井口健二のOn the Production
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2016年10月16日(日) インフェルノ、俺たち文化系プロレスDDT

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『インフェルノ』“Inferno”
2006年5月紹介『ダ・ヴィンチ・コード』、2009年5月紹介
『天使と悪魔』に続くダン・ブラウン原作、ロバート・ラン
グドン教授シリーズの映画化第3弾。
巻頭で追い詰められた男の投身のシーンがあり、やがてその
男が人類滅亡の鍵を握ったまま死亡したことが判る。一方、
ラングドンは負傷して病院で目覚めるが、彼にはその記憶が
ない。しかもボストンの大学にいたはずが、病院の所在地は
イタリアのフィレンツェだった。
さらにそこに刺客が現れ、彼は主治医の女性医師と共に辛く
も病院を脱出する。そしてその間の彼の脳裡には、終末か地
獄を思わせる幻想が付き纏っていた。そこから人類への災厄
まで24時間の期限の中で、ラングドンにしか叶わない鍵の解
明と災厄阻止の任務が発動する。

出演は3作通して主人公ラングドン教授を演じるトム・ハン
クスと、今回の相手役には2013年2月紹介『ヒステリア』な
どのフェリシティ・ジョーンズ。
他に、2013年2月紹介『アンタッチャブルズ』などのオマー
ル・シー、2009年1月紹介『スラムドッグ$ミリオネア』な
どのイルファン・カーン、2007年8月紹介『アフター・ウェ
ディング』などのシセ・バベット・クヌッセン、2016年5月
29日に題名紹介『疑惑のチャンピオン』などのベン・フォス
ターらが脇を固めている。
監督も3作通してのロン・ハワード、脚本は『天使と悪魔』
に続いてのデヴィッド・コープ、音楽は3作通してのハンス
・ジマーが担当している。
『天使と悪魔』の紹介の時にも書いたが、『ダ・ヴィンチ・
コード』は原作の第1作ではなく順番が入れ替わっていた。
そして本作に関しては原作の第4作で、これの前に2009年に
刊行の『ロスト・シンボル』があるものだ。
この要領で行くと、この後に『ロスト・シンボル』も映画化
されるのかな? ただしこの作品はフリーメイソンを扱って
いるからいろいろ障害があるのかもしれない。いずれにして
もヴァチカンを敵に回したり、大変なシリーズだ。
ただまあ、『ダ・ヴィンチ・コード』が大話題作になってし
まったために、どうしてもその続きには同じテイストを期待
してしまうのだが、あの謎解きはあまりにも見事なもので、
それに匹敵するものはなかなか難しい。
それに対して本作では、実にしょうもないことを知っている
ラングドンのオタクぶりが楽しめるもので、それが薀蓄によ
る謎解きとは一味違う面白さになっている。その辺が知人に
そういう感じの人物の多い自分としては楽しめた。
その点で自分的には好ましい作品だった。

公開は10月29日より、全国ロードショウとなる。

『俺たち文化系プロレスDDT』
試合前にパワーポイントを使って見所をプレゼンテーション
するなど、異色の興行を行っているプロレス団体、DDTの
現在を追ったドキュメンタリー。
DDTは1997年に選手3人で設立された新興の団体だったが
徐々に規模を拡大し、今では盟主とされる新日本プロレスに
次ぐ団体になっているのだそうだ。その興行には上記のプレ
ゼンテーションのような少し変った演出が施され、故に文化
系とも称されている。
その文化系の演出を担っているのが、本作の監督でもあるマ
ッスル坂井。彼は早稲田大学シネマ研究会出身で、映像班と
してDDTに参加した後にレスラーとなった。そして家業を
継ぐために一旦は引退したものの、社長業の傍らパートタイ
ムのレスラーとして復帰したのだそうだ。
そんな彼が社長業で培ったパワーポイントを駆使した試合前
のプレゼンテーションを行ったり、さらに試合のシナリオも
作成して興行を盛り上げている様子。また、DDTの試合や
舞台裏の状況が描かれる。そこには新興団体ならでは仲間と
の繋がりみたいなものもあるようだ。
そして本作では、マッスル坂井が仕掛ける新日本プロレスか
ら棚橋弘至選手を招いての、DDT所属HARASHIMA選手との
対戦が描かれる。それは先に行われた交流戦で惨敗を喫した
HARASHIMA選手の思いに応える企画でもあった。しかしその
シナリオがなかなか完成しなかった。

監督は選手でもあるマッスル坂井と、2006年3月紹介『セキ
★ララ』などの松江哲明。坂井は2014年に『劇場版プロレス
キャノンボール2014』という作品を発表しており、本作が第
2作。松江は2012年10月「東京国際映画祭」で紹介『フラッ
シュバックメモリーズ 3D』以来の長編作品となる。
作中に描かれるプロレスにシナリオがあることに関しては、
予想はしていたものだが、本作ではそこから真剣勝負に至る
様子も理解できた。観客のどこまでがそれを理解しているの
かは知らないが、これはこれでエンターテインメントとして
成立するものだろう。
ただ棚橋選手とDDTの選手との実力の差は素人目にも歴然
としていたもので、それも理解してこの結果を受け入れるの
は、その後の流れを考慮してもなかなか納得が難しい。でも
まあそれに歓声が上がっているのだから、観客はそれで良し
としているのだろう。深い世界だ。
一方、松江監督に関しては、2012年の作品は映画祭の観客賞
を受賞し興行もヒットしたようだが、上記の紹介を読んで貰
えば判るように僕には納得の出来ない作品だった。それは明
らかに松江監督の作品ではない部分が多くあるように観えた
からに他ならない。
その点で言うと、本作に関しても坂井監督による部分も多く
あると思われるが、そこに織り込まれるマッスル坂井に関す
る部分が松江監督らしさを感じさせ、これなら松江作品と認
められると思えた。他にもいろいろな思いが伝わってくる感
じもする作品だ。

公開は11月26日より、東京は新宿バルト9他にて、全国順次
ロードショウとなる。

この週は他に
『島々清しゃ』
(沖縄県慶良間諸島を舞台に、音感が良すぎて周囲に溶け込
めない少女と、その島に演奏にやってきたヴァイオリニスト
との交流を描く。少女は音程の狂いから米軍機の墜落も予測
できる。沖縄音階の民謡もふんだんに取り込まれ、ジャズと
のコラボレーションなども面白いが、お話としては有り勝ち
かな。2005年12月紹介『転がれ!たま子』などの新藤風監督
による11年ぶりの作品。公開は2017年新春第2弾としてテア
トル新宿他にて、全国ロードショウ。)
『聖の青春』
(今年の東京国際映画祭でクロージングを飾る作品。1998年
に29歳で早世した将棋界の「西の怪童」村山聖の生涯を松山
ケンイチの主演で映画化。病魔と闘いながら名人位を争った
羽生善治との闘いなど名勝負が再現される。実話だから仕方
がないが、クライマックスの勝負のシーンが苦悶の表情ばか
りなのは息苦しい。観客も彼の苦闘を追体験することにはな
るが…。棋譜の紹介などに何か工夫があっても良かったので
はないか。公開は11月19日より、全国ロードショウ。)
『胸騒ぎのシチリア』“A Bigger Splash”
(声帯を痛めて医者から喋りを禁止され、再婚した年下の男
性と共に島のリゾートで静養する女性ロッカーの許に、元の
亭主が娘を連れてやってくる。元亭主は彼女に未練があり、
現亭主は若い女性の色香に迷いだす。何と言うか下世話な話
が地中海を背景に繰り広げられるが…。上映時間2時間5分
たっぷりで、観終って何とも言えない雰囲気にさせられる作
品だった。公開は11月19日より、新宿ピカデリー他にて、全
国ロードショウ。)
『変態だ』
(2009年4月紹介『色即ぜねれいしょん』などの原作者みう
らじゅんが「小説新潮」に発表した原作を、自らの企画・脚
本、イラストレーターの安齋肇の初監督により映画化した作
品。何と言うか題名通りの作品で、売れないミュージシャン
が糟糠の妻とスポンサーの女性との三角関係に陥る話だが、
強いて述べるほどの物語はなく、雪山でのSMプレイなどが
繰り広げられる。公開は12月10日より、新宿ピカデリー他に
て、全国順次ロードショウ。)
『ソーセージ・パーティー』“Sausage Party”
(2011年9月紹介『50/50 フィフティー・フィフティー』な
どのセス・ローゲンが製作原案脚本主演を務めるR15+指定の
CGIアニメーション。スーパーマーケットの食品売り場に
並ぶソーセージの主人公が、いろいろな妄想を膨らませなが
ら恐ろしい現実に目覚めて行く姿が描かれる。『トイ・スト
ーリー』の食品版といった感じだが、ソーセージには洋の東
西を問わず同様のイメージがあるようで…。公開は11月4日
より、全国ロードショウ。)
『いたくても いたくても』
(「恋はさんかく、リングはしかく」という惹句で、恋愛と
プロレスを絡めた物語。東京藝術大学大学院映像研究科の製
作配給によるもので、同様の形態では2013年12月に『神奈川
芸術大学映像科研究室』という作品も紹介しているが、前作
も今回も物足りなさが残る。三角関係を描くなら相手の側も
ちゃんと描き込んで欲しかったかな。それなりの描写はされ
ているが、バランスが良くない感じがした。公開は12月3日
より、渋谷ユーロスペースにてレイトショウ。)
『太陽の下で−真実の北朝鮮−』“V paprscích slunce”
(ロシア出身のドキュメンタリー作家が、北朝鮮の平壌に暮
らす8歳の少女を1年に亙って取材した作品。脚本などは事
前検閲を受けているが撮影素材は自由に持ち出せたようで、
リアルな北朝鮮の日常が描かれている。北朝鮮の要請を受け
たロシア政府は監督への非難と上映禁止処分を出したが、各
国の映画祭での上映はされたようだ。公開は2017年1月21日
より、シネマート新宿他にて、全国順次ロードショウ。)
『郵便配達は二度ベルを鳴らす』“Ossessione”
(没後40年を迎えるルキノ・ヴィスコンティ監督の初期3作
がディジタルリマスターされて再公開される。その内の本作
は監督のデビュー作だが、オリジナルの141分版は損傷の激
しいフィルムしか現存せず、本作は状態の良いフィルムと近
年発見されたオリジナルネガから修復された現状ではベスト
のものだそうだ。全てロケーションによるネオリアリズムの
原点が観られる。公開は2017年1月7日より、新宿武蔵野館
にて限定ロードショウ。)
なお同館では、12月24日より『若者のすべて』“Rocco e i
suoi fratelli”と、2017年1月21日からは『揺れる大地』
“La terra trema”も、それぞれ2週間ずつ限定でのロード
ショウとなる。
『ブラック・ファイル 野心の代償』“Misconduct”
(ニューオーリンズを舞台に、巨大製薬会社の薬害問題を追
及する若き弁護士の姿を追った作品。2011年7月紹介『トラ
ンスフォーマー/ダークサイド・ムーン』などのジョシュ・
デュアメル主演で、アル・パチーノ、アンソニー・ホプキン
ス、イ・ビョウンホンらが脇を固める。監督は2004年『THE
JUON呪怨』などの製作を手掛けたシンタロウ・シモサワによ
る長編デビュー作。公開は2017年1月7日より、新宿ピカデ
リー他にて、全国ロードショウ。)
『31』“31”
(2013年9月紹介『ロード・オブ・セイラム』などのロブ・
ゾンビ監督によるハロウィンがテーマのスラッシャー作品。
町中に妖怪が溢れる夜、廃墟に拉致された5人の男女が、命
を賭けた12時間の脱出ゲームに挑む。脇役にジュディ・ギー
スンやマルカム・マクダウェルなど往年のスターが顔を揃え
ている。好きな人には堪らない作品だが、前半が少し飛ばし
過ぎで、後半が失速気味かな。11月22日より新宿シネマカリ
テ他、全国順次ロードショウ。)
を観たが全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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