井口健二のOn the Production
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2016年01月24日(日) 太陽、ローカル路線バス乗り継ぎの旅in台湾 THE MOVIE、ボーダーライン、女が眠る時

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『太陽』
2011年に第63回読売文学賞戯曲・シナリオ賞を受賞した前田
知大の戯曲を、2012年3月紹介『サイタマノラッパー3』な
どの入江悠監督が映画化した作品。
物語の背景は、21世紀の前半に発生したウィルス疾患により
人類の多くが死亡した世界。その疾患を克服した新人類と呼
ばれる人々は太陽の下では暮らせない身体となったが、人類
の遺産を引き継ぎ科学技術に基づく社会を構築していた。
その一方で、今も疾患に怯えながら生き長らえている人々も
存在した。しかし旧人類と蔑称される彼らは独自には社会を
維持することができず、新人類から支給される物資に頼って
ようやく生活ができる程度だった。
そんな旧人類である主人公の暮らす村は、新人類の暮らす領
域とフェンスを隔てただけの場所にあったが、過去に起きた
新人類への反抗によって物資の支給が制限されていた。その
制限がようやく解除されることになったが…。

出演は、2015年12月紹介『TOO YOUNG TO DIE!』などの神木
隆之介と、2014年1月紹介『愛の渦』などの門脇麦。他に、
2011年2月紹介『高校デビュー』などの古川雄輝。さらに村
上淳、古舘寛治、鶴見辰吾、中村優子らが脇を固めている。
太陽の下では暮らせないという設定はヴァンパイアなどでは
定番だが、実際の難病などもあって現実的な物語と言えるの
かもしれない。そんな中で本作は、それをSFの設定として
見事に物語を構築しているものだ。
前田が主宰する劇団イキウメでは、以前からSF的な題材を
多く取り上げているそうだが、ここに展開されているSFの
世界観はかなり完璧に作られている。実は日本人の演劇系の
SF作品には偏見があったが、これはしっかりしていた。
しかもそこには様々なSF的なギミックなども散りばめて、
これはSFとして納得できる作品に仕上げられていた。因に
映画化は前田と入江の共同脚本となっており、VFXも絡め
たアイデアが入江なら今後も期待したくなる。
特に映画の前半に登場する新人類の日光浴シーンは掴みとし
ても面白いし、そこからのVFX処理も気に入ったものだ。
一方、物語の全体では古館が演じる父親役が巧みで、物語の
終盤の別れのシーンには、世界観が見事に集約されていた。

映画の全体に関してはいろいろな意味でのバランスも良く、
この様な作品が作られただけでも、SFファンとして賞賛を
贈りたくなるような作品だった。物語の最後に描かれる希望
と共に、新しい光が見えてきたような感じもした。
まだ1月だが、今年のSF映画のbest1に選んでも良い作品
だ。
公開は4月23日より、東京は角川シネマ新宿、池袋シネマ・
ロサ、渋谷ユーロスペース他にて、ロードショウとなる。

『ローカル路線バス乗り継ぎの旅in台湾 THE MOVIE』
太川陽介と蛭子能収のレギュラー+女性タレントの出演で、
テレビ東京をキー局に2007年に開始され、すでに第21弾まで
放送されているというヴァラエティ番組の劇場版・海外編。
テレビ番組は最近になって何作か観ているが、番組の設定は
3泊4日の日程でロケ開始地点から指定された目的地まで、
高速バスは使わずにローカル路線バスのみの乗り継ぎで到達
するというもの。その様子が同行取材で描かれる。
そして今回は番組初の海外ロケということで、台湾北部の首
都台北から、最南端の鵝鑾鼻岬を目指すというもの。因に台
湾はローカルバスが発達しており、路線図上は可能のような
のだが…、その日は台湾に巨大台風が接近していた。
果たして3人は無事に目的地に到達できるのか。
僕自身、サッカーの応援では東京から九州まで夜行バスで行
くこともあるが、それは高速バスということで、ローカル路
線バスの乗り継ぎと言うのは、実際にこの様な番組の企画で
もなければ普通はやらないことだろう。
それを敢えてやるところがこの企画の面白いところで、それ
は乗り継ぎの場所ごとに風情やドラマが感じられるところに
もなる。その辺はすでに国内で21作も手掛けているスタッフ
には、正に手の内のように巧みに手堅く描かれた作品だ。
それは逆に上手く嵌り過ぎている感じもあって、ドキドキ興
奮するような展開には欠けているかもしれないが、先々での
人との出会いなどがそれなりに温かく描かれているところな
どが、ほのぼのとした良さにもなっている。
それに映画ファンには、先に話題になった台湾映画の舞台の
土地なども登場して、これは劇場版として計算されていたの
かな? これにはちょっと驚かされた。その辺は上手くでき
た作品だ。
内容的にはテレビ番組そのままで、それを劇場で観る価値が
あるのかというところにはなるが、映画館で観たら案外テレ
ビも観たくなる…そんな感じの作品にもなっていた。いずれ
にしても見慣れない風景を観るのも映画の楽しみの一つだ。

公開は2月13日より、東京は新宿ピカデリー、ユナイテッド
・シネマ豊洲ほかで、全国ロードショウとなる。

『ボーダーライン』“Sicario”
2011年10月紹介『灼熱の魂』などのドゥニ・ヴィルヌーヴ監
督が、2014年6月紹介『ALL YOU NEED IS KILL』などのエミ
リー・ブラントを主演に迎え、麻薬戦争の実態を描いたアク
ション作品。
ブラントが演じるのはFBIの誘拐即応班でリーダーを務め
る女性捜査官。ところが彼女の指揮するチームが踏み込んだ
メキシコ国境にほど近い街の家の壁には、おびただしい数の
遺体が埋め込まれていた。
その家の所有者は実はメキシコの麻薬組織に繋がる男で、そ
れらの遺体は麻薬密輸に関って殺された人々だった。そして
彼女は上司の許に呼び出され、麻薬組織撲滅のためのより高
レヴェルのチームにスカウトされたと告げられるが…。
それは国境を越え、FBIの捜査範囲を超える新たな作戦の
始まりだった。

共演は、2008年12月紹介『チェ28歳の革命/39歳別れの
手紙』などのベニチオ・デル=トロ、2013年2月紹介『L.A.
ギャングストーリー』などのジョッシュ・ブローリン。
脚本はテレビシリーズの主演も務める俳優でもあるテイラー
・シェリダン。テキサス州出身の俳優が自らの子供時代とは
様変わりし、悪の巣窟となってしまったメキシコへの思いを
込めて描いた作品とのことだ。
宣伝文には『ゼロ・ダーク・サーティ』『アメリカン・スナ
イパー』などの作品名が並ぶが、軍隊万歳で右傾化の臭いも
するこれらの作品に対して本作は、正にアメリカ庶民が直面
する問題を背景に、国家犯罪も匂わせる作品になっている。
その点で言えば、この週に観た作品の中で一番の問題作とも
言えそうだ。
それにしてもブラントは、以前は若い女性の憧れを体現して
いるような女優だったと思うが、『ALL YOU NEED IS KILL』
でのアクションのお蔭でこんな役も演じるようになるとは、
ハリウッドスターも大変な職業だ。

公開は4月9日より、全国ロードショウとなる。

『女が眠る時』
1992年に発表された『白い心臓』という小説が日本語に翻訳
されているスペイン作家ハビエル・マリアスの短編小説を、
2009年7月紹介『千年の祈り』などのウェイン・ワン監督が
映画化した作品。
主人公は数年前に出したデビュー作が評判になったという作
家。しかし第2作で躓いてスランプに陥り、さらに編集者の
妻とも倦怠期となって就職を決意。最後の骨休みでリゾート
ホテルに来ている。
そんな主人公がプールサイドで日光浴をする若い女性と初老
の男性のカップルに目を止める。その不釣り合いなカップル
が気になった主人公は2人の後をつけるようになり、やがて
カップルの部屋を覗き見るようになるが…。
主人公は初老の男性に声を掛けられ、部屋に招かれた主人公
はある秘密を教えられる。

出演は、ビートたけし、2014年10月紹介『ハーメルン』など
の西島秀俊、2013年8月紹介『許されざる者』などの忽那汐
里。他に、小山田サユリ、リリー・フランキー、新井浩文、
渡辺真起子らが脇を固めている。
主人公の覗き見る情景が現実なのか妄想なのか、そんな非現
実の雰囲気を漂わす映像がスクリーンに展開される。それを
どう評価すべきかは悩むところだが、取り敢えずはそのまま
受け止めればいいのだろう。
主演の西島は、2008年7月紹介『真木栗の穴』でも妄想に取
り憑かれる作家を演じて印象深かったが、本作はそれを前提
に観てしまうのが良いかどうか。映画鑑賞を続けていると、
そんなことも悩んでしまうところだ。
もう一点、ワン監督に関して前作の『千年の祈り』は上記の
紹介でも書いたように製作には日本の資本が投入されていた
ものだが、本作に関してはさらに進んで東映製作による完全
な日本映画になっている。
そのため紹介も日本語題名のみとしたが、実はポスターなど
には“While the Women Are Sleeping”という英語題名が添
えられている。ここで注目するのは‘Women Are’と複数形
になっていることだ。
しかし映画の中で寝姿が登場するのは1人だけ。一方、登場
する女性には主人公の妻もいて、そうすると複数形にはこの
妻も含まれることになる。しかも「時」は‘When’ではなく
‘While’で…。悩むところはいろいろある作品だ。

公開は2月27日より、全国ロードショウとなる。

この週は他に
『さざなみ』“45 Years”
『セーラー服と機関銃−卒業−』
『マリーゴールド・ホテル幸せへの第二章』
       “The Second Best Exotic Marigold Hotel”
『木靴の樹』“L'albero degli Zoccoli”
『ハロルドが笑う その日まで』“Her er Harold”
『ロブスター』“The Lobster”
『光りの墓』“Rak ti Khon Kaen”
を観たが全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二