井口健二のOn the Production
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2017年02月26日(日) 美しい星、ろくでなし、キングコング髑髏島の巨神

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『美しい星』
原作は1970年11月に壮絶な死を遂げた作家・三島由紀夫が、
1962年に雑誌連載で発表した長編小説。その映画化に2012年
日本アカデミー賞優秀監督賞を受賞した吉田大八監督が挑戦
した。
登場するのは、夫妻とフリーターの息子に大学生の娘の4人
家族の一家。夫は気象予報士でニュース番組に出演して人気
もあるようだ。その夫が不倫後の帰路で車ごと光に包まれ、
気付くと郊外の田圃で空から落下したような車内にいた。
一方、バイク便で都内を疾走する息子は乗用車と事故りそう
になり、猛然と追跡した息子はその車に乗っていた国会議員
の秘書から事務所を訪ねるように誘われる。さらに高揚した
気分でプラネタリウムに行った彼はある体験をする。
そして娘は、美しい容姿で大学では浮いた雰囲気だが、ある
日、帰り道で聞いた路上ライヴに心を惹かれ、「金星」と題
されたその歌のCDを購入する。さらにその歌に誘われるよ
うに金沢を訪れ、海岸で空飛ぶ円盤に遭遇する。
こうしてそれぞれが火星人、水星人、金星人に覚醒した家族
は、それぞれの使命を果たすべく行動を開始するが…。

出演は、2016年9月題名紹介『お父さんと伊藤さん』などの
リリー・フランキー、2013年4月紹介『俺俺』などの亀梨和
也、2015年11月1日「東京国際映画祭」紹介『残穢』などの
橋本愛、2013年12月紹介『小さいおうち』などの中嶋朋子。
他に佐々木蔵之介らが脇を固めている。
脚本も手掛けた吉田監督は、30余年前に原作を読んで以来、
自らの手で映画化することが夢だったそうだ。だがそれは、
それ以前に大島渚監督らも抱きながら実現しなかったもの。
そのチャンスが巡ってきた。
しかし原作発表から55年が過ぎ、もちろん原作当時の時代設
定のままでの映画化も可能ではあったが、それでは足りない
と監督は考える。そこで時代を現代に移し替える大胆な脚色
が施されたが、その作業は容易ではなかった。
実際監督は、三島が現代に生きていたらどう描くかを念頭に
脚色したと言っているが、正直に言って僕は、三島だったら
こうは描かなかったと考える。しかし本作は三島の思想を活
かしつつ、見事に映画として成立させているものだ。
これこそが文字通りの「換骨奪胎」と言える作品だろう。そ
の他、様々な微妙な点もクリアしながら、エンターテインメ
ントとして成功させている。また敢えて3/11=福島原発に
踏み込まなかった点も評価したいところだ。
これなら原作の読者も納得させられる映画化だと思える。

公開5月26日より、全国ロードショウとなる。

『ろくでなし』
2016年6月紹介『クズとブスとゲス』の奥田庸介脚本・監督
による新作。
登場するのは地方から上京して来た男と、都会の裏社会で生
き抜いてきた男。そんな2人の男が渋谷のクラブで出会い、
同じクラブで働く女性を巡って様々な裏社会の出来事に遭遇
する。
上京してきた男はめっぽう喧嘩が強く、もう1人の男は裏社
会での身のこなし方を心得ている。そんな男たちが裏社会に
落ちてしまった姉妹と共に都会の裏社会を生き抜いて行く。
そこには犯罪も絡むが、それなりの決着にはなる。
2016年作と同様のかなりやばい裏社会の状況を描いた作品だ
が、監督は何処かで人間を信頼しているのかな。本作もそん
な微かに感じられる温かさが観客にも心地良さを与えてくれ
る。そんな作品になっている。

出演は、2016年1月紹介『華魂 幻影』などの大西信満と、
『クズと…』にも出演の渋川清彦、それにベテランの大和田
獏。さらにオーディションで選ばれた遠藤祐美と上原実矩、
2015年の東京国際映画祭で上映された『ケンとカズ』でカズ
を演じていた毎熊克哉。
僕にとって渋谷は、今でも試写会などで行くことが多いが、
小学生の頃に初めてロードショウの映画を観た場所であり、
学生時代には仲間のたまり場もあって、それなりの青春を過
ごした場所でもある。
従って多少の土地勘はあるが、そんな場所に今も残る昭和の
雰囲気と、一方でヒカリエ前に移設中の銀座線渋谷駅の風景
など、見事に時代が交錯する。それは新鮮でもあり、渋谷の
実像でもあるものだ。
そんな見事に渋谷が捉えられている作品とも言えそうだが、
実は監督自身のシナリオの初稿では多少違っていたそうで、
そのリライトをした山本政志(海外でも活躍する映画監督)
にも拍手を贈りたい。
因に本作は、山本監督が主宰するシネマ☆インパクトという
ワークショップに奥田監督が講師として招かれ、その一環で
製作が進められたもの。同ワークショップからはすでに多く
の作品が生まれているようだ。
東京の裏社会というと、とかく新宿歌舞伎町が舞台になりが
ちだが、それとは一味違う「渋谷」がここに描かれている。
その雰囲気も面白かった。池袋・新宿・渋谷にはそれぞれ違
う風景があるようだ。

公開は4月15日より、東京は渋谷ユーロスペース、新宿K's
cinema他にて、全国順次ロードショウとなる。

『キングコング髑髏島の巨神』“Kong: Skull Island”
1933年製作のオリジナル以来、すでに1976年、2005年とリメ
イクもされた『キングコング』。その生誕の島を舞台にした
作品。
開幕は太平洋戦争の末期、空中戦をしていた日米の戦闘機が
相次いで墜落し、パラシュートで降下した2人の兵士は地上
でも闘いを続けようとする。そんな2人の背後に巨大生物が
現れる。
時代は下ってベトナム戦争も終わりの頃。一つの情報が気象
衛星からもたらされる。それは南太平洋に一年中嵐に閉ざさ
れた孤島があるというもの。そこに眠る資源を求めて研究者
が派遣される。
そしてベトナムからその研究者の警護に当たることになった
部隊と共に、嵐をものともしない軍用ヘリコプターで一行は
その島に到着する。ところが研究者の調査を始めると、突如
ヘリ部隊が巨大生物に襲われ、壊滅状態となる。
しかも嵐の影響か無線も通じない状況の中で、研究者たちは
島の反対側にある帰還のための集合地点を目指すことになる
が…。その一行を様々な巨大生物が襲い始める。一方、部下
を殺された部隊長は復讐に燃えていた。

出演は、2016年5月紹介『ハイ・ライズ』などのトム・ヒド
ルストン、2016年の『ルーム』でオスカー受賞のブリー・ラ
ースン。さらにサミュエル・L・ジャクスン、ジョン・グッ
ドマン、ジョン・C・ライリー。
また、前回紹介『グレート・ウォール』などの中国人女優ジ
ン・ティエンと、同じく前回紹介『無限の住人』では主題歌
を提供していたロックアーティストのMIYAVIが本作で
は俳優としてスクリーンに登場している。
実は1933年のオリジナルには同年制作された続編があって、
“Son of Kong”(邦題『コングの復讐』)と題されたその
作品では、再び島を訪れた冒険家たちが様々な冒険に遭遇す
る様子が描かれていた。
つまり本作は、その続編を巧みにリメイクしたと言えるもの
で、その部分から僕は嬉しくなっていた。因に1986年製作の
『キングコング2』は、墜落したコングが人工心臓で復活す
るというとんでもない展開にがっかりしたものだ。
そんな訳で僕は1933年版の続編の結末を想像しながら観てい
たのだが、それとは違う本作の結末にはさらに驚きが待って
いた。それは確かに本作の前に物語があったとは誰も言って
いなかったが…。
恐らく本作の公開前にはあらかたの情報は出てしまうのかも
しれないが、本作のエンディングロールでは絶対に席を立た
ないように。何も情報を入れずに観ていた僕は、エンディン
グロール後の展開に心底驚かされたものだ。
それともう1点、本作の中では地球空洞説が言及されるが、
それは物理的にはペルシダー型では成立しないもの。しかし
その点も踏まえて考えられているとしたら、これはとんでも
ない展開があり得そうだ。
続編が待ち遠しくなる。

公開は3月25日より、2D/3D、IMAX−3Dにて全国
ロードショウとなる。

この週は他に
『わすれな草』“Vergiss mein nicht”
(認知症を患った女性の姿を息子であるドキュメンタリー監
督が取材したドイツの作品。以前に同様のフランスの作品も
観ているが、自分の親が同じ境遇になっていると日本と海外
の格差も気になってくる。正直、どちらも子供がこれをでき
る環境だということが、日本と違うとも思ってしまうところ
だ。だから作品は微笑ましくもあるのだけれど、自分の現実
と重ねて後ろめたさというか、日本ではこうはいかないとい
う感じも持ってしまった。その一方で被写体の女性の壮絶な
過去には驚かされもしたもので、個人的にはそちらの事情を
もっとちゃんと見たい感じもした。それこそ時代の生き証人
のような作品になったと思うのだが。公開は4月15日より、
東京は渋谷ユーロスペース他で全国順次ロードショウ。)
『T2 トレインスポッティング』“T2 Trainspotting”
(1996年に公開されて、世界中に旋風を巻き起こした物語の
20年後を、同じ監督、同じ配役で描いた作品。実はオリジナ
ルの作品は、当時の若者文化を描いたという点で理解はする
が、特に結末などは釈然としない感じで、個人的にはあまり
好みではなかった印象がある。そんな気分で観に行ったが、
今回は描く視線が自分に近づいたようで、これは違和感なく
観ることができた。しかもそれをダニー・ボイル監督、主演
のユアン・マクレガーを始め、キャストも同じメムバーで描
いているのだからこれは凄い。さらに記憶が定かでない部分
もフラッシュバックなどで補ってくれるから実に判り易く、
当時は釈然としなかった部分も今回了解できた感じがした。
公開は4月8日より、全国ロードショウ。)
『破裏拳ポリマー』
(1974−75年に放送されたタツノコプロ制作テレビアニメの
実写映画化。物語の背景は、警視庁が密かに開発した対人用
の攻撃防御スーツ。それはヘルメット形状で、装着してキー
ワードを発すると全身を覆うスーツとなる。そして主人公は
スーツの開発者である父親に反発して家を飛び出したが、父
親の死去で、唯一キーワードが音声認識される者として呼び
戻される。こうして主人公は反発を感じながらスーツ装着者
となるが…。主演はアクション映画初出演という溝端淳平。
他に「海賊戦隊ゴーカイジャー」の山田裕貴、原幹恵、グラ
ビアアイドルの柳ゆり菜、長谷川初範らが脇を固めている。
監督は『劇場版仮面ライダー』などで多数のアクション監督
を務めてきた坂本浩一。溝端の見事なアクションは監督の手
腕が大きそうだ。公開は5月13日より全国ロードショウ。)
『残像』“Powidoki”
(昨年10月9日に急逝したアンジェイ・ワイダ監督の最後の
作品。内容は共産主義政権下で迫害された画家を描いた実話
に基づくとされるもので、こんなことが実際に行われたとい
うことには震撼とさせられる。それはワイダ監督本人も国内
上映禁止などの迫害を受けていたもので、そんな自身の体験
も踏まえて描かれているのだろう。ただ共産主義がヨーロッ
パではほぼ壊滅した状況で、何をいまさらという感じもしな
いでもないが、この様な迫害は共産主義に限られたものでな
く、民衆に支持された独裁者はいつでも同様の強権を発動す
る恐れがある。そんなことをワイダ監督は言いたかったのか
もしれない。公開は6月10日より、東京は岩波ホール他で、
全国順次ロードショウ。)
『ママは日本へ嫁に行っちゃダメと言うけれど』
(日台、特に台湾でベストセラーになったという日本人男性
と台湾人女性による共著の映画化。東日本大震災に遭遇した
日本人男性が、災害を案じるメッセージを寄せた台湾人女性
とFacebookを通じて知り合う。そこに多少の偶然も重なって
交際は深まって行くが…。原作はFacebookの交信記録のよう
で、それに2人のデートの様子などが写真で挿入されていた
ようだ。それは写真を見るだけでもかなり愛らしいもので、
成程これで読者も増えたのだろうと想像される。その辺を映
画は巧みに再現しており、デートスポットの紹介作品として
も評価できそうだ。ただ最初に震災を写していながら、以後
その話が全く出ないのは少し気になったが。公開は初夏に、
東京は新宿シネマカリテ他で、全国順次ロードショウ。)
『日々と雲行き』“Giorni e nuvole”
(Viva! イタリア vol.3として上映される3作品の1本で、
本国ではダビッド・ディ・ドナテッロ賞にて、主演女優賞、
助演女優賞など受賞した2008年の作品。登場するのは豪邸で
仲睦まじく暮らす中年の夫妻と20歳の娘の一家。妻は長年の
夢だった学位を取るためフレスコ画の修復に参加している。
その業績が上がり始めた頃、夫の失職が判明する。その日か
ら家族の繋がりに亀裂が入り始めるが…。自分が同様の境遇
だったから主人公の気持ちも判らないではないのだが…。な
お娘役のアルバ・ロルヴァケルは、その後にドナテッロ賞の
主演賞やヴェネツィア映画祭の主演賞にも輝き、国際女優に
成長している。公開は5月27日より、東京はヒューマントラ
ストシネマ有楽町他で、全国順次ロードショウ。)
『トトとふたりの姉』“Toto si surorile lui”
(ルーマニアのアカデミー賞とされるGOPO賞で最優秀ドキュ
メンタリー映画賞に輝いた2014年の作品。登場するのは題名
通りの3姉弟。父親はおらず、母親は麻薬売買の罪で刑務所
に服役中、トトは10歳、姉は14歳と17歳という幼い一家だ。
そんな姉弟は叔父名義のアパートで暮らしているが、その部
屋にはヤク中の連中が屯し、17歳の姉も麻薬から離れられな
くなっている。そしてある日、14歳の姉とトトはそんな境遇
から抜け出すために施設に入ることを決意する。ルーマニア
の麻薬は共産党政権下で蔓延ったものだが、国を挙げての状
況ではこんな現実も存在してしまうのだろう。ただ震撼とし
てしまう、そんな感じの作品だった。公開は5月より、東京
はポレポレ東中野他で、全国順次ロードショウ。)
『LION ライオン 25年目のただいま』“Lion”
(今年のアメリカアカデミー賞にも関ったインドとオースト
ラリアが舞台の実話に基づくとされる作品。インドの貧しい
村で暮らしていた幼い少年が回送列車に閉じ込められ、よう
やく下車できたのは言葉も通じない場所だった。そこで保護
された少年は身元も判らないままオーストラリアの夫妻に里
子に出される。そして成長した少年は、Google Earthで故郷
を見つけ出した。同じ国内で言葉が通じないインドと世界を
包括するインターネット。何とも言えない今だからこそ有り
得る物語だ。出演は、2009年1月紹介『スラムドッグ$ミリ
オネア』などのデヴ・パテルと少年時代を演じたサニー・パ
ワール。共演にニコール・キッドマン、ルーニー・マーラ。
公開は4月7日より、全国ロードショウ。)
『トンネル 闇に鎖(とざ)された男』“터널”
(突然のトンネル崩壊、その中に閉じ込められた男性を巡る
韓国作品。トンネルに閉じ込められるということでは、日本
映画でも2008年9月紹介『252生存者あり』があったが、
日本の作品が救助隊の行動などを克明に追うのに対して、韓
国は少し視点が異なるようだ。そこには政府の高官なども登
場して、かなりいやらしい人間模様となる。大体トンネル崩
壊の原因からして、今の韓国の状況を擬えるような展開で、
そこから日本映画とは違う雰囲気となる。しかも監督がほと
んどためを作らない演出をするから、その印象も強くなる。
これが日韓映画の違いという感じもする作品だ。出演はハ・
ジョンウ、ペ・ドゥナ、オ・ダルス。公開は5月13日より、
東京はシネマート新宿他で全国順次ロードショウ。)
『WE ARE X』“We Are X”
(昨年の紅白歌合戦で『シン・ゴジラ』と共演した日本を代
表するロックバンドX Japanの軌跡を、先にローリング・ス
トーンズのドキュメンタリーも手掛けたアメリカ人の監督が
追った作品。リーダー Yoshikiを語り部として、かつてのメ
ムバーの死や洗脳の事実などが赤裸々に描かれる。実は監督
のスティーヴン・キジャックは本作に関るまでバンドのこと
は知らなかったそうだが、そんな偏見のない目がバンドの歴
史を見事に描き出した。それにしても、Yoshikiが語る経緯
は壮絶とも言えるもので、こんなものを背負って活動を続け
る姿にはただ畏敬の念しか抱けなかった。またHideの死に関
して、明確に事故という認識を示してくれたことも嬉しいも
のだった。公開は3月3日より、全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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