井口健二のOn the Production
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2017年02月19日(日) グレート・ウォール、無限の住人

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『グレート・ウォール』“The Great Wall”
2011年5月紹介『サンザシの樹の下で』などのチャン・イー
モウ監督が初めてハリウッドに進出し、主演にマット・デイ
モンを迎えた米中合作のVFXアクション大作。
物語は「万里の長城」で数多語られる伝説の1つに基づくと
される。
時代背景は、まだ黒色火薬が欧州に伝来していない頃。その
秘密を狙って2人のイギリス人が国境地帯へとやって来る。
ところがそこで何者かに襲われ、その敵から切り落とした腕
を抱えて向った先には長城が立ちはだかっていた。
その長城の守備隊に捕えられた2人だったが、やがて長城が
設けられた恐怖の訳を知ることになる。それは60年ごとに北
方から押し寄せる異形の群れを阻むためのもの。そのための
多彩な防御手段も長城に設けられてはいたが…。
そこで主人公の持ち込んだ腕がその異形の物と判り、さらに
その攻撃力を削ぐ手段も判り始める。こうして2人は守備隊
と共に異形の群れに立ち向かうことになる。だがそこには彼
らの他にも黒色火薬の秘密を狙う者がいた。

共演はウィレム・デフォーと、テレビ『ゲーム・オブ・スロ
ーンズ』で人気を博したチリ出身のペドロ・パスカル。それ
に中国側から2014年3月紹介『ポリス・ストーリー/レジェ
ンド』などのジン・ティエン。
さらにアンディ・ラウ、ロック歌手でもあるルハン、2008年
10月紹介『戦場のレクイエム』などのチャン・ハンユーらが
脇を固めている。
テイスト的には『LOTR』なのかな。異形の群れの来襲に
人類がいろいろな仕掛けで対抗する。それは中国映画特有の
アクションにも彩られたもので、そこにVFXが絡んで壮絶
な戦いが描き出されている。
『サンザシの樹の下で』の紹介ではイーモウ監督が武侠作品
を撮ることに懸念を書いたつもりだが。実は2003年5月紹介
『HERO』の来日記者会見では、「この種の武侠物語に子
供のころから親しんできた」とも語っていたもので、監督自
身は喜んで撮っている印象だった。
ましてや本作は監督のハリウッド初進出作となったもので、
それが迎合ではなく自身の好きなものを思い切り撮れたとし
たら、これも素晴らしいと言えるものだ。それに人類が繰り
出すいろいろな仕掛けも、アイデアたっぷりで面白かった。
それにしても「万里の長城」にこんな伝説があったとは…。

公開は4月14日より、3D/2D,IMAX−3D、MAX
4D、4DXで全国ロードショウとなる。

『無限の住人』
漫画家・沙村広明が「月刊アフタヌーン」に1993年6月から
2012年12月まで連載した長編コミックスを、2016年3月紹介
『テラフォーマーズ』などの三池崇史監督が、木村拓哉を主
演に招いて映画化した作品。
背景は江戸時代。1人の武士が集団に囲まれ、目の前で妹を
惨殺された上、自らも深手を負わされる。ところがそこに現
れた尼僧が「血仙蟲」と呼ばれる寄生虫を体内に押し込み、
その力で武士は不死身の身体となる。
そして50年後、今も変わらぬ姿の武士の許に1人の若い女性
がやって来る。彼女は道場主の娘だったが両親を剣客集団に
殺され、その仇討ちを遂げるまでの用心棒を不死身の男に頼
みに来たのだ。
その依頼に最初は面倒くさがる主人公だったが、やがて一途
な女性の姿に亡くした妹を思い出し、その仕事を引き受ける
ことになる。しかしそれは壮絶な戦いの場に彼を引き摺り込
むものだった。
実は彼女の両親を襲った剣客集団というのが、公儀によって
武術の統一を図ろうとするものであり、既にほとんどの道場
は取り潰しとなっていた。しかしその在り方を巡る戦いが起
き、それに主人公らも巻き込まれて行くのだ。

共演は、2016年2月紹介『スキャナー』などの杉咲花、『仮
面ライダーフォーゼ』の福士蒼汰、2016年11月20日題名紹介
『RANMARU 神の舌を持つ男』などの市原隼人、2016年9月紹
介『デスノート』などの戸田恵梨香。
他に北村一輝、栗山千明、満島真之介、金子賢、山本陽子、
市川海老蔵、田中泯、山崎努らが脇を固めている。また本作
の主題歌を、2013年に世界デビューを果たしたロックアーチ
ストのMIYAVIが担当している。
木村の剣術は、以前にヴァラエティ番組で剣道を披露してい
るのを見たことがあるが、中学生まで道場に通っていたとの
ことで、段持ちではないものの相当の実力はあるようだ。
しかし本作では、元々が不死身という設定を描くためには切
られなくてはならない訳で、しかも劇中でも長年争いを避け
てきたというような台詞もあり、その辺がギャグっぽい部分
も含めて巧みに描かれていた。
とは言うものの宣伝コピーにもある1人vs.300人という剣戟
では、これはかなり壮絶に切りまくり、中々迫力のある映像
が作られていた。この他、福士、市原、戸田の剣戟シーンも
見事だった。
因にこれらのシーンでは、原作に描かれた通りの奇怪な刀剣
の数々がそれぞれ相応のアクションで描かれている。それに
してもこれらの剣戟シーンは、切った数ではギネス級ではな
いのかな?
なお本作に関しては完成報告の記者会見も行われたが、その
中で三池監督は、「(映画祭等への対応を訊かれ)映画祭を
考えながらではこの作品は出来ない。そのようなことは一切
考慮せずに作り上げた。」と決意を語っていたものだ。

公開は4月29日より、全国ロードショウとなる。

この週は他に
『oasis FUJI ROCK FESTIVAL '09』
(2016年12月4日題名紹介『oasis: supersonic』のロック
バンドが、事実上の解散する約1か月前に日本で行った野外
ライヴの模様を撮影した作品。実は最近までこのヴィデオの
存在すら知られていなかったということで、どの程度の作品
かも心配しながら観に行ったものだが、何と撮影カメラは少
なくとも6台、全てHDでの撮影でこれは完全に公開を意識
しての作品だった。それが何故に存在すら不明だったのかも
ミステリーだが、撮影されているのは土砂降りの中という悪
条件でありながら、見事にライヴの全てが完璧に収められた
もの。これは彼らのファンならずとも刮目して観るべき作品
だ。公開は3月4日より、東京は新宿ピカデリー他にて期間
限定のロードショウ。)
『ピーチガール』
(すでに台湾でのドラマ化や日本ではアニメ化もされている
上田美和原作による人気コミックスの実写映画化。純粋で真
面目な性格だが外見がギャル風で誤解されやすい女子の主人
公の心が、幼馴染と彼女の窮地を救ってくれた学校一のモテ
男との間で揺れ動き、さらに彼女の好きなものは何でも横取
りしたい同級生との間で確執を生む。「5分に1回事件が起
きるラヴコメ」という宣伝コピーで、確かに巻頭からのテン
ションは凄い作品だ。出演は山本美月と「Hey! Say! JUMP」
の伊野尾慧。伊野尾は映画初出演で初主演。それに真剣佑、
永野芽郁が共演。監督は助監督出身で本作が長編デビューの
神徳幸治。現場出身らしい手堅い作品になっている。公開は
5月20日より、全国ロードショウ。)
『ドッグ・イート・ドッグ』“Dog Eat Dog”
(1985年『暴走機関車』の脚本でも知られるエドワード・バ
ンカーの原作を、1976年『タクシー・ドライバー』などの脚
本家ポール・シュレイダーの脚色・監督で映画化した作品。
刑務所から出所した男が、刑務所仲間の男たちと一緒に大金
の稼げる仕事を請け負う。しかし簡単に見えた仕事は次々に
齟齬をきたし、遂にはにっちもさっちも行かなくなってしま
う。出演はニコラス・ケイジとウィレム・デフォー。ちょっ
としたことからあっという間に事態が崩壊する。単に男たち
がバカなのか、それともこれがアメリカの直面している現実
なのか。何ともやるせない気持ちだけが残る作品だ。公開は
6月、東京はヒューマントラストシネマ渋谷他で、全国順次
ロードショウ。)
『PARKS』
(東京吉祥寺の井の頭公園を背景に、祖父の遺品にあった写
真の主を探す物語。それは祖父たちの青春時代を知ることに
もなるが、そこにオープンリールに残された祖父の作った歌
が登場する。しかしその録音は途切れていた…。出演は橋本
愛、永野芽郁、染谷将太、石橋静河、森岡龍。さらに佐野史
郎、麻田浩など、吉祥寺や音楽に所縁の顔触れが登場する。
脚本と監督は2010年10月紹介『嘘つきみーくんと壊れたまー
ちゃん』などの瀬田なつき。正直に言って2010年の作品は僕
的には厳しいものだったが、本作でも何処かが物足りない。
それは例えば音楽の完成に達成感が得られないなどにあると
思うが、やはり脚本の詰めが甘いのかな。公開は4月22日よ
り、東京はテアトル新宿他で全国順次ロードショウ。)
『たたら侍』
(2016年9月11日題名紹介の作品で、実は一般公開に向けて
少し編集が変えられたものだが、情報的には同じなので前回
の記事を参照していただきたい。)
『バッド・バディ!私とカレの暗殺デート』“Mr. Right”
(2013年8月紹介『ランナウェイ/逃亡者』などのアナ・ケ
ンドリックと、2010年1月紹介『月に囚われた男』などのサ
ム・ロックウェルの共演で、2013年8月紹介『クロニクル』
などのマックス・ランディスの脚本を映画化した作品。願望
は強いが男運に恵まれない女子が、ふと出会った暗殺者の男
に隠されていた能力を開花される。ランディスの脚本では前
作の『エージェント・ウルトラ』はちょっとやり過ぎかな?
という感じもしたが、本作は父親譲りの巧みなコメディに仕
上がっていた。ケンドリックのアクションもまずまずだし、
ティム・ロス、2013年4月紹介『アイアン・フィスト』など
のRZAらの脇役も良かった。公開は5月12日より、東京は
新宿シネマカリテ他で全国順次ロードショウ。)
『TAP THE LAST SHOW』
(2016年12月25日題名紹介『相棒』などの水谷豊が、40年以
上温めてきた企画を、自らの監督、主演で映画化した作品。
公演中の事故で栄光の座を去ったタップダンサーが、ダンス
場の閉館を前に最後の舞台を作り上げる。しかしその舞台は
若手ダンサーたちに極限の技術を要求するものだった。共演
は北乃きい、岸部一徳、六平直政、前田美波里。他に清水夏
生、西川大貴、HAMACHIらミュージカルやタップのプロが出
演している。因に清水とHAMACHIは2003年『座頭市』で下駄
タップを演じたメムバーのようだ。タップダンスは、観てい
るだけでも興奮するものだが、本作ではその舞台裏から巧み
に描かれ、エンディングロールまで堪能できる。公開は6月
17日より、全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二