井口健二のOn the Production
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2016年11月13日(日) フィッシュマンの涙、エルストリー1976 新たなる希望が生まれた街

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『フィッシュマンの涙』“돌연변이”
突然魚人間に変身した若者を巡るドラマ作品。
主人公は、今ではテレビ局で「食レポ」番組を担当している
ディレクター。しかし彼の願いは数年前に国中の話題を席巻
したまま姿を消した「フィッシュマン」のドキュメンタリー
を纏めることだった。それは彼がテレビ局に入る切っ掛けに
なった題材だったのだ。
その数年前、地方大学出身の彼にとってテレビ局への就職は
夢のまた夢だった。ところが彼がネットで見つけた題材を持
ち込んだテレビ局がストの真っ最中で、彼は臨時雇いでその
題材を追うことになる。その番組は話題となり、彼は正採用
となるが、取材は局名を隠したまま続行された。
それはフィッシュマンを人気者に仕立て上げ、その一方で企
業の悪事を暴き、裁判や刑事事件など社会問題にまで発展す
る。しかしそのギャップがフィシュマンを追い詰め、遂には
最悪の事態を招いてしまったのだが…。

出演は、2005年2月紹介『オオカミの誘惑』などのイ・チョ
ニ、2015年『コンフェッション 友の告白』などのイ・グァ
ンス、それに2013年4月紹介『私のオオカミ少年』などのパ
ク・ボヨン。
脚本と監督は、韓国芸術総合学校出身で短編映画を手掛け、
2013年カンヌ国際映画祭短編部門のパルムドールを獲得した
“Safe”という作品の脚本を務めたクォン・オグァン。本作
はその長編監督第1作となる。
題材としては2002年4月紹介『パコダテ人』なども思い出す
が、女性らしいメルヘンで終る日本映画に対して韓国映画で
は流石に社会問題などにも深く切り込み、見応えのある作品
になっている。
ただフィッシュマンの造形が少し不気味かな。僕は少し前に
話題になった高知県のゆるキャラ「かつお人間」を思い出し
たが、後頭部の処理がそれなりになっているのは良かった。
しかも目や口の動きなどもかなりちゃんとしている。
という少し問題なキャラクターだが、それを補って余りある
のが、ヒロイン役のパク・ボヨンの存在だろう。かわいい顔
をしてかなり大胆なこともする。そんな現代っ子(死語か)
ぶりが魅力的だ。
そして結末は、それなりに有り勝ちなものではあるが、そこ
に至る切っ掛けには思わずニヤリとしてしまう工夫が凝らさ
れていて、この辺が韓国映画の巧みさのようにも感じさせら
れた。

公開は12月17日より、東京はシネマート新宿、ヒューマント
ラストシネマ渋谷他で、全国順次ロードショウとなる。

『エルストリー1976 新たなる希望が生まれた街』
                    “Elstree 1976”
世界的な大ヒットとなったSF映画の製作時の状況を伝える
ドキュメンタリー。
本作のタイトルだけ見て何のことか判らない人はこの作品の
観客としては不向きかもしれない。
それはロンドン郊外に在ったエルストリー撮影所での1976年
『スター・ウォーズ』第1作の製作時に関るものなのだが、
まあファンにしか興味を惹かないような話ばかりで、これは
ファン専用の作品と言えそうだ。
登場するのは撮影のエキストラに参加した人たちで、中には
ダース・ベーダーを演じたデイヴィッド・プロウズなどもい
るが、殆んどはグリードやビッグス・ダークライターなど、
ファンにか判らないようなキャラクターばかりなのだ。
しかしその人たちが伝える撮影の風景は、当時のジョージ・
ルーカス監督の姿などが活写され、それはニヤニヤしたり、
大笑いしたりなど、ファンには堪らない作品になっている。
特に監督との初対面の話はそうだろうなあと思わせる。
その他、公開版ではカットされてしまったプロローグの惑星
タトゥイーンのシーンは、その一部のフィルムが挿入され、
これはファンには貴重な映像にもなっている。これは本来な
らルーカスの宇宙への憧れを描いた重要なシーンだ。
また撮影当時の状況なども紹介され、彼らが参加するに至っ
た経緯や、異常な暑さでストーム・トルーパーのマスクを着
けているだけで大変だったという話には、自分もその撮影に
参加していた気分にもさせてくれた。
また彼らのその後の状況なども紹介され、本人が「エキスト
ラ程度なのにどうして?」と語る程のファンの熱狂ぶりや、
アピールし損ねてその後も長く下積みのままような人たちが
思いを語る。それは僕らの胸にも突き刺さる。
そしてそのような話がそれぞれの出演シーンと共に登場し、
そこにはその後の様々な映画のシーンもあって、ある種の映
画史的な興味もそそられる。特にスタンリー・クーブリック
やスティーヴ・リーヴスとの件はおお!と思わせた。
ただそれらのシーンのやらずもがな画面構成や、また巻頭の
語りだけのシーンはちょっとうざいかなとも思えるところも
あって、ファンはそこを耐えれば大いに楽しめるのだが…。
その辺でファン専用とも言いたくなるものだ。

公開は12月17日より、東京は新宿武蔵野館にてモーニング&
レイトショウ、他は大阪はシネマート心斎橋、愛知は名古屋
シネテークなどで、全国順次ロードショウとなる。

この週は他に
『キム・ソンダル 大河を売った詐欺師たち』
                    “봉이 김선달”
(17世紀の清に支配された朝鮮を舞台に、清の威光を着て庶
民を苦しめる役人を懲らすため立ち上がった詐欺師の物語。
その手口は奇想天外で壮大なものだった。実在したとされる
題名でもある詐欺師については、日本ではほとんど知られて
いないが韓国では有名な人物のようで、虚実を絡めたその物
語がVFXも駆使して描かれている。なお物語の結末の一部
はエンディングロールの中でも話が進むので、席は立たない
ように。公開は1月20日よりTOHOシネマズシャンテ他にて、
全国順次ロードショウ。)
『こころに剣士を』“Miekkailija”
(1950年代のソ連に支配されたエストニアで、戦時中ナチス
の兵士だったために秘密警察に追われる元フェンシング選手
の物語。本名を隠して教師となり、子供たちに競技を指導し
た主人公は、生徒の希望で全国大会に臨むことになる。しか
しそこには秘密警察の包囲網が待ち構えていた。2016年11月
5日付「東京国際映画祭」で紹介『ザ・ティーチャー』に続
いてソ連時代の衛星国での状況が描かれる。今後はこういう
作品が増えるのかな? 公開は12月24日より、東京はヒュー
マントラストシネマ有楽町他で、全国順次ロードショウ。)
『マグニフィセント・セブン』“The Magnificent Seven”
(2016年9月紹介『七人の侍』をハリウッドがリメイクした
1960年『荒野の七人』に、2001年『トレーニング・デイ』、
2014年『イコライザー』のデンゼル・ワシントン主演、アン
トワン・フークワ監督のコンビが挑戦した作品。物語はオリ
ジナルから少し違えて、『イコライザー』に出演ヘイリー・
ベネット扮するヒロインも活躍する作品になっている。闘い
のシーンも敵側に当時の最新兵器まで登場する大掛かりなも
のだ。公開は1月27日より、全国ロードショウ。)
『バンコクナイツ』
(2011年公開『サウダーヂ』が話題になったの富田克也監督
と脚本の相澤虎之助が、タイを主な舞台に描いた彼らの作品
の原点とも言える「娼婦、楽園」がテーマの物語。実は昨年
6月に製作発表イヴェントがあり、その際に彼らの意気込み
も聞いていた。その物語はバンコクの日本人向け歓楽街を舞
台に、そこに蠢く日本人男性やタイ人女性の姿が描かれる。
そして舞台はラオスにまで広がる壮大な物語が展開される。
公開は2月25日より、テアトル新宿にてロードショウ。)
『タンジェリン』“Tangerine”
(昨年の東京国際映画祭でも上映された全編iPhone5Sだけで
撮影したというロサンゼルスが舞台のストリートムーヴィ。
物語は出所したばかりの娼婦を中心に、彼女がいない間に浮
気をしていたらしい恋人を巡って、トランスジェンダーの娼
婦などが絡むもの。なおiPhoneでの撮影は素人俳優に負担を
掛けないための配慮だそうで、特別なアナモフィックレンズ
も使用されているそうだ。公開は1月下旬より、渋谷シアタ
ー・イメージフォーラム他にて全国順次ロードショウ。)
『ママ、ごはんまだ?』
(歌手の一青窈の姉で女優の一青妙が彼女らの母親を綴った
作品の映画化。台湾の実業家に見初められて海を渡り、台湾
料理をマスターしたという母親の姿とその料理の数々が紹介
される。中華ちまきや大根もちなど見るからに美味しそうな
料理ばかりで、空腹時に観ているのは結構辛かった。それと
同時に日本との関係の深かった台湾人の戦後の社会問題など
に触れられているのも良かった。公開は2月11日より、角川
シネマ新宿他にて、全国ロードショウ。)
『抗い』
(戦前の日本に徴用され、筑豊の炭田地帯で強制労働に従事
した朝鮮人の実態を追い続けている記録作家・林えいだいを
追ったドキュメンタリー。作家が追うのは戦前の富国強兵か
ら戦後の高度成長までを陰で支えた人々の真実。そこには僕
らが知りえなかったとんでもない事実が隠されていた。これ
には僕自身が居住まいを正す思いがしたものだ。ただ後半の
「さくら弾機」の問題に関しては取材に疑義があり、それを
どうしたものかちょっと悩んでいる。公開は1月下旬より、
渋谷シアター・イメージフォーラムにてロードショウ。)
『一週間フレンズ。』
(記憶障害を扱った葉月抹茶原作コミックスの映画化。アル
ツハイマーの絡みなどで最近よく目にする題材だが、安易に
扱うには重すぎるし、若年向けの作品でどう描けるか、観る
まではかなり不安だった。しかし作品は展開に捻りもあって
予想以上に良い出来と言える。しかも因果関係などもそれな
りに納得できるし、結末もこれなら了解できるものだ。いや
日本映画でここまでできるとは、正直、期待以上の作品だ。
公開は2月18日より、全国ロードショウ。)
『L−エル−』
(ロックアーティストのAcid Black Cherryが2015年に発表
したコンセプトアルバムの映画化。因にこの種の映画化は日
本初だそうだ。物語は色のない街で生れた少女が数奇な運命
に翻弄されて行く姿を描く。主演は2016年3月紹介『探偵ミ
タライの事件簿』などの広瀬アリス。監督は2014年5月紹介
『キカイダー REBOOT』などの下山天。シーンのほとんどが
合成という作品だが、物語にもう少しメリハリが欲しかった
かな。公開は11月25日より、全国ロードショウ。)
『パリ、恋人たちの影』“L'ombre des femmes”
(2012年5月紹介『愛の残像』『灼熱の肌』などのフィリッ
プ・ガレル監督による2015年の作品。ドキュメンタリー映画
の製作のため元レジスタンスに取材する映画監督と彼を支え
る妻。しかし監督はふと知り合った若い女性に惹かれ、その
気配を感じた妻も不倫に走ってしまう。モノクロで上映時間
は73分。実に簡潔に纏められた作品で、しかも本質をしっか
り突いているのは見事だ。公開は1月21日より、渋谷シアタ
ー・イメージフォーラム他にて、全国順次ロードショウ。)
『愛を歌う花』“해어화”
(1940年代、レコード文化の普及が生み出す韓国大衆芸能。
その中で妓生でありながら有能な作曲家によって人気歌手に
なろうとしていた女性が、日本軍の弾圧によってその運命を
翻弄される。ステレオタイプの日本軍人の姿は置くとして、
当時の京城府の様子などが見事に再現された作品。出演は、
2012年12月紹介『王になった男』などのハン・ヒョンジュ、
2013年4月紹介『私のオオカミ少年』などのユ・ソンヨク。
監督は2005年4月紹介『初恋のアルバム』などのパク・フン
シク。公開は1月7日より、シネマート新宿、シネマート心
斎橋ほかでロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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