井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2017年03月19日(日) 夜は短し歩けよ乙女/夜明けを告げるルーのうた、いぬむこいり

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『夜は短し歩けよ乙女』
『夜明けを告げるルーのうた』
2004年公開の長編デビュー作『マインド・ゲーム』で文化庁
メディア芸術祭アニメーション部門大賞を受賞した湯浅政明
監督による新作2作品が相次いで公開される。
まず1本目は、累計発行部数が130万部を超えているという
森見登美彦原作の映像化。京都を舞台に一夜の冒険物語が描
かれる。
登場するのは気弱な大学生(先輩)と後輩の黒髪の乙女。先
輩は乙女を気に入っているが、気弱なためにそれを告白する
ことができない。そこで先輩はなるべく乙女の目に留まるよ
うにする「ナカメ作戦」を実行していた。
そんなある日、先輩は乙女の思い出の絵本の情報をキャッチ
してその絵本を古本市で見つけ出し、彼女にプレゼントしよ
うと思い立つ。しかしそれは並大抵の努力だけでは実現でき
ないことだった。
一方、乙女は実はかなりの酒豪で、面白いことを探して夜の
京都を歩く内、不思議な冒険に巻き込まれる。そこには学園
祭を巡る主導権争いやゲリラ演劇を実行するグループ、さら
には謎の大富豪などがいて…。

声優は、先輩役にいま評判の星野源が初単独主演、乙女役は
声優賞を数多く獲得している花澤香菜。他に神谷浩史、中井
和哉、甲斐田裕子、吉野裕行。さらにお笑いトリオ・ロバー
トの秋山竜次、ミュージカル女優の新妻聖子らが脇を固めて
いる。
京都は最近行く機会が多くて、それなりの土地勘も出来てき
たが、描かれる風景や、さらにテーマの一部が古書に纏わる
ものだったり、ホルヘ・ルイス・ボルヘスを思わせるところ
もあるなど、僕には楽しめる作品だった。

そして2本目は、湯浅監督初のオリジナル脚本による作品。
物語はとある漁港を舞台に、人魚伝説に纏わるかなりファン
タスティックなストーリーが展開される。
登場するのは、両親の離婚で鬱屈した生活を送っている男子
高校生。彼はそんな気持ちをネットに自作の曲をアップする
ことで解消していたが、その正体を学友に見破られ、彼らの
バンドの練習に付き合わされる。
その練習は港の沖の人魚島で行われていたが、彼らの練習が
始まると人魚のルーが現れて楽しそうに踊り始めた。そして
主人公はルーと行動を共にする内、徐々に自分のモヤモヤが
消えて行くのを感じていたが…。
彼らの暮らす町にとって人魚は災いをもたらす存在だった。
それは悪気があってのことではなかったのだが。

声優は、共に子役出身の下田翔大と谷花音。さらに柄本明、
柔道家の篠原信一。声優の寿美菜子、斉藤壮馬、お笑い芸人
千鳥の大悟、ノブらが脇を固めている。
アニメは日本の文化みたいな風潮だが、最近の大ヒット作は
いずれも実写でも出来るものをわざわざアニメーションにし
ている感が拭えず、手塚治虫さんなら眉を顰めるだろうとい
う思いがしていた。
それに対してこの2作は、いずれもこれぞアニメーションと
いう感じの作品で、これなら手塚さんも認めるのではないか
な。そんな観ていて実に心地の良い作品だった。

公開は1本目が4月7日より、2本目は5月19日より、いず
れも全国ロードショウとなる。

『いぬむこいり』
プロデューサーとして鈴木清順監督の諸作やテレビ特撮シリ
ーズ『鉄甲機ミカヅキ』なども手掛けた片嶋一貴脚本・監督
による上映時間245分、ファンタシーの要素もある作品。
主人公はアラフォーの女小学校教師。彼女の実家には、武勲
を挙げた忠犬が姫を娶ろうとし、それを受け入れた姫と共に
島流しになったという言い伝えがあり、彼女自身も人の悪意
を嗅ぎ取る能力を持っていた。
しかし教室で生徒の悪意に満ちた悪戯に耐え切れず、さらに
付き合っていた男性にも別れを告げられた日、彼女は南の島
に彼女の求める宝があるとの啓示を受ける。斯くして舟も通
わぬその島に向うアドヴェンチャーが開始される。

主演は1986年の『星空の向こうの国』で映画デビューを果た
し、同年の『キネマの天地』で各映画賞の新人賞を独占した
有森也実。相手役にパンクバンド「勝手にしやがれ」のヴォ
ーカルで本作の主題歌も歌っている武藤昭平。
さらに2010年9月紹介『君へのメロディー』などの江口のり
こ、2007年8月紹介『スキヤキウェスタン・ジャンゴ』など
の尚玄、2011年1月紹介『ランウェイ☆ビート』などの笠井
薫明、2016年1月紹介『復讐したい』などの山根和馬。
また韓英恵、ベンガル、PANTA、緑魔子、石橋蓮司、柄本明
らが脇を固めている。
背景となる実家の言い伝えは、「南総里見八犬伝」の援用と
思われるが、映画の開幕が人形劇なのはNHKへのリスペク
トなのかな。その他にも途中に舞台風の演出があったり、い
ろいろと細工は施された作品だ。
実は僕が試写を観た日は、その後にハリウッド映画のワール
ドプレミアがあり、知り合いの何人かはその前に重厚な作品
は辛いとして本作の試写会を敬遠したとのことだった。それ
は上映時間だけでも及び腰にはなる。
しかし実際の作品は、確かに軽いものではなかったが、辟易
するほど重いというほどのものでもなく、上述の仕掛けなど
寧ろエンターテインメントとして面白く観ることのできる作
品だった。
それは事前に作品が4章立てであることは判っていたが、そ
れぞれの章のテイストが違えられている。その第1章は都会
が舞台のプロローグで、第2章は選挙が絡む風刺劇、第3章
はサヴァイヴァル劇で、第4章が戦争映画といった具合。
こんな風に目先が変ることで上映時間の長さも感じさせない
ものだった。しかもR15+指定となる部分もあり、映画のい
ろいろな要素が一度に楽しめるという作品にもなっている。
兎に角、エンターテインメントとしては合格点の作品だ。

公開は5月13日より、東京は新宿K's cinemaにて、また初夏
に鹿児島ガーデンズシネマでの上映も予定されている。

この週は他に
『美女と野獣』“Beauty and the Beast”
(2010年9月に3D公開で紹介した1991年製作のディズニー
アニメーションが、『ハリー・ポッター』シリーズなどのエ
マ・ワトスンの主演で実写映画化された。物語はオリジナル
とほぼ同じで、本好きのちょっと変わった少女が父親の身代
わりで野獣の城に幽閉され、彼女を救出しようとする村の住
民との戦いに巻き込まれる。開幕のディズニーのロゴから舞
台の村と城が描かれ、長年のディズニー映画のファンとして
は「おお!」という感じにもなる作品だ。ただ個人的にはオ
リジナルでお気に入りだったシーンの一つがカットされて、
その点は少し残念。でもまあ実写でやると多分違和感だった
のだろう。監督は2003年2月紹介『シカゴ』などのビル・コ
ンドン。公開は4月21日より、全国ロードショウ。)
『夜空はいつでも最高密度の青色だ』
(最果タヒの詩集をドラマ化した作品。詩集の映像化という
のは、風景映像に詩の朗読を被せるようなイメージだけど、
本作では一歩進んで恋愛ドラマが創作され、そこに多分詩集
の中の言葉が台詞として散りばめられている。それは見事な
詩の表現であり、しかもその詩が現代の若者を描いているか
ら、巧みな恋愛映画として昇華している。これは素晴らしい
作品だ。特にコミックスの映画化のような稚拙な恋愛ゲーム
ばかりの時代には、久し振りに本物を観た感じがした。出演
は新人の石橋静河、池松壮亮。他に松田龍平、市川実日子、
田中哲司らが脇を固めている。脚本と監督は2010年2月紹介
『川の底からこんにちは』などの石井裕也。公開は5月13日
より新宿ピカデリーで先行上映の後、全国ロードショウ。)
『作家、本当のJ.T.リロイ』
            “Author: The JT LeRoy Story”
(2004年にアーシア・アルジェントの脚本・監督・主演で映
画化された『サラ、いつわりの祈り』の原作者に纏わる事実
のドキュメンタリー。真の原作者のローラ・アルバートは自
らのコンプレックスから別人になりたいと願い、その気持ち
で偽名で発表した小説がベストセラーになる。しかし彼女は
実名を明かさず、別人を仕立てて自らはそのマネージャーと
して行動してしまう。それが徐々に大事になり、遂には国際
映画祭のレッドカーペットを歩くまでになるのだが…。以前
は出版界と付き合いもあった自分としては、かなり愉快だし
憧れも感じる作品だ。特に顛末が多数の著名人との留守番電
話の録音で描かれるのは見事だった。公開は4月8日より、
東京は新宿シネマカリテ他で全国順次ロードショウ。)
『映画プリキュア・ドリームスターズ!』
(2016年10月30日に題名紹介した作品に続く映画シリーズの
最新作。基になるのは2月5日にスタートした『キラキラ☆
プリキュア・アラモード』でそのテーマはお菓子。そして物
語は、主人公の見た夢が現実と交錯するところから始まる。
その夢世界から現れた少女が3つのアイテムに関る仲間を探
すというのだが、そこで提示されるのがお菓子と宝石と鍵。
ここでお菓子が現行シリーズのアイテムであることは判った
が、後の2つも過去のシリーズのアイテムだそうだ。昨年秋
の映画の仕掛けでは言葉遊びが気に入ったが、今回の仕掛け
は僕には不明だったが納得はできたものだ。ゲスト声優には
木村佳乃、山里亮太、お笑いコンビのライスらが登場する。
公開は3月18日より、全国ロードショウ。)
『バイオハザード:ヴェンデッタ』
(2008年公開『ディジェネレーション』、2012年公開『ダム
ネーション』に続くCGIアニメーションシリーズ第3弾。
開幕は洋館を舞台にしたゾンビとの攻防戦。僕はオリジナル
のゲームはやらなかったが、子供がやっているのを観ていた
もので、この開幕のシーンには懐かしさが溢れてきた。そし
て物語は、その洋館事件を生き延びた主人公を巡るもので、
アンブレラ社の無き後、新たに登場したバイオ兵器産業との
闘いが描かれる。その一方で対バイオ兵器の開発も進められ
ていたが…。実写版は2016年12月紹介『ザ・ファイナル』で
完結したが、アニメーション版はまだまだ続くようだ。公開
は5月27日より、東京は新宿ピカデリー、ヒューマントラス
トシネマ渋谷他で全国ロードショウ。)
『オリーブの樹は呼んでいる』“El olivo”
(2013年1月紹介『天使の分け前』などの脚本家ポール・ラ
ヴァーティの脚本を、妻でスペインの女性監督イシアル・ボ
ジャインが映画化した作品。その昔にローマ人が植樹し、樹
齢2000年を超えるものもあるというオリーブの樹がスペイン
の大地から引き抜かれ、ドイツや遠く中国にまで売られてい
るという。そんな事実を背景にした物語。主人公は勝ち気で
家族からも疎まれている若い女性。しかし仲良しだった祖父
が病に倒れ、その原因が売られたオリーブの樹にあると考え
た彼女はその奪還作戦に乗り出す。スペイン社会の現状など
も反映した作品だが、主人公の心情には共感できるし、後半
の展開には拍手も贈りたくなった。公開は5月下旬より、東
京はシネスイッチ銀座他で全国順次ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


 < 過去  INDEX  未来 >


井口健二