井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2016年06月19日(日) コロニア、ハリウッドがひれ伏した銀行マン、死霊館 エンフィールド事件

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『コロニア』“Colonia”
『ハリー・ポッター』シリーズのハーマイオニー役でお馴染
みのエマ・ワトソンが主演する1970年代の南米チリが舞台の
実話に基づくとされる作品。
ワトソンが演じるのはルフトハンザ機に乗務するキャビンア
テンダント。折しも1973年9月11日、彼女の搭乗便がチリの
首都サンティアゴの空港に到着。4日後の帰国便を待つ間、
彼女は現地に住むドイツ人で恋人の男性の許にやってくる。
その恋人は世情が混乱する中で、社会主義のアジェンデ政権
を支持する活動家でもあった。
そんな逢瀬を楽しんでいた2人の部屋に突然1本の電話が架
かってくる。それは軍事クーデターが勃発し、アジェンデ派
の活動家が次々に逮捕されているというものだった。そこで
取るものも取り敢えず部屋を出た2人だったが、警察の動き
は早く、恋人は拉致されて救急車に載せられ、何処へか連れ
去られてしまう。
一方、彼女自身は解放され、行方不明の恋人を探して行動を
開始する。そして得た手掛かりは、恋人が秘密警察への関与
が噂されるカルト集団コロニア・ディグニダに連れ込まれた
というものだった。しかもそのコロニアからは生きて出てき
た者はいないと言われていた。そのコロニアに、彼女は恋人
救出のため向かうことにするが…。

共演は、2012年7月紹介『コッホ先生と僕らの革命』などの
ダニエル・ブリュール、2010年7月紹介『ミレニアム』など
のミカエル・ニクヴィスト。
他に、2001年『トゥームレイダー』出ていたというリチェン
ダ・ケアリー、2011年5月紹介『ハンナ』に出ていたという
ヴィッキー・クリープス、本作が映画デビュー作のジャンヌ
・ウェルナーらが脇を固めている。
脚本と監督は、ダニエル・ブリュールらも出演の2009年製作
『ジョン・ラーベ 南京のシンドラー』などのフロリアン・
ガレンベルガーが担当した。
実は、試写の前には監督の名前をチェックしておらず、僕は
試写状に大きく書かれたワトソンの名前だけで勝手に作品を
想像していた。しかも映画の始まりでは、ちょっとレトロな
キャビンアテンダントのユニフォームに身を包んだワトソン
が登場するなど、楽しげな気分が溢れていたものだ。
ところが物語が始まると、これはもう生半可な作品ではない
と覚悟を決めることになった。登場のコロニア・ディグニダ
については、2012年10月28日付「第25回東京国際映画祭」で
紹介した『NO』(日本公開2014年)でも言及されていたと
思うが、本作ではその驚愕の実態が描かれている。
そこでは被疑者の生命の危険も考慮しない残虐な拷問なども
平然と行われていたとされるものだ。とは言うものの本作は
そこからの脱出劇を描くもので、そこにはアクションやサス
ペンスも盛り込まれた作品になっている。その辺のバランス
の巧みな作品とも言えるだろう。
それにしても、ワトソンが何故このような作品にとも思える
が、実は彼女は大学卒業後に1年間女優業を休業し、国連の
フェミニズム活動の広報大使なども務めていたのだそうで、
その辺の問題意識がこの作品を選択させたということはあり
そうだ。因に本作は女優復帰第1作とされるものだ。
かなり強烈な内容の作品だが、独裁政権の恐怖はいつの時代
にもあるものだし、そんなワトソンの問題意識を汲んであげ
たくなる作品だ。

公開は9月17日より、東京は角川シネマ新宿、ヒューマント
ラストシネマ渋谷他で、全国ロードショウとなる。

『ハリウッドがひれ伏した銀行マン』“Hollywood Banker”
『ターミネーター』『ランボー』『薔薇の名前』『プラトー
ン』『ダンス・ウィズ・ウルブス』…これらの作品の製作を
支えた1人の銀行マンの姿を描いたドキュメンタリー。
オランダ人のフランズ・アフマンは、ロッテルダムに本拠を
置くスレーブブルグ銀行でエンターテインメント事業部を立
ち上げ、同時期に知己を得たプロデューサーのディノ・デ・
ラウレンティスと共に「プリセールス」という新たなビジネ
スモデルを構築する。
やがてデ・ラウレンティスとの契約を円満に満了したアウフ
マンは、そのモデルを使って新興の映画製作プロダクション
の支援を開始する。それは映画の企画書段階で世界中の配給
会社から資金を募るもので、これによりハリウッドに頼らな
い新感覚の映画が誕生するようになって行く。
それはまた独立系の配給会社がハリウッド並の映画の配給権
を獲得することができるようにもなった。なお作中では東宝
東和、GAGAの社名が挙げられていた。勿論東和はそれ以
前からヨーロッパ映画の配給は行っていたが、この後は『ダ
ンス…』などがラインナップに加わることになる。
そして1987年のアカデミー賞授賞式では、彼の関った『プラ
トーン』『眺めのいい部屋』“De Aanslag”が、作品賞、監
督賞、など8つのオスカーに輝くことになる。特にオリヴァ
・ストーンは謝辞の中で「フィリピンのジャングルまで金を
届けてくれた」と、彼に言及したものだ。
そんな痛快で、映画好きなら誰しもが憧れるような男の姿が
描かれる。

登場は、アウフマン本人を始め、ケヴィン・コスナー、製作
者のゴーラン&グローバス、アーノルド・コペルソン、マー
サ・デ・ラウレンティス、アンディ・ヴァイナ。
監督のオリヴァ・ストーン、ポール・ヴァーホーヴェン。さ
らに俳優のミッキー・ロークまで。錚々たる顔ぶれがインタ
ヴューに答えている。
監督は、アウフマンの愛娘のローゼマイン・アウフマンが制
作した。
ローゼマンは以前には監督の経験はないようだが、ガンで余
命を宣告された父親に、回想録を書きたかったと告白され、
その時間も残り少ないことから記録としてカメラを回し始め
たようだ。
そしてそこに多量のアーカイヴ映像やインタヴュー映像を挿
入して本作を仕上げている。それは今までは一部にしか知ら
れなかった近代アメリカ映画の裏面史を描いてもいる。
実際に僕は彼の名前を本作まで知らなかったが、実は作品の
後半に出てくるクレディ・リオネの件は、当時はニュースを
追いかけていた中で調べてもいたものだ。そこに関った人物
ということで少し構えたが、本作で彼の役割が判明し、そこ
はほっとして少し悔しくもなった。
正にアメリカ映画ファンが観るべき作品と言えるものだ。

公開は7月16日より、東京はヒューマントラストシネマ渋谷
にてレイトショウとなる。

『死霊館 エンフィールド事件』“The Conjuring 2”
2013年9月紹介『死霊館』“The Conjuring”の続編。前作
同様ヴァチカン公認心霊現象研究家の夫と、霊視能力を持つ
妻のコンビが、今回はイギリスで起きた事件に挑む。
前作の事件は1971年に起きたもの。その後の1975年に起きた
アミティヴィル事件で夫妻の名声は高まり、テレビ出演など
も頻繁になる。しかし妻ロレインには自分の能力が負担とな
り、以後の調査依頼は断るように夫のエドに頼み込む。
ところが1977年、イギリスのテレビ局が心霊現象を撮影した
と報じられる。そして夫妻はテレビ局の要請を受け、ただ現
象の真偽を確認するだけ、という約束で英国エンフィールド
の住宅へと赴くのだが…。
それは心霊現象史上最悪とも言われる事件の始まりだった。

出演は、前作に引き続いてパトリック・ウィルソンとベラ・
ファーミガが夫妻を演じ、その脇を2003年12月紹介『タイム
ライン』などのフランシス・オコナー、2016年4月紹介『ト
ランボ』で娘の幼少期を演じていたマディソン・ウルフらが
固めている。
製作、脚本、監督は前作に続いてのジェームズ・ワン。また
脚本には、前作と同じくチャド&ケイリー・W・ヘイズ兄弟
と、2009年9月紹介『エスター』などのデイヴィッド・レス
リー・ジョンスンが参加している。
ワンの演出は前作同様外連味もたっぷりで、好き者には存分
にその醍醐味を味わせてくれる。因にワンは前作の完成後に
は「ホラー引退宣言」をして、2015年『ワイルド・スピード
SKY MISSION』などを手掛けていたものだが、いろいろ思う
ところもあったのか、今回再びの監督となったものだ。
その意気を感じて、スタッフ・キャストも再結集しているの
だろう。
そしてその作品は前作とほとんど変わらないというか、決ま
りごとはきっちりと描いてくれているもので、しかも演出の
ツボは心得ているし、和製のホラーとは一味違ってファンに
は堪らない作品となっている。
上映時間2時間14分をたっぷりと楽しませてくれる作品だ。

公開は7月9日より、東京は新宿ピカデリー他で、全国ロー
ドショウとなる。

この週は他に
『ファインディング・ドリー』“Finding Dory”
(2003年11月紹介『ファインディング・ニモ』の続編。前作
でニモの捜索に協力した忘れん坊のドリーが、ふと思い出し
た家族を探して新たな冒険が始まる。お話の流れはほぼ同じ
だが、とにかく全てがスケールアップした作品。試写は2D
だったが、最初から計算された3Dの効果も凄そうだ)
『祈りのちから』“War Room”
(『復活』『天国からの奇跡』に続くソニーピクチャーズ、
キリスト教映画の第3弾。さすがに3本目になると宗教を真
正面から訴えるような作品になった。それはそれで観る人が
観れば良い作品であって、部外者がとやかく言うものではな
いだろう。教会で説教を聞いている感じだった。)
『神聖なる一族24人の娘たち』
“Олык марий пылвомыш вате-влак”
(ロシア連邦内で暮らすMariという民族を描いた作品。民族
の説話に基づく話やもっと下世話な物語が短編集のように綴
られる。民族には特殊な宗教観もあるようで、アニミズムに
似たそれには惹かれるものもあったし、現代にそれが通用し
ていることも興味深かった。)
『シング・ストリート 未来へのうた』“Sing Street”
2006年『ONCEダブリンの街角で』などのジョン・カーニー監
督による最新作。1980年代の北アイルランドを舞台に、音楽
で境遇を脱出しようとする少年たちの姿を描く。往時を髣髴
とさせるヴィデオの撮影風景や音楽が満載で、映画ファンの
心を鷲掴みにすること間違いなしの作品。)
『バッド・ブレインズ バンド・イン・DC』
             “Bad Brains: A Band in DC”
(カリスマ的なリードヴォーカルの奇矯な行動に翻弄される
バンドを撮影したドキュメンタリー。いやはやという感じの
作品で、僕は音楽のことはまるで判らないが、それでも人気
があるというのはどれだけ凄いのか…? それにしても歌わ
ないヴォーカルというのは…。)
『きみがくれた物語』“The Choice”
(2004年11月紹介『きみに読む物語』などのニック・スパー
クスが自ら製作した自作小説の映画化。ロマンティック小説
の名手と言われる作家の作品で、こういうのが好きな人には
堪らないのだろうなあ…、と思わせる。それを他人がとやか
く言う筋合いでもないだろう。)
『DOPE ドープ!!』“Dope”
(映画の最初に題名の意味が紹介されるが、それを善とする
人たち向けの作品なのだろう。僕にはどうも理解し難い世界
のものだが、数年前の東京国際映画祭でもこの類の作品が高
い評価を受けているから、世界の趨勢はこちらに向いている
ようだ。僕にはよく判らないが。)
『ポバティー・インク  あなたの寄付の不都合な真実』
                   “Poverty, Inc.”
(いろいろな機関の名目で世界中から集められる寄付がどの
ような効果をもたらすかを描いたドキュメンタリー。それは
胡散臭いものではなく、ちゃんとした機関への寄付でも必ず
しも民衆のためにはならない場合がある。多分そうだろうな
あ…と思っていたことが、確信できた。)
『ドラゴン・クロニクル 妖魔塔の伝説』“九層妖塔”
(2006年5月紹介『ココシリ』などのルー・チューアン監督
が挑戦したVFX多用のアクションアドヴェンチャー大作。
中国映画の監督は成功すると皆さんこの様な作品に挑戦した
がるのかな。ちょっと大味な部分はあるけど、サーヴィス精
神は旺盛で、観ている間は面白くはある。)
『涙の数だけ笑おうよ 林家かん平奮闘記』
(比較的若い年代で病に倒れた落語家の生活ぶりを記録した
ドキュメンタリー。闘病ものではあるし、たった1人家族の
母親も寝たきりという、かなり極限状態の生活だが、兎に角
本人が前向きで、平凡な言葉ではあるけれど観ていて勇気が
湧いてくるような作品だ。)
を観たが全部は紹介できなかった。申し訳ない。
 なおこの週はもう1本完成披露試写を観たが、その作品は
情報解禁が6月24日と定められているもので、次週に紹介さ
せてもらうこととする。


 < 過去  INDEX  未来 >


井口健二