井口健二のOn the Production
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2016年03月06日(日) ひそひそ星、探偵ミタライの事件簿−星籠の海−、スクール・オブ・ナーシング、ズートピア

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『ひそひそ星』
2002年2月紹介『自殺サークル』などの園子温製作・脚本・
監督によるSF作品。
物語は、人類が一度は大宇宙に進出し、その後に衰退を始め
たという時代が背景。宇宙の中で意識を持って行動する存在
の大多数は人工知能を備えたアンドロイドであり、わずかに
残った生物の人類はその庇護の許に暮らしている。
そんな時代に宇宙船を駆って行動している主人公は、もちろ
ん人間ではないアンドロイド。そして女性型アンドロイドの
主人公が行っているのは、依頼された品物を宇宙の各所に暮
らす人類に届ける宅配便の仕事だ。
しかし中古の宇宙船は操縦システムが不調らしく、時々訳の
判らない理由で進路の変更を要求してきたりする。それでも
何とか仕事を全うしようとする主人公だが、運んでいる荷物
の数はなかなか減らなかった。
こうして“彼女”は様々な星を訪ね歩き、いろいろな環境で
暮らす滅びゆく人類の最期を見聞して行く。

主演は、監督夫人であり本作の製作も務める2008年11月紹介
『プライド』などの神楽坂恵。他に、ミュージシャンの遠藤
賢司、子役の池田優斗、老人役の森康子。さらに福島県双葉
郡浪江町、富岡町、南相馬市の人たちが出演している。
映画のかなりの部分が双葉郡の避難地域で撮影されていて、
その惨状を写した映像は、ある種ドキュメンタリーのような
ものにもなっている。実は同時公開される監督自身を描いた
ドキュメンタリー『園子温という生きもの』も観せて貰った
が、監督自身にもその意識は高いようだ。
そんな意味合いも込められた作品だが、SF映画としては、
『2001年宇宙の旅』や『ソラリス』に通じるかな? 静謐な
中で淡々と物語が進んで行くタイプの作品だ。そして全体で
は人類の行く末が傍観者の目で語られて行く。
それはある種のディストピアの様相も持つけれど、それでも
静かに余生を送っているような感じもするものだ。ただそれ
が避難地域の実景を背景として描かれると、それには遣る瀬
無さも倍加してしまう。そこはSFではないものだ。
まあいろいろ評価は分かれてしまう作品だとは思うが、SF
的なオマージュはいろいろ感じられたし、SF映画としては
それなりに観るべきものは感じられる。それが監督の前作の
『ラブ&ピース』と違った趣なのにはほっとした面もある。
造形などには監督の拘りもあるような感じもして、それはそ
れで面白くも観られた作品だ。

公開は5月14日より、東京は新宿シネマカリテ他にて、全国
ロードショウとなる。

『探偵ミタライの事件簿−星籠の海−』
ミステリー作家の島田荘司が1981年デビュー作で誕生させた
探偵御手洗潔シリーズの最新刊で、2013年に刊行された小説
の映画化。
物語の始まりは山間に落ちる滝。その滝壷で若い夫婦が尋常
でない状態で杭に縛られて発見され、その脇には赤子の死体
が浮かんでいた。
一方、新たな事件への出馬のない脳科学者御手洗潔の許に、
女性編集者が怪奇な事件のファイルを持って現れる。その中
から瀬戸内海の島に連続して打ち上げられた死体の謎に興味
を示した御手洗は、早速その島を訪れるが…。
瀬戸内の複雑な海流のシミュレーションから、死体が投棄さ
れた場所を広島県福山市と割り出した御手洗は、県警の刑事
との連携の許、その謎の解明に乗り出す。そして飲み屋で聞
いた漁師の言葉にも興味を持つ。
これらの情報の断片が御手洗の頭脳の中で組み合わされ、壮
大な事件を解明へと導いて行く。

主演は、昨年放送されたテレビドラマでも御手洗に扮し、原
作者の指名だという玉木宏。共演は、2012年5月紹介『スー
プ〜生まれ変わりの物語〜』などの広瀬アリス。他に、石田
ひかり、小倉久寛、要潤、谷村美月、吉田栄作らが脇を固め
ている。
脚本は、2008年10月紹介『青い鳥』などの監督でもある中西
健二と、2006年8月紹介『地下鉄(メトロ)に乗って』など
の長谷川康夫。監督はテレビ『相棒』シリーズのメイン監督
を務める和泉聖治が担当した。
原作の相棒役は石岡という作家のようだが、テレビでは堂本
光一が演じたキャラクターは本作では名前だけで、代わりに
映画版オリジナルの女性キャラクターが登場している。それ
が原作のファンにどう映るかは判らないが、広瀬のちょっと
コメディリリーフ的な役柄はそれなりに良かったと思える。
ただ物語全体のちょっと強引な展開は、映画用にアブリッジ
したために顕著化してしまったとも思えるが、まあ、あれよ
あれよという感じでもあった。でもそれが原作の持ち味で、
読者が認めるならそれで良いのだが。
いずれにしても、歴史に纏わる壮大な謎解きや星籠のVFX
も、物語全体としてのバランスの中で気持ちよく収まってお
り、エンターテインメントの映画作品としては満足できるも
のだ。
とは言うものの、映画ファンとしては結論として明かされる
星籠の秘密には、1970年のビリー・ワイルダー監督作品も思
い出してしまうもので、トリックの流用を嫌う原作者がそれ
を知らなかったのかどうか。その点はちょっと気になったと
ころだ。

公開は6月4日より、全国ロードショウとなる。

『スクール・オブ・ナーシング』
熊本県人吉市を舞台に、様々な理由で看護師を目指す4人の
男女が初めての病院で実習を通じて成長して行く姿と、患者
との交流を描いた作品。
主人公は幼い頃に母親を亡くし、その母親が闘病した病院で
看護師を志すようになった若い女性。彼女は看護師養成機関
で勉強を続けていた。そして彼女の周囲には、地球防衛軍の
夢を諦めて看護師を目指す若者や、30代半ばでリストラされ
た男性、シングルマザーの女性などもいた。
そんな男女が学内での勉学の期間を終えて病院での実習の時
を迎える。ところが主人公は、初日から担当するはずだった
患者が急死し、予定を変更して担当することになったのは、
余命を宣告されながらも毅然とした態度で最後の日を迎えよ
うとしている男性だった。
その他の3人が担当するのは、それぞれ女好きの僧侶や、男
を手玉に取るやり手の女経営者、さらに死期の迫った女性と
長年連れ添いながらも胸の内を語れなかったその夫。そんな
様々な人生が病室の内外を通じて語られ、看護師たちはそれ
に寄り添って行くことになる。

主演は、2015年に女優デビューして本作が2作目という霧島
ココ。他に、2016年2月紹介『ドロメ』などの大和田健介、
2009年9月紹介『ASSAULT GIRLS』などの佐伯日菜子、TV
俳優の木村知幸。さらに愛華みれ、榎木孝明、吹石一恵らが
脇を固めている。
監督は、1964年生まれでフリーランスの助監督を長年務め、
本作が事実上のデビュー作となる足立内仁章。脚本は、主に
テレビ、舞台で活動してきた児島秀樹。また製作は、2007年
『ALWAYS 続・三丁目の夕日』などを担当した山際新平と、
元々の企画者である山崎歩となっている。
因に本作は山崎の第1作となるものだが、本作の原案は山崎
の母親が著したもので、長年看護教育の現場にいる人だから
こその物語が展開される。ただし看護教育の現場は、現在は
厚労省管轄の養成機関と、文科省管轄の看護大学の間で揺れ
ているのだそうで、今回の試写後に行われたQ&Aではその
点も紹介されていた。
とは言え、映画の中では特に佐伯日菜子の介護の手際が見事
で、それは山崎の母親が撮影現場にも立ち会って指導したも
のだそうだが、これは本当に納得できる「演技」だった。
それと監督の演出では、クライマックスの港のシーンは正に
出色と言える。特に映像との絡み合いが素晴らしかった。

公開は撮影地元の熊本ではすでに先行上映が行われたものだ
が、東京は3月19日より池袋シネマロサ他で、全国順次ロー
ドショウとなる。
なお先行上映のアンケートでは、多くの子供たちから「将来
看護師になりたい」という回答が寄せられたそうで、それこ
そが本作の狙いとするところ。できるだけ多くの子供たちに
観て貰いたい作品だ。

『ズートピア』“Zootopia”
3月12日封切りの『アーロと少年』に続いて日本公開される
ディズニー・アニメーションの最新作。
物語の背景は、肉食獣と草食獣が仲良く暮らしている動物た
ちの理想郷ズートピア。そして主人公は、その世界で最高の
警察官を目指すウサギのジュディ。とは言うもののウサギの
生業はニンジン栽培の農業で、そこから警察官になるなんて
夢のまた夢だった。
しかしジュディは大型動物に混ざって警察学校を優秀な成績
で卒業、遂に夢を実現する。しかもライオン市長の計らいで
首都の警察署に勤務することに。ところが勇んでやってきた
警察署は大型動物が幅を利かせ、ジュディに与えられた仕事
は駐車違反の切符切りだった。
それでもめげずに職務を続けるジュディ。その頃ズートピア
では肉食獣ばかりの行方不明事件が相次いでおり、その中で
カワウソ一家の父親が行方不明になっていた。しかし警察の
手が回らないと見るや、ジュディはその捜査を進言して遂に
捜査活動に従事することになるのだが…。
それはズートピアを根底から揺るがす事件の始まりだった。

監督は、2011年1月紹介『塔の上のラプンツェル』のバイロ
ン・ハワードと、2013年2月紹介『シュガー・ラッシュ』の
リッチ・モーア。この2人を含む8人の原案から『シュガー
・ラッシュ』のフィル・ジョンストンと、2014年『ベイマッ
クス』などのジャレッド・ブッシュが脚本を手掛けている。
実は『アーロと少年』に関しては、恐竜と人類が共存してい
るという設定が納得できず、紹介を止めていた。しかし本作
を観ると、人類が登場しなかった地球を描いているようで、
これはもしかすると人類が恐竜と共に滅んだ世界なのかもし
れないと、2作品の繋がりを考えてしまった。
もちろん本作の物語は現代社会のメタファーと読めるし、差
別や格差などなどが比喩されたものだが、もし地球に人類が
いなかったら、動物たちはこんな風に進化して文明を築き、
平和な地球が誕生していたのかもしれない。そんなことも考
えてしまう作品だった。
そして本作が描き出す大小様々な動物たちが平等に暮らすた
めの社会の構造。それは極めて誇張された人間世界でもある
訳だが、それらが巧みに考えられていた。その一方で目の前
に展開される見事なズートピアの景観。これらが観ていて感
心してしまうような世界に描かれていた。
正しくファンタスティックと呼べる作品だ。因に『アーロと
少年』はピクサーの製作、本作はディズニーアニメーション
の製作となっている。

公開は4月23日より、全国一斉ロードショウとなる。

この週は他に
『ルーム』“Room”
『テラフォーマーズ』
『RADWIMPSのHESONOO Documentary Film』
『更年奇的な彼女』“我的早更女友”
『マクベス』“Macbeth”
『孤独のススメ』“Matterhorn”
を観たが全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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