井口健二のOn the Production
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2017年02月12日(日) サクラダリセット前編/後編、バーフバリ伝説誕生、ジャッキー ファーストレディ 最後の使命

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『サクラダリセット前編』
『サクラダリセット後編』
2009年にスタートした河野裕原作シリーズの映画化。SFの
範疇に入るこの作品の脚色・監督に、2010年10月紹介『白夜
行』などの深川栄洋が挑んだ。
物語の舞台はとある地方都市。そこの高校に通う主人公と彼
のガールフレンドにはある超能力が備わっていた。それは少
女が「リセット」と唱えると過去のある時点にタイムスリッ
プするというもの。そして主人公にはその過去に遡った記憶
が残るというものだ。
これによって2人はコンビを組み、悲惨な出来事を修復する
ことができた。ただし彼女がリセットできるのは過去の3日
間までで、さらに1回リセットすると24時間はその能力が封
じられてしまう。そこで2人は3日ごとに時刻をセーブする
作業も行っていた。
そしてその町には他にも様々な超能力を持つ者がいたが、実
はその超能力は街の中だけで発揮されるもので、町を離れる
と失われてしまう。そのため主人公は親元を離れてその町に
1人で暮らしていた。しかも彼らの行動のすべてはある組織
に管理されていた。
という背景で、別の手段を用いて彼女より遠い過去まで遡る
ことのできる能力を持っていた老人が、その能力を奪われた
ことから事件が始まる。果たしてその背後に潜むものは…?
そこに個人の未来を透視することのできる能力ゆえに組織に
軟禁されている女性などが絡んで前編は語られて行く。

出演は、2014年3月紹介『パズル』などの野村周平、2016年
8月21日題名紹介『オケ老人』などの黒島結菜。さらに、平
佑奈、健太郎、玉城ティナ、加賀まりこ、及川光博らが脇を
固めている。
公開では2部作に分けられるが、試写会では前後編が連続で
上映された。そこで上に書いたのは前編の概要だが、これは
一般の観客にも判り易い、いわゆる超能力物といった感じの
作品になっている。
ところが後編では、彼らを管理する組織との対立という図式
が登場して、さらに発揮される超能力も通常とは少し異なる
ものになって、かなり複雑な展開となっている。これは案外
SFファン向けの作品と言えそうだ。
いろいろな超能力が顕在している世界ということでは2006年
にスタートしたアメリカのテレビシリーズ『HEROES』などに
も影響されているのかな? それが原作でも最終巻で高い評
価を得たようだから、そこはオリジナリティなのだろう。そ
の辺を深川監督も巧みに脚色したようだ。
因に監督は、2010年『半分の月がのぼる空』で評判になった
が、2008年7月紹介『真木栗の穴』のような作品も手掛けて
いるからファンタシー系の物語にも理解がありそうだ。

公開は前編が3月25日より、後編は5月13日より、2部作連
続での全国ロードショウとなる。

『バーフバリ伝説誕生』“బాహుబలి:ద బిగినింగ”
2013年7月紹介『マッキー』のS.S.ラージャマウリ脚本・
監督によるインドの伝承叙事詩からインスパイアされたとい
う歴史活劇。前作と同じくテグル語の作品だが、ヒンディー
語、タミル語への吹替え版も含めてヒンディー作品以外では
初の全インド第1位を記録したそうだ。
物語の開幕は大きな瀧の滝壷付近。その水飛沫の上がる中を
高貴な服装の女性が赤子を抱えて彷徨っている。その背後に
は追っ手が迫り、遂に女性は赤子と共に入水、しかし赤子は
彼女の手で水面高く掲げられていた。
こうして救われた赤子は麓の村で育てられるが、彼には瀧の
上の世界への強い憧れが消えなかった。そして成長した若者
は瀧の登頂に挑み続け、遂にその想いを達成する。そこには
暴君に反抗する民がおり、若者は彼らと共に行動する。
そこは50年前までは平和な王国だったが、先王の死後の家督
争いで本来の皇太子が殺され、その息子も行方不明となって
いた。そこに蛮族の侵入も重なって遂には横暴な支配者が国
民を戦いに駆り立てる国家になっていたのだ。
その戦いの渦中に飛び込んだ主人公だったが…。

出演は、ラージャマウリ監督とは2005年以来2度目の顔合わ
せというプラバース、俳優になる以前はVFXコーディネー
ターなども務めたというラーナー・ダッグバーティ、モデル
なども務めてインドのファッションアイコン的存在とされる
タマンナー。
他に2011年『神さまがくれた娘』などのアヌシュカ・シェッ
ティ、ラムヤ・クリシュナ、2016年『チャーリー Charlie』
などのナーサル、2014年『チェンナイ・エクスプレス』など
のサティヤラージらが共演している。
また全編を彩るVFXの制作にはILMや、2012年12月紹介
『ライフ・オブ・パイ』を手掛けたリズム&ヒューズなど、
世界5カ国16社から600人を超えるスタッフが結集したとの
ことだ。
そのVFXでは巻頭から圧倒されるような景観が登場して、
それは見事な映像になっている。ただし物語の展開が、主人
公にとっての現在と25年前と50年前とが交錯し、さらに主人
公と父親を同じ俳優が演じているのが多少ややこしい。
でもまあその辺は徐々に判ってはくるのだが…。実は本作は
2部作の前編で、その終り方もあまりに強烈なのだ。クリフ
ハンガーは連続ものでは常套手段ではあるが、まさかここで
終るとは…。
実際に2部作であることを知らずに観た人たちは唖然として
いたようだ。幸い僕は2部作を心得ていたが、それでもまさ
かここで終るとは思っていなかった。これは本当に後編が待
ち遠しくなる展開だ。

公開は4月8日より、東京は新宿ピカデリー、大阪はなんば
パークスシネマ他で全国順次ロードショウ。
因に後編はインドで4月公開予定となっている。


『ジャッキー ファーストレディ 最後の使命』“Jackie”
1963年11月22日日本時間32時30分に起きたケネディ、アメ
リカ大統領暗殺事件と、その後のジャクリーン・ケネディの
姿を追ったドラマ作品。
この日のことはよく覚えている。この日は、翌年に開催され
る東京オリンピックに向けての日米間初の衛星テレビ中継が
行われることになっており、僕は早朝からテレビを点けてそ
の画面を見ていたのだ。
そこに飛び込んできたのが大統領が狙撃されたらしいという
第1報だった。当時中学生だった僕にとって、史上最年少で
アメリカ大統領になったケネディは英雄であり、その英雄を
襲った悲劇に呆然としたものだ。
僕にはそんな思い出もある出来事だが、本作では僕の予想を
覆す真実が描かれる。それは当時のケネディが政治的な実績
もなく再選すら覚束ない状況で、ダラスでのパレードも人気
稼ぎだけのものだったということだ。
そして映画の中ではロバート・ケネディの台詞として「実績
と言えるのはキューバ危機の回避だけで、しかもそれはソ連
邦との対立を煽り、今思えばやるべきではなかった」とまで
言われてしまう。
確かにそれは、その後のヴェトナム戦争の泥沼にアメリカを
引き摺り込む原因になったともされているものだ。こうした
ジョン・Fの人気のなさの中でのジャッキーの採った行動が
描かれている。

出演は、本作でオスカー候補になっているナタリー・ポート
マン。他に、ピーター・サースガード、2016年11月27日題名
紹介『マギーズ・プラン 幸せのあとしまつ』などのグレタ
・ガーウィグ、2004年1月紹介『ビッグ・フィッシュ』など
のビリー・クラダップ、今年1月他界したジョン・ハートら
が脇を固めている。
監督は、2012年10月28日付「第25回東京国際映画祭」で紹
介『NO』などのパブロ・ラライン、脚本は2014年『メイズ
・ランナー』などのノア・オッペンハイム。製作はダーレン
・アロノフスキーが担当した。
ポートマンはアロノフスキーとの関係で出たのかな? 何て
思いながら観に行ったら、プロローグからそのそっくりぶり
にびっくり。特殊メイクの成果もあるが、見事に僕の記憶し
ているジャクリーヌ・ケネディの姿になっていた。
映画の中では、ジャクリーヌがホワイトハウスの内部を紹介
したテレビのアーカイブ映像なども登場するが、元々が当時
のテレビ画面で不鮮明なこともあり、どこまでが本物でどこ
からがポートマンなのか、全く区別できなかった。
その変身ぶりも含めて渾身の演技と言えそうだ。これを観る
だけでも価値のある作品となっている。それにジャクリーヌ
が果たした役割も見事に描かれていて正に裏面史だが、それ
以上に追及しないところも好感する作品だった。

公開3月31日より、東京はTOHOシネマズシャンテ他で、全国
ロードショウとなる。

この週は他に
『MY FIRST STORY DOCUMENTARY FILM 全心』
(結成から5年で日本武道館に駆け上ったロックバンドを、
その前に行った47都道府県全てでのライヴツアーから追った
ドキュメンタリー。と言う触れ込みで観に行った作品だが、
そこには見事な人間模様が描かれていた。それはヴォーカル
がのどのポリープに脅かされているなど有り勝ちなものから
始まるのだが…。実はそのヴォーカルがある芸能一家の一員
で、両親は離婚しているが共に著名な歌手、兄も著名ロック
バンドを率いている。それはファンには周知のことなのだろ
うが、その極めて特殊な環境で成長した若者の魂の叫びが見
事に表現されていた。そこには家族への思いなども織り込ま
れ、ファンならずとも感銘を受ける作品だった。公開は2月
17日より、2週間限定で全国ロードショウ。)
『ボヤージュ・オブ・タイム』
          “Voyage of Time: Life's Journey”
(2011年6月紹介『ツリー・オブ・ライフ』などのテレンス
・マリック監督が大宇宙の壮大な歩みを描いた新作。以前は
寡作と紹介した監督だったが、近年は創作意欲が増している
ようで、昨年に続いての新作となっている。ただし僕は昨年
の作品は試写を観ておらず、個人的には2011年6月紹介『天
国の日々』の再公開以来となる。しかも本作はドキュメンタ
リーに近いもので、それも内容が深遠だから、観客としては
かなり戸惑う作品だ。ただ僕にとしては『ツリー・オブ・ラ
イフ』の時に感じたのと同じ感覚に襲われたもので、これは
もはやテレンス・マリックはそのリメイクに向けて動くべき
ではないか…とも思った。公開は3月10日より、東京はTOHO
シネマズシャンテ他で全国ロードショウ。)
『光をくれた人』“The Light Between Oceans”
(世界中でベストセラーになったという原作小説を、2013年
4月紹介『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命』など
のデレク・シアンフランス監督が映画化した作品。第1次大
戦後の時代背景で、欧州戦線の死地から生還した男が孤独な
灯台守の職に就く。それは孤独な仕事だったが、やがて妻と
なる女性も現れる。しかしそれが悲劇を生んで行く。出演は
2012年7月紹介『プロメテウス』などのマイクル・ファスベ
ンダー、2015年8月紹介『コードネームU.N.C.L.E.』などの
アリシア・ヴィキャンデル、2012年8月紹介『ボーン・レガ
シー』などのレイチェル・ワイズ。正に究極の人間ドラマと
も言える作品だ。公開は3月31日より、東京はTOHOシネマズ
シャンテ他で全国ロードショウ。)
『フリー・ファイヤー』“Free Fire”
(2016年5月紹介『ハイ・ライズ』などのエイミー・ジャン
プ(脚本)とベン・ウィートリー(監督)のコンビが再び放
つ狂気の世界。舞台背景は1978年ボストン。アイルランド系
のギャング一味が銃器の購入で男と接触する。ところがその
男は別のギャング団の一員で、突如銃撃戦が始まる。傘工場
とされる大きな空間の中で熾烈な銃撃戦が展開されるという
お話だが、何と言うか正に狂気の産物という感じで、これが
この脚本家、監督コンビの真骨頂なのだろう。出演はブリー
・ラースン、シャールト・コプリー、キリアン・マーフィ、
アーミー・ハマー、ジャック・レイナー、サム・ライリー。
製作総指揮をマーティン・スコセッシが務めている作品だ。
公開は4月29日より全国ロードショウ。)
『ねこあつめの家』
(スマートフォンのゲームアプリをドラマ化、実写映画化し
た作品。主人公はスランプに陥った作家。筆が進まない彼は
とある田舎町に引っ越す。そこでもスランプは変わらなかっ
たが、ふと庭先に現れたねこに興味を持ち始め、そこから生
活が変わりだす。出演は伊藤淳史、忽那汐里。他に田口トモ
ロヲ、木村多江、大久保佳代子らが脇を固めている。監督は
2013年12月紹介『ゲームセンターCX THE MOVIE』などの
蔵方政俊が担当した。お話し自体はどうということもないも
のだし、そこに捻りなどもないものだが、とにかく猫のかわ
いらしさは描けている。猫好きには堪らない作品と言えそう
だ。公開は4月8日より、東京は新宿武蔵野館他で全国ロー
ドショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。
なお、今週はもう1本の完成披露試写が行われたが、情報解
禁が後日なので、紹介はそれ以降にさせて貰う。


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井口健二