井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2016年11月27日(日) ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅、きょうのキラ君、ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』
      “Fantastic Beasts and Where to Find Them”
大ヒットを記録し、2011年7月紹介『ハリー・ポッターと死
の秘宝 Part2』で終結したシリーズからのスピンオフ作品。
脚本は原作者J・K・ローリングによる書き下ろしで、監督
は2007年6月紹介『不死鳥の騎士団』以降の終盤4作品を手
掛けたデイヴィッド・イェーツが担当した。
オリジナルのシリーズの時代設定は明確ではなかったが、恐
らく現代にかなり近かったと推測される。それに対して本作
の時代背景は1920年代。つまりオリジナルシリーズより数世
代前の物語ということになるようだ。そして映画は、1人の
若い魔法使いがニューヨークを訪れるところから始まる。
その頃のニューヨークでは、実は凶暴な魔法生物による大規
模な惨劇が巻き起こっていた。そして魔法使いたちはそれを
ひた隠しにしようとしていたのだが…。その一方でセーラム
を起源とする魔法使いを排撃しようとする団体も顕著な動き
を見せ始めていた。
そんな中でニューヨークに到着した主人公はトランクの中に
魔法生物を隠し持っていた。その魔法生物が隙間から逃げ出
して悪さをし始める。それを何とか修復しようとする主人公
だったが、やがてそれがニューヨークの魔法界を揺るがす事
件に発展する。

出演は、2012年1月紹介『マリリン・7日間の恋』などのエ
ディ・レッドメイン、2010年10月紹介『ウッドストックがや
ってくる!』などのダン・フォグラーと、同作に出ていたキ
ャサリン・ウォーターストン、さらにミュージシャンのアリ
ソン・スドル。
その脇を2013年12月紹介『ウォルト・ディズニーの約束』な
どのコリン・ファレル、同年9月紹介『ウォールフラワー』
などのエズラ・ミラー、同年2月紹介『コズモポリス』など
のサマンサ・モートン、さらに2004年12月紹介『ナショナル
・トレジャー』などのジョン・ヴォイトらが固めている。
物語は、オリジナルシリーズでは魔法学校の教科書とされて
いた映画化と同じ名称の書籍の著者を主人公としたもので、
その書籍自体もローリングの執筆でチャリティー用に出版さ
れている。つまり本作はその書籍の映画化ということにもな
りそうだ。
従って本作ではオリジナルシリーズの設定がほぼ踏襲されて
いるものだが、オリジナルでは「マグル」とされていた魔法
族以外の人間の呼び名が、本作では「ノーマジ(=ノー・マ
ジック)」とされるなど、微妙に異なっているのも面白い。
特にこの英語と米語の違いにはニヤリとさせられた。
他にもオリジナルを巧みに取り入れたところや、イギリスと
アメリカの文化の相違を描いたところには、深く観れば観る
ほどいろいろなことが出てきそうな作品になっている。また
結末にはサプライズが用意されており、それを見ると是非と
も続編が観たくなる、そんな作品でもあった。

公開は11月23日より、全国ロードショウが始まっている。

『きょうのキラ君』
2014年に実写映画化の『近キョリ恋愛』が話題になったみき
もと凜によるコミックスの映画化。
先日の第29回東京国際映画祭では、7月24日題名紹介『いき
なり先生になったボクが彼女に恋をした』や、8月21日題名
紹介『イタズラなKissハイスクール編』が特別招待上映され
るなど、正しく「胸キュン」ムーヴィが日本を代表する状況
になっているようだ。
本作もその流れの1本。年明けの公開には「2017年の初キュ
ン」というコピーも付されている…。という作品は本来なら
僕のテリトリーではないのだが、本作に関しては原作の良さ
なのか、脚本の巧みさなのか、観ていていろいろと考えると
ころがあった。
物語は、いじめにあうどころか同級生からはほぼ無視され、
それが自分と割り切っているような女子が主人公。ところが
クラスメイトにいじめに遭いそうになっているところを同級
のイケメン男子に救われ、その後を追いかけ始める。そして
彼も振り向いてくれて…。
というのは如何にもこの手のお話にはありそうな展開なのだ
が、校舎の屋上で追いついた彼女が捨て台詞のように放った
言葉から物語は予想外の展開になって行く。それはポスター
にも記された「365日」という言葉の意味に絡めて、極めて
巧みに構築されていたものだ。
ここからは完璧なネタバレになってしまうかもしれないが、
映画の中で3回使われる「365日」という言葉が、彼女が発
する1回目と2回目では微妙に意味が異なり、3回目に彼が
発する時には最初の意味になる。これが2時間足らずで展開
される映画ならではの趣になっている。
しかもこの意味の違いが、特に彼女が発する2回では当初は
観客には違って聞こえるのだが、実は彼女自身は同じ意味で
使っていたことが映画の進行と共に判ってくる。その展開の
巧みさには、これは侮れない作品だと思えてきた。これは映
画ならではの醍醐味だ。
通常物語の展開の中で、登場人物は知っているが観客には知
らされていないというやり方は、観客には馬鹿にされたとい
う印象が残るし、難しいものと考えるが。本作においてはそ
れが切なさになり、正しく「胸キュン」になるのは、見事と
しか言いようのない作品だった。
さらに結末に向かっての彼の心境の変化に関しては、成る程
これなら納得できると思わせるものになっており、この辺は
原作の通りなのだろうが、ご都合主義ではないあり得る話と
して観ることができた。

出演は、ティーンズモデル出身で2014〜15年『獣電戦隊キョ
ウリュウウジャー』の飯豊まりえと、今年5月15日題名紹介
『全員、片想い』などの中川大志。因に映画は中川のかっこ
良さを描く作品でもあるようだ。
他に、今年8月21日題名紹介『アズミ・ハルコは行方不明』
などの葉山奨之と、2013年12月紹介『ゲームセンターCX』
などの平祐奈。さらに岡田浩暉、三浦理恵子、安田顕らが脇
を固めている。
脚本は、2015年4月紹介『サムライ・ロック』などの中川千
英子に、テレビ版『近キョリ恋愛』を手掛けた松田裕子が協
力。監督は、2012年7月紹介『ひみつのアッコちゃん』など
の川村泰祐が担当した。
まあ、大の大人の男性が映画館に観に行くには多少気恥しい
作品ではあるが、作品としては優秀なものだと推奨できる。

公開は2月25日より、全国ロードショウとなる。

『ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男』
               “Free State of Jones”
主演のテキサス州出身マシュー・マコノヒーも知らなかった
というアメリカ合衆国の歴史の影に隠れた英雄の物語。
物語の舞台はアメリカ南部のミシシッピー州。時代は19世紀
の後半。南北戦争の末期から北軍の勝利と、その後の10年間
ほどの時代が描かれる。
主人公のナイトは南軍の歩兵として闘いに参加していた。し
かし貧農は幼い少年まで召集される現実の不平等さに想いを
打ち砕かれて脱走。自らの農場に戻った彼を待ち受けていた
のは、脱走兵は見つかれば死刑という現実だった。
そんな時、彼の息子が高熱を出し、医者を呼べない彼の許に
駆けつけたのは、近くの農場で奴隷として暮らす黒人女性の
治療師だった。そして自警団に発見された彼は、女性の手引
きで沼地の奥で暮らす逃亡奴隷の集団に導かれる。
やがて彼らの許には脱走兵や逃亡奴隷が集まりだし、沼地の
奥では手狭になった彼らは、遂に圧倒的な兵力を持つ南軍に
反旗を翻す。それは北軍の支援も得られないままの地の利や
様々な条件を利用した知略に満ちた作戦だった。

製作・脚本・監督は2012年7月紹介『ハンガーゲーム』など
のゲイリー・ロス。ロスは10年の歳月を掛けて本作の映画化
に取り組んだとのことで、その間の調査の詳細さを現すかの
ように、エンドクレジットには時代考証として各大学の先生
など多数の名前が連ねられていた。
出演はマコノヒーの他に、2015年3月紹介『ジュピター』な
どのググ・ンバータ=ロー、2013年8月紹介『ハウス・オブ
・カード 野望の階段』などのマハーシャラ・アリ、2010年
4月紹介『小さな命が呼ぶとき』などのケリー・ラッセル。
正直に言ってアメリカ合衆国の裏面史など、興味は湧き難い
かもしれない。しかし南北戦争が北軍の勝利に終った後も、
巧妙に奴隷制度を存続させていた南部諸州の富農の姿などは
是非とも知っておきたかった事実だ。その他にも続いていた
人種差別の実態などは、正にアメリカの黒歴史と言えるもの
で、その真実が描かれたことでは画期的な作品と言える。
上映時間2時間40分は長丁場だが、その分詳細に物事を理解
できる。恐らく今後はこの種の作品が増えてくると思われ、
映画ファンにはその嚆矢となる作品として是非とも押さえて
おきたいものだ。

公開は2月4日より、東京は新宿武蔵野館、ヒューマントラ
スト・シネマ渋谷他にて、全国順次ロードショウとなる。

この週は他に
『壊れた心』“Pusong Wasak”
(一昨年の東京国際映画祭コンペティション部門で上映され
た作品。2014年11月2日付の記事を読んで貰っても良いが、
2年経って作品を観直して朧気ながらストーリーは理解でき
たかな。でもまあそれはどうでも良くて、結局これはクリス
トファー・ドイルの撮影を楽しむものだろう。それは主演の
浅野忠信による自撮りも含めて、かなり強烈な印象を与えて
くれる。因に本作の日本公開は目途が立っていなかったが、
今回はクラウドファウンディングの実施により資金が集まり
実現したものだそうだ。公開は1月7日〜27日に渋谷ユーロ
スペースにて上映の他、全国順次ロードショウ。)
『A.I. love you』
(偶然ダウンロードしたA.I.アプリが持ち主の人生を変えて
行くというお話。出演は9月4日題名紹介『金メダル男』な
どの森川葵。他に上杉柊平、中村アン、NONSTYLE石田明。そ
してA.I.の声を斎藤工が演じている。同旨の作品では2014年
4月紹介『her/世界でひとつの彼女』が思い浮かぶが、斎
藤はスカーレット・ヨハンソンに勝てているかな? それは
ともかく、本作はSF範疇に入る作品だとは思うが、内容は
かなり掟破り。それが活きているかというとそれほどでもな
いのが少し残念。あと一捻りあれば…。公開は12月10日より
東京は新宿武蔵野館他にて、全国順次ロードショウ。)
『変魚路』
(1989年『ウンタマギルー』で各国映画祭で受賞を果たした
高嶺剛監督による18年ぶりの新作。大体監督自身が「変な映
画」と称しているくらいの、上記『壊れた心』に続く解釈不
能の作品で、こういう作品もたまにはあるさという感じだ。
取り敢えずの物語は、死にぞこないのものばかりが暮らす村
を運営する主人公が、ご禁制の媚薬を盗んだとの嫌疑を掛け
られて村を脱出。それを追う女たちや村の男たちが繰り広げ
るロードムーヴィというのだが…。中には結構手の込んだ映
像もあったりして、それはそれなりの雰囲気も醸し出してい
る。公開は1月14日より、東京はシアター・イメージフォー
ラム他にて、全国順次ロードショウ。)
『ブラインド・マッサージ』“推拿”
(2010年7月紹介『スプリング・フィーバー』などのロウ・
イエ監督によるベルリン映画祭銀熊賞受賞作品。中国で20万
部発行のベストセラーとなったビー・フェイユィの同名原作
に基づき、南京のマッサージ院で働く盲人マッサージ師たち
の愛憎劇が描かれる。いやあ、とにかく凄い。盲人を描いた
作品は2008年8月紹介『ブラインドネス』などいろいろある
が、本作では正に盲人の心をなぞれるような気分にさせてく
れたもので、これは全く信じられないような感覚だった。も
ちろんそれは現実の盲人の心には及ばないものだろうが、僕
がこんな感覚を味わった映画は初めてなのは確かだ。公開は
1月14日より、アップリンク渋谷、新宿K's cinema他にて、
全国順次ロードショウ。)
『天使にショパンの歌声を』“La Passion D'Augustine”
(1960年代のカナダ・ケベック州を舞台に、教会の権威の許
で繁栄してきたカソリック系の学校が政変によって公立化に
直面し、その中で生き残りを図るために苦闘する修道女たち
を描いた作品。その学校は音楽教育でリードしていたが、公
立化ではその特徴も奪われる。そんな中で音楽教育の重要さ
を訴える作戦が立てられる。劇中ではコーラスからピアノ独
奏まで、クラシックの様々な楽曲が奏でられ、特にピアノ曲
は出演者のライサンダー・メナードが自ら演奏しているのも
注目される。公開は1月14日より、YEBISU GARDEN CINEMA、
角川シネマ有楽町他にて、全国順次ロードショウ。)
『ホームレス ニューヨークと寝た男』“Homme Less”
(仕事はファッションフォトグラファーで俳優。しかし住ま
いはアパートの屋上で雨ざらしという男性の生活ぶりを撮影
したドキュメンタリー。とは言え男性は近くのスポーツジム
の会員であり、そのジムのロッカーには着替えや洗面用具、
パソコンなどが収められている。そして男性は街でモデルを
撮影したりしながら、その日暮らしを続けている。過去には
華やかな生活があったりもした男性が、それらを捨ててそん
な生活に落ち着いている。その経緯も語られはするが、人生
いろいろというところか。公開は1月28日より、ヒューマン
トラスト・シネマ渋谷他にて、全国順次ロードショウ。)
『ニーゼと光のアトリエ』
           “Nise - O Coração da Loucura”
(1950年代のブラジルの精神病院で、周囲の抵抗に遭いなが
らもロボトミー手術に対抗する作業療法を実践した女医の物
語。昨年の東京国際映画祭でグランプリと最優秀女優賞に輝
いた作品で、僕は昨年も観ているが、改めて見直しても素晴
らしい作品だった。因に映画の後半で展覧会のシーンに登場
する絵画や塑像は全て実際の患者が作成した本物の作品であ
り、その素晴らしさが女医の信念の証となっている。ただ途
中のユング博士に手紙を書くシーンで、用意されている写真
がカラーなのは時代考証的に正しいのかな。そこだけは少し
疑問に感じた。公開は12月17日より、渋谷ユーロスペース他
にて、全国順次ロードショウ。)
『マギーズ・プラン 幸せのあとしまつ』
                  “Maggie's Plan”
(男性に頼ることなく生きることを決心したものの、子供は
欲しいと思い、友人の男性から精子の提供を受けて人工授精
を試みる。ところがそのタイミングで憧れの男性に出逢って
しまい…、という女性を描いた作品。その人工授精のやり方
は最近他の映画でも見たもので、こんなことがアメリカでは
常識的になっているのかな。男性としては忸怩たる思いにも
させられる作品だ。でもまあ世間にはこんな考えの女性も増
えているのかな。出演は2012年『フランシス・ハ』などのグ
レタ・ガーウィグ。その脇をイーサン・ホーク、ジュリアン
・モーアらが固めている。公開は1月21日より、東京は新宿
ピカデリー他にて、全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


 < 過去  INDEX  未来 >


井口健二