井口健二のOn the Production
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2017年01月15日(日) トゥー・ラビッツ、黒執事 Book of the Atlantic

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『トゥー・ラビッツ』“2 Coelhos”
ハリウッドリメイクもすでに計画されているという2011年製
作のブラジル作品。
映画の開幕は悲惨な交通事故。その画面では、歩道に立って
いた母子が暴走してきた車に潰される。続いて描かれるのは
身代金誘拐事件の現場。そこでは少女が床下の穴倉に閉じ込
められている。
そして物語は、ポルノとゲームに明け暮れる若者が、二兎を
一撃で仕留める仕組みを考案したと話すところから始まる。
その若者は運転中に強盗に襲われるが、逆に強盗を追跡し、
仲間になれば200万ドルを稼げると持ち掛ける。
こうして若者の立てた二兎を一撃で倒す計画がスタートする
が…。その途中にはフラッシュバックや後出しに思える説明
などが交錯し、さらに映像には線画のアニメーションが合成
されるVFXなど、多彩な演出で物語が展開される。

脚本と監督は、本作デビュー作でブラジル版タランティーノ
とも称されるアフォンソ・ポイアルチ。監督は本作の後には
ハリウッドに招かれて、2015年にアンソニー・ホプキンス、
コリン・ファレル共演作を手掛けている。
出演は、フェルナンド・アルヴィス・ピント、アレサンドラ
・ネグリーニ、タイーヂ、アルヂニ・ムレール、カコ・シオ
クレール、マラチ・デスカルチス。いずれも日本では馴染み
がないが、本国では作品歴のある実力派俳優たちだ。
他に、2011年11月紹介『エリート・スクワッド』に出ていた
というトグンらが脇を固めている。
上述のようにかなり物語が錯綜していたもので、映画が終っ
た瞬間では自分の気持ちがいろいろと混乱していた。しかし
試写会場の出口で宣伝担当の人と会話しながら物語を反芻し
ている内に、その全体像が掴めてきた。
それは主人公の計画がかなり壮大なもので、しかも齟齬をき
たすことを想定しながら綿密に練られたものだということが
理解できた。そしてその結末が、彼自身はもしかしたら別の
考えであったかもしれないが、こうなってしまう。
そんな神(監督)の配剤みたいなものが心に沁みる作品にも
なっていた。

最初に書いたようにハリウッドリメイクも計画されていると
聞くが、本作の展開はハリウッド的にはかなり問題が多いか
もしれない。しかしこの物語は揺るぎないものであり、出来
るなら監督自身でリメイクも手掛けて欲しいものだ。
公開は2月18日より、東京は新宿シネマカリテ他にて、全国
順次ロードショウとなる。

『黒執事 Book of the Atlantic』
2013年12月にワーナーブラザース製作、剛力彩芽、水嶋ヒロ
主演による実写版を紹介した人気コミックス原作のアニメー
ション映画版。
物語の舞台は19世紀のイギリス。ファントムハイヴ伯爵家の
当主シエルと執事のセバスチャンは、「死者蘇生」の儀式が
行われるという情報を掴み、その儀式が行われる集会に潜入
するため、処女航海の豪華客船カンパニア号に乗り込む。
そこには、シエルの婚約者のエリザベス(リジー)とミッド
フォード侯爵家の家族も乗船していた。さらにその船には死
神やその他の冥界の使徒らも乗り込んでおり、そんな中で、
シエルとセバスチャンは「死者蘇生」を目撃するが…。
その儀式を切っ掛けに恐怖の事態が勃発する。

作品は枢やなの原作の内、第11巻〜第14巻の「豪華客船編」
から、2011年『劇場版マクロスF』などの吉野弘幸が脚色、
監督は2010年『劇場版BLEACH』などの阿部記之が担当した。
因にこのメムバーでは2014年に『黒執事 Book of Murder』
という作品も作られている。
声優も、その2014年作品からの小野大輔、坂本真綾。さらに
田村ゆかり、諏訪部順一、福山潤らが担当している。
2013年12月に紹介した作品では、実写で日本人の俳優が演じ
るために設定がかなり変更されていた。それは映画としての
アクションなどは中々だったと記憶しているが、本来の原作
コミックスのファンには違和感があったのかもしれない。
その辺も踏まえて、上記の2014年の作品に続いて今回もアニ
メーションでの映画化となっているものだが、これは仕方の
ないところだろう。この他にも同原作はすでにテレビアニメ
化もされており、今後はこの線での展開が図られそうだ。
ということで本作では、テレビ放送が先行されていることも
あって、主人公の背景などの説明が希薄で多少判り難い面が
ある。それは物語の途中でフラッシュバックのように紹介は
されるが、それが予備知識がないと中々判り辛い。
僕は2014年の実写版を観ていたから、設定などは何とか理解
したが、初めて観る人にはどうなのだろう? そういう観客
は想定していないということなのかもしれないが、少なくと
も主人公の来歴などは巻頭で説明が欲しい感じはした。
まあそういうやり方が古臭いという考えはあるだろうが、本
作は以前に行われたイヴェント上映などとは異なる一般上映
の作品なのだし、一般観客の理解のために多少の割り切りは
必要に思えたのだが…。

公開は1月21日より、東京は新宿バルト9他にて、全国ロー
ドショウとなる。

この週は他に
『真白の恋』
(富山県を舞台に、知的障害を持った女性とその家族の姿を
描いた作品。我が子に障害はなかったが、子育てを体験した
者としてこの親の気持ちは良く判る。そしてそれが過保護で
あることも理解できるところだ。脚本の北川亜矢子は家族に
知的障害者を持つようで、周囲の人々の目も克明に描いて行
く。そこに散りばめられた台詞は、観客の胸にも突き刺さる
ものだ。そんな物語を富山出身の坂本欣弘監督が温かく包み
込むように描いている。富山も以前に何度か訪れて、レンタ
サイクルで街巡りもした経験があり、真白の立山連峰が遠望
されたり、多分見学した場所と思われるロケ地もあって嬉し
かった。公開は富山で先行の後、東京は2月25日より、渋谷
アップリンク他で全国順次ロードショウ。)
『モン・ロア 愛を巡るそれぞれの理由』“Mon roi”
(一時はリュック・ベッソンと結婚していたこともある女優
マイウェンによる長編監督第4作。カンヌ国際映画祭に出品
され、主演のエマニュエル・ベルコに女優賞をもたらした。
開幕はゲレンデ、そこで主人公は意を決したように滑走を始
めるが、次のシーンは病院でのリハビリとなる。そこから過
去10年に亙る1人の男性との恋愛事情が描かれるが…。いや
はや、優秀な弁護士でもある女性が何でこんな男に引っ掛っ
ちゃうんだろう? とは言うもののそれが恋愛というものな
のだろう。近年はベッソン=アクション映画が台頭している
フランスから伝統的な恋愛映画の復活ののろしのような作品
だ。共演はヴァンサン・カッセル。公開は3月25日より、東
京はYEBISU GARDEN CINEMA他で、全国順次ロードショウ。)
『エイミー、エイミー、エイミー!
  こじらせシングルライフの抜け出し方』“Trainwreck”
(2007年のオーディション番組で認められ、2013年にはCS
放送のコメディ・セントラル局で年間最高視聴率を記録した
エイミー・シューマー主演による恋愛コメディ作品。上述の
フランス映画とは正反対かな? 幼い頃の両親の離婚で恋愛
恐怖症に陥った女性が、仕事で知り合ったセレブな男性と初
めての恋に落ちる。こちらは自分が男性の立場からすると、
何でこんな女と、という感じなのだが…。様々なセレブのゲ
スト出演も多彩で、特にアメリカのスポーツが好きな人には
楽しめそうだ。脚本はシューマーで、監督は2008年11月紹介
『無ケーカクの命中男』などのジャド・アパトーが担当して
いる。基本はスタンダップコメディの乗りだが、アメリカン
コメディの割には笑えたかな。公開は3月4日より。)
『哭声<コクソン>』“곡성”
(國村隼が謎の日本人役を演じ、韓国青龍賞で助演男優賞と
人気スター賞の2冠を受賞したサスペンス作品。物語の舞台
は山間の村。そこで残虐な殺人事件が起きる。その容疑者は
被害者の家族。しかし容疑者は錯乱状態で状況が掴めない。
その犯行はやがて毒キノコの幻覚によるものとされるが、そ
こに山奥に住む日本人の存在が浮かんでくる。物語は2004年
1月紹介『殺人の追憶』や2010年10月紹介『黒く濁る村』の
ような雰囲気で始まるが、後半にはかなり期待通りの展開が
設けられている。主演は2016年12月25日に題名紹介『アシュ
ラ』などのクァク・ドウォン。脚本と監督は2010年『哀しき
獣』などのナ・ホンジン。公開は3月11日より、東京はシネ
マート新宿他で、全国順次ロードショウ。)
『ウィーナー 懲りない男の選挙ウォーズ』“Weiner”
(1998年に連邦下院議員に初当選し。民衆の味方となる過激
な追及で人気も高く、妻はヒラリー・クリントンの側近とさ
れる才媛で、政治家としては申し分なかった男が、2011年に
セックススキャンダルで議員を辞職。そんな男が再起を賭け
て闘った2013年のニューヨーク市長選。その選挙戦を追った
ドキュメンタリー。それはネット社会の落とし穴とも言える
ものではあるが…。いやはや、本当に「何でかな〜」という
感じの展開で、正しく開いた口が塞がらなくなる。観ている
間は笑える作品だが、これが最終的に昨年の大統領選の結果
にも繋がったのかと思うと、ぞっとしてしまう作品でもあっ
た。公開は2月18日より、東京は渋谷のシアター・イメージ
フォーラム他で、全国順次ロードショウ。)
『家族の肖像』“Gruppo di famiglia in un interno”
(2016年10月16日題名紹介『郵便配達は二度ベルを鳴らす』
など初期3作に続いてディジタルリマスターで再公開される
ルキーノ・ヴィスコンティ監督1974年の作品。主演は1963年
『山猫』にも主演したバート・ランカスター。ローマの邸宅
で18世紀イギリスで流行した「家族肖像画」のコレクション
に囲まれて静かに暮らすアメリカ人の老教授が、突然の闖入
者によってその生活が乱されて行く。その闖入者の狼藉な振
る舞いがかなり観客をイラつかせるものなのだが、それを許
して行く主人公の心情も理解できてしまう。その辺の上手さ
が名匠の作品と言えるものなのだろう。共演はシルヴァーナ
・マンガーノ、ヘルムート・バーガー。さらにドミニク・サ
ンダ、クラウディア・カルディナーレらも登場する。公開は
2月11日より、岩波ホールにてロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二