井口健二のOn the Production
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2017年03月05日(日) ひるね姫、レゴバットマン ザ・ムービー

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『ひるね姫』
2016年11月20日付で題名紹介した作品が完成し、改めて試写
が行われた。
少女の見る夢と現実が交錯するファンタスティックな要素も
大きく作用する物語。
主人公は岡山県倉敷市で父親と2人暮らしの女子高生。特に
取り得もない彼女はいつも居眠りをしている。ところが最近
になって同じ夢ばかりを見るようになっていた。そこは機械
産業が発達した王国で、彼女はその国の王女だったが…。
そして現実の背景は2020年の夏、東京オリンピックの開会式
が3日後に迫った日。とは言うものの、そのイヴェントは彼
女にはあまり関係が無いようだ。ところがそんな彼女の周囲
に不穏な雰囲気が漂い始める。
その日、突然父親が警察に任意同行を求められ、そのまま身
柄は東京に送られることに。一方、お盆で墓参りに行った主
人公は父親が隠したタブレットを発見。そして帰宅した彼女
は侵入者から辛くも脱出する。
斯くして帰省していた幼馴染の大学生と共に、父親が改造し
たバイクで父の後を追うことに決めた主人公だったが、その
途中では様々な不思議な出来事に遭遇する。それは夢の中で
彼女が使う魔法のようだった。

原作、脚本、監督は2012年10月紹介『009 RE:CYBORG』など
の神山健治。声の出演は高畑充希、満島真之介、古田新太、
高橋英樹、江口洋介。さらに釘宮理恵、高木渉、前野朋哉、
清水理沙らが脇を固めている。
昨年11月に観た時はほぼ線画の状態で、さらに音声は台詞だ
けという状況だったが、それが完成するとこんなにも印象が
変わるのかと驚くほどだった。
実際、昨年観た時にはもっとファンタシーの要素が強いかと
思っていたが、完成品ではそれほどでもなく。むしろ現実の
中にうまく溶け込んでいる感じで、その描き方も的確なもの
だった。
特に魔法だと思っていたことの種明かしが巧みで、それには
ニヤリとさせられたところ。これはファンタシーより、むし
ろSFだったようだ。2020年の直近の未来がここまでSFに
なるかは判らないが、そんな夢も楽しい作品だ。
夢の中の王国を襲う巨人など、過去の日本のアニメ作品への
オマージュのようなシーンも数多くあり、それらへの評価が
どうなるかは多少気になる所だが、物語としてのオリジナリ
ティはしっかりしていると思えた。
それは主人公が何の取り得もない少女という設定も良いし、
その主人公が歌う主題歌「デイ・ドリーム・ビリーバー」も
作品にマッチして良い感じだった。

公開は3月18日より、全国ロードショウとなる。

『レゴバットマン ザ・ムービー』
               “The LEGO Batman Movie”
2014年2月紹介『LEGOムービー』のスタッフ再結集で、DC
スーパーヒーローの世界を描くパロディ作品。
実は前作ではバットマンの人気が特に高かったのだそうで、
そこで今回は彼が主演にフィーチャーされている。となれば
敵役は当然ジョーカーだが、その立ち位置の微妙なところが
本作の売りと言えそうだ。
実際バットマンには他にもいっぱい敵がいる訳で、そこから
物語が動き始める。そしてジョーカーはありとあらゆる悪役
に総動員令を掛けてしまうのだ。そこで登場するのが…。い
やはや全部LEGOとは言えこれは凄い。
特に、他の物語から動員された、それぞれが最恐と言われた
悪役たちには、そうかこいつらもワーナー映画の所属だった
んだと妙な関心もしてしまったくらい。これは映画ファンも
ニヤリとさせるものになっている。
そしてバットマン側には、お決まりのアルフレッド(仕掛け
在り)を始めとするファミリーが集結となるもので、これも
長年のファンにはニヤニヤし通しの展開となっている。それ
にしてもLEGOの表現力にも感心する作品だった。

原案と脚本は、2012年8月紹介『リンカーン/秘密の書』な
どのセス・グレアム=スミス。そこに今夏公開『スパイダー
マン ホームカミング』も手掛けるクリス・マッケナ&エリ
ック・ソマーズと、2013年2月紹介『シュガー・ラッシュ』
などのジャレット・スターン。
さらに2009年9月に紹介した『カールじいさんの空飛ぶ家』
の続編プロジェクトにも参画しているというジョン・ウィッ
ティントンが共同脚本で加わっている。まあこれだけ揃うと
かなりの脚本ができるというものだ。
監督はテレビの人気アニメ『ロボット・キッチン』でエミー
賞やアニー賞にも輝いたクリス・マッケイが担当した。
声優は、オリジナルでは2009年12月紹介『スパイアニマルG
フォース』などのウィル・アーネット、2011年4月紹介『ス
コット・ピルグリムvs.邪悪な元カレ軍団』などのマイクル
・セラ。2人は他に多数のアニメ作品の声優も務めている。
さらに2015年11月紹介『007/スペクター』などのレイフ
・ファインズ、2008年10月紹介『イーグル・アイ』などのロ
ザリオ・ドースン、2012年4月紹介『ザ・マペッツ』などの
ザック・ガリフィアナキスらが脇を固めている。
主人公が『スーパーマン』に対抗意識を燃やしているという
図式は当然のこととして、その他にもいろいろなくすぐりが
登場する。ただ、主人公のお気に入りの映画がワーナー作品
ではないのだが、これはセレブ御用達という意味なのかな?

公開は4月1日より、全国ロードショウとなる。

この週は他に
『あの日、兄貴が灯した光』“형”
(国際大会の決勝で見事な投げ技を受け、頭部を強打して失
明した柔道選手が、失意の中から立ち直って行く姿を描く感
動作。主人公には両親がおらず、そこに付け込んで多少悪の
異母兄が関ってくる。さらに彼を育て上げた女性のコーチも
いて、正直に言ってかなりあざとい展開になっている。でも
それが狙いな訳だし、実際それに涙も誘われるのだから、こ
れはこれで見事な作品だ。監督は2008年1月紹介『裸足のギ
ボン』などのクォン・スギョン。出演は2016年10月紹介『造
られた殺人』などのチョ・ジョンソク、人気グループEXO
のメムバーのD.O.、それに2012年6月紹介『Green Days』
などのパク・シネ。公開は5月19日より、東京はTOHOシネマ
ズ新宿他で全国順次ロードショウ。)
『おじいちゃんはデブゴン』“我的特工爺爺”
(香港映画界の重鎮サモ・ハンが、自ら20年ぶりの監督とア
クション監督・主演で発表したカンフーアクション作品。サ
モ・ハンが演じるのは元人民解放軍で要人警護に当たってい
た武道の達人。その退役後は故郷のロシア国境近くの寒村で
暮らしているが、最近は痴呆も始まっているようだ。そんな
彼の心の支えは隣家に住む幼い少女だったが、ギャンブル狂
の父親が地元の悪と関わり、さらにロシアマフィアも関係す
る事件に発展してしまう。そして少女が危機に陥り…。共演
に製作も兼ね主題歌も歌っているアンディ・ラウと、香港の
名子役とされるジャクリーン・チャン。他にユン・ピョウ、
ツイ・ハークらがゲスト出演。公開は5月27日より、東京は
新宿武蔵野館他で全国順次ロードショウ。)
『ターシャ・チューダー静かな水の物語』
(2008年92歳で他界したアメリカの絵本作家の生誕100周年
を記念して製作されたドキュメンタリー。2005年にNHKで
放送された番組を基に、現在の遺族の様子などが追加されて
いる。番組の企画はガーデニングの紹介だったそうで、東部
ヴァーモント州の作家の自宅とその庭が紹介される。そこで
は四季の花が咲き、さらにリンゴの収穫やその果汁からロウ
ソクを作る様子なども紹介される。正に自然の中に生きてい
る感じで、スローライフなどいろいろな言葉が思い浮かんで
くる。それは都会に住む者にとっては憧れとも言える暮らし
方だ。何しろ心が温かく穏やかになる。そんな感じのしてく
る作品だ。公開は4月15日より、東京は角川シネマ有楽町他
で全国ロードショウ。)
『バーニング・オーシャン』“Deepwater Horizon”
(2010年にメキシコ湾の石油掘削基地で起きた史上最大規模
の原油流出事故。その核心に迫る実録ドラマ。その現場は南
部ルイジアナ州の沖合。陸からは高速ヘリでも30分近くかか
る海上。その時の基地は油層到達までの最後の正念場に来て
いた。しかし機器に様々な不具合が発生。ところが遅延して
いる工期にその修理や検査もままならなかった。そして危険
を承知で行った掘削が事故を招く。映画の後半では事故の犠
牲になった作業員11人の氏名が呼び上げられ、実録物の重み
も感じさせる。監督は2012年4月紹介『バトルシップ』など
のピーター・バーグ。主演にマーク・ウォールバーグ。共演
はカート・ラッセル、ジョン・マルコヴィッチ。公開は4月
21日より、全国ロードショウ。)
『Don't Blink ロバート・フランクの写した時代』
            “Don't Blink - Robert Frank”
(現在も世界50都市を巡回中の展示会で、昨年11月開催の東
京では2週間で2万人の来場を記録した1924年生まれ写真家
の業績を描いたドキュメンタリー。1958年に彼を一躍有名に
した写真集“Les Americans”の制作の経緯や、その1点に
55万ドルの値が付いたオークションの様子。さらに彼自身の
制作による映画の抜粋など。正に写真家の業績が描かれてい
る。また作品には写真家の知己とされる様々な著名人の証言
も挿入され、著名ミュージシャンの楽曲も提供されている。
因に作品はインタヴュー嫌いとされる写真家が、初めて自ら
の生涯を語ったとされるもので、それ自体も貴重なもののよ
うだ。公開は4月29日より、東京は渋谷Bunkamura ル・シネ
マ他で全国順次ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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