井口健二のOn the Production
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2016年02月21日(日) ドロメ、見えない目撃者、ヒメアノ〜ル、シェーン

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『ドロメ 女子篇』
『ドロメ 男子篇』
『女子篇』は前々週に観たものだが、ペアで評価しなければ
いけない作品なので、今回まとめて紹介する。
物語の舞台は統合による廃校が決まった山腹に建つ男子校。
そこに春からは一緒に学ぶことになる女子高の演劇部の4人
と付き添いの女教師が合同合宿にやってくる。校舎で待つの
は3人の男子生徒と男性の顧問、それに先輩。それは統合記
念に演じられる芝居を練習するためだった。
ところが女子高生らは登り道で首無しで泥にまみれた観音像
を目にし、異様な雰囲気を感じていた。それでも一足先の共
学体験に互に興味津々のメムバーたちだったが…。やがて彼
らに様々な怪異現象が襲い掛かり、観音像や学校に隠された
謎が明らかになって行く。
というお話が『女子篇』は女子生徒の目線、『男子篇』は男
子生徒の目線で描かれ、それぞれ男女の本音も交えた物語と
なっている。

出演は、「テニスの王子様」出身で2014年公開『ぶどうのな
みだ』などの小関裕太と2015年公開『おんなのこきらい』な
どの森川葵。他に中山龍也、三浦透子、大和田健介。さらに
2012年4月紹介『『彼女について知ることのすべて』などの
長宗我部陽子、2013年7月紹介『共喰い』などの木下美咲、
『海猿』に出演の東根作寿英らが脇を固めている。
脚本と監督は、2012年3月紹介『先生を流産させる会』など
の内藤瑛亮が担当した。
最初に書いたように、この2作品は独立して試写が行われた
ものだが、実は『女子篇』を観ただけでは話が成立しない。
というか話は判るのだが、作品としては極めて物足りないも
のになっている。
それは物語のキーパースンが実は男子側の主人公であって、
彼の行動を抜きにして語られる『女子篇』ではほとんどその
状況が把握できないのだ。このため最初の試写を観た直後は
あっけに取れられたような感じだった。
しかし『男子篇』を観るとその疑問も解消し、ようやく納得
できることになった。でもそれが正しい方法かどうか、実際
に最初の試写を観た人の中には『男子篇』は観なくても良い
と判断した人も多かったようだ。
内藤瑛亮監督のホラー演出は、『男子篇』に関しては2012年
作品のときにも書いたようにそれなりに良いと思えるし、こ
れを観ないで本作は語れない。公開時にはその点での周知を
徹底する必要がありそうだ。
アイデアは面白いと思うが、『女子篇』にはもう2つ、3つ
の工夫が必要だったのではないかな?

本作は、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭にて『女子
篇』が2月26日、『男子篇』が27日にワールドプレミアされ
た後、3月26日より東京はシネマート新宿ほかで、全国順次
ロードショウとなる。

『見えない目撃者』“我是证人”
2014年に日本公開された韓国映画『ブラインド』を、オリジ
ナルを手掛けたアン・サンフン監督が自らの手で中国を舞台
にリメイクした作品。
主人公は元婦人警官、しかし数年前の事故で失明し、その道
は閉ざされている。しかもその失明の原因が彼女自身の行動
にあって、同時に弟も失った彼女はそのトラウマにも苦しめ
られている。
そんな彼女がタクシーと思って乗り込んだのは、何か不穏な
感じもする車だった。そしてその車が事故を起こす。しかし
それを誤魔化そうとする運転手は、彼女を道端に置いたまま
走り去ってしまう。
その状況を主人公は警察に通報するが、盲目の彼女の説明は
事態の把握にはもどかしく真剣には受け止めて貰えない。と
ころがそこに目撃者と称する若者が現れ、事件は思わぬ方向
に進展するのだが…。

出演は、中国では「ドラマの女王」と呼ばれているというヤ
ン・ミーと、男性音楽グループEXO/EXO-Mでリードヴォーカ
ルを務めるルハン。
他に、2013年10月26日付「東京国際映画祭」で紹介『オルド
ス警察日記』の演技で映画祭の最優秀男優賞を受賞したワン
・ジンチェン、2012年ロウ・イエ監督『二重生活』のチュー
・ヤーウェンらが脇を固めている。
実は韓国版のオリジナルには観ている記憶があって、今回は
手元のデータを検索したのだが、何故か記録が全く残ってい
なかった。でも何となく話がごちゃごちゃしていて、あまり
良い印象ではなかったという思いもある。
そんな印象からすると本作は、話もすっきりしていて、特に
姉弟の関係や犯人の行動が理解し易く、映画に入り易かった
という感じがした。監督も同じ題材を2度目なら、それなり
に整理もされたというところかな。
と言っても僕の印象だけなので、元々こういう脚本だったの
かもしれない。
ただ後半のシーンにはもう少し暗闇感が欲しい感じもして、
その辺ではオードリー・ヘップバーン主演、テレンス・ヤン
グ監督の『暗くなるまで待って』(1967年)を思い出したりも
していたものだ。

公開は4月1日より、東京はTOHOシネマズ新宿、日本橋他で
全国順次ロードショウとなる。

『ヒメアノ〜ル』
「行け!稲中卓球部」で1996年度の講談社漫画賞を受賞した
古谷実が2008年から発表した原作を、2010年3月紹介『さん
かく』などの𠮷田恵輔監督が、ジャニーズV6の森田剛と濱
田岳を主演に向かえて映画化した作品。
濱田が演じる主人公は清掃会社のパート社員。そんな主人公
が職場の先輩から「行きつけのカフェのウェイトレスに恋を
した」と告げられる。そしてその恋のキューピットを頼まれ
た主人公は、先輩と共にそのカフェに通い始める。
そこで主人公は同じウェイトレスを見つめる男性の姿に気付
く。それは主人公の高校での同級生だった。そしてウェイト
レスからその男性が現れてから周囲で変な事が起きていると
聞かされた主人公はその相談に乗ることになるが…。
それは驚愕の事件の始まりだった。

共演は、2014年2月紹介『クジラのいた夏』などの佐津川愛
美、2009年8月紹介『大洗にも星はふるなり』などのムロツ
ヨシ。他に、2012年3月紹介『サイタマノラッパー』などの
駒木根隆介、2013年10月紹介『楽隊のうさぎ』などの山田真
歩。さらに大竹まことらが脇を固めている。
試写の後で観ていた知り合い同士で顔を見合わせ、「これは
大丈夫なのか?」と話し合った。それほどの問題作と言って
過言ではない作品。特に森田の鬼気迫る演技は、ジャニーズ
にこれが許されるのか? というほどのものだ。
因に製作者欄には藤島ジュリーK.の名前も並んでいるから、
正にジャニーズお墨付きの作品だが、これをやらせた側の勇
気も相当のものと思える作品になってる。正しく問題作と言
えるだろう。
その一方で、本作はいじめの問題も真剣に描き切っており、
その苦しみやそれが引き起こす結末に関しても、問題意識を
持って描いているように思える。それは生半可なものではな
く、正しく真剣に捉えられている。
正直に言っていじめの問題は、今までにも数多くの映画作品
で描かれてきたが、そのほとんどが興味本位というか、真に
痛みを分かち合った作品ではなかった。それが本作では過激
に描かれた分だけ、逆に深層に迫ったようにも感じた。
しかもそれがジャニーズのアイドルによって描かれている点
にも注目するべきなのだろう。これでは無関心ではいられな
くなる。この作品を世に送り出した勇気にも賛辞を贈りたい
ものだ。

公開は5月28日より、全国ロードショウとなる。

『シェーン』“Shane”
1953年製作の西部劇の名作がディジタルリマスターされ、封
切り時さながらの画質で再公開されることになった。
物語は今更紹介するまでもないかもしれないが、元から居た
牧場主の横暴に苦しむ開拓者の家に流れ者の男が現れる。そ
の男は拳銃使いのようだが、男はその拳銃を隠して一家と共
に生活を始める。
その一家はようやく辿り着いた土地で、他の開拓者たちと共
に平和に暮らしていこうとしていたが、牧場主の横暴は留ま
るところを知らず、その嫌がらせに耐えかねて土地を離れる
者も出始める。
そして遂に挑発に乗った開拓者の1人が返り撃ちで殺され、
一家の主は牧場主との妥協も考え始める。しかしシェーンに
その考えは無かった。一方、牧場主も新たに凄腕の拳銃使い
を雇い入れていた。

出演は、アラン・ラッド、ジーン・アーサー、ヴァン・ヘフ
リンと、本作で共にオスカー助演賞候補になったウォルター
・ジャック・パランスとブランドン・デ・ワイルド。製作と
監督は、1956年『ジャイアンツ』、1965年『偉大な生涯の物
語』などのジョージ・スティーヴンスが担当した。
作品は子供の頃に多分テレビで観ているが、元々ガンファイ
トの描写などが抑えられたドラマティックな作品と言う印象
だった。その印象は今回見直しても変わらなかったが、それ
以上に銃器の使用をことさら抑える展開だった。
それは論議にもなっていた主人公の行く末に関しても、見直
すと正にその場所がラストシーンだったもので、これが主人
公個人のことではなく、主人公が象徴するものに対してであ
ることも明確に理解できたものだ。
この映画が製作された当時のアメリカ国民の気持ちが、この
象徴的なラストシーンを描かせたのだとも思うが、今も日々
彼の国から届くニュースでは、未だにそれが達成されていな
いという現実にも哀しくなる思いだった。
その一方で、悪の象徴でもあった牧場主の立場に関しては、
その後に知った開拓当時の状況などを鑑みると牧場主の主張
にも多少の道理はあったもので、その辺のことが台詞として
ちゃんと描かれていることも確認できた。
それらの歴史の重みも感じることのできる作品だった。

公開は4月9日より、東京は丸の内TOEI2ほかで、全国順次
ロードショウとなる。

この週は他に
『ヒーローマニア−生活−』
『無伴奏』
『山河ノスタルジア』“山河故人”
を観たが全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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