井口健二のOn the Production
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2016年05月22日(日) アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅、ハイ・ライズ、天国からの奇跡

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅』
          “Alice Through the Looking Glass”
2010年3月紹介『アリス・イン・ワンダーランド』の続編。
前作の最後で新たなる冒険の旅を目指したアリスが、その旅
から戻ってきてのお話。
父親の後を継いで貿易船の船長となったアリスは、辛くも海
賊の襲撃を交わして中国から帰ってくる。しかし待っていた
のは、新社長からの解雇通告。それは老いた母の住む屋敷を
取るか、父の愛した船を取るかの選択だった。
そして乗り込んだ新社長のパーティで居たたまれなくなった
アリスは、1羽の蝶に誘われ暖炉の上の鏡を抜けて不思議の
国へと帰還する。ところがそこではマッドハッタ―が哀しみ
の底に沈んでいた。
その哀しみの元を断つためアリスは、時の守護者の許を訪ね
過去へと旅立つ。それはマッドハッターだけでなく、彼女自
身やその他の不思議の国の住人たちの心をも救う旅となる。

出演は前作から引き続いてのミア・ワシコウスカ、ジョニー
・デップ、アン・ハサウェイ、ヘレナ・ボナム・カーターに
加えて、2012年12月紹介『レ・ミゼラブル』などのサッシャ
・バロン・コーエンが新たな役柄で登場する。
また声の出演では、今年1月に他界したアラン・リックマン
に特別な献辞が贈られていた。
脚本は前作と同じくリンダ・ウールバートン。監督はティム
・バートンに代って、2012年4月紹介『ザ・マペッツ』及び
2014年8月紹介『ザ・マペッツ2/ワールド・ツアー』を手
掛けたジェームズ・ボビンが担当している。
お話は前作の続きとして新たに創作されており、原題に痕跡
の残るルイス・キャロルの原作からは想像もつかない代物に
なっている。でもまあ前作も原作からは相当かけ離れていた
から、それは仕方のないところだろう。
取り敢えず時間を扱った冒険物語としては、それなりに工夫
もされた巧みな作品にはなっている。しかも友情や家族愛な
どの映画に盛り込まれたテーマは、原作にはない情感を与え
る作品にはなっていた。
それで先に原作からは想像もつかないと書いたが、実は最初
にアリスが鏡を抜けるシーンだけは原作の挿絵を完璧に再現
していて、これは原作へのリスペクトと言うか、ファンへの
お詫びのしるしといった感じだ。
僕はこれだけでこの作品を認めることにした。

公開は7月1日より、2D/3Dにて全国ロードショウとな
る。なお僕は2Dでの試写を観たが、3Dではいろいろな仕
掛けもありそうだ。


『ハイ・ライズ』“High-Rise”
1960年代にイギリスで始まったSFニュー・ウェーヴ運動。
その旗手の1人とされたJ・G・バラードが1975年に発表し
た長編小説の映画化。
舞台は1975年のイギリス。ロンドン郊外に建つ高層アパート
の25階に1人の医師が引っ越して来る。そのアパートの入居
者は俳優やモデルなどいわゆるセレブ達で、彼らは毎夜パー
ティを開いて狂乱に明け暮れていた。
そんな中で主人公は、アパートの最上階に暮らすその建物の
コンセプトを考案した建築家にも気に入られ、優雅な生活を
満喫していたが…。ある日、彼は住む階の高低による差別の
あることを聞かされる。
そして思いもよらぬ停電が起きた時から、住人たちの関係が
変化し始め、それは重大な事態へと発展して行く。

出演は、2013年12月紹介『マイティ・ソー』などのロキ役ト
ム・ヒドルストン、2013年11月紹介『ビューティフル・クリ
ーチャーズ』などのジェレミー・アイアンズ、2014年12月紹
介『ホビット・決戦のゆくえ』などのルーク・エヴァンス。
他に、2006年3月紹介『カサノバ』などのシエナ・ミラー、
今年4月紹介『ニュースの真相』などのエリザベス・モス、
それにモデルでもあるステイシー・マーティンらが脇を固め
ている。
脚本と監督は、2014年2月9日付の記事の中で紹介『サイト
シアーズ殺人者のための英国観光ガイド』などのエイミー・
ジャンプ(脚本)とベン・ウィートリー(監督)のコンビが
手掛けている。
原作は、1973年発表の“Crash”、1974年発表の“Concrete
Island”と共に「テクノロジー3部作」と呼ばれる作品群の
一編とされ、この内の“Crash”は1996年にデイヴィッド・
クローネンバーグ監督によって映画化され、カンヌ国際映画
祭の審査員特別賞などに輝いている。
バラードの初期の長編は背景のスケールも壮大で、映像化は
かなり難しいものと想像される。それに比べるの本作は、舞
台も高層アパートの中と限定的で、特にハリウッド以外での
映画化には好適と言えるものだろう。
因にクローネンバーグ作品はカナダ映画で、本作はイギリス
映画となるものだ。そして本作では、北アイルランド・ベル
ファスト近郊に1970年に建てられたBangor Leisure Centre
で多くの撮影が行われたとされている。
まあ、本作自体の時代設定が1975年ということではあるが、
そんな中に案外未来的な雰囲気も描かれている。それも本作
の面白さと言えるだろう。

公開は8月6日より、東京はヒューマントラストシネマ渋谷
他で、全国順次ロードショウとなる。

『天国からの奇跡』“Miracles From Heaven”
4月17日紹介『復活』に続く、ソニー・ピクチャーズの配給
によるキリスト教映画の第2弾。
登場するのはテキサス州の田舎町に暮らす一家。両親は敬虔
なキリスト教の信者であり、その許に育った姉妹も深い信仰
を持っている。ところがそんな一家を試練が襲う。姉妹の中
でも一番信仰心の厚い次女が突然の病に侵されたのだ。
最初は何気ない症状に見えたその病気はChronic Intestinal
Pseudo-obstruction(慢性偽性腸閉塞症)。それは現代医学
ではどうにもならない難病だった。
そこで母親がすがったのはボストンに住む小児科の名医。し
かし高名なその医師には予約患者が一杯で、診察を受けられ
るのは数年後。この事態に母親は思い掛けない行動に出る。
それが奇跡を呼び起こした。

出演は、2010年1月紹介『バレンタインデー』などのジェニ
ファー・ガーナー、2015年『パパが遺した物語』で主人公の
幼女時代を演じたカイリー・ロジャーズ。他に、2004年8月
紹介『トルク』などのマーティン・ヘンダーソン。さらにク
イーン・ラティファらが脇を固めている。
脚本は2012年9月紹介『人生の特等席』のランディ・ブラウ
ン、監督はメキシコ出身のパトリシア・リゲンが担当した。
描かれる病は原因は解明されていないものの神経の一部がブ
ロックされてしまうもののようで、それが外部からの衝撃で
回復してしまうのは起こり得ない話ではない。実際に僕自身
が腰痛から来る足裏のしびれを抱えているが、これが麻酔の
針で治る事象もあるとは医者から聞いた話だ。
従って本作の出来事は医学的には起こり得る話で、それが信
仰の賜物であるかは別にして起これば奇跡ということにはな
る。その辺も考慮したのか、映画ではその他にも奇跡が起っ
ていたことを紹介して、話の纏まりが付くようにしている。
宗教映画も生硬な宗教論のような作品には辟易するが、本作
の場合はそれを別にして家族愛やそれを見守る周囲の状況な
どが描かれ、それは普遍的なファミリーピクチャーとしても
充分通用するように作られている。
その辺は、さすがメインの製作者として『アリス・イン・ワ
ンダーランド』も手掛けるジョー・ロスが名前を連ねている
所以という感じもした。宗教の問題を別にして、王道のハリ
ウッド映画という感じの作品だ。

公開は6月18日より、東京はヒューマントラストシネマ渋谷
他で、全国順次ロードショウとなる。

この週は他に
『ロング・トレイル!』“A Walk in the Woods”
(ロバート・レッドフォードとニック・ノルテの共演で、ア
パラチアン・トレイルが舞台の老年男性が頑張るお話。脚本
に少し疑問はあるが、何となく判るお話だ。)
『ソング・オブ・ラホール』“Song of Lahore”
(パキスタンのイスラム革命で芸能活動を禁じられる中、何
とか生き延びた民族楽器によるジャズバンドのドキュメンタ
リー。シタールでのTake Fiveの演奏は感動だった。)
『The Violin Teacher(英題)』
            “Tudo Que Aprendemos Juntos”
(ブラジルのファヴェーラで子供たちに音楽を教えるヴァイ
オリニストのお話。有り勝ちといえば有り勝ちな内容だが、
ファヴェーラという風景が味わいをもたらしている。)
『だCOLOR?』
(ココリコ田中の主演で、政治犯で監獄があふれた近未来を
描いた作品。パズル劇かと思ったら心理劇で、その展開には
捻りもあるが、もう少し何かが欲しかったかな?)
『海すずめ』
(武田梨奈主演で、愛媛県宇和島を舞台にしたご当地映画。
武田は神奈川県横浜市の出身だが、2013年11月紹介『祖谷物
語』での徳島県に続いて四国2県目制覇?)
を観たが全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二