井口健二のOn the Production
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2017年04月02日(日) ゴースト・イン・ザ・シェル、BLAME!

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『ゴースト・イン・ザ・シェル』“Ghost in the Shell”
1999年『マトリックス』の基になったとされる2008年7月紹
介、押井守監督のアニメーション『攻殻機動隊』をハリウッ
ドで実写リメイクした作品。実は2週前に試写が行われてい
たものだが、情報の露出が制限されて、それがようやく解禁
となった。
舞台は近未来。主人公は政権直属の対テロ組織公安9課に所
属する少佐。以前に遭った悲惨な事故で脳を除く身体の全て
は義体と呼ばれるサイボーグになっている。そんな主人公が
新たな組織との戦いを迎える。
その組織は、他者の脳をハッキングするという新たな攻撃を
仕掛けてきた。その戦いの中、少佐は自己の生体の中で唯一
残されていた脳の記憶が操作されているのではないかという
疑問に直面する。

出演はスカーレット・ヨハンセン、2016年9月紹介『ある戦
争』などのデンマーク俳優ピルー・アスベック。さらにビー
トたけし、ジュリエット・ビノシュ、マイクル・ピット。ま
た2011年10月紹介『永遠の僕たち』などのチン・ハン、オー
ストラリアに本拠を置くスタント・パフォーマーの泉原豊ら
が脇を固めている。他にゲスト出演もある。
監督は、2012年6月紹介『スノーホワイト』などのルパート
・サンダース。脚本は、2002年『ザ・リング』(ハリウッド
リメイク)を手掛けたアーレン・クルーガーと、ジェイミー
・モス、ウィリアム・ウィーラーの3人が担当している。
劇中のビートたけしの台詞は全て日本語で、それにヨハンセ
ンらが英語で受け答えする。その演出に、試写後に聞こえた
会話では、「たけしが英語は否だって言ったんじゃない?」
という声もあったが、この演出が理解されないと物語全体の
世界観が崩れそうだ。
とは言うものの、僕自身も2008年に観たアニメーションの時
からこの世界観についていけないところがあって、正直に言
って物語は消化し切れていない。でもまあ映像は面白いし、
最近の観客はそれで満足してくれるのだろう。
ただ、オリジナルではリアルとヴァーチャルの狭間みたいな
話がもう少し提示されていたと思うが、その辺が本作では希
薄になっているようだ。それを言ったからといって世界観が
明瞭になるものでもないが。
取り敢えず日本発の物語が新たに開幕したことには、とやか
く言わずに喜びたいものだ。続編も期待できる展開にも見え
たし…。

公開は4月7日より全国ロードショウとなる。

『BLAME!』
2015年公開『シドニアの騎士』の原作者で講談社漫画賞を受
賞した弐瓶勉が、1997年から2003年に発表したデビュー作を
自らの総監修で映像化した作品。
背景は、巨大な階層都市が増殖を続ける暗黒の未来。以前の
人類はその都市にアクセスする能力を持ち、都市を制御して
豊かな生活を送っていたらしい。ところが「感染」によって
その能力が失われ、都市は無秩序な増殖を続けるとともに、
アクセスできない人類を寄生物と見做して駆除し始める。
そんな時代が長く続き、人々からは都市の支配者だった記憶
も消え失せた頃。僅かに残った人類は都市の監視の目の届か
ない場所に隠れ住み、都市から食料をかすめ取りながら細々
と暮らしていた。そして主人公の少女は若くして食料調達を
担っていたが、その食料も尽き始めていた。
そんな主人公が仲間と新たな食料の調達に向った時、都市の
「監視者」に襲われ、仲間の多くを失ってしまう。ところが
そこに謎の男が現れ、「監視者」を一撃で倒してしまう。そ
して隠れ家についてきた男は、都市にアクセス可能な遺伝子
を持つ者を探していると語る。
さらに男の言葉から、隠れ家の中の禁忌の場所に秘密のある
ことが判り、そこに隠れていた太古の科学者を救出すること
に成功するが…。それが新たな災厄を人々にもたらすことに
なる。しかしそれでも人類生き残りのため主人公たちの戦い
は続いて行く。

監督は『シドニアの騎士』も手掛けた瀬下寛之、脚本の村井
さだゆき、キャラクターデザインの森山佑樹も『シドニア』
のスタッフが再結集している。ただし本作では、原作者の弐
瓶勉が総監修としてシナリオからキャラクターデザインまで
全ての中核を担っているものだ。
実は『シドニアの騎士』の試写も観させて貰っていたが、何
となくコンセプトが不明瞭で、元々作品がテレビシリーズの
総集編という位置づけでもあったので、ここでの紹介を割愛
してしまった。
それに対して本作は、それなりの背景の説明もあり、SFを
観馴れている者には理解し易い作品だった。ただし原作では
謎の男の方が主人公のようで、それを少女が主人公のように
書き直しているために、ちょっと男の性格付けなどに物足り
なさを感じた。
ただし元々が謎の男という設定だから、これはこれで良いと
も言えるものだ。この点は科学者の設定に関しても同様で、
これは何とかシリーズ化して、ちゃんとした決着も付けて欲
しくなる。そんな期待も膨らむ作品だった。

公開は5月20日より、2週間限定の全国ロードショウ。なお
音響には日本アニメーションでは初となるドルビーATMOSの
音響設計がされており、試写会場では体験できなかったが、
これは相当の迫力となりそうだ。

この週は他に
『笑う101歳×2』
(1914年=大正3年生まれ日本初の女性報道カメラマン笹本
恒子と、1915年=大正4年生まれ戦時中の朝日新聞記者むの
たけじ。共に年齢100歳を超えた2人のジャーナリストの姿
を追ったドキュメンタリー。作品は2014年4月の2人の初対
面からスタートするが、とにかく2人の元気が良い。むの氏
の容姿はそれなりだが、論が始まるとその舌鋒は止まらず、
特に戦争反対の立場に立つむの氏の発言は明確で気骨溢れた
ものになる。一方の笹本氏は、その容姿からして到底1世紀
を生きた人とは思えない。矍鑠として普通に見ても70代で通
用する雰囲気。「自分もこんな風に老いたい」そんな願望に
も捉われる作品だ。公開は6月3日より、東京はヒューマン
トラストシネマ有楽町他で全国順次ロードショウ。)
『22年目の告白 私が殺人犯です』
(2013年5月紹介の韓国映画『殺人の告白』を日本の現代を
舞台にリメイクした作品。連続殺人犯が公訴時効後に手記を
発表するという設定は同じだが、本作ではそれを見事に日本
の法体系に落とし込み、日本の実情や社会も反映させている
ところは見事だ。特に22年前の再現も的確に思えた。脚本は
アメリカアカデミー賞受賞作『つみきのいえ』の平田研也と
本作の監督も務めた2016年1月紹介『太陽』の入江悠。正に
日本映画の希望の星と言える顔合わせだ。出演は藤原竜也、
伊藤英明、夏帆、野村周平、石橋杏奈。さらに岩松了、岩城
滉一、仲村トオルらが脇を固めている。映画では最初に映る
22年前の自動販売機からその拘りに魅了された。公開は6月
10日より全国ロードショウ。)
『ラスト・プリンセス-大韓帝国最後の皇女-』“덕혜옹주”
(2008年8月紹介『ハピネス』などのホ・ジノ監督が、戦中
戦後の日韓の関係に翻弄された女性の姿を描いた韓国映画。
主人公は朝鮮王朝26代王の娘。彼女は側室の娘だったが王が
60歳の時に生まれ、溺愛されて当時の韓国内では国民的アイ
ドルでもあったようだ。因に彼女の誕生は日韓併合の2年後
だった。ところが併合を潔しとしない王が毒殺され、1925年
彼女は人質として日本に行くことを強制される。これだけで
も充分歴史に翻弄されたと言えるが、さらに日本の敗戦後に
も彼女には悲劇が降り掛り、帰国できたのは1963年だった。
そんな女性の姿がフィクションを絡めて描かれる。主演は、
2013年5月紹介『ザ・タワー』などのソン・イェジン。公開
は6月、シネマート新宿他で全国順次ロードショウ。)
『君のまなざし』
(「幸福の科学」大川隆法の原案・製作総指揮によるファン
タシーの趣もある作品。主人公は身寄りもなくアルバイトを
しながら大学に通う苦学生。そんな主人公が神社の巫女に何
かを感じた瞬間から運命が動き出す。そして夏休みバイトに
訪れた山荘で、1000年の時空を超えた彼の存在の意味が判明
する。それは彼の家系に連綿と続く使命だった。同教団の映
画製作も第11作になるようだが、主人公が危機に陥っても最
後は神様が助けてくれるという展開はいつもと変わらずの作
品だった。出演は、梅崎快人、水月ゆうこ、大川宏洋。他に
黒田アーサー、黒沢年雄、手塚理美らが脇を固めている。監
督はテレビ『教師びんびん物語』などの赤羽博が劇場映画を
初監督した。公開は5月20日より、全国ロードショウ。)
『武曲 MUKOKU』
(2010年9月紹介『海炭市叙景』などの熊切和嘉監督による
最新作。剣道に運命を左右される2人の男の姿が描かれる。
1人目は警察官で剣道の達人だった父親に幼い頃から鍛えら
れた。しかしある出来事から己を見失い、警備員の職に甘ん
じながら酒浸りの生活を送っている。もう1人はラップ好き
の高校生、ところが剣道部員に絡まれ、無理やり持たされた
竹刀で天分を見出される。そんな2人の運命が絡まる。出演
は綾野剛と村上虹郎。その脇を前田敦子、風吹ジュン、小林
薫、柄本明らが固めている。藤原周の原作から2014年2月紹
介『そこのみにて光輝く』などの高田亮が脚色した。劇中の
綾野の筋肉が物凄く、エンドロールの謝辞に納得した。公開
は6月、東京は新宿武蔵野館他で全国ロードショウ。)
『ダブルミンツ』
(サブカル界のカリスマと呼ばれる中村明日美子の原作を、
2014年『グレイトフルデッド』、2016年『下衆の愛』などの
内田英治監督が映画化。サブカルという言葉にはいろいろな
イメージが湧くが、本作は比較的オーソドックスなチンピラ
ものだった。内田監督の作品は上記の2本も観ているが中々
紹介までは至らなかったもの。それは視点は良いがそこから
の展開に何か突き抜けるものが物足りない。ただし本作では
僕自身がこのBLという世界に入り込めないところにも原因
があるのかもしれない。その意味では前作『下衆の愛』の方
が理解し易かった感じだ。従って多分嗜好の合う人には良い
作品なのだろう。公開は6月3日より、東京はシネリーブル
池袋他で全国ロードショウ。)
『ハクソー・リッジ』“Hacksaw Ridge”
(第2次世界大戦末期の沖縄戦線を描いた戦争映画。沖縄戦
線というと火炎放射器で地下壕を焼き払い、そこから白旗を
掲げて日本兵や民間人が出てくる映像しか思い浮かばない。
それはジョン・フォード監督らの名匠によって記録されたも
のが、本当の戦場の様子は記録班も入れなかったほどの苛烈
なものだったようだ。その様子がメル・ギブスン監督の手で
再現されている。プレス資料には大学教授による描写が残虐
過ぎるとのコメントも寄せられていたが、これこそが本物の
戦場の姿なのだろう。その中で主人公は良心的兵役拒否者と
して武器も持たずに看護兵として奔走する。それは正しく名
誉勲章に値する活動だった。出演はアンドリュー・ガーフィ
ールド。公開は6月24日より全国ロードショウ。)
『アムール、愛の法廷』“L’Hermine”
(多民族国家フランスの裁判所法廷を描いた作品。主人公は
厳格な裁きで知られる判事。その判事に裁かれるのは娘を蹴
り殺したとされる若者。しかしその若者は「殺していない」
と繰り返すだけで人定質問にも答えようとしない。そして陪
審員席には、判事が以前に心を寄せた女性が座っていた。日
本でも裁判員制度が施行されて時間が経つが、フランスとの
裁判制度の違いにも興味が惹かれた。とは言うもののさすが
愛の国フランスなのかな? イタリアほどではないにしても
その大らかさにはちょっと驚かされた。まあ人間的と言えば
そうなのだが。監督は2013年『大統領の料理人』などのクリ
スチャン・ヴァンサン。公開は5月13日より、東京は渋谷シ
アター・イメージフォーラム他で全国ロードショウ。)
『ポエトリー・エンジェル』
(日本朗読ボクシング協会という団体が特別協力している詩
作が主題の青春ドラマ。主人公は梅農家の1人息子。高校卒
業後は一応親の手伝いはしているが、家業を継ぐ気もなく、
日々をただ過ごしている。ただ彼には妄想癖があり、そんな
彼が「詩のボクシング」に何となく参加。一方、梅林の農道
をトレーニングで駆け抜ける少女は学校では浮いた存在で、
ボクシングジムに通っているがライヴァルには後れを取って
いる。そんな少女が気になる主人公は…。高校生の書道だの
俳句だのいろいろあるが、今度は「詩のボクシング」と言う
感じかな。出演は岡山天音、武田玲奈。その脇を鶴見辰吾、
美保純、角田晃広、下條アトムらが脇を固めている。公開は
5月20日より、テアトル新宿他で全国ロードショウ。)
『コンビニ・ウォーズ バイトJK VS ミニナチ軍団』
                   “Yoga Hosers”
(2010年7月紹介『コップ・アウト』などのケヴィン・スミ
ス監督で、ジョニー・デップの娘のリリー=ローズ・メロデ
ィ・デップと監督の娘のハーレイ・クイン・スミスが主演す
るドタバタコメディ。カナダ片田舎のコンビニを舞台に音楽
好きのコンビニ店員と、戦前のカナダで台頭したというナチ
信奉者の末裔が繰り出すソーセージ軍団がとんでもない戦い
を展開する。監督は2001年発表『ジェイ&サイレント・ボブ
帝国の逆襲』などでも名高いが、カナダとナチスの関係など
変な捻りも持ち出して、何となく判るような判らないような
摩訶不思議な作品を作り出した。とは言えジョニー・デップ
の共演や、ヴァネッサ・パラディの顔出しなど、かなりの親
ばか振りも観られる作品だ。公開は7月1日からの予定。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二