井口健二のOn the Production
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2017年01月22日(日) 3月のライオン前編/後編

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『3月のライオン前編』
『3月のライオン後編』
2006年5月紹介『ハチミツとクローバー』などの羽海野チカ
原作による人気コミックスの実写映画化。
主人公は中学生でプロ棋士になったという若者。幼い頃に家
族を交通事故で失い、父親の親友だったプロ棋士の許で育て
られた。しかし高校生になった現在は、ある事情から下町で
1人暮らしをしている。
そんな彼は高校に通ってはいるが学校では昼食も屋上で1人
で食べるなど浮いた存在だ。しかし主人公には彼の存在を理
解して話し掛けてくれる教師もいた。そして放課後は棋士会
館でタイトルを目指す戦いが続いている。
ところがある日の対局で、育ての親に勝ってしまった彼は嫌
悪感に陥り、飲めないアルコールを口にしてしまう。そのた
め路上に倒れていた彼を救ったのは、働きながら隣町で幼い
2人の妹と暮らす女性だった。
そして翌朝、その女性の家で目を覚ました主人公は、初めて
家族の温かさを知ることになる。そんなプロ棋士の若者と、
周囲の人々との生活が描かれて行く。

出演は、神木隆之介、有村架純、倉科カナ。その脇を佐々木
蔵之介、加瀬亮、前田吟、斉木しげる、伊藤英明、豊川悦司
らの錚々たる顔ぶれが固めている。
監督は、2012年6月紹介『るろうに剣心』などの大友啓史。
脚本は大友監督と、2006年10月紹介『TANNKA』を阿木
燿子と共に脚色した岩下悠子、それに2013年に『かしこい狗
は、吠えずに笑う』という作品を脚本、監督した渡部亮平が
共同で執筆した。
表題の通り前後編2部作で公開される作品で、しかも前編の
上映時間が2時間18分、後編が2時間19分というかなり長大
な作品になっている。
それにプロ棋士が主人公の作品では、先に2016年10月16日に
題名紹介の『聖の青春』があったばかりで、いろいろ危惧は
感じていたものだ。そんな気持ちで観始めた前編は、正直に
言って『聖の青春』に被る所が多かった。
ところがそれが後編に入ると展開が一気に変わって、現代社
会に通じる極めてドラマティックな物語になっていた。そこ
には、苛めや核家族化など、正しく現代人が遭遇しているで
あろう現実的な内容が描かれていたのだ。
「事実は小説より奇なり」というのは使い古された言い回し
だが、実話に基づく『聖の青春』に対してフィクションであ
る本作は、作者の思うがままに見事なドラマが構築されてい
る。これこそがフィクションの醍醐味だろう。

公開は、前編が3月18日より、後編は4月22日より、2部作
連続の全国ロードショウとなる。

この週は他に
『話す犬を、放す』
(2012年1月紹介『桃まつり』の中で『最後のタンゴ』とい
う作品を取り上げた熊谷まどかの監督で、昨年のSKIPシティ
国際Dシネマ映画祭のオープニングを飾った作品。物語の背
景となるのはレビー小体型認知症という病気。この病はアル
ツハイマー型に次ぐ認知症の症例だが、その症状では幻視や
幻聴が現れるものだそうだ。そんな病に侵された母親と、演
劇に生きる娘の姿がユーモアを込めた温かい目で語られる。
出演はつみきみほと田島令子。ベテラン2人の演技は安心し
て観ていられるが、実は脚本も手掛けた監督の実母がこの病
だそうで、その近親者を見つめる目が、作品を豊かにしてい
る感じもした。公開は3月11日より、東京は有楽町スバル座
他で全国順次ロードショウ。)
『しゃぼん玉』
(宮崎県椎葉村、平家落人の末裔とされる人々の暮らす村を
舞台に、強盗傷害を繰り返して逃亡の果てに辿り着いた若者
の再生を描いた乃南アサ原作小説に映画化。開幕は衝撃的な
通り魔強盗の場面。しかし犯人の男は警察の目を掻い潜り、
逃走の果てに辿り着いた山間の村で、老婆の孫と間違われて
一緒に暮らすことになるが…。出演は林遣都、市原悦子と、
2016年9月紹介『デスノート』などの藤井美菜。脚本と監督
は助監督として多くの作品に関り、本作でデビューを飾った
東伸児。特異なシチュエーションだが、さすが直木賞作家の
原作という感じで違和感のない物語が展開される。主演の林
の変貌ぶりも見事だった。公開は3月、シネスイッチ銀座他
で全国ロードショウ。)
『ミス・サイゴン 25周年記念公演 in ロンドン』
    “Miss Saigon: 25th Anniversary Performance”
(日本でも人気を博したミュージカルの記念公演の舞台と、
その初演時のキャストが登場するフィナーレの模様を撮影し
た作品。物語は戦争末期のサイゴンを舞台に、欲望や打算の
渦巻く中で純粋に米兵を愛したベトナム人女性の悲劇が描か
れる。僕はオリジナルの舞台は観ていないが、2012年11月紹
介『ナンバーテン・ブルース』などが既視感を呼んだ。時代
をよく捉えた作品なのだろう。そしてSF映画ファンには、
初演時キャストで登場するジョナサン・プライスが嬉しい。
言うまでもなく1986年『未来世紀ブラジル』の主演が記憶に
残る俳優だが、その後に本作でミュージカルの初進出したそ
うで、その思い出話しも面白かった。公開は3月10日より、
東京はTOHOシネマズ日劇他で全国ロードショウ。)
『サラエヴォの銃声』“Smrt u Sarajevu”
(2016年12月紹介『汚れたミルク』のダニス・タノヴィチ監
督による2016年の作品。第1次世界大戦の切っ掛けとなった
1914年の皇太子暗殺事件。その100周年に上演された舞台劇
『ホテル・ヨーロッパ』を基に、事件を再検証しようとする
テレビクルーと、その撮影が行われているホテルで進む労組
のストライキ、さらにそれを阻止しようとする経営陣の姿が
多角的に描かれる。描かれる内容は現在の東欧の現実が反映
されているということだが、正直に言って経営陣の高圧的な
やり方には、これが現実なら何と恐ろしい国なのか思わせら
れる。でもまあその通りなのだろう。公開は3月25日より、
東京は新宿シネマカリテ他で、3月4日からの『汚れたミル
ク』に続けて全国順次ロードショウ。)
『モアナと伝説の海』“Moana”
(南海の島々を舞台に、世界を暗黒に包もうとする敵と戦う
少女の冒険を描いたディズニーアニメーション。少女が暮ら
すのはサンゴ礁の湾に臨む村。サンゴ礁の外は危険な荒海だ
が、内側は穏やかで魚も豊富だった。そして少女の家は代々
村長の家系で、そんな少女は海からも愛される存在だった。
しかしその村に異変が起きる。湾内から魚影が消え、育てた
ヤシの実も内部が腐っていた。その危機から村を守るため、
少女は外海を越える冒険へと旅立つ。本作で特筆したいのは
物語に色恋沙汰がないことだろう。その点では不満に感じる
評論家も多いようだが、これもエンターテインメントの一形
態な訳で、純粋な冒険物語を描いた点を僕は敢えて評価した
い。公開は3月10日より、全国ロードショウ。)
『第3の愛』“第三種愛情”
(2010年11月紹介『戦火の中へ』などのイ・ジェハン監督が
2016年7月紹介『ミスワイフ』などのソン・スンホンと共に
中国映画界に進出し、スタンフォード大学卒業の中国人女優
リウ・イーフェイと作り上げた恋愛映画。主人公は小さな法
律事務所に勤める女弁護士。そんな彼女が強引な経営で知ら
れる企業の御曹司を知り合い、その顧問弁護士の座も射止め
るが…。原作は中国で1000万人以上の読者を持つという人気
女流作家・自由走行によるベストセラー小説に基づくそうだ
が。身分は違うが相思相愛、でもその恋が成就できない…。
正に韓国恋愛映画という物語が展開される。公開は4月1日
より、東京はシネマート新宿、大阪はシネマート心斎橋他で
全国ロードショウ。)
『素晴らしきかな、人生』“Collateral Beauty”
(ウィル・スミス、エドワード・ノートン、ケイト・ウィン
スレット、マイクル・ペーニャ、ヘレン・ミレン、ナオミ・
ハリス、ジェイコブ・ラティモアの共演で、人生の最大の哀
しみを受けた人間の再生を描いた物語。監督は、2012年5月
紹介『ビッグ・ボーイズ/しあわせの鳥を探して』などのデ
ヴィッド・フランケル、製作と脚本は、2008年3月紹介『ラ
スベガスをぶっつぶせ』などのアラン・ソープが担当した。
正に王道を行くという感じのハートフルな作品で、錚々たる
俳優の顔触れがそれを見事に描き出している。しかもエンデ
ィングから遡って考えさせる物語の巧みさもあり、ファンタ
スティックな味付けも良かった。公開は2月25日より、全国
ロードショウ。)
『SING/シング』“Sing”
(2016年6月紹介『ペット』などのユニバーサル・スタジオ
/イルミネーション製作による音楽が主題のアニメーション
作品。舞台は昔は華やかだったが今は寂れた劇場。オーナー
はコアラで、秘書はトカゲというキャラクターだ。そんな劇
場が起死回生のオーディションを開催する。それはちょっと
した手違いで大盛況となるが…。現れた応募者にはそれぞれ
の歌に賭ける思いがあった。そんな様々な思惑を孕みながら
一発逆転の舞台が始まる。歌われるのはビートルズ、スティ
ビー・ワンダーからビヨンセ、レディー・ガガまで60数曲。
中にはきゃりーぱみゅぱみゅも2曲エントリーされている。
そしてそれらを歌うのがマシュー・マコノヒー、リース・ウ
ィザースプーン、セス・マクファーレン、スカーレット・ヨ
ハンソン。何とも豪華な舞台が開幕する。公開は3月25日よ
り、全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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