井口健二のOn the Production
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2016年12月04日(日) ドクター・ストレンジ、モンスターストライク、クリミナル 2人の記憶を持つ男

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『ドクター・ストレンジ』“Doctor Strange”
マーヴェル・スタジオ製作によるアメコミ・ヒーロー映画の
最新作。
今回登場するのは元脳外科医。その手術は神業とも言われる
大胆且つ繊細なものだった。しかし自らが起した事故により
その感覚が失われる。その回復法を探求した主人公は、遂に
ヒマラヤ山中ネパールのカトマンズに辿り着く。
そこで精神的な修行を開始した主人公だったが、その修行の
場所にも危機が訪れようとしていた。そしてその危機に立ち
向かう主人公に、強力な助っ人が現れる。その助っ人と共に
新たな能力を発揮した主人公は…。

主演は2013年6月紹介『スター・トレック イントゥ・ダー
クネス』などのベネディクト・カンバーバッチ。共演者には
2013年8月紹介『パッション』などのレイチェル・マクアダ
ムスと、2010年7月紹介『ソルト』などのキウェテル・イジ
ョフォー。
さらに2012年7月紹介『プロメテウス』などのベネディクト
・ウォン、2006年11月紹介『007/カジノ・ロワイヤル』
などのマッツ・ミケルセン、そして2013年11月紹介『スノー
ピアサー』などのティルダ・スウィントンら、かなり渋めの
キャスティングが脇を固めている。
監督は、2013年4月紹介『フッテージ』などのスコット・デ
リクスン。脚本は、『プロメテウス』などのジョン・スペイ
ツと、『フッテージ』も手掛けた監督の盟友C・ロバート・
カーギルが担当した。
タイトルロールのカンバーバッチは、最初は髭の剃り跡も完
璧なさっぱりした風貌で登場するが、そこからコミックスで
お馴染みのキャラクターへの変貌ぶりも面白い。またトレー
ドマークのマントの相棒的な登場も良い感じだった。
因にマーヴェル製作では、アヴェンジャーズへのヒーローの
集結が最近の流れだが、本作でもその繋がりは描かれるもの
の、アヴェンジャーズは機械を操る敵が相手、対する本作は
精神的な武器が相手と、棲み分けが図られるようだ。
そして本作では、精神世界が作り出す驚異的な背景映像が見
どころとなる。それは2010年7月紹介『インセプション』の
世界観をさらに大掛かりにしたようなもので、正しくCGI
−VFXの醍醐味と言えるような映像を楽しめる。
なおSF映画ファンとしては、本作の題名からはスタンリー
・クーブリック監督の『博士の異常な愛情』を思い出してし
まうところだが、原作コミックスの初出は1963年6月、映画
の公開は1964年で、互いに問題にするものではなさそうだ。

公開は1月27日より、2D/3Dでの全国ロードショウとな
る。

『モンスターストライク』
「モンスト」の略称で、世界中で3500万人以上が利用してい
るというスマートフォン用のアプリゲームを題材にした長編
アニメーション作品。
実は先にYouTubeから発信されている短編アニメーションの
シリーズがあるそうで、本作はその流れを引き継いだ作品と
いうことになっている。
しかし物語はプロローグで過去に遡る展開で、モンストの起
源に迫るというもの。そこでは主人公たちも何も知らされて
おらず。従って観客も白紙で観られる仕組みになっている。
勿論ゲームという前提は知っている必要はあるが、僕自身が
YouTubeのアニメを知らなくても物語は充分に楽しめた。
その起源の物語は、古代生物学者の父親が幼い頃に出奔した
ままという小学生の男子が主人公。彼の住む街には閉鎖され
た科学館と研究所があり、主人公ら4人の仲間はその研究所
に立ち入ることが許されている。そこには仲間の少年の両親
や主人公の祖父も働いていた。
そしてそこでは「モンスターストライク」というゲームが遊
べるのだったが…。ある日そこに謎の一団が侵入し、主人公
らは否応なしに冒険に巻き込まれることになる。実は主人公
らが遊びと思っていたゲームには裏があったのだ。つまり現
在遊ばれているゲームにも裏があるというコンセプト?

声優は、ミュージカルで菊田一夫賞を受賞しているという坂
本真綾、2016年5月紹介『シンドバッド』などの村中知。他
にLynn、木村珠莉。さらに小林裕介、北大路欣也、福島潤、
河西健吾、山寺宏一、水樹奈々らが脇を固めている。
脚本の岸本卓と、監督の江崎慎平は共にテレビアニメを数多
く手掛けている人たちのようだ。また主題歌を、2013年3月
紹介『旅歌ダイアリー』などのナオト・インテライミが担当
している。
物語は有り勝ちなものではあるけれど、それなりの説得力は
持たされているかな? そんなところでお子様向けの作品と
しては成立しているだろう。とは言えそれはかなり荒唐無稽
な冒険ストーリーではあるが…。ゲームのコンセプトなどは
活かされているようだ。
ただ、プロローグで過去に遡った本来の主人公たちが本編の
物語にほとんど関与していない点や、主人公の父親の行方な
どは謎のままで、これらは一体どうしたんだ…? と思って
いたら、最後に続編の告知らしきものがされていたようだ。
そういうことで次回作も期待することにしたい。

公開は今週末の12月10日より、全国ロードショウとなる。

『クリミナル 2人の記憶を持つ男』“Criminal”
共にオスカー受賞者のケヴィン・コスナーとトミー・リー・
ジョーンズ、それにゲイリー・オールドマンの共演で、ちょ
っとSF的な要素もあるドラマ作品。
物語の始まりはCIA捜査官の死。それは彼が追っていたハ
ッカーの行方を見失うものであり、そのハッカーは合衆国の
国防システムに侵入し、核ミサイルの発射を自在にできると
豪語していた。そしてそのハッカーの行方は、ハッカーの元
の雇い主であるテロ組織やロシアからも追われていた。
そこでCIAは、開発途上の死者の記憶を写し取る研究に目
を付け、捜査官の記憶を1人の男性の脳に移してハッカーを
探し出そうとする。そこで選ばれたのは、幼い頃に受けた脳
の損傷で感情や善悪の観念も失った犯罪者。そして施術は成
功するのだが…。
捜査員の知識を移植された男はそれを利用して巧みな逃亡を
開始する。しかし移植された記憶はその男に使命感とさらに
大事なものも思い出させる。果たしてCIAはハッカーを確
保し、核ミサイルテロによる世界の破滅を回避することがで
きるのか?

上記以外の出演者は、2016年『バットマンvsスーパーマン
ジャスティスの誕生』でワンダーウーマンを演じたガル・ガ
ドット、2008年9月紹介『ファニー・ゲームU.S.A.』な
どのマイクル・ピット、『スター・トレック イントゥ・ダ
ークネス』などのアリス・イヴと、2016年3月紹介『デッド
プール』などのライアン・レイノルズ。
脚本は、1996年『ザ・ロック』などのデヴィッド・ワイズバ
ーグとダグラス・S・クックのコンビ。監督は2013年『THE
ICEMAN氷の処刑人』などのアリエル・ヴロメンが担当した。
プロデューサーは2012年9月紹介『エクスペンダブルズ』シ
リーズなどのアヴィ・ラーナーの作品だ。
この手の記憶を扱う作品は、最近のブームのような面もある
が、本作はそれなりに工夫して描いていると言える。しかも
上記の顔触れでそれを描くのだからこれはもうそれだけで見
所満載の作品だ。それは物語の端々で巧みな描き方をしてい
るもので、それらは納得して観ていられた。
実は試写の前に宣伝担当者から「これは面白いです」と勝手
にハードルを上げられたのだが、正直に言って面白いよりも
良い作品だったと言える。ネタバレになるから何がどうとは
言えないが、上記の顔触れがその辺をしっかりと描き出して
いるとは言える作品だ。

公開は2月25日より、新宿バルト9他で、全国ロードショウ
になる。

この週は他に
『マン ・ダウン 戦士の約束』“Man Down”
(2013年8月紹介『ランナウェイ/逃亡者』などのシャイア
・ラブーフが中東に派遣された海兵隊員に扮する作品。映画
は妻と幼子のいる家庭の様子と派遣前の訓練の模様。それに
中東での作戦行動と上官による尋問。さらに廃墟と化した街
でのサヴァイヴァルのシーンが交互に描かれ、かなりミステ
リアスな物語になっている。しかしその実態は、あまりにも
過酷な戦争の現実が描かれたものだ。僕は以前から戦闘シー
ンのある反戦映画は成立しないと考えているが、その考えで
言うと本作は反戦映画ではない。戦争のもたらす悲劇をとこ
とんまで描き切った作品だ。共演はゲイリー・オールドマン
とケイト・マーラ。公開は2月25日より、東京は新宿武蔵野
館他、全国順次ロードショウ。)
『LIVE FOR TODAY−天龍源一郎−』
(昨年11月に現役を引退したプロレスラーの、引退発表から
引退試合までを追ったドキュメンタリー。製作総指揮を自ら
の主宰団体の代表でもある実娘が担当しているもので、言う
なれば自作自演だから悪いところは出てこない作品だ。でも
それがファンにはプレゼントであろうし、そうではなくても
最後の試合シーンには感傷も生じた。正直なところは僕自身
が天龍とは同世代で、最近のプロレスは全く見ていないから
若いレスラーの名前にはほとんど馴染みは無かったが、名の
知れた往年のレスラーたちの姿には、お互い老けてしまった
なあという感慨も湧く。その多くが今も現役というのは感動
したところだ。公開は2月4日より、東京は新宿武蔵野館、
ユナイテッドシネマ豊洲他、全国順次ロードショウ。)
『惑う After the Rain』
(静岡県三島市を舞台に、脚本作りの段階から市民参加で行
われたというご当地作品。地元の名士のような人物も出てく
るが、全体的には家族愛なども巧みに取り込んで、中々面白
い作品に仕上げられていた。ポスター写真からは三島女郎の
話かとも勘ぐったが、その辺は趣だけに止めてまずは普遍的
な話が展開される。出演は佐藤仁美、この後に主演作も控え
る中西美帆、2016年8月7日題名紹介『だれかの木琴』など
の小市慢太郎、宮崎美子。僕自身が襖、障子に座敷、廊下の
日本家屋で育ったもので、本作に登場する建物には懐かしさ
も感じた。昭和の時代を気持ち良く再現した作品にもなって
いる。静岡県で先行上映の後、東京は1月21日より有楽町ス
バル座他、全国順次ロードショウ。)
『息の跡』
(2012年1月紹介『桃まつり〜すき〜』の中で『the place
named』という作品が上映された小森はるか監督による長編
第1作。監督は2011年の震災以降、岩手県陸前高田市に移り
住んで制作を続けているという、震災後の人々に生活ぶりを
記録したドキュメンタリー。本作では、そんな被災地で大津
波防備のために新設される大堤防の中に埋め込まれてしまう
場所で種苗店を営む男性の姿が記録されている。その男性は
歴史に遡っての津波の検証を行う一方で、震災の記憶を英語
や中国語、スペイン語などで発信し続けてもいる。映画の内
容は確かに理解できる。だが監督の主張したいところが良く
判らない。出来るなら種苗店跡地の今が観たいものだ。公開
は2月にポレポレ東中野他、全国順次ロードショウ。)
『うさぎ追いし 山極勝三郎物語』
(1915年に東京帝大病理学研究室において人工癌の発生に成
功し、日本における癌研究の礎を築いた科学者の足跡を辿っ
た作品。ウサギの耳にタールを塗って癌を発生させたという
話は子供の頃に聞いていたが、それが山極勝三郎という人の
研究で、さらには世界初の快挙であり、ノーベル賞の候補に
もなっていたという事実は本作を観るまで知らなかった。そ
んな信州上田出身の偉人の姿が描かれる。出演は遠藤憲一、
水野真紀、2013年8月紹介『許されざる者』などの岡部尚。
他に豊原功補、北大路欣也、高橋惠子らが脇を固めている。
監督は2011年3月紹介『お菓子放浪記』などの近藤明男が担
当した。長野県で先行上映の後、東京は12月17日より有楽町
スバル座他、全国順次ロードショウ。)
『傷だらけの悪魔』
(2011年6月紹介『行け!男子高校演劇部』などの足立梨花
主演で、転校生に対する苛めを扱った作品。苛めの問題を描
いた作品の多くが苛めの手口を紹介する作品となり、諌める
べきものを助長していると思えることが度々ある。その点で
言うと本作で描かれる苛めの手口は通り一遍なものであり、
対する周囲の反応や、特に大人や教師の無責任ぶりを描いて
いるのは現実的と言えるだろう。そしてそこからの反攻が、
かなりの攻防戦を含めて小気味よく描かれた作品だ。共演は
江野沢愛美、加弥乃、岡田結実。他に川原亜矢子、宮地真緒
らが脇を固めている。因に足立の女子高生はギリだが、原作
は現在も継続中だそうで、映画も続編を狙えそうだ。公開は
2月4日より角川シネマ新宿他、全国ロードショウ。)
『レオナルド・ダ・ヴィンチ美と知の迷宮』
      “Leonardo da Vinci - Il genio a Milano”
(2013年12月紹介『ダ・ヴィンチ・デーモン』など、伝記的
な作品も何本か観ている中世イタリアの芸術家・科学者の業
績を、修復された「最後の晩餐」の4K撮影による映像をク
ライマックスとして紹介した作品。内容は、現代の研究者や
評論家、それに往時を再現した関係者へのフェイクのインタ
ヴューなどで構成され、それなりに興味深くはあるが、観る
側にもある程度の知識が要求されるかもしれない。ただ4K
撮影された「最後の晩餐」は、その損傷も克明に再現された
もので、それは製作時からダ・ヴィンチ自身も気付いていた
というから仕方ないものだったとは言え、目の当たりにする
と哀しくなるものでもあった。公開は1月28日より、東京は
シネスイッチ銀座他、全国ロードショウ。)
『NERVE《ナーヴ》世界で一番危険なゲーム』“Nerve”
(ネット上などで問題となっている危険な挑戦を映像で配信
する風潮。それをさらに参加型のゲームにしたという設定の
作品。それは視聴者と挑戦者2つのカテゴリーで募集され、
その視聴料が挑戦達成への賞金となる。危険な挑戦の類は、
2016年1月紹介『X−ミッション』などでも描かれているか
ら、本作が上記の風潮に乗ったという点では忸怩たる思いも
する。しかし本作は敢えてそこからの警鐘とも取れるものに
なっており、その点のコンセプトは納得できる作品だった。
出演は、2013年12月紹介『なんちゃって家族』などのエマ・
ロバーツ、2016年7月紹介『グランド・イリュージョン』な
どのデイヴ・フランコ、それにジュリエット・ルイス。公開
は1月6日より、全国ロードショウ。)
『0円キッチン』“Wastecooking”
(全世界で毎年廃棄される食料品の量は13億トンにもなると
言われる。それを少しでも救助しようと立ち上がった監督ら
が、大型のごみ箱を改装したキッチンを自動車に繋ぎ、ヨー
ロッパ5カ国を巡って回収した食品を調理し振舞う啓蒙活動
を行う。その様子を描いたドキュメンタリー作品。2013年に
『もったいない!』“Taste the Waste”という作品があっ
て、そこでも大型スーパーなどで廃棄される食料品を回収す
るゴミ箱ダイヴの運動が紹介されていたが、日本でもヴァラ
エティ番組『鉄腕DUSH』の中で生産者の段階で廃棄され
る食品を回収して調理するコーナーが放送されるなど、世界
的にこのような気運は高まっているようだ。公開は1月21日
より、アップリンク渋谷他、全国順次ロードショウ。)
『oasis: supersonic』“Oasis: Supersonic”
(1991年の結成で、僅か5年後の1996年に2日間で25万人を
動員するコンサートを実現したイギリスのロックバンドの、
コンサートを行うまでを描いたドキュメンタリー。因にバン
ドは2009年に解散しており、本作はその解散後にメムバーの
中心だったギャラガー兄弟らにインタヴューを行い、その内
容に合わせた映像を集めて編集されているものだ。その中に
はジャパンツアーの様子なども収められており、当時の熱狂
的な歓迎ぶりがメムバーの印象に残った思い出なども語られ
ている。正直僕には音楽のことが全く判らないが、20年前の
ファッションなどが面白く観られる作品でもあった。公開は
12月24日より、東京は角川シネマ有楽町他、全国順次ロード
ショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二