井口健二のOn the Production
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2016年01月17日(日) 復讐したい、夜会VOL.18−橋の下のアルカディア−劇場版、SHERLOCK 忌まわしき花嫁、リップヴァンウィンクルの花嫁、華魂 幻影

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『復讐したい』
2005年8月紹介『あそこの席』『@ベイビーメール』などが
公開された2005年以降、20作品以上が製作されているという
山田悠介原作の映画化。もっともその内の6本は『リアル鬼
ごっこ』だが…。
物語の背景は、犯罪被害者の遺族が犯人を復讐のために殺す
ことが許されるという「復讐法」が施行されている近未来。
主人公は、通り魔的な犯罪者に妊娠中の妻を殺された教師。
彼は元々は「復讐法」には反対だった。そんな主人公が絶海
の孤島に設けられた復讐のための施設にやってくる。
この施設で復讐者には各種の武器が支給され、犯罪者には密
かに位置を探知できる発信機が埋め込まれている。この復讐
者が絶対有利の状況下で復讐は開始されるが、復讐を遂げる
までの時間は18時間に限定され、その期限を過ぎると犯罪者
は無罪放免されるという条件も付けられている。
そしてこの施設には、主人公の他に爆弾テロで家族を失った
被害者のグループや両親を友人に殺されたという若い女性も
来ていた。斯くして指令センターの監視の許、主人公らによ
る復讐劇が開始されるのだが…。犯罪者側には武器を奪って
反撃するチャンスも与えられていた。

出演は、名古屋が活動拠点のアイドルグループBoys & Menの
メムバーで2015年4月紹介『サムライ・ロック』などの水野
勝、相手役に2014年5月紹介『キカイダー REBOOT』などの
高橋メアリージュン。
他に、Boys & Menのメムバーの小林豊、本田剛文ら、さらに
2012年6月紹介『闇金ウシジマくん』などの岡田義徳らが脇
を固めている。
脚本と監督は、2009年『湾岸ミッドナイト THE MOVIE』など
1990年代から活動している室賀厚。さすがのベテランが、人
間ドラマも構築した物語を展開している。
山田悠介原作の映画化については2014年3月紹介『パズル』
のときにも書いたが、年配の評論家諸氏の評価が頗る低い。
それは映画の内容が、シチュエーションに手が凝んでいる割
には展開はエピソードばかりで、ドラマがなく人間性が感じ
られないということなのだろうと考えている。
それに対して本作では、ベテランの監督が巧みなドラマ展開
を披露してくれたもので、それは感動の名作という訳ではな
いが、それなりに僕らでも納得できる作品に仕上げられてい
た。特にサブキャラクターのテロリストの描き方が良くて、
その辺での展開や若い女性の存在も良い感じだった。
ただこれが今までの作品をヒットさせてきた若い観客の嗜好
に合うかどうかは判らない訳で、その辺の結果も楽しみにな
るところだ。

公開は2月27日より中部エリアでの先行上映の後、3月5日
から全国ロードショウとなる。

『夜会VOL.18−橋の下のアルカディア−劇場版』
シンガーソングライターの中島みゆきが1989年から続けてい
る舞台の2014年版を劇場向けに収録した作品。
中島みゆきの関連では、実は昨年劇場公開されたコンサート
映像も試写を観せて貰っていたが、そちらは正しく演奏会の
収録という作品で、映画としての評価を控えたものだ。それ
に対して本作には物語性もあってこれは評価の対象とした。
その物語は題名にもある橋の下を舞台にしたもので、そこに
は占い師らしい女性とカウンターバーの代理ママの女性など
が暮らしている。ところがそんな彼女らに治水工事か何かの
関係で立ち退きを迫られる。
そしてその立ち退き告知のために警察官の若者が街にやって
くるが…。実は彼と彼女らには、遠い昔から続く橋の建設を
巡っての深い因縁があった。

そんな物語が、46曲の書き下ろし楽曲を含む2幕物として、
中島みゆきの脚本、作詞、作曲、歌、主演で綴られる。そし
て共演には、やはりシンガーソングライターの中村中、石田
匠が出演している。
生の舞台の迫力がこの映像作品で完璧に再現されているかに
ついては多少疑問に思うところはあるけれど、中島みゆきの
圧倒的な世界観は充分に感じることができた。つまりその世
界観の物凄さが、映像を通しても伝わってくる作品だ。
それは哀しい物語とも相まって、見事に「みゆきワールド」
を構築しているとも言える。ただ最後の描かれる希望のとこ
ろで第2次世界大戦の兵器が登場することには、僕の個人的
な思想の面で疑義を感じるが、これも時代なのだろう。

いずれにしても中島みゆきの歌唱力も含めて、最初から最後
まで圧倒され続ける作品であることは間違いない。
公開は2月20日より、東京は新宿ピカデリー&丸の内ピカデ
リーほかで、全国ロードショウとなる。

『SHERLOCK シャーロック 忌まわしき花嫁』
          “Sherlock: The Abominable Bride”
2012年5月に紹介したベネディクト・カンバーバッチ、マー
ティン・フリーマン共演のテレビシリーズの特別版で、今年
1月1日に本国イギリスで放映された作品が、日本では劇場
公開されることになり試写が行われた。
映像の舞台はヴィクトリア朝のロンドン。おや?本シリーズ
は現代が背景ではなかったの…?という展開だが、ちゃんと
シリーズとの繋がりも付けられている。そして本作では、正
にコナン・ドイル卿のホームズが再現されるのだ。
その物語は花嫁姿の女性が銃を乱射した挙句に、自分の頭を
撃って自殺するところから始まる。ところがその後に今度は
花婿が花嫁の女性に射殺される事件が発生。果たして花嫁は
甦ったのか…?ということで、名探偵の登場となる。

共演は、アマンダ・アビントン、マーク・ゲイティス、ルイ
ーズ・ブリーリー、ルパート・グレイヴス、ユナ・スタブス
らテレビシリーズのレギュラー陣が、普段とはちょっと違っ
た雰囲気で登場。その捻り具合も良い感じになっている。
製作と脚本は、出演者でもあるゲイティスとスティーヴン・
モファット。彼らは2015年5月紹介『ドクター・フー』にも
関っているコンビで、その流れで観ると本作の仕掛けも納得
できるところだ。監督も『ドクター・フー』のシリーズから
ダグラス・マッキノンが起用されている。
という作品だが、本作では謎解きが見事にその時代を捉えた
壮絶なもので、これがテレビシリーズとは思えないほどのも
の、これには正に脱帽という感じだった。現代版のシリーズ
との繋げ方といい、特別版に相応しい作品と言えるものだ。

公開は2月19日より、東京は各TOHOシネマズ系の映画館で、
期間限定特別ロードショウとなる。

『リップヴァンウィンクルの花嫁』
2012年8月紹介『ヴァンパイア』などの岩井俊二監督が、劇
映画では同作以来となる4年ぶりに発表した作品。本作では
原作、脚本も手掛けており、作品は上映時間3時間の大作と
なっている。
主人公は、SNSで知り合った男性と結婚することになった
派遣教員の女性。しかし彼女には親族が少ないためSNSの
伝手で「なんでも屋」の男に結婚式の代理出席を依頼する。
ところがその時から彼女の周囲が変わり始める。
式は挙げたものの代理出席が露見し、不倫疑惑などで家を追
い出された主人公は、「なんでも屋」の男から月収100万円
のハウスメイドの仕事を斡旋され、そこで先輩メイドの女性
と知り合い、意気投合するのだが…。

主演は、2015年11月紹介『母と暮らせば』などの黒木華、相
手役に2014年2月紹介『そこのみにて光輝く』などの綾野剛
と、シンガーソングライターで2012年2月『KOTOKO』
などのCocco。他に原日出子、毬谷友子、りりィ、金田明夫
らが脇を固めている。
黒木華に関しては、ベルリン国際映画祭の銀熊賞を受賞した
2013年12月紹介『小さいおうち』での演技は実はあまり評価
していなかったが、昨年公開された『幕が上がる』での演技
指導のシーンには、これはと思わせるものがあった。
そんな黒木が本作では再び頼りなげな女性を演じているのだ
が、今回はそこに綾野剛が演じる謎の「なんでも屋」が絡ん
で見事なドラマが展開される。特に綾野の演じる男が悪人な
のか否か、その描き方も巧みとしか言いようがない。
長尺を感じさせない素晴らしい作品だった。

公開は3月26日より、東映配給にてロードショウとなる。

『華魂 幻影』
2011年9月紹介『UNDERWATER LOVE−女の河童−』では監督
を務めたいまおかしんじが脚本を手掛けた廃館寸前の映画館
を舞台にしたちょっとホラーの要素もある作品。
主人公は廃館寸前の映画館で映写技師を務める男。その上映
はあと数日だが、そんな彼が映写室から見詰めるスクリーン
に、フィルムには映っていない黒衣の女性が現れる。その女
性は次には客席にも現れ、その後を追った主人公はとある河
原へと誘われる。そして真相が明らかになるが…。

出演は、2013年11月『祖谷物語−おくのひと−』などの大西
信満、新人のイオリ。他に2010年7月紹介『花と蛇3』など
の川瀬陽太、2013年8月紹介『今日子と修一の場合』などの
愛奏、それに1972年『天使の恍惚』などの吉澤健、さらに真
理アンヌ、三上寛らが脇を固めている。
監督は2006年1月紹介『刺青』などの佐藤寿保。因に監督は
2014年に『華魂』という作品を発表しており、物語は独立し
ているようだが、本作はその第2弾だそうだ。
映画ファンにとって、この作品に登場するような館内は思い
切り郷愁を誘ってくれるものだ。そんなことも判っての作品
が展開されている。そこに亡霊のような女性の登場で、これ
は正にノスタルジックな展開かと思いきや、何たって脚本は
いまおかしんじ、後半はその期待通りの展開となる。
それはまあいやはやの展開になる作品だが、本作にはこれが
期待されているのだから、それは仕方のないところだろう。
でもそれももう少し濃密には描いて欲しかったかな。新人女
優が頑張っている分、もう少し描写を工夫して欲しかった感
じもした。

公開は4月30日より、東京は新宿K's cinemaほかにてロード
ショウとなる。

この週は他に
『幸せをつかむ歌』“Ricki and the Flash”
『モヒカン故郷に帰る』
『母よ、』“Mia madre”
『あまくない砂糖の話』“That Sugar Film”
を観たが全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二