井口健二のOn the Production
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2016年10月09日(日) 造られた殺人、MICメン・イン・キャット、オー・マイ・ゼット!

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『造られた殺人』“특종: 량첸살인기”
2014年公開『観相師』などのチョ・ジョンソク、2011年5月
紹介『鯨とり−ナドヤカンダ−』などのイ・ミスク、2012年
11月紹介『R2Bリターン・トゥ・ベース』などのイ・ハナ
共演で、連続殺人犯を追う事件記者を描いた韓国映画。
物語の発端で、主人公はある企業のスキャンダルをスクープ
するが、その会社が自社のスポンサーであった事から仕事を
失ってしまう。そこでふと主人公は、未解決の連続殺人事件
のタレこみ情報を思い出し、その現場に行ってみる。
そこは半地下のアパートで、近くには殺人現場で目撃された
と同じ赤い乗用車も駐車していた。そして部屋に潜入した主
人公は、暗闇の中で1枚のメモ用紙を手に入れる。それには
殺人者の告白と思われる文章が記載されていた。
そのメモ用紙をテレビ局に売り込み、報道番組に出演した主
人公は事件記者として華々しい復活を遂げるのだが…。それ
はとんでもない事態に彼を追い込むことになってしまう。果
たして彼の報道は誤報だったのか?

さらに共演者では、2013年5月紹介『殺人の告白』などのペ
・ソンウ、『観相師』などのキム・ウィソン、ドラマ『ミセ
ン〜未生〜』などのキム・デミョンらが脇を固めている。
脚本と監督は、2013年デビュー作で上海国際映画祭のアジア
新人作品賞を受賞し、さらに同年の女性映画人賞、監督賞を
受賞したノ・ドク。デビュー作は恋愛映画だが、ストーリー
とキャラクターが共感を呼び評価されたそうだ。
そして本作は、2003年に構想し、2008年から脚本を書き始め
たというもので、発端は有り勝ちな連続殺人事件の追及なが
ら、スクープから誤報、さらには意外な展開…と、緻密な構
成で観客を引き込んで行く。
特に離婚し掛っている主人公と妻との関係という、普通なら
うざくなるサブストーリーを見事に成立させ、また主人公の
女性上司の存在など、これは女性監督ならではと思わせる。
それを男性にも納得できるように描いている。
実は前回題名紹介の『ミュージアム』では、そのようなサブ
ストーリーをほぼ排除して、犯人捜査の推理に重きを置いて
いる。それは推理の点では日本映画に軍配を上げるものの、
本作には大人の映画の楽しみがあるようにも感じられた。
さらに結末には、おや?と思わせる仕掛けも用意してあり、
これは全く一筋縄ではいかない作品に仕上げている。これは
観客への挑戦状とも言える、正に大胆な作品だ。

公開は11月19日より、東京はシネマート新宿、大阪はシネマ
ート心斎橋、愛知はイオンシネマ名古屋茶屋他で、全国順次
ロードショウとなる。

『MICメン・イン・キャット』“Nine Lives”
2012年5月紹介『MIB3』などのバリー・ソネンフェルド
監督が、2013年8月紹介『ハウス・オブ・カード』などのケ
ヴィン・スペイシーを主演に迎えたファンタシー作品。
スペイシーが演じるのは一代で財を成したワンマン経営者。
部下には厳しいがやることは破天荒で、今は本社を移すため
ニューヨークに建てた北米大陸一の高さを誇るビルにご執心
だ。ところが、その落成式を目前にしてシカゴにもっと高い
ビルの建つことが判明する。
一方、社内には社長のやり方に反発するグループも存在し、
彼らは株式を公開して社長の発言力を弱める計画を進めてい
た。そんなことは知らず、社長は愛娘の誕生日のプレゼント
に、好きでもない猫を買うため偶然見かけたペットショップ
を訪れる。
そこで不細工な猫を購入した社長は帰路に就くが、その途中
で反対派の部下に新社屋の屋上に呼び出される。そこで部下
と言い争いになり、部下をクビにしようとした瞬間、落雷の
直撃に遭い社長と猫の身体が入れ替わってしまう。しかも社
長の身体は昏睡状態に…。
この事態に部下は計画を推し進めようとし、猫の姿でその陰
謀を知った社長は、人間の言葉も喋れない猫の姿のままその
阻止に乗り出す。しかしそれは簡単に出来るものではなく、
部下の計画は着々と進行。そこに社長の息子も加わり、事態
は思わぬ方向に展開する。

共演は、2010年1月紹介『バレンタインデー』などのジェニ
ファー・ガーナー、2016年8月紹介『ジャングル・ブック』
では声優を務めていたクリストファー・ウォーケン。
因に、本作でスペイシーの役名のトムと、ウォーケンの役名
のフェリックスは、いずれも著名な猫のキャラクターの名前
だが、調べたらガーナーの役名のララにも猫のキャラクター
がいるようだ。そんなことにも拘っている作品だ。
主演はスペイシーだが、実は作中のかなりの部分は昏睡状態
で病床に寝たまま。替わって大活躍するのが6匹で演じられ
たという猫。CGIも使われていると思うが、エンディング
ロールのスタッフ欄の先頭には、2人のアニマルトレーナー
の名前が掲げられ、特別の敬意が表されていた。
なおウォーケン扮するフェリックスが自分を紹介するときに
cat whispererという言葉を使っていた。これには1998年の
ロバート・レッドフォード監督作品『モンタナの風に抱かれ
て』の原題“The Horse Whisperer”を思い出した。
字幕では「トレーナー」となっていて、それも誤りではない
が、少しニュアンスを感じたいところだ。

2016年6月紹介『ペット』は見事に犬好きを納得させる作品
だったが、本作では猫好きが大喜びしそうだ。僕自身、子供
の頃に猫を飼っていた経験もあるので、その目で観ていても
これは堪らない作品だ。
公開は11月25日より、全国ロードショウとなる。

『オー・マイ・ゼット!』
予告編ディレクターとして100作品以上の洋邦画を手掛けて
きたという神本忠弘監督による本編デビュー作。
背景はゾンビ禍が終息した世界。そこに久し振りにゾンビが
現れる。そして1人の若者がそのゾンビを一軒の民家に閉じ
込めることに成功するが…。その民家の住人や他にもゾンビ
を追ってきた男女などが登場し、ゾンビを巡って人々の思惑
が交錯する。
警察に通報すれば即殺処分という状況下で、そのゾンビを利
用して一儲け企む連中や、逆にゾンビに愛情を注ごうとする
人など。何たって事件の起こった場所の地名が露目路町とい
うくらいで、見事にジョージ・A・ロメロ監督にリスペクト
した物語が展開される。

出演は、お笑いトリオ“東京03”の角田晃広、2012年6月
紹介『ハイザイ〜神さまの言うとおり〜』などのともさかり
え、2013年12月紹介『ハロー!純一』などの森下能幸、同年
4月紹介『俺俺』などの町田マリー。
それにジュノンボーイ出身の柾木玲弥と、8月21日題名紹介
『オケ老人』などの萩原利久。他に声の出演で、玄田哲章、
間宮くるみら。
ゾンビと日常が並立する世界ということでは、2014年に放送
された『玉川区役所 OF THE DEAD』などもあるが、本作の場
合はゾンビ自体はあまり登場せず。主にその取り扱いを巡る
論議を描くというのは、案外日本的な感じもするものだ。
しかもほとんどのシーンが屋内の一室で進む会話劇で、これ
は事前に舞台劇でもあるのかと思ったが、本作は映画オリジ
ナルのようだ。それにしてもかなり巧みな展開には、舞台公
演で練り上げられた雰囲気もあった。
僕自身がゾンビものは好きなジャンルではあるが、近年の走
り回るゾンビなどはパロディとしても面白くは感じない。そ
の点で言ってもロメロ・ゾンビを丁寧に再現した本作は気に
入った作品だ。
といっても、ロメロ自身は常々死者に対するリスペクトを説
いているものだが、本作にそれはあまり感じられないかな?
しかしそれ以上に人間の酷さが描けており、これも有りだろ
うとは思えるところだ。

公開は11月5日より、東京はシネマート新宿、大阪はシネマ
ート心斎橋にて、1週間限定レイトショウとなる。
その他の公開予定が発表されておらず、そのままDVDにな
るのかもしれないが、出来れば映画館で観て欲しい作品だ。
また舞台劇にしてさらに完成度を高めて欲しいとも思える。
いずれにしてもこの監督には注目したい。

この週は他に
『貌切り』
(1937年に起きた映画スター林長二郎に対する貌切り事件を
モティーフに、その事件を映画化しようとする監督らの企画
会議を描く舞台劇。さらにその中で行われるスタニスラフス
キーの演技論に基づくロールプレイと、それによる謎解きと
いう多層構造の作品。台詞の応酬が演劇の面白さを堪能させ
てくれる。公開は12月3日より新宿K's cinema、12月10日よ
り名古屋シネマスコーレ他、全国順次ロードショウ。)
『ハッピーログイン』“좋아해줘”
(韓国映画お得意のラヴコメだが、それぞれの条件が異なる
3組の男女のエピソードを独立、且つ、少し交差させて実に
巧みに描き込んでいる。有り勝ちな話だが捻り方が上手い。
チェ・ジウ、ユ・アイン、カン・ハヌル、イ・ミヨン、キム
・ジュヒョク、イ・ソムという各世代の代表とも言える韓流
スターの共演も魅力的だ。公開は10月15日より、東京は新宿
バルト9、大阪は梅田ブルク7などで限定ロードショウ。)
『ミラノ・スカラ座 魅惑の神殿』
   “Teatro alla scala il tempio delle meraviglie”
(18世紀に設立され、世界三大オペラハウスの一つとされる
劇場を描いたドキュメンタリー。2014/15年シーズンの幕開
け準備の様子を追いながら、ルキノ・ヴィスコンティ演出の
『椿姫』におけるマリア・カラスの名演の映像なども挿入さ
れ、その偉大な歴史が手際よく纏められている。1946年の再
開時の映像も貴重だ。公開は12月23日より、渋谷Bunkamura
ル・シネマ他にて、全国順次ロードショウ。)
『幸せなひとりぼっち』“En man som heter Ove”
(本国スウェーデンでは『フォースの覚醒』を抑えたという
ハートフルコメディ。妻に先立たれた壮年男性が、自らの行
く末を考えつつ周囲の問題に関って行く。ルールに厳格な様
子や国産車への拘りなど、頑固おやじの典型のような姿は、
日本でも共感を呼ぶかな。外国人の存在や介護の問題は日本
社会も直面している話題だが…。公開は12月17日より、新宿
シネマカリテ他にて、全国順次ロードショウ。)
『グレート・ミュージアム ハプスブルク家からの招待状』
                 “Das Grosse Museum”
(1891年開館というウィーンにある「美術史博物館」。その
栄華を極める建物が、2012年から2年に亙って行った大規模
な改修工事に密着したドキュメンタリー。建物の改修だけで
なく、並行して行われた所蔵品の修復の様子なども紹介され
る。過去の修復で失われた下絵の話なども興味深い。『バベ
ルの塔』の処遇も気になった。公開は11月26日より、ヒュー
マントラストシネマ有楽町他で、全国順次ロードショウ。)
『この世界の片隅に』
(2007年4月紹介『夕凪の街 桜の国』などのこうの史代が
2007〜09年に発表した漫画賞受賞作によるアニメーション。
昭和19〜20年の呉市を主な背景に、広島市から嫁いだ女性の
戦時下の日常が描かれる。トンネルを通る蒸気機関車など、
細かな描写が続く中、昭和20年8月6日に向けて進む日付が
緊張感を高める。クラウドファンディングにより製作された
作品で、公開は11月12日より全国ロードショウ。)
『疾風スプリンター』“破風”
(台湾で盛んに行われているという自転車ロードレースを描
いた作品。台湾各地や世界中で行われるレースの様子が、大
掛りなロケーションにより美しい景色と共に描かれる。ただ
競技のルールが以前に観た日本のレースとは異なるようで、
その辺が少し気になった。本作の方が単純で明快ではあるの
だが…。公開は2017年1月、東京は新宿武蔵野館他で、全国
ロードショウ。)
『マックス・スティール』“Max Steel”
(バービー人形などで有名なMattel社が1997年から展開して
いる男児向けシリーズに基づくアクション作品。父亡き後、
母と共に各地を転々としていた主人公が故郷に帰ってきたと
き、父の務めていた研究所で謎の事故が発生する。先にアニ
メシリーズもあるようだが、本作はその誕生篇、ここからの
展開が面白くなりそうだ。公開は12月3日より、東京は池袋
HUMAXシネマズ他で、全国ロードショウ。)
『太陽を掴め』
(園子温監督らを輩出した「東京学生映画祭」でグランプリ
を受賞した中村祐太郎監督による劇場デビュー作。元子役だ
がスキャンダルで挫折した若者がミュージシャンとして再起
を図る。大麻の吸引シーンなどが無批判に描かれ、僕は単純
に認める作品とは言えないが、今年の東京国際映画祭「日本
映画スプラッシュ部門」に招待されている。公開は12月24日
より、東京はテアトル新宿他で、全国順次ロードショウ。)
『愚行録』
(東北大学卒業後、ポーランド国立映画大学で学んだという
石川慶監督の長編デビュー作。貫井徳郎による2006年直木賞
候補作の映画化。一家惨殺事件を追う雑誌記者と、我が子の
虐待死容疑で収監されているその妹。さらに惨殺事件の調査
の過程で浮かび上がる様々な人物の「愚行」が、現代に有り
勝ちな話として描かれる。公開は2017年2月18日より、全国
ロードショウ。)
を観たが全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二