井口健二のOn the Production
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2016年11月20日(日) ドラゴン×マッハ!、ロスト・レジェンド 失われた棺の謎、人魚姫

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『ドラゴン×マッハ!』“殺破狼II”
2004年5月紹介『マッハ』などタイ映画のアクションスター
=トニー・ジャーが、香港のサイモン・ヤム、ウー・ジンら
と共演したアクション作品。
物語の始まりはタイの刑務所。そこに1人の男が収監されて
くる。男は「自分は警官だ」とわめくが、彼が怒鳴る広東語
と英語は周囲のタイ人の囚人には伝わらないようだ。しかし
1人の刑務官がそれを気に留め、愛娘に教えられたスマホの
翻訳機能で男の発言内容を知る。
その数日前、香港では臓器売買に絡むと思われる失踪事件が
相次いでいた。そこで香港警察のチャン警部は甥に潜入捜査
を命じ、その成果で次の犯行計画が判明する。しかし犯人ら
は包囲網を突破し、警察は標的の男性は保護するが、犯人ら
には潜入捜査官の素性を知られてしまう。
一方、タイの刑務官の娘は白血病で余命数か月と宣告されて
いた。そこにドナーが見付かったとの知らせが入るが、その
ドナーとの連絡が取れない。それはドナーの携帯電話が繋が
らなくなっていたのだ。しかし諦めずに架け続けた娘の電話
が遂に繋がるが…、相手の言葉は広東語だった。

監督は、2011年8月紹介『アクシデント』などのソイ・チェ
ン。彼は2015年公開ドニー・イェン主演『モンキー・マジッ
ク』とその続編の2016年7月紹介『孫悟空 vs 白骨夫人』の
監督も務めている。
原題を見ると2006年2月紹介『SPL狼よ静かに死ね』の続
編のようで、ドニー・イェンが出演した前作からはサイモン
・ヤムが同じ役名で登場する。しかしウー・ジンの役柄は異
なっており、ヤムの役柄も前作と同じなのかな? 確か前作
のチャンは別の問題も抱えていたと思うが。
ただし、その点も踏まえて本作は巧みに前作の流れを反映し
ているとも言える。それは両方を観ていると納得するところ
だ。とは言え本作は、それを知らな無くても充分に楽しめる
作品になっている。何たってジャーのムエタイと4度の中国
武術チャンピオンに輝くジンのカンフーが激突するのだ。
その展開も前作を巧みに踏襲しているものだが、さらに後半
からクライマックスの激闘ぶりは、見事に上記の邦題そのも
のと言える。邦題は有り勝ちなものとも言えるが、本作では
正に嵌っている。特に連係プレイの見事さは武闘コレオグラ
フィーの新展開と言えるかもしれない。
それとスマホの活用ぶり、上記の翻訳機能もそうだが、娘が
広東語の相手と意思疎通する展開には、これは1本取られた
という感じがした。

公開は1月7日より、シネマート新宿、シネマート心斎橋他
にて、全国順次ロードショウとなる。

『ロスト・レジェンド 失われた棺の謎』
                  “鬼吹灯之尋龍訣”
元はネット小説だそうだが、コミックス版の邦訳も出ている
中国・天下覇唱原作「鬼吹灯」シリーズからの映画化。
主人公は、三国時代に魏の曹操が創設したと劇中で語られる
皇帝公認の墓泥棒「探金官」の末裔のコンビ。しかし現在は
ニューヨークで怪しげな土産物を売って暮らしている。とい
うのも彼らは、1960年代後半の下放政策によって内モンゴル
に送られ、過酷な目に遭って渡米したのだ。
そんな彼らに新たな仕事の依頼が届く。それは彼らが内モン
ゴルで発見した墳墓を目指すというもの。その現地には、今
では外国人も容易に訪れることができた。しかし草原にしか
見えないその場所で墓を発見しその中に入るには、探金師の
特別な能力が必要だったのだ。
こうして再び墓に向うことになった主人公たちだったが、そ
の墓には彼らの苦い思い出が残されていた。

出演は、2014年6月紹介『ライズ・オブ・シードラゴン 謎
の鉄の爪』でも共演のチェン・クンとアンジェラベイビー。
それに2012年8月紹介『ハーバー・クライシス』などのホァ
ン・ボー。さらに2008年12月紹介『ブラッド・ブラザーズ』
などのスー・チー。中国映画期待の若手が勢揃いだ。
監督は、2012年7月紹介『画皮』の続編で2013年公開『妖魔
伝』などのウー・アールシャンが担当した。
物語は『インディ・ジョーンズ』か『トゥームレイダー』と
いった感じだが、そこに中国の古代史から近代の下放政策ま
で関ってくるというのは流石というところだ。ただまあ近代
のところをあまり突くといろいろ問題も起こりそうで、その
辺はほどほどなのかな。案外シビアにも感じるが。
因に『インディ・ジョーンズ』だとナチスの動きが関るが、
本作にもちゃんと日本軍が登場するのは偉いというか、それ
なりなのだろう。
それに加えて墓を守っているいろいろな仕掛けや、さらには
墓が発動する妖術など、いろいろな要素が華麗なアクション
やVFXも駆使して正にサーヴィス満点のてんこ盛りで描か
れている。
これぞエンターテインメントという感じの作品だ。

公開は1月7日より、シネマート新宿、シネマート心斎橋他
にて、全国順次ロードショウとなる。

『人魚姫』“美人魚”
2002年6月紹介『少林サッカー』や2008年3月紹介『ミラク
ル7号』などのチャウ・シンチー監督が、再度挑戦したファ
ンタシー・コメディ。
物語の背景は、観光開発の進む中国の沿岸部。そこで地元出
身の成り上がり者が新たな利権を獲得する。それはイルカの
生息地とされる保護区域を大掛かりに埋め立てるものだ。そ
れにはイルカを追い払う悪辣な手段が隠されていた。
ところがその海域は、実は人魚たちが隠れ住む場所で、その
計画を知った人魚たちは、権利を獲得した成り上がり者の暗
殺を計画する。そこで女性の人魚が苦労して人間に変装し、
成り上がり者を誘惑して誘き寄せることに成功するが…。

出演は、2008年10月紹介『戦場のレクイエム』や2012年4月
紹介『王朝の陰謀』などのダン・チャオ、監督の秘蔵っ子グ
ループ《星ガール》の一員で本作が映画デビュー作のリン・
ユン。同じく《星ガール》の一員で『ミラクル7号』などの
キティ・チャン。それに“SHOW”名義で日本デビューもして
いる台湾出身のショウ・ルオ。
邦題は誤解を呼びそうだが、本作は原題を見れば判る通りに
『リトル・マーメイド』の翻案ではない。しかし巧みにその
流れを踏襲しているのが、脚本も手掛けるチャウ・シンチー
らしさとも言えそうな作品だ。
しかも映画に登場する大掛かり且つ水気たっぷりのセットに
は、1985年公開『グーニーズ』のような趣もあって、その遊
園地のような雰囲気も素敵な作品だった。しかも本作では、
そのセットの中でチャウ・シンチー本領発揮のアクションが
展開されるものだ。
因に『グーニーズ』に関しては7月3日付題名紹介『ヤング
・アダルト・ニューヨーク』では若い映画人が知らない設定に
ショックを受けたが、先日のテレビ番組でジャニーズ「嵐」
のメムバーが普通に題名を挙げてくれて嬉しかった。そんな
作品へのオマージュも感じられた。
巻頭には、監督の悪い癖とも言えるちょっと社会派ぶった映
像もあるが、全体は面倒なことは言わずに、ファミリーピク
チャーとして存分に楽しめる作品になっている。

公開は1月7日より、シネマート新宿、シネマート心斎橋他
にて、全国順次ロードショウとなる。
なお今回紹介の3作品は、いずれも「2017 冬の香港・中国
エンターテイメント映画まつり」として上映される。

この週は他に
『グリーンルーム』“Green Room”
(売れないパンクバンドがようやく出演したステージ。しか
しそこはカルト集団の巣窟だった。そして凶悪な事件に巻き
込まれる。アントン・イェルチンとパトリック・スチュアー
トの共演というトレッキーには夢のような作品だが、かなり
過激なアクションに彩られた危険な作品でもある。監督は新
時代のサム・ペキンパーと称されるジェレミー・ソニエル。
その伝では『わらの犬』も想起するが、そのスタイリッシュ
さには物足りないかな? しかし今はこの過激さの方が受け
るのだろう。公開は2月11日より、新宿シネマカリテ他にて
全国順次ロードショウ。)
『人生フルーツ』
(日本住宅公団の創設に参加し、各地に建設された団地の基
本設計を担当するも、理想と現実の狭間で苦しんだ建築家の
姿を追った東海テレビ製作のドキュメンタリー。建築家は自
らが最後に手掛け、理想とはかけ離れた形で完成した団地の
一角に土地を購入し、そこだけは理想に近づけた暮らしを実
践して晩年を迎えた。日本の高度成長の歪みを目の当たりに
するような作品だ。ただし観客がそれをどこまで読み取れる
か。彼の理想が叶わなかった理由をもっと明白にして欲しか
った。公開は1月2日より、ポレポレ東中野他にて全国順次
ロードショウ。)
『アラビアの女王』“Queen of the Desert”
(イラク、ヨルダンの建国の親とも言われるイギリス人女性
の実話をニコール・キッドマンの主演、2012年1月紹介『忘
れられた夢の記憶』などのヴェルナー・ヘルツォーク監督で
映画化した作品。T・E・(アラビアの)ロレンスなども登
場し、列強の思惑が渦巻く中で現実の国境を定めたとも言わ
れる女性の姿が描かれる。なお劇中の記念写真のシーンで、
背景のスフィンクスに顔面の彫刻があるのが歴史的に正しい
もの。これにはさすがヘルツォーク監督と感心した。公開は
1月21日より、丸の内TOEI、新宿シネマカリテ他にて、
全国順次ロードショウ。)
『エゴン・シーレ 死と乙女』
           “Egon Schiele: Tod und Mädchen”
(第1次大戦末期のウィーンで活躍し、28歳で夭逝した画家
の姿を描いたR−15指定の作品。劇中には彼が師事した画家
クリムトなども登場し、絵画ファンには注目される作品だろ
う。それに加えて本作では、当時の状況に合わせた蝋燭1本
の灯だけでの撮影なども行われ、その再現力にも注目した。
ディジタル撮影技術の賜物と思われるが、1976年公開『バリ
ー・リンドン』の撮影でスタンリー・クーブリックが苦労し
たのも、今は夢のようだ。公開は1月28日より、Bunkamura
ル・シネマ、ヒューマントラスト・シネマ有楽町他にて、全
国ロードショウ。)
『14の夜』
(1990年代の中学生を主人公にしたノスタルジーたっぷりな
作品。そして主人公らは行きつけのレンタルビデオ屋でアダ
ルト作品の入手に奔走する。舞台になるビデオ屋にはVHS
テープがずらりと並び、それはかなり壮観だった。因にエン
ディングロールによると某氏のコレクションが提供されてい
たようだ。ただそこまでやっておきながら、その直後に登場
する自転車の前照灯がLEDというのはちょっと…。それと
障害者に対する差別的な言動は、時代背景に沿ったものとは
言え少し気になった。公開は12月24日より、東京はテアトル
新宿他にて、全国順次ロードショウ。)
『ダーティ・グランパ』“Dirty Grandpa”
(ロバート・デニーロとザック・エフロン共演による現在の
状況でのジェネレーションギャップを描いたコメディ作品。
監督は2007年4月紹介『ボラット 栄光ナル国家カザフスタ
ンのためのアメリカ文化学習』や、2016年9月11日に題名紹
介『ブリジット・ジョーンズの日記 ダメな私の最後のモテ
期』などの脚本を担当したダン・メイヤー。この2作品から
想像できる通りのかなりぶっ飛んだ感じのコメディで、特に
ザック・エフロンはここまでやっちゃって良いのかと心配に
なるほどだった。公開は1月6日より、東京はTOHOシネマズ
みゆき座他にて、全国ロードショウ。)
『SUPER FOLK SONG』
(副題に「ピアノが愛した女」とあり、矢野顕子が1992年に
発表した表題作の録音の模様を記録したドキュメンタリー。
最初にカメラの音が入っているのではないかという疑いから
始まり、その疑いが晴れた後は正に息が掛かるほどの至近距
離から、ピアノと対峙し、納得が行くまで録音を繰り返すピ
アニスト=シンガーの姿が記録されている。それは鬼気迫る
とはちょっと違う、ある種の崇高とも言える姿が捉えられて
いる。僕自身が元々矢野の歌声が好きではあったが、さらに
惚れ直すといった感じの作品だった。公開は1月6日より、
新宿バルト9他にて、15日間限定ロードショウ。)
『RANMARU 神の舌を持つ男』
(2016年9月4日題名紹介『真田十勇士』や2015年『天空の
蜂』などの堤幸彦監督が、自らの原案でドラマ化したテレビ
シリーズの映画版。事前にハガキで製作告知が届き、そこに
は「テレビでの評判の悪さが判らない」旨の監督の思いが記
載されていた。その番組は僕は観ていないが、家人は第1回
で呆れて観るのを止めたそうだ。その映画版だが、多少出演
者にアクが強いかな。でも映画だとこれくらいはどうとない
が、その辺にギャップがあったのかもしれない。それと主人
公の能力が活かし切れていない感じなのは少しもったいない
気もした。公開は12月3日より、全国ロードショウ。)
『王様のためホログラム』“A Hologram for the King”
(2012年12月紹介『クラウド・アトラス』などのトム・ティ
クヴァ監督が、トム・ハンクスの主演で描いた中東の砂漠で
奮闘するIT企業の営業マンの物語。売り込むのは3Dホロ
グラムを応用したコミュニケーションシステムのようで、映
画の後半にはその実演シーンも登場する。ハンクスはいわゆ
る英雄役ではなく、久々の人間味たっぷりの男性で、その辺
も魅力の作品なのだろう。ただ僕自身が卒論でホログラムを
研究した者としては、実施装置の詳細が良く判らず、その辺
で違和感になってしまった。全く個人の問題だが…。公開は
2月10日より、全国ロードショウ。)
『なりゆきな魂、』
(最近では『64ロクヨン 前・後編』などメイジャー大作も
手掛ける瀬々敬久監督が、インディペンデントのスタンスで
作り上げた作品。元々は4年前に撮影し未完だった『魂』と
いう作品があり、そこに2015年に出版されたつげ忠雄の原作
『成り行き』を組み合わせて、全体をオムニバスで仕上げて
いる。その『魂』という作品は、夜行バスの事故を題材に、
その事故の遺族や、乗った人乗らなかった人が交錯する物語
で、さらにその立場が入れ替わるというファンタシーファン
には魅力的な作品。でも上手く纏まらなかったのかな。本作
では、それが観られたことでも価値がある。公開は1月28日
より、東京は渋谷ユーロスペースにてロードショウ。)
『ひるね姫』
(2017年3月18日に全国ロードショウとなるアニメーション
作品だが現状は未完成。しかし完成は公開間際となりそうだ
ということで、未完成状態の特別上映が行われた。同様のこ
とは以前に2009年7月紹介『サマーウォーズ』でも行われた
が、今回はさらに未完成状態が激しく、鑑賞できたのは人気
俳優たちによる台詞の音声と、画面はラフスケッチの齣撮り
だけという状態だった。でも物語は、夢世界と現実が交錯す
るファンタスティックなもので、そこに陰謀や冒険が織り込
まれた魅力的なもの。完成版を観たら是非とも紹介したいと
思ったものだ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。
なおこの週にはもう1本、11月23日封切りの大作も観ている
が、情報公開日が封切り日以降に設定されているので次回に
紹介する。


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井口健二