井口健二のOn the Production
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2016年10月23日(日) 「沈黙−サイレンス−」記者会見、ジャック・リーチャー NEVER GO BACK

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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「沈黙−サイレンス−」記者会見
2017年1月21日の日本公開が決定したマーティン・スコセッ
シ監督の最新作について約15分間のフッテージ上映を含めた
記者会見が行われた。
作品は、遠藤周作が1966年に発表した長編小説を映画化する
もので、スコセッシは1988年公開の『最後の誘惑』の映画化
を進めていた際に、ニューヨークで会ったキリスト教関係者
から原作を紹介され、以来映画化の夢を抱き続けていたのだ
そうだ。
物語は17世紀、江戸時代の初期のキリスト教弾圧の行われた
日本を舞台に、死罪を免れるために棄教したとされる司祭の
真意を求めて日本に潜入した2人の若い司祭の行動が描かれ
る。そこで彼らは異文化と出遭い、その中で自らの信教が試
されることになる。

出演は、2012年6月紹介『アメイジング・スパイダーマン』
などのアンドリュー・ガーフィールド、2015年公開『SW
フォースの覚醒』などのアダム・ドライヴァ、それにリーア
ム・ニースン。さらに日本側から窪塚洋介、浅野忠信、イッ
セー尾形、塚本晋也、小松菜奈らが共演している。
上映されたフッテージに関してはまだ未完成ということで、
詳しい紹介は出来ないものだが、公開された4つのシーンは
いずれも日本人俳優が絡むもので、中にはかなり激烈なもの
もあり、本編への期待が膨らむ映像が紹介された。特に塚本
のシーンは強烈だった。
なお紹介されたシーンの多くは日本人と司祭との会話シーン
だが、その殆んどが英語だった。ここは本来ならポルトガル
語のはずだが、ハリウッド映画という形態の性質上、これは
仕方がない。場面中にはなぜ日本語でないのかという歴史的
な説明もされていた。

また会見では、映画化の実現に30年近くも掛った経緯につい
てもスコセッシの口から語られた。その中で2009年にはかな
りの線まで行っていたことが伺われた。この当時のことに関
しては、僕自身がこのページで、2006年3月15日付や2007年
3月15日付などでも書いていたものだ。
そこでは、プラッド・ピットとジョニー・デップの共演など
という話もあったものだが、その頓挫の理由についてスコセ
ッシは「権利関係がややこしくなっていた」とだけ語ってい
た。まあ当時の状況から考えるとハリウッドの2社での綱引
きがあったとも考えられる。
因に今回の製作は、イタリアやメキシコなど多国籍のプロダ
クションの共同製作の形で行われている。またアカデミー賞
狙いで年内に行われるアメリカの公開はパラマウントが担当
しているが、同社は直接的な制作会社の中には入っていない
ようだ。
さらに会見に同席した浅野からは、撮影が全てフィルムで行
われたことも証言され、本作への本気ぶりが伺われた。なお
浅野は窪塚が演じた役でオーディションを受けたようだが、
スコセッシから論理性のある役柄が合っていると見抜かれて
現在の役を得たそうだ。
また全編が台湾で行われた撮影では、村を丸ごと建築するな
どの大掛かりなことも行われたようだ。フッテージでは植生
が少し南方かなとも感じたが、自然の背景を求めるとこれも
仕方がないのだろう。物語の背景も九州辺りで良いのだから
これでも問題はない。

以上、本編を観たらまた紹介すると思う作品だ。

『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』
            “Jack Reacher: Never Go Back”
2013年1月紹介『アウトロー』の続編。同作で新たな主人公
に挑戦したトム・クルーズが再びその役を演じる。そして監
督には、2003年11月紹介『ラストサムライ』で組んで以来の
エドワード・ズウィックが起用された。
プロローグの後、映画はリーチャーが以前の所属部署だった
軍警察のターナー少佐に連絡を取る所から始まる。そこで少
佐が女性であることを知ったリーチャーは会ってみることに
するが、ワシントンDCの本部を訪ねたリーチャーは少佐が
逮捕されたことを告げられる。
そこでリーチャーは少佐の弁護担当者を探り出し、面会した
リーチャーは事態の流れに不信感を抱く。一方、リーチャー
は娘の養育費の問題で訴えられていることも告げられ、その
娘に会うことも試みるが…。リーチャーの会った相手が次々
に殺され、リーチャーにその嫌疑が掛けられる。
斯くして、軍関連企業と軍上層部の癒着に関る大きな疑惑が
リーチャーの前に出現し、それを巡ってターナー少佐やリー
チャーの娘をも巻き込んだ物語が展開される。

共演は、2012年6月紹介『アベンジャーズ』に出演のコビー
・スマイルダーズ、2015年『ストレイト・アウタ・コンプト
ン』などのオルディス・ホッジ、ダンサー出身で多くの舞台
にも立っているダニカ・ヤロッシュだが、比較的著名でない
俳優が多いようだ。
脚本は、監督のズウィックと彼の盟友であるマーシャル・ハ
ースコヴィッツ、それに2012年9月紹介『エクスペンダブル
ズ2』などのリチャード・ウェンクが加わっている。ズウィ
ックの監督歴では比較的文芸的な作品が多いと思うが、本作
のアクションはウェンクが支えたのだろうか。
因に、リー・チャイルドの原作ではジャック・リーチャーの
シリーズは既刊21冊を数えるもので、前作『アウトロー』は
その第9巻、そして本作は第18巻となるものだ。そこで英語
版のWikipediaでこの原作をチェックすると、物語の概要は
そこに載っているものと一致するようだ。
ただし原作ではターナー少佐はすでに第14巻と第15巻でも登
場しているそうで、映画の最初の方でリーチャーが少佐を女
性と知って驚くそぶりをするのは、ちょっと原作とは違えら
れている。その第14巻は「61時間」という邦題で翻訳も出て
いるようなので、チェックすると面白そうだ。

公開は11月11日より、東京はTOHOシネマズ新宿、新宿ピカデ
リー、新宿バルト9他で、全国ロードショウとなる。

この週は他に
『浅草 筑波の喜久次郎 浅草六区を創った筑波人』
(昭和の前半まで隆盛を誇った浅草六区の基礎を築いたとさ
れる筑波出身の侠客を描いたドラマ作品。SF仕立にしてく
れたのは良いのだが、ちょっと中途半端で却って夾雑な感じ
になってしまっている。それよりもっと本人の行動を詳細に
描いて欲しかった。でもそれをすると多分製作費が膨大にな
ったのだろう。これはこれで人物の紹介にはなっているのだ
が…。公開は12月3日より、全国順次ロードショウ。)
『After 10 Years』
(2004年のスマトラ沖地震で甚大な被害を受けたスリランカ
のホテルの10年後を写真家のホンマタカシが撮影した作品。
後半には多少地震のことも描かれるが、ほとんどはホテルの
日常を撮影したもので、無事10年を迎えたということでは、
関係者にとっては良いのだろうが、それが観客には伝わって
こない。紹介されるいくつかの証言はそれなりだが…。公開
は、2016年11月末渋谷イメージフォーラムにて。)
『ミルピエ パリ・オペラ座に挑んだ男』“Relève”
(映画「ブラック・スワン」の振付師で、ナタリー・ポート
マンの夫のバンジャマン・ミルピエの、パリ・オペラ座への
挑戦を追ったドキュメンタリー。史上最年少の芸術監督とし
て新作を手掛けながら、350年の歴史を持つ劇場の伝統や慣
習との対峙が描かれる。ただその対峙の部分は微妙で、新作
の創作ノートのような場面が多い。それはファンには貴重な
ものだろうが…。公開は12月23日より、渋谷Bunkamura ル・
シネマにてロードショウ。)
を観たが全部は紹介できなかった。申し訳ない。

なお今週はこの他に東京国際映画祭の事前試写も行われ、
コンペティション作品6本など全部で8本を鑑賞したが、
その報告は映画祭終了後に纏めて行う予定だ。


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井口健二