井口健二のOn the Production
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2016年04月17日(日) LAMBERT & STAMP、復活、ラザロ・エフェクト、心霊ドクターと消された記憶

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『LAMBERT & STAMP』“Lambert & Stamp”
ケン・ラッセル監督の1975年作品『トミー』の原作アルバム
などで知られる英国のロックバンドThe Whoの軌跡を描いた
ドキュメンタリー。
このバンドに関しては2008年9月に『ザ・フー:アメイジン
グ・ジャーニー』という作品も紹介しているが、本作は彼ら
の誕生に関った2人のマネージャーの姿から追ったものだ。
作品は、主にはメムバーのピート・タウンゼントと元マネー
ジャーのクリス・スタンプへのインタヴューに沿うもので、
そこに当時の映像などが挿入される形式になっている。
そこにはメムバー間の諍いやメムバーとマネージャーとの確
執なども見えてくるが、全体には思い出話であり、ちょっと
ノスタルジックな温かさも感じられるものだ。
そのマネージャーはクリスとキット・ランバート。ランバー
トは現代音楽家の息子でハーバード大学を卒業、その後にパ
リの映画学校に通ったというセレブ。
一方のスタンプは父親がタグボートの船長という下層階級の
出身だが、実は性格俳優テレンス・スタンプの実弟で、兄の
伝手で映画スタジオで働いていた。
そんな2人が出会い映画について語り合う内にあるアイデア
が生まれる。それは無名のバンドを育て上げ、その軌跡を映
画化するというものだ。
斯くして2人はライヴハウスを巡り、2人のアイデアに合致
するバンドを探すのだが…。見つけたのはメムバーの容姿も
いまいちでテクニックもあまりないバンドだった。
しかしそのバンドと契約した2人は、映画の現場で得た収入
をつぎ込みながらバンドを育てて行く。そしてバンドは英国
3大バンドの一つと呼ばれるまでになる。
しかしランバートとスタンプの夢見た映画が実現することは
なかった。そんなバンドとマネージャーとの紆余曲折が描か
れて行く。
そのランバートとスタンプについては、THe Whoの日本語版
ウィキには記載がなかったが、英語版では彼ら自身の項目も
あり、そういうレヴェルの人物だ。
しかし本作を観ると2人がThe Whoに注いだものの大きさが
判るし、2人がいてこそのThe Whoであったことも理解でき
る。そのことが見事に描かれた作品だ。
それはThe Whoのファンにはバンドの来歴を知る上で貴重な
作品だが、映画ファン的には映画版『トミー』ができるまで
の経緯も面白く見られる作品だった。
そしてさらにSFファン的にはロック・オペラの第2弾とし
て企画され、英語版ウィキにはScience fictionと紹介され
る“Lifehouse (rock opera)”のことも気になるものだ。
それについてランバートは「超常的過ぎた」と語っているも
のだが、1969年に発表された『トミー』に続いてその作品が
完成していたら、それはSF史にも関ったかも知れない。
そんないろいろなものが見えてくる作品だ。

監督のジェイムズ・D・クーパーは監督は初のようだが、長
年撮影監督などで業界にいた人のようで、温もりのある視点
が本作を心地良い作品に仕上げている。
公開は5月21日より、東京は新宿K's Cinema他で、全国順次
ロードショウとなる。

『復活』“Risen”
ソニー・ピクチャーズの配給で、キリスト教を題材にした映
画3作品を連続公開する内の第1弾。
物語は毎年3〜5月に行われるキリスト教の祝祭イースター
(復活祭)の許となるイエスキリストが処刑されて3日後に
復活したとされる出来事に基づくもので、本作ではその物語
を処刑に関ったローマの百人隊長の視線で描いている。
それは自らが槍で止めを刺し、墓所に収めた後にその入り口
を封蝋で閉ざしたイエスキリストの遺体が、封蝋を破壊して
忽然と消え去ったという状況。そしてその遺体を捜索する内
に彼は復活したイエスキリストと巡り会うことになる。
そんな聖書に著されたイエスキリストの復活劇が、VFXを
駆使してスペクタクル性も豊かに描かれる。

脚本と監督は、1991年『ロビン・フッド』や1995年『ウォー
ターワールド』などのケヴィン・レイノルズ。劇場用映画は
10年ぶりとなるレイノルズだが、今年2月に全米公開された
本作では、第1週の週末3日間に1180万ドル(第3位)の興
行を達成したとのことだ。
主演は2011年4月紹介『レッド・バロン』などのジョセフ・
ファインズ。共演に『ハリー・ポッター』シリーズのドラコ
役トム・フェルトン。他に2001年『パール・ハーバー』など
のピーター・ファース、2012年6月紹介『コロンビアーナ』
などのクリフ・カーティスらが脇を固めている。
ソニー・ピクチャーズでは一昨年にも、2014年10月に紹介し
た『天国はほんとうにある』『神は死んだのか』を公開して
いるが、本来日本の企業と思っているソニーがキリスト教の
映画というのも、ちょっと不思議な感じもするところだ。
でもまあ需要があればそれに応えるのが企業の理念というこ
となのかな。それにちゃんとヒットもさせているのだから、
他人がとやかく言う筋合いでもなさそうだ。

公開は5月28日より、東京はヒューマントラストシネマ渋谷
他で、全国順次ロードショウとなる。
なおソニー・ピクチャーズからは、本作に続き6月18日より
『天国からの奇跡』、7月9日より『祈りのちから』がそれ
ぞれ3週間ずつの限定で、同様の体制にて公開される。

『ラザロ・エフェクト』“The Lazarus Effect”
2009年12月紹介『パラノーマル・アクティビティ』や、11年
6月紹介『インシディアス』、15年6月紹介『パージ』など
を手掛けるブラムハウス・プロダクションが放った最新作。
上の作品でイエスキリストは処刑から3日後に復活するが、
本作に冠されたラザロ(ラザラス)というのは、そのイエス
キリストがそれ以前に復活させたユダヤ人の名前。つまり本
作は題名によってその本質が明らかにされているものだ。
それは日本人には馴染みが薄いかもしれないが、本作の制作
者たちにはそのように理解されていると思えるもの。従って
以下の紹介文は、その点はネタバレに当らないないと解釈し
て記すことにする。
物語は、若い女性が記録係としてとある研究室に雇われると
ころから始まる。その研究室では医療従事者が蘇生に掛けら
れる時間を引き延ばし、それによって蘇生の可能性を高める
実験が行われていた。
ところがそのため開発された脳を一時的に活性化させる血清
が思わぬ効果をもたらす。それは血清を投与されて蘇生した
犬において血清の効果が持続し、その効果で犬が患っていた
白内障の症状も改善させたのだ。
斯くして研究の成果に祝杯を挙げる研究者たちだったが…。
それも束の間、研究者たちは無許可の実験を行ったとして契
約違反を告発され、彼らの研究成果の全てが取り上げられる
事態に直面する。
そこで彼らは、実験室が使えなくなる12時間後までに研究室
に忍び込み、再度実験を成功させてその記録を確保しようと
考える。しかしそれが悲劇を生んでしまう。しかも禁断の実
験に立ち入った彼らを待っていたのは…。

出演は、主にインディペンデンス映画で活躍しているマーク
・デュラスと、2010年10月紹介『トロン:レガシー』などの
オリヴィア・ワイルド。
他に、2012年4月紹介『ザ・マペッツ』などのドナルド・グ
ローヴァー、2010年10月紹介『キック★アス』などのエヴァ
ン・ピータース、2013年5月紹介『モスダイアリー』などの
サラ・ボルジャーらが脇を固めている。
脚本は、2008年に“Shutter”というホラー作品を手掛けた
ルーク・ドウスンと、『デスノート』のハリウッド版リメイ
クを担当しているジェレミー・スレイター。
監督は、2012年12月紹介『次郎は鮨の夢を見る』などのデイ
ヴィッド・ゲルブ。因にこの情報は2013年7月1日でも報告
したものだが、随分と違った題材をかなり手馴れた感じで料
理している。
公開は6月11日より、東京は新宿バルト9他で、全国ロード
ショウとなる。

『心霊ドクターと消された記憶』“Backtrack”
2002年『戦場のピアニスト』でのオスカー受賞者で、2004年
8月紹介『ヴィレッジ』などのエイドリアン・ブロディが、
心に闇を持つ心霊ドクターを演じるサスペンス作品。
主人公は娘を亡くした精神分析医。その状況は彼にも責任が
あるらしく、彼はその痛手から立ち直れていない。そんな彼
の許には先輩のドクターが紹介してくれた患者が訪れるが、
治療の成果は覚束ないようだ。
ところがそんな彼の許に1人の少女が現れたことから事態が
動き始める。その少女は彼の前では一言も喋らなかったが、
彼女の残した1枚のメモが彼をある場所へと誘う。そこは彼
の心の闇を解き明かす場所だった。

共演は、2010年9月紹介『デイブレイカー』などのサム・ニ
ール、2012年8月紹介『リンカーン/秘密の書』などのロビ
ン・マクリーヴィー。他にオーストラリア出身のジョージ・
シェヴィソフ、クロエ・ベイリス、ブルース・スペンス。
脚本と監督は、2011年2月紹介『ザ・ライト[エクソシスト
の真実]』の脚本を手掛けたマイクル・ペトローニが担当し
た。
全体が見事な謎解きを構築している作品で、それはできるだ
け情報を入れずに観て貰いたい作品だ。そこでネタバレは極
力避けたいと思っているが、本作ではチラシのコピーにも上
記の次の段階のことが書かれていて、それは仕方がないかな
あとも思ってしまう。
そこでその部分を書いてしまうと、上記の少女は亡霊という
ことになるが、これが単純な幽霊話ではないところが本作の
見どころと言えるだろう。特に最初はちょっと変に思えると
ころが最後にぴったりと辻褄が合う。その脚本の緻密さは最
近ではなかなか少なくなっているレヴェルのものだ。
しかも幽霊話に特有の切なさみたいなものがしっかりと感じ
られるのも素晴らしかった。

公開は5月14日より、東京は角川シネマ新宿他で、全国順次
ロードショウとなる。

この週は他に
『ミモザの島に消えた母』“Boomerang”
『二ツ星の料理人』“Burnt”
『ミスター・ダイナマイト
         ファンクの帝王ジェームス・ブラウン』
       “Mr. Dynamite: The Rise of James Brown”
『歌舞伎NEXT 阿弖流為』
『海よりもまだ深く』
『劇場版 遊☆戯☆王 THE DARK SIDE OF DIMENSIONS』
『ラスト・タンゴ』“Un tango más”
を観たが全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二