都会に暮らす若い現代女性が、訪れた観光地のダムで
55年前の内戦の続く時代にタイムスリップする。そこにはダ
ム建設のため測量に派遣された日本人青年もいて、2人は近
くの村で過ごすことになるが…。一応SF的なテーマではあ
るが、描かれるのは当時と現代の比較であって、そこにSF
的な視点は観られない。ただある種のノスタルジーと、そん
な半ば戦地でもある場所に赴いて活動した日本人がいたこと
に驚きも感じる作品になっている。2016年11月13日題名紹介
『バンコクナイツ』や12月25日題名紹介『逆行』などラオス
ロケの作品も観てきたが、その自然が魅力的だ。公開は6月
より、東京は有楽町スバル座他で全国順次ロードショウ。)
『カフェ・ソサエティ』“Cafe Society”
(ニューヨーク派の代表とされるウディ・アレン監督による
ハリウッドも舞台になる作品。背景は1930年代。主人公はニ
ューヨーク・ブロンクス生まれのユダヤ人青年。しかし地元
の暮らしが嫌になり、ハリウッドで成功している叔父の許に
やって来る。ところがそこで恋をして失恋した青年は東海岸
に舞い戻り、西海岸で得たノウハウを生かしたセレブの集う
カフェで成功するが…。出演はジェシー・アイゼンバーグ、
スティーヴ・カレル、クリスティン・スチュアート。アレン
のハリウッド嫌いは有名だったが、特に邪推するようなもの
もなく、ノスタルジーに溢れた映画を作り上げている。それ
は監督初期のユーモアにも満ちたもので、観ていて実に心地
よかった。公開は5月5日より、全国ロードショウ。)
『ジョン・ウィック:チャプター2』
               “John Wick: Chapter 2”
(2015年公開作品の続編。実は前作も試写を観たが、何と言
うか展開について行けず紹介を割愛してしまった。でもまあ
これがスタイルなのだし、これで観客が喜ぶならそれも価値
だ。お話は、前作では愛犬を殺されてロシアマフィアを壊滅
させた主人公が、今回は自宅を破壊され…。とにかく強烈な
復讐劇が繰り広げられる。そしてその舞台はヨーロッパ。共
演は2016年12月紹介『バイオハザード:ザ・ファイナル』な
どのルビー・ローズ、2014年3月紹介『サード・パーソン』
などのリッカルド・スカマルチョ。他にピーター・ストーメ
ア、ジョン・レグイザモ、イアン・マクシェーン、ローレン
ス・フィッシュバーン。さらにフランコ・ネロも登場する。
公開は7月7日より、全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二