井口健二のOn the Production
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2016年02月07日(日) あやつり糸の世界、蜜のあわれ、砂上の法廷、桜の樹の下

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『あやつり糸の世界』“Welt am Draht”
1962年のHugo賞候補者であるアメリカのSF作家ダニエル・
F・ガロイが1964年に発表した“Simulacron-3”を、1978年
『マリア・ブラウンの結婚』でニュー・ジャーマン・シネマ
の旗手と呼ばれるようになるライナー・ヴェルナー・ファス
ビンダーが、それ以前の1973年に監督した作品。
物語の背景となるのは情報科学の研究所。そこでは大型のコ
ンピュータを用いたシミュレーション実験が行われていた。
それはコンピュータ内に独自に思考するようプログラムされ
た数千のキャラクターが行動する世界を構築し、そこに任意
の条件を与えることで未来予測を行う研究だった。
ところがその装置の完成間際に開発の中心にいた研究者が事
故で死亡、主人公はその後釜として開発を進めることになる
のだが…。そんな主人公に研究者の死は事故ではないとの噂
がもたらされ、さらにその情報源の人物が突然消失、しかも
その存在を誰も記憶していないという事態が生じる。
果たしてその研究の真の目的とは? そこに死亡した研究者
の娘や、政府の研究機関と私企業との癒着などの問題を錯綜
させながら物語は展開されて行く。

主演は、後にハリウッド映画に進出してサム・ペキンパー監
督の『戦争のはらわた』や、クリント・イーストウッド監督
の『ファイヤー・フォックス』などにも出演するクラウス・
レーヴィチュ。
共演は、フォトモデル出身で現在はアメリカ在住で翻訳者を
しているというマーシャ・ラベン。1980年代にはフレディ・
マーキュリーの恋人としてクィーンのPVなどにも出演した
バーバラ・ヴァレンティン。
さらに1965年ジャン=リュック・ゴダール監督の『アルファ
ビル』で主人公のレミー・コーションを演じたエディ・コン
スタンティーヌらが出演している。
同じ原作からは1999年にローランド・エメリッヒ製作による
『13F』という作品も作られているが、エメリッヒ特有の
外連に満ちた作品に対して本作はいたってオーソドックス、
より原作に近いものと思われる。
因にガロイの原作は、『構造世界』の邦題で翻訳もあるよう
だが、今回はチェックできなかった。
その原作から本作は、1973年に当時の西ドイツのテレビ局で
番組として16�仞什遒気譴燭發里如⊇召辰禿�時も数か国で放
送されたものの劇場公開はなく、そのまま幻の作品となって
いた。
その作品がディジタルリマスターされて劇場公開されるもの
だ。なお公開は第1部1時間45分と第2部1時間47分という
2部構成、合計3時間32分の堂々たる作品になっている。
それにしても本作は、正にバーチャルリアリティの嚆矢と言
える作品で、1973年当時にこのような作品が作られたという
事実に敬意を表したい。
それは原作があるとは言え、映画内での説明も巧みで物語へ
の織り込みも見事なもの。それが『マトリックス』の25年も
前に作られていたのだ。正にSF映画史でも特筆すべき作品
だと言える。
この作品を観られることに感謝をしたい。

公開は3月より、東京は渋谷ユーロスペース他で、全国順次
ロードショウとなる。

『蜜のあわれ』
「ふるさとは遠きにありて思ふもの」などの詩句でも知られ
る作家の室生犀星が、その晩年の1959年に発表した小説『蜜
のあはれ』を、2013年5月紹介『シャニダールの花』などの
石井岳龍監督が映画化した作品。
物語の舞台は池のある庭に面した和室。そこで初老の男と赤
いドレスの若い女性が戯れている。やがて女性は外出すると
言い出し夕方になって帰ってくるが、ネコに追われて尾びれ
が裂けたと言う。その女性は作家の飼う金魚だったのだ。
そんな老作家と金魚の睦言のようなやり取りと、やがて登場
する作家に恋い焦がれた女性の幽霊。さらには金魚を老作家
に託した金魚売りなどが、少し淫靡でかなりシュールな物語
を綴って行く。

主演は、2012年6月紹介『王様とボク』などの二階堂ふみと
2013年3月紹介『モンスター』などの大杉漣。共演に2013年
12月紹介『ゲノムハザード』などの真木よう子、2010年12月
紹介『毎日かあさん』などの永瀬正敏。
また、2010年1月紹介『ソラニン』などの高良健吾が面白い
役柄で登場の他、韓英恵、上田耕一、渋川清彦、岩井堂聖子
らが脇を固めている。
原作は最終章を除いて全編会話体のみで構成されるという、
かなり前衛的な作品だそうだが、それが執筆されたのは作家
70歳の年。しかもこの内容というのは…。正に恐るべき老年
という感じのものだ。
ただし作家は、1956年に日本でも上映されたアルベール・ラ
モリス監督の抒情的な短編映画『赤い風船』を高く評価して
いたという経緯もあるそうで、そのことを併せると作品への
見方も多少変わってくることになりそうだ。
奔放に行動する金魚=赤いドレスの女性と、大空を自由に動
き回る赤い風船、そこには多くの重なり合う部分も存在して
いる。映画ファンならそんなことも考えながら見るべき作品
なのかもしれない。
そしてこの奔放に行動する若い女性を二階堂ふみが熱演して
いる。さらにそこには奇妙なダンスも織り込まれるのだが、
実は本作には振付師は付いておらず、この踊りは二階堂の即
興なのだそうだ。
因に二階堂は沖縄出身だが、2011年10月紹介『指輪をはめた
い』にもあったようにフィギュアスケートの素養もあるよう
で、足腰の強さとそれなりのセンスは備えているようだ。こ
れも本作の見ものと言える。

公開は4月1日より、東京は新宿バルト9ほかで全国ロード
ショウとなる。

『砂上の法廷』“The Whole Truth”
1999年にロビン・ウィリアムス主演で映画化された『アンド
リューNDR114』や2002年11月紹介『イナフ』などのニコラス
・カザンの脚本、2009年12月紹介『フローズン・リバー』の
コートニー・ハントの監督で、キアヌ・リーヴスが弁護士を
演じる法廷ドラマ。
事件は息子による父親殺し。敏腕な弁護士であった被害者は
主人公とも親交があり、被害者の妻である加害者の母親から
息子の弁護を頼まれたのだ。しかし息子は頑なに口を噤んだ
ままで、弁護する糸口も見つからない状態だった。
そこで主人公は「人間うそ発見器」の異名を持つ若い女性弁
護士を助手に起用する。彼女は相手の表情や仕草などから嘘
を見抜き、さらにその背景まで推理する能力にたけていた。
そして裁判が始まるが…。
検察側からは次々に被告人が殺したとする証拠が提出され、
一言も話さない被告人には情状酌量の余地もなく、被告人は
絶対不利なまま裁判は進行してしまう。果たして主人公には
一発逆転の手立てはあるのか?

共演は、2007年6月紹介『ミス・ポター』などのルネ・ゼル
ウィガー、2015年3月紹介『ジュピター』に出ていたという
ググ・バサ=ロー、2011年6月紹介『スーパー8』に出てい
たというガブリエル・バッソ。
脚本のカザンは『エデンの東』などの名匠エリア・カザンの
息子で、1991年の『運命の逆転』ではオスカー脚色賞の候補
にもなっている。一方、監督の2009年作も極めて過酷な状況
を描く中で、見事な人情味を感じさせてくれた作品だ。
そんな2人のコンビネーションだが、正直に言って結末には
かなりの衝撃を受けた。でもそれが嫌な感じにはならない。
その辺がこの2人の力量なのだろうし、さらにキアヌの人柄
というか、醸し出す雰囲気のような感じもした。
実際に試写室を出るとき周囲の人の多くがニコニコしていた
ことを特記しておきたい。そんな雰囲気の作品だ。

公開は3月より、東京はTOHOシネマズシャンテほかで、全国
順次ロードショウとなる。

『桜の樹の下』
川崎市宮前区にある市営野川西団地に住む人々の姿を追った
ドキュメンタリー。昨年の山形国際ドキュメンタリー映画祭
日本プログラムに正式出品され、多くの観客から高い評価を
受けたという作品。
団地は1973年に建設され、京浜工業地帯の真ん中に位置する
川崎市で高度成長期の日本を支える労働者が暮らしてきた。
しかしその役割はすでに終り、現在の居住者は約350世帯、
特定の条件を満たす住宅困窮者で、多くは高齢者の単身者が
市からの援助を受けて暮らしている。
そんな中に取材のカメラが入り、人々の日々の暮らしを写し
て行く。
そこには、夫を亡くして愛鳥と共に年金で暮らしていたが、
その鳥も死んで以後は近くの老人の世話を焼くようなる女性
や、ごみ屋敷のような部屋で暮らし、先の女性に世話を焼か
れながらも反発もする女性。
さらには視力の減退で障害者年金で暮らす男性や、満州から
の引揚者で企業にも務めたが身体を壊し、それでも若い頃に
関ったセミプロ劇団の仲間の励ましで再び脚本を書き始めよ
うとする男性などが登場する。

それらが1987年神奈川県出身、2013年日本映画学校(現・日
本映画大学)卒業、商業作品は本作が初めてという若い女性
監督・田中圭の目を通して綴られて行く。
試写の後で監督と少し話をしたが、本作では被写体を見つめ
る監督の目がものすごく優しくて、それは観ていても心が和
らぐというか、観ているだけでその情愛が伝わってくるよう
な作品だった。
しかしその一方で、本当にこれでいいのかという不安にも襲
われた。それは監督自身が映画製作の傍ら訪問介護の仕事も
しているという背景にも起因するのだろうが、作中で介護に
近いことをしている監督の姿に余計に心配にもなった。
試写の後の話では、取材は続けている風な口ぶりだったが、
出来れば一旦は別の題材に向って少し距離を置くことも考え
て欲しい。勿論この取材を続けることは構わないが、余りの
めり込むと自身を失ってしまいそうだ。
その意味で監督には、別の題材の次作も期待したいものだ。

公開は4月2日より、東京はポレポレ東中野ほかで全国順次
上映となる。
なおこの題名には、坂口安吾や梶井基次郎をふと思い浮かべ
たが、監督にそれは伝えなかった。今さら問題にすることで
はないだろう。


この週は他に
『人生は小説よりも奇なり』“Love Is Strange”
『僕だけがいない街』
『スポットライト 世紀のスクープ』“Spotlight”
『アイヒマン・ショー 歴史を映した男たち』
                 “The Eichmann Show”
『スイートハート・チョコレート』“甜心巧克力”
『偉大なるマルグリット』“Marguerite”
『もしも建物が話せたら』“Cathedrals of Culture”
『ザ・ブリザード』“The Finest Hours”
『ドロメ 女子篇』
を観たが全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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