井口健二のOn the Production
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2016年02月14日(日) あやしい彼女、COP CAR/コップ・カー、無音の叫び声

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『あやしい彼女』
2014年に日本でも公開された韓国映画『怪しい彼女』の日本
版リメイク作品。
その写真館は商店街の一角に特別な夜だけ店を開くようだ。
飾り窓にオードリー・ヘップバーンの写真が飾られたその店
で、生活に疲れた73歳の女性がポートレートを撮影した時、
彼女は20歳の姿になる。
そして最初こそ自分の変身に気付かず頓珍漢な行動を始めた
女性は、やがてその変化を楽しみ、辛かった人生を取り戻す
べく活動を開始するが…。そこにミュージシャンを目指す孫
や音楽プロデューサーが絡んで物語が展開される。

出演は、2006年6月紹介『夜のピクニック』などの多部未華
子、2010年8月紹介『マザーウォーター』などの小林聡美、
2013年6月紹介『タイム スクープ ハンター』などの要潤。
他に倍賞美津子、金井克子、温水洋一、志賀廣太郎と2013年
8月紹介『陽だまりの彼女』で主人公の中学生時代を演じた
北村匠海らが脇を固めている。
監督は、2008年9月紹介『252生存者あり』などの水田伸
生、脚本は2013年の大河ドラマ『八重の桜』などの吉澤智子
が担当した。
主演の多部は2005年4月紹介『HINOKIO』以来注目し
ている女優だが、その後の作品では監督の力もあるのだろう
けど今一つ力量が発揮できていない感じで、観ていて歯痒い
思いがしていた。
しかし本作では、周囲に倍賞、小林といったベテランがいた
お蔭もあるのだろうが、素晴らしい演技が展開されている。
特に台詞廻しには正に73歳→20歳の雰囲気が出ており、本人
は苦手だとする歌唱シーンも併せて見事だった。
そしてその歌唱では数々の昭和歌謡が披露されるのだが、実
は韓国版のオリジナルは、試写は観たが紹介をしなかったも
ので、それは登場する歌に思い入れがなかったせいもある。
それが本作では見事に嵌ってしまった。
正直に言って僕自身の暮らしは本作の主人公ほど悲惨ではな
かったが、登場する再現シーンには思い出も重なって、見事
に涙腺を刺激されてしまったものだ。そのシーンの多部の演
技も昭和映画風で的確だったと思う。
それは若いスタッフにはパロディの気分かもしれないが、当
時を知る人間には見事な再現だった。
因に2014年の韓国映画は、すでに中国でのリメイクがされて
大ヒットを記録したとのこと、さらにタイ、インドネシア、
インド、ドイツでの製作準備も進んでいるとのことで、それ
ぞれの国で思い出が語られることになるようだ。

公開は4月1日(エイプリルフール)の日から、全国一斉の
ロードショウとなる。

『COP CAR/コップ・カー』“Cop Car”
2017年公開予定“Spider-Man”新シリーズに起用が決まって
いるというジョン・ワッツの脚本・監督で、2013年8月紹介
『ゴースト・エージェント』などのケヴィン・ベーコンが主
演と製作総指揮も買って出た警官ドラマ。
物語の始まりは2人の少年。2人は家出と称して緑の草原を
駆け抜け、雑木林の中に停車した無人のコップ・カーに遭遇
する。そして最初は恐る恐る接近した2人は遂に乗り込み、
マリオカートの要領でコップ・カーを走らせ始める。それが
とんでもない事件に繋がって行く。

共演は、少年役に本作が映画デビューのジェームズ・フリー
ドスン=ジャクスンと、昨年“Carver”というホラー作品に
主演し本作が2作目のヘイズ・ウェルフォード。
他に、2005年のハリウッドリメイク『ダーク・ウォーター』
に出演のカムリン・マンハイム、2014年7月紹介『フライト
・ゲーム』に出演のシェー・ウィカムらが脇を固めている。
脚本・監督のワッツは2010年に“Clown”と題されたホラー
映画の模造予告編を制作、それが2011年7月紹介『ラスト・
エクソシズム』などのイーライ・ロスに注目され、その予告
編に基づく本編で2014年に監督デビュー。
そして本作が長編第2作だが、さらに本作で評価されて人気
シリーズへの抜擢だそうだ。
因に脚本は“Clown”からの盟友であるクリストファー・D
・フォードとの共同だが、そのフォードは2013年5月紹介の
ロボットテーマ作品『素敵な相棒』の共同脚本も手掛けてお
り、こちらも注目だ。
物語の展開には少年の成長の要素もあり、そこに漂う雰囲気
にはシティ―ヴン・キング原作『スタンド・バイ・ミー』の
趣もあるかな。勿論1987年の映画化ほどの大作ではないが、
目指している感覚には通じるところもありそうだ。
そんなところが人気シリーズへの抜擢の理由かな? それに
してもホラーからアクションへ、そしてアメコミへの三段跳
びは見事なものだが、実は本作の前半にはちょっとした仕掛
けがあって、僕はそれも気に入った。
それは映画ファンには常套の手法を捻ったもので、本来なら
別の展開を予想するところを見事にひっくり返されたもの。
こんな感覚がアメコミ作品に取り入れられたら、それも凄い
ことになる。
2017年の作品にも期待が集まるところだ。

公開は4月9日より、東京はヒューマントラストシネマ渋谷
他で、全国順次ロードショウとなる。

『無音の叫び声』
1986年日本農民文学賞から、2003年現代詩人賞、2009年丸山
薫賞など、数多くの受賞に輝く農民詩人・木村廸夫を追った
ドキュメンタリー作品。
1935年生まれの詩人は貧しい小作農家の長男だった。そして
戦後の農地改革で自作農となるが、その耕地は6反足らずと
僅かだったために出稼ぎなどで生計を立てる。しかし我が子
に乞われて出稼ぎをやめ、地元で廃品回収などを始める。
そんな近代日本の最底辺で生き抜いてきた詩人は、60年間で
16冊に及ぶ詩集を世に出し、数々の受賞にも輝く。それらは
一貫して世の中の矛盾を突くものであり、反戦詩人とも呼ば
れるものだ。
そしてその一方で詩人は衰え行く農村を憂い、三里塚闘争の
記録などで有名な小川プロダクションを自宅に招いて村の記
録を残したり、遺骨収集団に参加して太平洋の激戦地だった
ウエーキ島に降り立ったりもする。
そんな詩人の姿を通して、戦後日本の歩みが問い直される。

監督の原村政樹は1957年生まれ、フリー助監督を経て1988年
にドキュメンタリー制作会社の桜映画社に入社。2004年制作
の『海女のリャンさん』でキネマ旬報文化映画ベストテンの
第1位に選ばれるなど、こちらも数々の受賞に輝いている。
そんな原村は多くの農村・農民を描いたドキュメンタリーも
手掛けており、その監督の目が本作では詩人を通じて農村を
描くことにも成功している。それは日本の原風景とも言える
もので、僕はその風景にも魅了される作品だった。
その他にも、どれだけ多くの素晴らしいものを戦後の日本は
失ってしまったことか、そんなことも問い掛けられているよ
うな感じもした。作品の主題は詩人であるけれど、それ以上
のものを本作は描いている。

本作は昨年の山形国際ドキュメンタリー映画祭にて公式上映
が行われたもので、一般公開は1月23日よりフォーラム山形
と3月5日よりフォーラム東根で山形県先行上映の後、東京
はポレポレ東中野にて4月9日から、さらに全国順次上映が
予定されている。

この週は他に
『つむぐもの』
『マジカル・ガール』“Magical Girl”
『But・オンリー・ラヴ』
『劇場版 探偵オペラ ミルキィホームズ
               逆襲のミルキィホームズ』
『エスコバル/楽園の掟』“Escobar: Paradise Lost”
を観たが全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二