井口健二のOn the Production
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2017年03月26日(日) ReLIFE、メッセージ

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『ReLIFE』
ダウンロード数が1400万件を突破しているという国内最大級
のComic-Novelサイト〈comico〉で開設当初から連載されて
いる夜宵草原作の映画化。
主人公は27歳でニートの男性。大学を出て就職したが、ある
事情で辞職した。そして再就職もままならず貯金も尽きかけ
ているが、その状況を大学の同期生に誘われた飲み会でも話
すことができない。
そんな彼が酔って帰宅中、1人の若い男が声を掛けてくる。
その男は彼にカプセル剤を差し出し、「人生をやり直してみ
ませんか?」と持ち掛ける。その薬は飲んだ人の容姿を10歳
若返らせ、高校に再入学することができるのだという。
そしてそれは1年間の期限付きの実験で、その期間の彼の行
動が研究の対象となる。さらに実験が終了した後は元の年齢
に戻れると共に、その際に再就職も斡旋してくれるというも
のだった。
そんな胡散臭い実験に、酔った勢いもあって参加してしまう
主人公だったが…。再入学した高校では兎に角目立たないま
ま1年を過ごそうとした主人公は、生徒間のいろいろな状況
に徐々に巻き込まれて行く。

主演は、2016年11月紹介『きょうのキラ君』などの中川大志
と平祐奈。共演に、2012年2月紹介『桜蘭高校ホスト部』な
どの千葉雄大、2012年1月紹介『レンタネコ』などの市川実
日子。
さらに夏菜、高杉真宙、池田エライザ、岡崎紗絵、水崎綾女
らが脇を固めている。脚本は「日本テレビシナリオ登竜門」
に入選後、多数のテレビドラマを手掛けている阿相クミコ。
監督は、2011年4月紹介『アベック・パンチ』などの古澤健
が担当している。
2015年8月に同じ題名のアメリカ映画を紹介しているが、そ
の作品もSFファンにはお勧めしたい作品だった。そして本
作も、SFファンにはちょっと気になる展開の作品になって
いる。
それは宣伝チラシにもプレス資料にも「SF」という文言は
記されていないのだが。本作に登場するカプセル剤は明らか
にSFの産物と言えるもので、さらにその副作用が実にSF
ファンの心に触れるものなのだ。
2017年2月紹介『パッセンジャー』の時にも書いたが、SF
の設定でしか描けないラヴストーリーは、SFファンだから
こそ味わえる醍醐味だと言える。それがこの作品には描かれ
ている。そんなことでも認めたい作品だ。
ただ声高にSFと主張することが本作にプラスかどうか判ら
なかったが、実は試写後に宣伝担当者から僕の素性を知った
上での意見を求められたもので、僕はSFとしてちゃんと評
価できると答えた。
それはもちろん本格SFと言えるほどのものではないが、こ
の作品をSFと理解して貰えていることには、嬉しく感じた
ものだ。
なお題名に関しては、〈comico〉の開設は2013年10月だそう
で、その当初からの連載であるなら本作の原作の方が上記の
アメリカ映画に先行していることになる。

公開は4月15日より、全国ロードショウとなる。

『メッセージ』“Arrival”
1999年のスタージョン賞と2000年ネビュラ賞中長編小説部門
を受賞した中国系アメリカ人作家テッド・チャンの原作小説
“Story of Your Life”(邦題『あなたの人生の物語』)の
映画化。
主人公は女性の言語学者。以前にも軍に協力したことのある
彼女に新たな要請が来る。それは世界各地に飛来したUFO
の乗員の言語を解明して欲しいというものだった。そこで彼
女は、アメリカ国内に飛来したUFOの現場に赴く。
そのUFOは草原地帯の一点に留まり、地上から数mの高さ
に浮遊していた。そして18時間毎にUFOの下部に開口が開
き、そこから内部に侵入できるのだ。その内部で主人公らは
2体の異星人と相対する。
その異星人は音声と図形で言語を操り、特にその図形を解明
するべく主人公らは作業を開始するが…。そこには驚愕の体
験が待ち受けていた。さらに同じくUFOの飛来した中国や
ロシアなどとの外交や軍事の駆け引きなどが描かれて行く。

出演は、2014年4月紹介『her/世界でひとつの彼女』など
のエイミー・アダムス、2014年1月紹介『エヴァの告白』な
どのジェレミー・レナー、2014年6月紹介『ケープタウン』
などのフォレスト・ウィティカー。
脚色は、2010年5月紹介『エルム街の悪夢』(リメイク)な
どのエリック・ハイセラー、監督は、2016年1月紹介『ボー
ダーライン』などのドゥニ・ヴィルヌーヴが担当した。
地球に飛来した異星人とのファースト・コンタクトを描いた
作品では、何と言っても1977年の『未知との遭遇』が一番の
話題作だろう。あの作品でも音声や視覚を通した意思疎通の
手順が描かれたが、本作はさらにそれを追求したものだ。
そして原作小説では、言語学的な理論に基づく様々な探求が
行われ、その進捗の過程の描写がSFとして評価されている
ものと思われる。僕は原作に直接当っていないが、周囲の情
報からそのような印象を受けた。
さてそこで今回の映画化に関しては、恐らく原作小説を読め
ば上述の点は容易に理解できると思われるが、映画だけでそ
の全てを理解するのはかなりハードルが高い。しかし映画で
は、その点を映像で巧みに補っているようにも思える。
その辺でSF好きかどうかで微妙に評価が分かれてくるとも
思える。ただし全体の背後に流れる物語に関しては、映画だ
けでは少し説明が足りないようにも思われ、特に時制に関し
ては、英文法との絡みで日本人には不得手に思えた。
でもまあそんなことも映像で幻惑されたまま観てしまえば、
それはそれで構わないような感じもするものだが…。取り敢
えず提示される映像は面白かった。

公開は5月19日より、東京はTOHOシネマズ六本木他で、全国
ロードショウとなる。

この週は他に
『ある決闘-セントヘレナの掟-』“The Duel”
(『ハンガー・ゲーム』のリアム・ヘムスワースと、2016年
7月紹介『グランド・イリュージョン』などのウッディ・ハ
レルスン共演で、19世紀中葉のリオグランデ河岸を舞台にし
たダークなウェスタン。アメリカが仕掛けた戦争で新たな国
境とされた河に複数のメキシコ人の遺体が上がる。その中に
は行方不明だった将軍の甥も含まれ、その調査が元テキサス
レンジャーの男に託される。その調査の対象は彼と因縁の或
るカルトの教祖だった。そしてその教団の村に彼はメキシコ
人の妻と共に潜入するが…。2017年3月12日題名紹介『ノー
・エスケープ』にも通じる話で、今の時期に続けてこのよう
な作品が出てきたのも興味深い。公開は6月10日より、東京
は新宿バルト9他で全国順次ロードショウ。)
『心に吹く風』
(韓流ブームの切っ掛けとも言われるドラマ『冬のソナタ』
を手掛けたユン・ソクホ監督初の劇場映画。その作品が日本
で作られた。舞台は北海道。写真家の男性がその風景を撮り
にやって来る。しかし友人に借りた車がエンストし、訪ねた
家にいたのは数10年前の学生時代に彼が愛した女性だった。
そして彼女を撮影の案内人兼アシスタントとして2人の行動
が始まるが…。美しい背景の中での報われぬ恋愛物語。正し
く『冬ソナ』の世界が展開される。まあ1本だけの映画では
ドラマのようなたっぷりとした情感には浸れないが、ファン
にはその雰囲気は伝わりそうだ。出演は2016年10月9日題名
紹介『愚行録』などの眞島秀和と、映画出演は10数年ぶりと
いう真田麻垂美。公開は6月、全国ロードショウ。)
『シチリアの恋』“谎言西西里”
(中国上海とシシリア島を舞台にしたかなり捻りのある恋愛
ドラマ。主人公は上海のデザイン会社に勤める中国人女性。
彼女は同僚の韓国人男性と恋仲だったが、突然彼に「別れよ
う」と言われ、彼はイタリアに行ってしまう。そんな彼の仕
打ちに悲嘆する彼女だったが、さらに彼女は彼なしには何も
できない自分に気が付く。そこに彼の葬儀の通知が届き…。
出演は、2011年5月紹介『サンザシの樹の下で』などのチョ
ウ・ドンユイ、2008年3月紹介『光州5・18』などのイ・
ジュンギ。監督は、台湾出身でドキュメンタリー映画での受
賞歴なども持つリン・ユゥシェン。前半はかなりベタな恋愛
劇で心配したが後半の捻りは。見事だった。公開は4月22日
より、東京はシネマート新宿他で全国順次ロードショウ。)
『パトリオット・デイ』“Patriots Day”
(2013年4月15日、アメリカの祝日に開催されるボストンマ
ラソンで起きた爆弾テロ事件と、その犯人逮捕までの様子を
描いた実録作品。ピーター・バーグ監督とマーク・ウォール
バーグ主演は2017年3月5日題名紹介『バーニング・オーシ
ャン』と同じ顔合わせで、2013年の『ローン・サバオバー』
と併せて実録3部作と呼ばれている。因に1本目の試写は観
たが、戦争映画であり紹介は割愛した。実録物というのは無
視できない実話が背景にあり、その表現に限界が生じる。そ
こに如何にフィクションを持ち込むかが勝負だと思うが、本
作では少年の遺体を巡るエピソードが秀逸だった。共演はケ
ヴィン・ベーコン、ジョン・グッドマン、J.K.シモンズ、
ミシェル・モナハン。公開は6月、全国ロードショウ。)
『パリが愛した写真家 ロベール・ドアノー 永遠の3秒』
         “Robert Doisneau: Through the Lens”
(2017年3月5日題名紹介『Don't Blink』に続いての写真
家の足跡を追ったドキュメンタリー。写真家を有名にしたの
は1950年に撮影された「パリ市庁舎前のキス」。Life誌の依
頼で撮ったこの写真は1980年代にポスターにもなり、一躍そ
の名を世界的にした。そんな写真家の業績を孫娘である監督
が愛情をこめて描いて行く。そこには35万点に及ぶという中
からの選択された作品と共に、本人のアーカイヴ映像や日本
人を含む関係者へのインタヴューなども挿入されている。そ
の中では本人が語る制作の意図や、題名にも掲げられた3秒
の意味には成程と思わされた。公開は4月22日より、東京は
恵比寿の東京都写真美術館ホール、渋谷ユーロスペース他で
全国順次ロードショウ。)
『いつまた、君と』
(俳優向井理の企画出演により「何日君再来」の歌に載せて
戦後の混乱期を生き抜いた庶民の姿を描いた作品。原作は向
井の祖母が書いた自叙伝によるもので、映画の中にも登場す
る孫息子の行為が向井本人のもののようだ。そこには苦労に
苦労を重ねた戦後の庶民の暮らしぶりが描かれている。僕自
身の両親が同じような時期を過ごしてきたからそれなりに思
うところもあるが、それよりもこんな暮らしを強いられた当
時の人々を思いやるべきだろう。主演は尾野真千子。共演に
は岸本加世子、駿河太郎、イッセー尾形、野際陽子らの顔触
れが並ぶ。脚本は『ゲゲゲの女房』などの山本むつみ。監督
は2017年2月紹介『サクラダリセット』などの深川栄洋が担
当した。公開は6月24日より全国ロードショウ。)
『潜入者』“The Infiltrator”
(2016年4月紹介『トランボ』などのブライアン・クランス
トン、2011年4月紹介『アンノウン』などのダイアン・クル
ーガー、2012年5月紹介『リンカーン弁護士』などのジョン
・レグイザモ共演で、全米の麻薬組織を壊滅に導いたという
潜入捜査の実話に基づく作品。2時間7分の作品だが、その
時間を感じさせない綿密な作戦が描かれ、さらにまるで漫画
のような結末には「これが実話か…」と思わせる痛快な作品
になっている。監督は『リンカーン弁護士』のブラッド・フ
ァーマン、脚本は本業は弁護士というエレン・ブラウン=フ
ァーマン。捜査対象を途中で麻薬からマネーロンダリングに
替えるなど実感のある作品だ。公開は5月13日より、東京は
ヒューマントラストシネマ渋谷他で、全国ロードショウ。)
『ブラッド・ファーザー』“Blood Father”
(メル・ギブスンの主演で、組織に追われる実娘を救うため
奔走する父親の姿を描いた作品。主人公は仮出所中でトレー
ラーハウスに暮らす入れ墨師。断酒を誓い、細々と暮らす男
の許に行方不明だった実娘から電話が入る。その実娘の危機
を救うため男は長年培ってきたサヴァイヴァル術で戦いを挑
むことになるが…。ギブスンが大型バイクを乗り回すなど、
往年の姿も思い出させる作品だ。共演は同時期に別の作品も
あるエリン・モリアティ、2013年8月紹介『エリジウム』な
どのディエゴ・ルナ、2012年5月紹介『リンカーン弁護士』
などのウィリアム・H・メイシー。監督は、2009年10月紹介
『ジャック・メスリーヌ』などの俊英ジャン=フランソワ・
リシェ。公開は6月3日より、全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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