井口健二のOn the Production
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2016年04月24日(日) トランボ、ニュースの真相、牙狼<GARO>-DIVINE FLAME-、知らない町、秘密 THE TOP SECRET

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』“Trumbo”
米ソ冷戦時代の赤狩りで公にはハリウッドを追放されたもの
の、偽名を使って数多くの作品を世に出し、2つのオスカー
まで獲得した名脚本家ダルトン・トランボを描いた作品。
僕にとってのトランボは1973年に公開された彼唯一の監督作
品『ジョニーは戦場へ行った』に尽きる。日本公開時に往時
の虎ノ門ホールで鑑賞した作品は、観た後で自分の身体の有
ることに疑問が生じるほどの衝撃を受けたものだ。
以来、僕はその作品を自分の生涯のベスト10で上位を占める
ものとしている。
そんなトランボに関しては、当時からハリウッド・テンの一
員として映画界を追放された人物で、オスカー受賞作『黒い
牡牛』の真の名義人であることは知っていたが、それ以上の
ことはあまり情報もなかったように記憶している。
本作は、そのトランボの真実の姿を描き出しているものだ。
そこには有りもしない脅威で民衆を煽り立てて個人の思想を
弾圧する。まるで現代にも通用しそうな恐怖社会の実態も描
かれている。
因にトランボは実際にアメリカ共産党の党員であったものだ
が、それでも言論、思想の自由は合衆国憲法においても保障
されているものであり、その自由を平然と奪った連中は紛れ
もない悪魔の所業と言える。
しかしそんな中にあっても毅然として、強かに境遇を生き抜
き、さらにはその間に2度のオスカーまで獲得した。そして
その名誉も回復したトランボの姿は、正しく真の英雄と呼べ
る存在だろう。
その姿がユーモアもたっぷりに描かれている。特に体制に迎
合して弾圧を繰り返した連中への辛辣な描き方は、痛快とも
言えるもので、正しく溜飲が下がる思いもさせてくれた。こ
れぞ硬派の作品と呼べるものだ。

主演は、2010年6月紹介『ブレイキング・バッド』でブレイ
クしたブライアン・クランストン。共演は、2010年12月紹介
『RED/レッド』などのヘレン・ミレンと2013年7月紹介
『マン・オブ・スティール』などのダイアン・レイン。
他にはテレビで活躍するデヴィッド・ジェームズ・エリオッ
ト、ルイス・C・K、それに舞台出身のマイクル・スタール
バーグ。さらにジョン・グッドマン、エル・ファニングらが
脇を固めている。
脚本は、テレビ出身で劇場用映画はデビュー作というジョン
・マクナマラ。その脚本から2005年9月紹介『ミート・ザ・
ペアレンツ』などのジェイ・ローチが監督した。因に監督は
近年では政治映画も手掛けているそうだ。
日本映画界では、政治絡みの作品は企画段階で押し潰されて
しまうというぼやきを若手の監督から聞いたことがあるが、
次に紹介する作品も含めて、まだしもハリウッドの方がまし
ということなのかな?

公開は7月、東京はTOHOシネマズ・シャンテほかで、ロード
ショウとなる。

『ニュースの真相』“Truth”
2005年に起きた「CBSニュース」のアンカーマン=ダン・
ラザーの更迭劇。そのニュースの真相を共に更迭された当時
の番組プロデューサーが綴った物語の映画化。
物語の中心は、報道番組の女性プロデューサー。彼女は米国
陸軍による捕虜虐待をスクープして賞賛されたばかりだが、
そんな彼女の許に一つの情報が寄せられる。それは現大統領
の軍歴詐称に関するもので、以前にも追及を試みたが挫折し
たものだった。
しかし今回はそれを証明し得るメモのコピーがあるというこ
とで、早速その所有者にコンタクトした彼女は、情報源を明
かさない約束でその検証に乗り出す。それは4人の鑑定人に
よる真偽の確認で、コピーしかない状況ではその検証は困難
だったが、それでも文書内容などから判断がなされる。
そして2004年大統領選挙の予備選の最中、再選キャンペーン
を繰り広げる現大統領がベトナム戦争を忌避し、しかもその
代わりの軍務からも離脱していたという番組が放送され、現
大統領の再選に暗雲をもたらすのだが…。それは彼女にとっ
ての悪夢の始まりとなる。

出演は、『LOTR』や『ホビット』などのケイト・ブラン
シェットと、1976年『大統領の陰謀』などのロバート・レッ
ドフォード。
その脇を、2007年4月紹介『スパイダーマン3』などのトフ
ァー・グレイス、2012年3月紹介『ソウル・サーファー』な
どのデニス・クエイド、2013年12月紹介『トップ・オブ・ザ
・レイク』などのエリザベス・モスらが固めている。
脚本と監督は、2007年4月紹介『ゾディアック』などの脚本
を手掛けたジェームズ・ヴァンダービルト。オスカー候補に
もなった脚本家の監督デビュー作だ。
物語の中では、匿名のネットブロガーによる誹謗中傷など、
現在にも通じる話も登場する。その一方でプロポーショナル
のタイプライターなど、時代を背景にした事象も描かれる。
因に問題とされる「th」の添え字は、僕自身が子供時代に観
てなんだろう? と思っていたものだ。
それにしても、プロポーショナルが打てるIBMのボールタ
イプのタイプライターなどは、上記の『トランボ』にも登場
するもので、こんな単純なことを問題にするブロガーの無知
も呆れ果てた。とは言えそれで論点のすり替えが実効されて
しまうのだから、目的は果たしているのだろう。
時の権力者が行うことの恐ろしさを実感させてくれる作品。
そう言えば、最近の日本のテレビでも多くの名物キャスター
が様々な理由で降板しているようだが。日本映画界がその真
相を映画化できる日は来るのだろうか?

公開は8月、東京はTOHOシネマズ・シャンテ他で、全国順次
ロードショウとなる。

『牙狼<GARO>-DIVINE FLAME-』
2010年7月紹介『GARO THE MOVIE -RED REQUIEM-』、2012年
12月紹介『牙狼<GARO>〜蒼哭ノ魔竜〜』に続く、雨宮慶太
原作によるダークヒーローシリーズの最新作。
実は、このシリーズ(TVシリーズを併せてGARO PROJECTと
称される)に関連しては上記の2作の後にも何作か観させて
貰っていたのだが、初期の頃と少しコンセプトが違って来て
いる感じがあって、紹介をしなくなっていた。
しかし本作では、時代背景などは異なるもののコンセプトは
少し初期の頃に戻ったようでほっとした。ただし、本作品は
アニメーション。雨宮は本来特撮の人という認識だったので
ちょっと気になったが、状況で仕方ないのかな。
因に作品は、2014年に放映されたPROJECT初アニメーション
シリーズ『牙狼<GARO>-炎の刻印-』に続くもので、同作の
物語から4年後という設定だそうだ。とは言うものの僕はそ
の作品を観ていないが、鑑賞に問題はなかった。
物語は、以前の闘いで黄金騎士“ガロ”が勝利して4年後。
一見平和な日々に異変が伝えられる。それは今は亡き近隣の
小国に強力なホラーが現れたというもの。しかもそいつは、
魔界の亡者を呼び戻す準備をしていた。…。
初期の作品は現代日本が背景で、そこでの人間の欲望が様々
なホラーを呼び出し、それを牙狼らが諌めて行くというもの
だった。それが本作では、舞台が中世ヨーロッパということ
で少し戸惑いはしたが、まるで異世界よりは良いかな?
そこで人間の欲望が…、という辺りも少し曖昧な感じもする
が、物語の背景部分の経緯などは手際よく説明されていたよ
うだし、とにかくホラーと魔界騎士との闘いは充分に堪能で
きるものだ。
なお本作はGARO PROJECTの一環を成すものだが、本作で雨宮
は原案のみのクレジットで、脚本は東映戦隊ものなどを手掛
ける小林靖子。監督は2012年10月紹介『009 RE:CYBORG』で
絵コンテを手掛けた林祐一郎が担当した。
正しく特撮とアニメの融合というところかな? その効果で
コンセプトが初期に戻った感じになったところもあるのかも
しれない。それはそれで良かったと言えることにもなるのだ
ろう。
とは言うものの特撮ファンの立場としては、セルタイプのア
ニメーションは、どう頑張っても実写の迫力には物足りない
と思ってしまうもので、早く実写特撮の世界に戻ってきて欲
しいという気分にはさせられた。

公開は5月21日より、東京は新宿バルト9他で、全国ロード
ショウとなる。

『知らない町』
2005年多摩美術大学卒業。卒業制作の作品がロッテルダム国
際映画祭に招待されたという大内伸悟監督による、2006年に
第2作を発表以来7年ぶりという新作。
最初に登場するのは廃品回収をしている男。男はあまり善良
ではないらしく、トラブルを起こしながら古びたソファーを
引き取る。そして友人の部屋に持ち込むが、そこに忘れ物を
探しているという女が現れる。
一方、若いカップルの男性がアルバイト先の先輩の命日の集
まりに先輩の彼女を招こうとしているが、過去に捉われたま
まの彼女はその誘いに応じようとしない。それでも男性の熱
意に墓参りは了承するが…。
ここから物語は有り勝ちな幽霊話になって行くのだが、最期
がちょっと捻られているのかな…?
でもそれが登場人物たちにどのような作用があったのか。そ
の辺をもう少し整理して明確にしていれば、それなりの作品
になったと思うのだが、最後が混乱というか描き切れていな
い感じなのが物足りなかった。
ただ上映前に監督の挨拶があったが、多少アヴァンギャルド
な趣を持たせたかったそうで、それはそうとしか言いようの
ない作品だが、この展開ならそうでない真面な作品の可能性
もあったと思えたものだ。

出演者は、日本のインディペンデント映画で活躍する俳優陣
が集結した感じで、2016年木村文洋監督『息衝く』などの柳
沢茂樹、2003年山下敦弘監督『バカのハコ船』などの細江祐
子、2013年2月紹介『旅立ちの島唄〜十五の春〜』などの松
浦祐也らが共演している。
プレス資料のプロダクションノートによると制作には3年が
費やされているようで、その理由がどこにあるのかはよく判
らないのだけれど、結局その辺の混乱が作品にも影響してし
まっているのかな。
アヴァンギャルドを標榜しても、そこにはそれなりの理論も
必要な訳で、物語の混乱をそこに持ってこられてもに何か面
はゆい感じもしてしまう。作品のテーマ自体は良いと思える
し、もっと真正面から取り組んで欲しかった。
結末で女性に与えられたであろうポジティヴな影響がもっと
明確に描かれていたら、それはそれなりに心に残る素敵な作
品になったとも思える。そんな作品を次回には期待したいも
のだ。

公開は6月11日より、東京はシアター・イメージフォーラム
(渋谷)にてレイトショーとなる。

『秘密 THE TOP SECRET』
2012年6月紹介『るろうに剣心』などの大友啓史監督が、実
はそれ以前から企画していたという清水玲子原作近未来SF
コミックスの実写映画化。
物語の背景は、MRIと称される死体の脳に残された記憶を
再生する技術が確立している時代。それは警察の犯罪捜査に
応用されて大きな成果を上げていたが、現場主義の刑事など
からは胡散臭い目で見られていた。
その技術は死体の脳を活性化して残留の記憶を所定の手段で
繋げられた捜査官の頭脳に投影するというもの。しかしそれ
は、犯罪行為を目の当たりにする捜査官には精神的な負担が
極めて大きなものだった。
そんな部署に1人のエリート刑事が赴任してくる。彼は大学
を優秀な成績で卒業し、正にMRIに憧れてその部署にやっ
てきたのだが…。その捜査では過去に何人もの捜査官が死亡
したり、発狂する事例も存在していた。
そして彼が最初に手掛けることになったのは、家族を惨殺し
て死刑になった父親の脳。事件では家族の1人が行方不明と
なっており、その行方をMRIで探ろうというものだった。
ところがそれが新たな犯罪をあぶりだす。
斯くしてその犯罪を追い始めた主人公らは、過去に何人もの
捜査官を死に追いやった連続殺人鬼との繋がりを知ることに
なり、その記憶を再び探る必要が生じてしまう。それは極め
て危険な行為だった。

出演は、2012年2月紹介『僕等がいた』などの生田斗真と、
2008年12月紹介『重力ピエロ』などの岡田将生。共演に松坂
桃李、栗山千明。さらに吉川晃司と映画初出演の織田梨沙。
そしてリリー・フランキー、椎名桔平、大森南朋らが脇を固
めている。
脚本は、大友監督と2010年1月紹介『ソラニン』などの高橋
泉。さらに韓国から2002年6月紹介『燃ゆる月』を手掛けた
LEE SORK JUNとKIM SUN MEEが参加している。
内容的には、今年2月紹介『スキャナー』に通じるところも
あるが、先に紹介した作品がどちらかというと軽めに作られ
ていたのに対して、本作では上映時間2時間28分を掛けて、
重厚かつドラマティックに物語を描いている。
それは今が旬の若手俳優たちの共演とも相まって、正に映画
を堪能させてくれる作品になっていた。今年は日本製のSF
映画が当たり年かも知れないと以前に書いたと思うが、その
流れを絶やさない作品だ。

公開は8月6日より、全国ロードショーとなる。

この週は他に
『恋恋風塵』“戀戀風塵”
『任侠野郎』
『エルヴィス、我が心の歌』“El Ultimo Elvis”
『サウスポー』“Southpaw”
『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』
               “Where to Invade Next”
『夏美のホタル』
『亜人第2部−衝突−』
を観たが全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二