井口健二のOn the Production
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2016年08月14日(日) インターン!、幸福のアリバイ Picture、スタートライン

『インターン!』
2007年12月紹介『東京少女』などのBS-TBS(旧BS-i)製作・
配給によるちょっとファンタシーの要素もあるドラマ作品。
主人公は就活中(?)の女子大生。まだ先の目標が定められ
ていない状態の彼女が女友達に誘われてIT企業のセミナー
に参加。しかもその友達のせいでインターンシップにも応募
してしまう。
ところがセミナーの終了後、会場の外でぼんやりして自動車
に轢かれそうになった彼女は、咄嗟に飛び出してきた企業の
経営者に救われる。しかし代わりにその経営者が意識不明に
なってしまう。
一方、その経営者は病室で目を覚ますが、そこには死神と名
告る見た目は若者の男が現れていた。その死神は経営者が間
違って死んだと告げ、その間違いを正すには助けた彼女に死
をもたらすしかないと告げるが…。
そんなことができるはずもない経営者は、2人とも助かる道
を模索。そして彼女の運命が変わるような出来事を起こせば
2人の未来に道が開けると知り、インターンシップを利用し
て彼女の運命を変えようと考える。

出演は、2013年8月紹介『スクールガール・コンプレックス
−放送部篇−』などの新木優子、2009年2月紹介『ヤッター
マン』などの岡本杏理。さらに「仮面ライダー鎧武」の佐野
岳、風間トオルらが脇を固めている。
脚本はハロプロの舞台なども手掛ける劇団「散歩道楽」主宰
の太田善也、監督はTBSテレビ制作局制作センタードラマ
制作部所属の吉田秋生が担当した。
前々回紹介『ミスワイフ』と同様の生者と死者の入れ替わり
がテーマで最近の流行りかなとも思うが、脚本家の太田には
「リボーン〜命のオーディション〜」何て作品もあるようだ
から、それなりの想いもあるのかもしれない。
一方、監督の吉田は『怪談新耳袋』などを継続的に手掛けて
いるようだから、その方面が指向なのかな? まあでもその
程度ということもできる。いずれにしても以前のアイドル路
線というほどではないが、ファン向けの作品だ。
ただ、経営者を死の淵に立たせた人物にインターンシップな
んて、何と太っ腹な企業かとも思うし、そのインターンシッ
プの課題をもう少し描き込めばそれなりのドラマにもなった
と思うが、それは荷が重かったかな。
ただまあ、頑張っている人にはもっと頑張れというエールを
贈るような作品にはなっていた感じだ。

公開は11月5日より、東京はシネ・リーブル池袋他で、全国
ロードショウとなる。

『幸福のアリバイ Picture』
俳優の陣内孝則が9年ぶりに監督を務めた第3作で、陣内の
原案を基に人生の節目である冠婚葬祭をテーマに描いたオム
ニバス形式のコメディ作品。
最初は葬式。遺影の前で訳アリらしい2人の男が酒を酌み交
わしており、そこに葬儀屋が相談にやってくる。それは遺族
間のもめ事に起因しているらしいが、そこに大物の弔問客が
来て話しが紛糾し始める。
初っ端からかなり強烈な話が展開して、これはやるなと思わ
せた。そしてその後も見合いに成人式、子供の誕生に結婚式
と、各々は普通の出来事なのだが、それぞれがちょっと尋常
でないシチュエーションの物語が展開されて行く。
それはファンタシーと言えるようなものではないが、多少は
その雰囲気も感じられるかな? そんな作品に仕上げられて
いた。

出演は、中井貴一、柳葉敏郎、大地康雄、山崎樹範、浅利陽
介、木南晴夏、渡辺大、佐藤二朗、木村多江。因に陣内本人
の出演はなかった?ようだ。
脚本は陣内の原案に基づくものだが、それを2012年『桐島、
部活やめるってよ』から、昨年は『幕が上がる』と『ストレ
イヤーズ・クロニクル』、今年は『ディストラクション・ベ
イビーズ』などを手掛ける喜安浩平が執筆。
実は上記の作品は全て試写を観ているが、それぞれは優れた
作品と認めるものの、何か自分の中でしっくりこなかった。
それは全体的にドライで、主人公の内面を敢えて描かないよ
うにしている、そんな感覚が好きになれなかった。
一方、陣内の監督作品はたぶんデビュー作は観たはずだが、
何と言うかこちらもピンと来なくて、ここでの紹介はしてい
なかった。それは以前の作品では言いたいことが多すぎて整
理がついていない感じもしていたものだ。
そんな2人の顔合わせだが今回は結構気に入った。内覧試写
でプレス資料も充分でなく、詳細が確認できていないものも
あるが、オムニバス形式で陣内の言いたいことは良く伝わっ
てきたし、情感もほどほどに盛り込まれていた。
定番と言えば定番のつくりだし泥臭さもあるが、それが安定
感でもあり小細工をしていないところも気に入ったものだ。
因に、本作の元のテーマは写真だったそうで、その辺の様式
的な纏まりの付け方も良い感じがした。

公開は11月18日より、全国ロードショウとなる。

『スタートライン』
聾唖者である今村彩子監督が、自ら自転車で沖縄から北海道
まで走破した模様を綴ったドキュメンタリー。
今村監督は1979年生れ、名古屋出身、愛知教育大学在学中に
カリフォルニア州立大学に留学して映画製作を学んだという
経歴で、すでに全国公開された作品もある。そんな監督が、
撮影兼任の伴走者はいるものの、基本的にはその手助けは受
けないというルールで沖縄県から北海道を目指す。
確か以前にも障害者というか高齢者が長距離自転車行に挑む
ドキュメンタリーを観た記憶があり、その途中の困難や訪問
するそれぞれの土地での交流など、今回もそれに似た感動作
かなと思いつつ試写会に臨んだ。ところが本作はそんな綺麗
ごとの作品ではなかった。
まず本作では自転車選びから始まり、ロングライドは初心者
の監督にパンク修理などの基本を訓練する様子が描かれる。
それは当然の話で、映画でも詳細に語られる訳ではないが、
本作の本気ぶりというか真面目さは伝わってくる。その他に
も法律など健聴者も参考になる事項が述べられていた。
そして旅が始まるのだが…。監督が意欲満々の割にメカに弱
く、さらに思い込みやいろいろなものが重なって伴走者との
意思の疎通もままならなくなってしまう。それでも伴走者の
男性の根気強さや真面目さに支えられて、四苦八苦しながら
も目的地に向かって進んで行く。
その間に、同じ障害を持つ人たちとの交流や、その中には外
国人もいて、見事なドラマが描かれて行く作品だ。その一方
で伴走者の男性の話す内容は、健聴者の自分を振り返って考
えさせられる事柄も多く、僕自身が障害者には理解がある方
だと思っていたが、それ以上に学ぶことが多かった。
特に本作でさらに重要なテーマとなるコミュニケーションの
問題は、監督が聾唖だということでなく、様々な要素を描き
出しているように見える。それは監督のお蔭で顕著になって
はいるが、健聴者の我々にとっても等しく存在するものだ。
そんなことも描かれているように見えた。

伴走と撮影は堀田哲生。「ジテンシャデポ」というチェーン
店のスタッフだそうだが、英語も喋れて中々のキャラクター
だ。他にオーストラリア人の青年などが登場する。
公開は、9月3日より東京新宿ケイズシネマ、17日より名古
屋シネマスコーレ、以後は大阪第七藝術劇場など、全国順次
ロードショウとなる。
聾唖者を描いたドキュメンタリーでは、2010年5月に『アイ
・コンタクト』という作品も紹介しているが、どちらもいろ
いろな意味で深い作品に感じられた。

この週は他に
『サラダデイズ SALAD DAYS』“Salad Days”
(1980年代のワシントンD.C.で興った初期パンクシーンを描
いたドキュメンタリー。先に6月19日題名紹介の『バッド・
ブレインズ』を観ていたので多少親しみが湧いた。内容的に
も手の甲にXを描く意味など、首都でのパンクロックという
のはなかなか興味深いものがあった。)
『ディアスポリスDIRTY YELLOW BOYS』
(4月3日に題名紹介した作品の劇場版。実は前に観たのは
テレビ版の第1話で今回は同じ配役による拡大版だ。ただし
本作だけでは設定などの説明がなく、テレビ版を観ていない
と主人公の立場などが理解し難いかな? 舞台も拡大した豪
華版だが、オリジナルの話もしっかり観たかった。)
『スーサイド・スクワッド』“Suicide Squad”
(スーパーマン亡き後のDCコミックス世界を描いた作品。
最凶の魔女が復活し、それに対抗するべくバットマンに捕え
られた悪人たちがチームを組む。ウィル・スミス、『ターザ
ン:REBORN』のジェーン役マーゴット・ロビー。さらにオス
カー俳優のジャレッド・レトがジョーカーを演じる。)
『湾生回家』“湾生回家”
(戦前の日本統治下の台湾で生まれ育ち、戦後に日本引揚を
余儀なくされた人々を追った台湾製ドキュメンタリー。北方
領土と違い、今でも訪問すれば温かく迎えられるという人た
ちだが、そこにも苦難の歴史やドラマはある。特に岡山の女
性の話は日本側でさらに後を追って貰いたいものだ。)
『ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気』“Freeheld”
(アメリカで同性婚を認める切っ掛けとなったとされる実話
のドラマ化。ベテラン女性刑事が若い女性と恋に落ちる。し
かし刑事の余命が宣告されたとき、同性パートナーへの遺族
年金が拒否される。ジュリアン・モーア、エレン・ペイジ、
マイクル・シャノン、スティーヴ・カレルらが共演。)
『ラスト・ウィッチ・ハンター』“The Last Witch Hunter”
(ヴィン・ディーゼル、マイクル・ケイン、イライジャ・ウ
ッド、『ダウントン・アビー』のローズ・レスリー共演で、
現代のニューヨークを舞台に、魔女一族と魔女狩りの戦士が
共存する世界を描いたVFXアクション作品。上のDC作品
と設定は異なるが展開の似通るのは仕方ないか。)
『疾風ロンド』
(6月に記者会見を報告した東野圭吾原作のユーモアの要素
も強いとされる小説の映画化。スキーとスノボのチェイスな
どアクションの見どころは多いが、コメディにするための演
出にちょっと無理があるかな。特に10℃以上で発動するもの
をポケットに入れるというのは…。)
『CUTIE HONEY TEARS』
(2004年にも映画化された永井豪原作のアンドロイドもの。
上層と下層に2分化された未来社会を背景に、都市機能を掌
握するA.I.と、宿敵ジルによる陰謀をキューティーハニーが
食い止める。主演は西内まりや。他に三浦貴大、石田ニコル
らが脇を固めている。)
を観たが全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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