井口健二のOn the Production
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2016年08月28日(日) カノン、エヴォリューション、アルジェの戦い

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『カノン』
2012年2月紹介『僕等がいた』などの比嘉愛未、2008年5月
紹介『落語娘』などのミムラ、7月24日題名紹介『いきなり
先生になったボクが彼女に恋をした』などの佐々木希が三姉
妹を演じ、鈴木保奈美、多岐川裕美、古村比呂、島田陽子が
脇を固める女性映画。
三姉妹は金沢で老舗料亭を営む祖母に育てられた。その祖母
が亡くなり葬儀も滞りなく済むが、その遺言状には意外な事
実が記されていた。それは数年前に死んだと知らされていた
実母が生きているという事だった。
しかしそこに記された介護施設を訪ねた三姉妹は、長年の飲
酒で痴ほうになり、実の娘の記憶もない母親の姿に呆然とす
る。その後はそれぞれの生活に戻る三姉妹だったが、彼女た
ちもまた人生の岐路に立たされていた。

監督は2008年2月紹介『チェスト!』などの雑賀俊郎、脚本
も同作を手掛けた登坂恵里香が担当している。
共演には「仮面ライダーW(ダブル)」の桐山漣と、2013年
8月紹介『スクールガール・コンプレックス−放送部篇−』
などの長谷川朝晴。
物語は、アルコール依存症からDV(モラルハラスメント)
まで、現代女性の置かれている危険な状況が次々に提示され
るもので、自分が男性の目で観ているとかなり居心地の悪い
作品にもなっている。
でもこれが現実の社会の何処かで実際にあり得る姿なのだろ
うし、特に誇張されているとも思えない。それをしっかりと
見据えることが男性の観客にも求められることなのだろう。
そんな問題意識はしっかりと描かれた作品と言える。
その一方で僕が注目したのは、本作の最後に描かれるピアノ
演奏のシーンだ。ここでは題名にもなっている「パッヘルベ
ルのカノン」が演奏されるのだが、ここでの展開には2014年
2月紹介『僕がジョンと呼ばれるまで』が思い出された。
その作品では、東北大学加齢医学研究所センター長川島隆太
教授が提唱する痴ほう症に対する音楽療法が、アメリカで実
践され効果を上げている実例として報告されているのだが。
本作のクライマックスには正にそれが描かれていたのだ。
本作の脚本家がその事実を知ってこの脚本を執筆したか否か
は不明で、単に物語的な効果を狙って描いただけかもしれな
いが、本作の展開にはそんな医学的な裏打ちがあることも述
べておきたいものだ。

公開は10月1日より石川県、富山県の各劇場と、東京は角川
シネマ新宿他で、全国順次ロードショウとなる。

『エヴォリューション』“Évolution”
2010年3月紹介『エンター・ザ・ボイド』などのギャスパー
・ノエ監督の公私に渡るパートナーで、同作の脚本にも協力
した2004年『エコール』などのルシール・アザリロヴィック
が、11年ぶりに手掛けた長編監督作品。
海岸で少年たちが遊んでる。その1人が海中に潜り、遺体と
思しきものを見る。しかし少年が家に帰り、家人の女性にそ
の話をしても取り合ってもらえない。そして女性は少年に薬
を飲ませ、ベッドで眠るように指示する。
その女性を少年は母と呼ぶが、少年自身がそれには疑問を感
じているようだ。やがて少年は研究施設のような部屋に連れ
て行かれ、何やら医療処置を施される。そしてその部屋で若
い看護士の女性と親しくなるが…。

出演は、オーディションで選ばれたマックス・ブラバンと、
昨年のフランス映画祭で上映された『エール!』に出ていた
ロクサーヌ・デュラン、2012年4月紹介『キリマンジャロの
雪』などのジュリー=マリー・パルマンティエ。
脚本はアザリロヴィック監督と、2015年に数多くの映画祭で
受賞を果たした“Sangailės vasara”という作品の女性監督
アランテ・カヴァイテが名前を連ねている。
一応、ダーク・ファンタシーというカテゴリで紹介される作
品で、僕などにも意見を求められるが、正直に言って回答に
窮する作品だ。海外の評価でもクローネンバーグ、ギーガー
らが引き合いに出されるが、それも悩みの結果だろう。
タイトルから見て、描かれるのは進化への模索だと思われる
が、その進化の目標が何なのか? ここで登場する女性たち
が水棲人という示唆はあるが、それが目標としてそれと少年
たちに施される医療行為との関係が明確にされない。
ただその途中で少年が目撃するシーンに、少年たちへの医療
行為の意味が示唆されているようなのだが。これが映倫審査
によって修正を余儀なくされていて、多分そうなのだろうと
想像するしかなくなっている。
でもまあ、その辺からいろいろと想像は広がって行く訳で、
それはSFとして評価しても良いと思える作品だ。しかもそ
こにギーガー、クローネンバーグが引き合いに出されるよう
な映像が付いてくるのだ。
因にプレス資料によると、監督は中川信夫の『地獄』や若松
孝二の作品を撮影監督に観せて映像の参考にさせたそうだ。
また監督は塚本晋也とも親交があるようだ。

公開は11月、東京は渋谷アップリンク、新宿シネマカリテ他
にて、全国順次ロードショウとなる。

『アルジェの戦い』“La Battaglia Di Algeri”
アルジェリア独立戦争を描き、1966年のヴェネツィア国際映
画祭で金獅子賞(グランプリ)に輝いたジッロ・ポンテコル
ヴォ監督作品。その作品がディジタルリマスターにより修復
され、再公開されることになった。
1954年のFLN(アルジェリア民族解放戦線)の設立から、
1960年に独立を勝ち取るまでの出来事を、FLNに身を投じ
た1人の男を中心に描いて行く。その男の名前はアリ。彼は
就学経験もなく、土木作業員やボクサーなどをしていたが、
何度も警察の厄介になっているような男だった。
そんな男が刑務所を脱獄して街に舞い戻った時、1人の少年
がFLNからの指令をアリに届ける。そしてその指令に忠実
に従ったアリはFLNの幹部の前に連れて行かれ、その幹部
から仲間に入ることを認められる。そしてFLNは飲酒や麻
薬の禁止など、独立の標榜と共に様々な施策を打ち出す。
やがてFLNは兵士や警察官の殺害などのテロ行為を繰り広
げるようになる。それに対してフランス側は、警察署長自ら
が爆弾テロを行うなど、双方が作戦行動をエスカレートさせ
て行く。それと共にフランス軍の介入が始まり、その一方で
アルジェリア問題が国連に上程される。
そしてアルジェリアに侵攻したマチュー中佐率いるフランス
陸軍は、FLNが敢行したゼネストに対抗し、さらにFLN
幹部の逮捕に乗り出して行く。その捜査の網はアリの近辺に
も迫っていた。斯くしてアルジェリア独立を目指したFLN
は壊滅状態になって行くが…。

出演は、マチュー中佐に扮したジャン・マルタン以外は現地
で集められた素人で、その多くは実際に独立戦争に関ってい
た人々とされている。またポンテコルヴォは記録映像を一切
使用せず、5年間の準備を費やして全てを再現したもので、
そこには8万人の市民の協力があったということだ。
僕自身はこの作品を高校生時代にロードショウで観たものだ
が、この前年にはオールスターキャストの『パリは燃えてい
るか』もあって、民衆の蜂起による戦いにはある種の憧れも
感じていた。その中でのモノクロ映像のこの作品は、同種の
作品を評価する上での基準としていたものだ。
そんな作品を略50年ぶりに再見したものだが、それは巻頭の
シーンから記憶が甦り、その後の展開などには流石に全てを
記憶していた訳ではないが、それでも個々のシーンの中には
鮮明に思い出されるものもあった。
ところが最後のシーンになって、これが記憶と違っていて愕
然とした。僕の記憶ではもっと女性たちの叫び声が長くて、
それが余情を感じさせていたのだが…。今回観直すとそれが
意外と短くてあっさりしていた。しかし当時はそれを自分の
中で勝手に長くして、物語を噛みしめていたようだ。

公開は10月に、東京は新宿K's cinema他で、全国順次ロード
ショウとなる。

この週は他に
『聲の形』
(週刊少年マガジンの連載で、「このマンガがすごい!」や
「マンガ大賞」などで高い評価を受けた大今良時の原作から
のアニメーション作品。主人公の小学生時代とその5年後の
姿を通して、仲の良かったグループが離散し、やがて再会す
るまでが描かれる。公開は9月17日より全国ロードショウ。
公開第2週は日本語字幕付き上映となるそうだ。)
『将軍様、あなたのために映画を撮ります』
             “The Lovers and the Despot”
(日本では1998年に公開された北朝鮮映画『プルガサリ』の
監督とされる韓国出身の申相玉と、元夫人で後に再婚した女
優の崔銀姫の拉致事件の真相を描いたドキュメンタリー。申
監督には自主的亡命説もあったが、金正日の肉声テープなど
によってそれが完全否定されている。公開は9月24日より、
渋谷ユーロスペース他で、全国順次ロードショウとなる。)
『ジュリエッタ』“Julieta”
(2013年のノーベル文学賞を受賞したアリス・マンローの原
作を、2012年2月紹介『私が、生きる肌』などのペドロ・ア
ルモドバル監督が映画化。数奇な運命に翻弄される母と娘。
失踪した娘の謎がある切っ掛けから氷解して行く。その展開
が見事で心に響く。公開は11月5日より、新宿ピカデリー他
で、全国ロードショウとなる。)
『ペイ・ザ・ゴースト ハロウィンの生贄』
                  “Pay the Ghost”
(1679年に始まるアメリカの暗黒史に関る作品。ハロウィン
の人込みで子供たちが行方不明になる。そこには中世末期の
魔女狩りに始まる怨念が籠められていた。息子を拉致された
ニコラス・ケイジ扮する大学教授がその謎に迫るが…。有り
勝ちな話だが、観てる間は楽しめる。公開は11月22日より、
渋谷シネパレス他で、全国順次ロードショウとなる。)
『メカニック/ワールドミッション』
              “Mechanic: Resurrection”
(1972年のチャールス・ブロンスン主演作を2011年にリメイ
クした作品の続編。前作に引き続き主演のジェイスン・ステ
イサムが、全世界を舞台に標的を事故に見せ掛けて殺す暗殺
のスペシャリストを演じる。共演者にはジェシカ・アルバ、
ミシェル・ヨー、トミー・リー・ジョーンズという豪華版。
9月24日より全国ロードショウ。)
『うつろいの標本箱』
(2015年公開『過ぐる日のやまねこ』などの鶴岡慧子監督の
新作。前作も試写は観たが紹介を割愛した。複数の物語が並
行して描かれ、最期にそれが一つに纏まるスタイルの作品だ
が、それが纏まった時にもう少し何かあれば良かったかな。
エンディングの写真にも工夫が欲しかった。公開は10月29日
より、渋谷ユーロスペース他でレイトショウとなる。)
『BOYS AND MEN One For All, All For One』
(2015年4月紹介『サムライ・ロック』などのBoys & Menが
自らを演じる青春グラフィティ。最近では外部の作品にも進
出するようになったメムバーたちの葛藤や悩みが描かれてい
る。しかしそれが綺麗ごとで終ってしまうのは、結局ファン
向けの作品の域を出ていない。でもまあこれはそれでいいの
だろう。公開は10月29日より、ロードショウとなる。)
を観たが全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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