井口健二のOn the Production
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2016年06月05日(日) 不思議惑星キン・ザ・ザ、リトル・ボーイ、MARS(マース)、神のゆらぎ

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『不思議惑星キン・ザ・ザ』“Кин-дза-дза!”
1986年に旧ソビエト連邦で発表され、日本では1991年に公開
されたカルト的評価の高いコメディSF作品。
発端は1980年代の冬のモスクワ。1人の若者が異星人と名の
る男を発見し、相談した男性と共にその男の持っていた空間
移動装置で砂漠の星キン・ザ・ザに飛ばされてしまう。その
ため2人は地球に帰るための方策を練り始めるが…。
その星は資源が枯渇しかかっており、水やマッチ棒が貴重な
資源とされている。そして人間そっくりの住民は支配階級と
被支配階級とに大別され、そんなディストピア的な背景の中
で、風刺ともとれる物語が展開される。
一応風刺と書いたが、当時のソ連で公認され公開された作品
であり、あまりあからさまな体制批判のようなものはない。
でも当時のソ連国内では、登場人物たちの口調が真似される
ほどの一種の社会現象にもなった作品のようだ。
それは1991年に公開された日本でも一部では話題にはなって
いるが、どこまで内容が理解されて評価されたのかは定かで
はない。いわゆるカルト作品の部類に入るものだ。ただし、
そんな作品が多い中ではしっかりと評価は残っている。
でそんな作品を今観ると、最近の戦闘や犯罪まがいの話ばか
りの状況の中では、ふんわりしたムードがよろしいかな。今
年3月紹介した園子温監督の『ひそひそ星』が、『2001年』
『ソラリス』よりはこちらだったなとは思わされた。
ちょっとした小道具なども、今の時代にはない味わいを感じ
るし、背景はただの砂漠なのだが、これはこれで最近の作品
にはない雰囲気を持っている。これらは今の時代にも欲しい
と思わせる作品だ。

出演は、1965年のヴェネチア映画祭で審査員特別賞を受賞し
た『私は20歳』などのスタニスラフ・リュブシン。他にユー
リ・ヤコブレフ、1971年『遠い日の白ロシヤ駅』などのエフ
ゲニー・レオーノフ、現在は監督に転身したレベン・ガブリ
アーゼらが脇を固めている。
脚本と監督は、1977年モスクワ国際映画祭で金賞を受賞した
『ミミノ』などのゲオルギー・ダネリヤ。スタッフ・キャス
ト共に中々の陣容と言える作品だ。
公開は8月20日より、ディジタルリマスターによる作品が、
東京は新宿シネマカリテにてレイトショーされる。

『リトル・ボーイ 小さなボクと戦争』“Little Boy”
第2次世界大戦中のアメリカ本土の田舎町を舞台にした少年
の成長ドラマ。
主人公はカリフォルニア州の山を臨む海辺の町に両親と兄と
住む少年。体格は小柄でリトル・ボーイとあだ名され、いじ
めの対象にもなっている。そんな少年の親友は、いつもやさ
しい父親だったが…。
戦火が激しくなる中、ごく普通の若者の兄が偏平足のために
徴兵審査に落ち、代わりに父親が戦地に向かうことになる。
そしてフィリピン戦線に向かった父親が行方不明になってし
まう。
一方、その町にアメリカへの忠誠を誓って収容所から解放さ
れた1人の日系人が現れる。しかし町民の目は当然のように
厳しかった。そして主人公も兄と共に日系人の家に嫌がらせ
をしてしまう。
それに対して少年の通う教会の神父は、父親を取り戻す奇跡
を起こすための7つの試練を少年に課す。そこで少年は試練
をひとつづつクリアして行くが、その項目の一つは日系人の
男性と仲良くなることだった。
という内容でこの題名は、特に前の週に『いしぶみ』という
作品を観た直後では、これはかなりの危惧を持って試写会に
臨んだものだ。しかし作品は、そのことも踏まえながら実に
見事に物語を展開させて行く。

主演は、2003年生まれで、2008年からテレビ出演を始めたと
いう2013年公開『エスケイプ・フロム・トゥモロー』などの
ジェイコブ・サルヴァーディ。
共演者に2010年1月紹介『鉄拳』などのケイリー=ヒロユキ
・タガワ、2008年1月紹介『ウォーター・ホース』などのエ
ミリー・ワトスン、2005年2月紹介『最後の恋のはじめ方』
に出ていたというマイクル・ラパポート。
さらに『ウォーター・ホース』などのベン・チャップリン、
2008年2月紹介『フィクサー』などのトム・ウィルキンスン
らが脇を固めている。
脚本と監督は、メキシコ出身で2006年の長編監督デビュー作
“Bella”が各地の映画祭で受賞を果たしたというアレハン
ドロ・モンテヴェルデ。
自身が移民であり疎外感の中で育ったという監督は、大戦中
の日系人収容所のことも原子爆弾のことも知らなかったが、
負け犬だった少年の成長を描き込む内、多層に描かれたこの
物語を編み出したとのことだ。

公開は8月27日より、東京はヒューマントラストシネマ有楽
町、渋谷ユーロスペース他、全国ロードショウとなる。

『MARS(マース) ただ、君を愛してる』
1996年〜2000年に「別冊フレンド」誌に連載され、単行本の
累計発行部数 500万部を記録したという惣領冬実原作コミッ
クスの映画化。
プロローグは海辺で奇跡的な出会いをする男女の高校生。女
子は元から男子を見ていたが、男子は刹那的な生き方で付き
合った相手も数知れなかった。しかし彼女との出会いは彼の
心を動かし、彼女を一途に愛するようになる。
ところがそこに別の要因が現れる。それは1人の転校生で、
男子の双子の弟の親友でもあった転校生は男子に歪んだ思い
も持っていた。そして女子の過去を調べた転校生は、彼女の
弱点を見つけ、それをネタに別れを強要する。

出演は、ジャニーズKis^My-Ft2の藤ヶ谷太輔と、2013〜14年
『獣電戦隊キョウリュウジャー』などの飯豊まりえ。それに
2013年7月紹介『飛べ!ダコタ』などの窪田正孝。他に山崎
紘菜、稲葉友、前田公輝、福原遥、足立梨花など、正に今が
旬の若手が揃っている。
脚本は2010年4月紹介『BECK』などの大石哲也、監督は
2014年『百瀬、こっちを向いて。』の耶雲哉治が担当した。
開幕と結末は正に少女コミックという感じで、試写の会場で
は僕は場違いかなあと思っていた。ところが転校生が登場し
てからの展開は一筋縄ではいかないもので、それはかなり物
語を堪能できたものだ。
最近この種の作品の試写は多く観させて貰っているが、特に
原作が近年のものではまあ仕方がないかなあと思ってしまう
ことも多い。でも本作では、さすが20世紀の原作だとは思わ
させてくれた。
しかもそれを映画化では、見事に最近のこの手の作品のオブ
ラートで包み込んでいるもので、その辺には脚本の巧みさも
感じたものだ。これもさすがと言わせてもらう。
ただ題名に関して、その意味合いが映画の中では全く説明さ
れない。これは自明というものではないと思うが、その辺を
くどくど説明するのも野暮と考えたのかな。最初の石膏像で
判る観客だけで良しとしたのだろうか?

公開は6月18日より、東京はTOHOシネマズ新宿、シネマサン
シャイン池袋他で、全国ロードショウとなる。

『神のゆらぎ』“Miraculum”
2015年3月紹介『Mommy マミー』などのグザヴィエ・ドラン
監督が俳優として出演を熱望したというカナダのダニエル・
グルー監督によるアンサンブル劇の作品。
物語の中心となるのは、ドラン扮する男性とその婚約者の看
護師の女性。実は男性は白血病の末期にあり、その病は輸血
によって治療できるが、彼も婚約者も教義で輸血を禁じてい
る「エホバの証人」の信者だった。
そんな中、看護師の女性に旅客機墜落の通知が入り、唯1人
の存命者の看護に参加することになる。しかも突然の容体悪
化で輸血を必要とする存命者の血液と適合するのは彼女だけ
だった。
という物語に並行して、不倫関係の老境の男女の逃避行の話
や、ギャンブル狂の夫のアル中の妻の冷え切りながらも対面
を繕う話。さらに別れた愛娘のために違法行為で金を作り、
その金を届けようとする男の話などが描かれる。

共演者にスターは居ないようだが、その内のアンヌ・ドルバ
ルはドラン監督の前作『マイ・マザー』と、本作の後に撮ら
れた『Mommy マミー』にも出演している。またロビン・アル
バートは本作で映画賞の助演男優賞候補になっている。
脚本は、本作の出演俳優でもあるガブリエル・サブーラン。
監督は、数多くのテレビシリーズを手掛け、監督第2作とな
る2010年“10 1/2”で数多くの賞に輝いたダニエル・グルー
が担当した。
最近に観た試写会では宗教に絡む作品が多くあるように感じ
られ、その動向が少し心配にもなっていたが、本作の中では
神を否定するような発言も見られ、その点では少しほっとし
た作品でもあった。
特にドランはゲイをカミングアウトしており、対して描かれ
る「エホバの証人」ではゲイを禁じているそうだから、その
辺は間違いのないところだろう。と言っても宗教関連は取る
人によって様々だから何とも言えないが。
ただ映画の構成はかなりトリッキーで、ドランはその点が気
に入ったのかな? それは時間軸をかなりいじくっており、
さらにそれが判った瞬間からまた別の興味が惹かれるなど、
相当に面白い作品に仕上げられている。
それは見事な作品だ。

公開は、7月16日より開催のカリテ・ファンタスティック!
シネマコレクション2016にてプレミア上映された後、全国順
次ロードショウが予定されている。

この週は他に
『ジャングル・ブック』“The Jungle Book”
(キプリング原作による児童文学の映画化。ディズニーでは
1967年にもアニメ化があるが、本作はその実写版というか、
主役の少年は実写だけどそれ以外の動物も背景も全てCGI
という作品。しかしこれにより原作の精神は完璧に映像化さ
れた言える。豪華な声優陣も聞きものだ。)
『イレブン・ミニッツ』“11 minut”
(上に書いた『神のゆらぎ』と同じく時間軸を色々いじった
アンサンブル劇。最後の纏まりは成程と思わせる。ただその
結末自体が個人的には多少好みではなかったかな? 巧みな
作劇ではあるし、試写室での評判も良いようで、それ自体を
楽しめればそれが良いのだろう。)
『花芯』
(瀬戸内寂聴が瀬戸内晴美時代の1957年に発表した作品の映
画化。原作の発表後は瀬戸内がしばらく文壇的沈黙を余儀な
くされたということだが、それは映画を観ていれば判るとこ
ろだ。でもまあ現在ならそうはならなかったろうし、むしろ
描かれた内容には現代女性の共感も呼びそうだ。)
『ヒップスター』“I Am Not a Hipster”
(サンディエゴのインディミュージシャンを描いた作品。僕
には音楽的なことは判らないが、描かれる父親との関係は、
自分も父親として考えるところはあるかな? それと肉親を
送らなかったことへの感情は、自分はちゃんと送れたとは言
え、理解できたように思えたものだ。)
『AMY エイミー』“Amy”
(2008年のグラミー賞で最優秀楽曲賞など5部門を受賞した
シンガーソングライター、エイミー・ワインハウスの生涯を
描いた2016年のオスカー長編ドキュメンタリー部門に輝いた
作品。驚くべき破滅的人生を描いた作品で、それがまた克明
にヴィデオに収められていたというのも驚く作品だ。)
『トリプル9 裏切りのコード』“Triple 9”
(警官の腐敗を描いく作品は、最近邦画でも北海道警の実話
に基づくとされる作品があったものだが、それにも増したア
メリカの警官の腐敗ぶりが描かれる。兎に角ひどい奴らで、
全く救いようがないのも見事。さらにオールスターキャスト
も見どころと言える作品だ。)
『チェブラーシカ動物園に行く/ちえりとチェリー』
(ロシアの人気キャラクターを、その生誕50周年の年に日本
で映画化した作品と、その新作を手掛けた日本人監督がロシ
ア人原作者の協力も得て作り上げた、人形アニメーションの
特性が見事に生かされた作品。昨年の東京国際映画祭で上映
されたが、ようやく一般公開となった。)
を観たが全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二