井口健二のOn the Production
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2016年09月04日(日) シークレット・オブ・モンスター、ある戦争、デスノート Light up the NEW world

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『シークレット・オブ・モンスター』
       “The Childhood of a Leader”
2012年11月紹介『マーサ、あるいはマーシー・メイ』などに
出演の俳優ブラディ・コーベットによる初長編監督作品で、
脚本も執筆したコーベットは、2015年のヴェネツィア映画祭
にて新人監督賞及びオリゾンティ部門の脚本賞を受賞した。
物語の背景は1919年。登場するのは世界大戦の休戦を受ける
パリ講和会議に派遣されたアメリカ代表団一員の家族。妻が
フランス語に堪能なため夫が代表団に加わった一家は、幼い
息子と共にパリ郊外の邸宅に滞在することになる。
ところがその直後から息子が奇妙な行動をとり始める。それ
は単に反抗期と言えるものではなかった。そしてその行動は
徐々にエスカレートして行き…。

出演は、2012年2月紹介『アーティスト』でオスカー候補に
なったベレニス・ベジョ、2016年5月紹介『ハイ・ライズ』
などのステイシー・マーティン、2010年4月紹介『タイタン
の戦い』などのリーアム・カニンガム。それに、2013年2月
紹介『コズモポリス』などのロバート・パティンスンと、新
人のトム・スウィート。
また本作の音楽は、元ウォーカー・ブラザースのスコット・
ウォーカーが担当しているが、映画の始まりから引き摺り込
まれるような音楽演出で、さらに重厚かつアヴァンギャルド
な楽曲は本作の緊張感を見事に高める効果を上げている。
コーベットは脚本について、フランスの哲学者ジャン=ポー
ル・サルトルが著した同じ英語題名の短編小説にインスパイ
アされたと語っているものだが、その一方で『フランス軍中
尉の女』の原作者で知られるジョン・ファウルズの長編小説
“The Magus”からも想を得たとしている。
このファウルズの小説は1968年に映画化されているが、その
映画作品はウディ・アレンが、「生まれ変わっても同じ人生
を歩みたいと思うが、この映画だけは二度と観たくない」と
語っているものだそうだ。
そしてコーベットが2008年9月紹介『ファニー・ゲームU.
S.A.』にも出ていたと書けば、本作の雰囲気は大体理解し
て貰えると思う。それは子供の態度が極めて不愉快に描かれ
ているものだ。しかしそれが独裁者を育む様子は正にそうだ
と思わせる演出になっている。
しかもこのような育ち方をしている子供が、現代には数多く
存在しているのでは…?と思わせる辺りも、本作の不気味さ
を強くさせる。その現実から目を背けてはいけない、そんな
気持ちにもさせてくれる作品だ。
因に主人公の少年は1919年の時点で10歳前後と思われるが、
その世代に著名な独裁者はいないようだ。ただフィクション
ではジョージ・オーウェル『1984』の支配者が該当する
かもしれないが、本作はそれとは無関係な作品だと思う。
過去を描いた作品ではなく、現代に問題提起する作品だ。

公開は11月より、東京はTOHOシネマズシャンテ他で、ロード
ショウとなる。

『ある戦争』“Krigen”
2011年3月紹介『光のほうへ』の脚本家でもあるトビアス・
リンホルムによる監督第3作で、今年のアメリカアカデミー
賞外国語映画部門の候補になったデンマーク映画。
登場するのは、デンマークからアフガニスタンに派遣されて
いる陸軍部隊の部隊長。派遣の任務は民間人をタリバンの脅
威から守ることだが、巡回中に兵士が地雷に触れて亡くなる
こともまれではない。
そんな部隊長は毎週末に母国の自宅に電話を掛ける。その電
話で妻からは長男の行動がおかしいと訴えられるが、それは
父親の不在が要因であることも明らかだった。それでも任務
のために帰国もままならない。
そして民間人からの訴えに応えた彼の部隊が砂漠の村を訪れ
た時、突然の敵襲で兵士1人が瀕死の重傷を負ってしまう。
しかも激しい攻撃に救援もままならない。そこで部隊長はあ
る決断を迫られることになるが…。

出演は、リンホルム監督の全3作や2014年8月紹介『LUCY/
ルーシー』にも出ていたピルー・アスベック、2010年8月紹
介『食べて、祈って、恋をして』などに出ていたツヴァ・ノ
ヴォトニー、監督の前作に出ていたソーレン・マリン。
僕は基本的に戦闘を描いたら反戦映画は成立しないと思って
いるが、その点で言うと本作は反戦映画ではない。戦争の是
非はともかくとして、それに巻き込まれた人の苦悩を描いた
作品だ。
2015年11月1日付「第28回東京国際映画祭<コンペティショ
ン部門> 」で紹介した『地雷と少年兵』“Under Sandet”
もそうだったが、デンマーク映画が描く戦争は、常に他国と
は違う視点に立つように感じる。
それは主戦国ではないのに、何故か戦争に巻き込まれて犠牲
を強いられる。若しくは戦争の犠牲者を傍観せざるを得なく
なる。そんなデンマークの苦悩を、本作では当事者の立場で
描きながらも訴えているように感じられた。
本作ではアフガニスタンと家庭と、それにもう一つの計3つ
の「戦争」が描かれるが、そのいずれもが明確な勝利を得ら
れてはいない。そんなもどかしさが観客にもいろいろな思い
を伝えてくれる作品だ。
本作は反戦を声高に訴えるものではないが、その思想は明確
に描かれている。それは最初のシーンから目がスクリーンに
くぎ付けになる。そして結末には何とも言えない雰囲気が漂
う。そんな感じの作品でもあった。

公開は10月8日より、東京は新宿シネマカリテ他で、全国順
次ロードショウとなる。

『デスノート Light up the NEW world』
2006年6月及び10月に紹介したコミックス原作シリーズの新
作。その原作には拠らない新たな物語が、テレビで「相棒」
シリーズの元日特番などを手掛ける真野勝成の脚本、2011年
公開『GANTZ』などの佐藤信介監督で映画化された。
物語は前作で起きた事件が終結してから10年後。警視庁には
「デスノート対策室」が設置され、そこにはデスノートを追
い続ける主人公以下の面々が各々偽名で勤務していた。因に
偽名なのはデスノートに名前を書かれないための方策だ。
そこに渋谷駅前の交差点でデスノートによるとみられる連続
死亡事件の報が入り、主人公らは直ちに出動。その目前で犯
人は死亡するが、現場からは1冊のデスノートが回収され、
直ちに厳重な監視の許で保管されることになる。
その回収を行ったのはLの後継者としてICPOから派遣さ
れていた男だった。ところがその直後にキラの後継者を名告
る男によってネットワークがジャックされ、警視庁が確保し
たデスノートの引き渡しが要求される。
斯くして、キラ、Lの後継者とされる2人と、主人公らによ
り、地上に6冊がばらまかれたとされるデスノートの争奪戦
が始まるが…。

出演は、東出昌大、池松壮亮、菅田将暉という旬な若手俳優
3人が揃う他に、戸田恵梨香、中村獅童が前作から再登場。
さらに前作から繋がる人物や新たなキャラクターらが物語を
綴って行く。
製作は前2部作を担当し、さらに『GANTZ』なども手掛けた
佐藤貴博。実は、彼は2006年10月には「これで完結」と宣言
していたものだが、佐藤信介監督と新たな企画を検討してい
た際に、語り切れていなかったことに気付いたそうだ。
そこで10年後という設定の新たな物語が始動したものだが、
本作では原作に示されたデスノートのルールが完全に踏襲さ
れ、さらに現代の世界情勢なども取り入れられた見事な物語
が描かれている。
実際に僕は、2006年10月の『デスノート the Last name』の
紹介では結末などに多少の不満を感じていたものだが、その
点も含めて本作では、完璧に物語が修復されている。それは
10年ぶりに鑑賞しても納得できるものになっていた。
実は今回の試写会ではかなり多岐に亘る緘口令が敷かれてい
て、上記した以外のことはほとんど紹介できないものだが、
いろいろな意味でのサプライズも含めて、ファンなら必ず満
足できる、そんな感じの作品だ。

公開は10月29日より、東京は丸の内ピカデリー、新宿ピカデ
リー他で、全国ロードショウとなる。

この週は他に
『金メダル男』
(2005年11月紹介『ピーナッツ』などの内村光良監督による
第3作。内村監督の前作は他の作家の原作に基づくものだっ
たが、今回は再び自身の原作を自らの主演で映画化している
ものだ。それはまあ笑いも的確で安心して観ていられるが、
やはり何かもう少し冒険も欲しいかな。本作の主人公みたい
に…。公開は10月22日より、全国ロードショウとなる。)
『BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』“The BFG”
(前月すでに紹介した作品だが、今回は吹替版で観直した。
実は前回の鑑賞でエンディングロールのライセンシーの欄に
‘E.T. Doll’という記載を見て、今回はその確認の目的も
あったが、見付けられなかった。時代的にはおかしくはない
ものだから何処かに飾られていても良いものだが…。公開は
9月17日より、全国ロードショウとなる。)
『真田十勇士』
(2014年にマキノノゾミ脚本、堤幸彦演出、中村勘九郎主演
で上演された舞台劇を、スタッフキャストもほぼそのままの
陣容で、VFXや野外ロケを取り入れて映画として製作した
作品。舞台的な演出も随所に見られるが、これはシネマ歌舞
伎ではない。その辺の違和感が多少出ている感じかな。公開
は9月22日より、全国拡大ロードショウとなる。)
『続・深夜食堂』
(2015年1月に公開された小林薫主演作品の続編。懐かしさ
を感じさせる飲み屋街の一角で午前0時に開店するめし屋を
舞台に、様々な人生が交錯するオムニバス形式の作品。前作
の紹介は都合で割愛したが、お涙頂戴ではない安定した人情
ドラマが描かれる。前作のゲストが本作ではレギュラー入り
の展開も良い。11月5日より、全国公開となる。)
『弁護人』“변호인”
(1980年代の全斗煥軍政時代を背景にした韓国版赤狩りとも
言える釜林事件と、その弁護人だった盧武鉉(後の大統領)
の実話に基づく作品。北朝鮮に対抗する民主主義を謳いなが
ら民衆を弾圧する。そんな凶悪な独裁政権とそれにおもねる
連中の姿が痛烈に描かれる。他人事ではないお話だ。公開は
11月12日より、新宿シネマカリテ他で順次公開となる。)
『ブルゴーニュで会いましょう』“Premiers crus”
(ロマネ・コンティなどを産出するフランスワインの名産地
ブルゴーニュに映画カメラが入り、初の全編ロケーションが
実現したとされる作品。近年再興されたローマ時代の手法に
基づくワイン造りの様子や歴史ある建物など、ワインマニア
には堪らないシーンが連続する。公開は11月19日より、東京
はBunkamuraル・シネマ他で、全国ロードショウとなる。)
を観たが全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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