井口健二のOn the Production
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2016年01月03日(日) 2015年Best 10、ザ・ウォーク、ジョギング渡り鳥、ミラクル・ニール!

 明けましておめでとうございます。
 本年もよろしくお願いいたします。
 今回は新年第1回ということで、2015年の僕的ベスト10を
発表したいと思います。選考対象は2015年度の公開作品で、
試写を観せて貰った中から選びます。
 まずはSF/ファンタシー映画:
1位:神々のたそがれ(2月1日紹介)
2位:アース・トゥ・エコー(9月13日紹介)
3位:コングレス未来学会議
          (2014年9月7日紹介The Congress)
4位:プリデスティネーション(1月11日紹介)
5位:リザとキツネと恋する死者たち(11月15日紹介)
6位:コードネームU.N.C.L.E.(8月30日紹介)
7位:キングスマン(8月9日紹介)
8位:トゥモローランド(5月24日紹介)
9位:バードマン(2月8日紹介)
10位:ヴァチカン美術館4K3D(2014年12月7日紹介)
番外1:草原の実験(2014年11月2日付紹介)
番外2:Re:LIFE〜リライフ〜(8月30日紹介)
番外3:7500(6月28日紹介)
 昨年のSF映画は大粒の作品が少ないというか、あるけど
試写で観ていなくて、ベスト10は全体的に小粒な作品ばかり
になってしまった。
 その中で1位〜5位はそれなりに納得して選べたかな。特
に2位は『未知との遭遇』と『E.T.』の巧みな融合で気に
入ったものだ。5位は今回日本映画を選ばなかった分、この
作品を入れておきたかった。
 6位、7位は共にスパイものだが、昨年公開された『ミッ
ション:インポッシブル』『007』よりSF的に面白いと
思えたものだ。7位は多少異論もあるだろうが、オマージュ
も感じるイギリス流のブラックユーモアと理解した。
 8位は久し振りのディズニーSF映画という感じで好まし
かった。『インサイド・ヘッド』(6月7日紹介)も久し振
りに納得できるピクサーアニメーションだったが、センス・
オブ・ワンダーの点でこちらを選んだ。
 9位は大物監督による「アメコミヒーロー考」といった感
じの作品で、一般的にはアンチテーゼのように捉えられてい
ると思うが、僕は逆にこの監督の「アメコミヒーロー愛」を
感じられたように思えた。
 10位は種別としてはドキュメタリーの作品だが、3D化と
いうのはフィクションに入れてしまいたくなるものだ。特に
この作品での名画の3D化は、賛否の両論は踏まえた上での
フィクションとして評価したくなった。
 そして今回は番外として3作品を挙げておきたい。番外1
は昨年の『ガガーリン』に続く旧ソ連時代の科学実験の再現
ドラマだが、宇宙飛行ほどSF的ではないのでこことする。
番外2と3は共にロッド・サーリング(ミステリーゾーン)
へのオマージュの強い作品で、ここに置くことにしました。
 続いて一般映画はベスト5で、
1位:それでも僕は帰る(7月26日紹介)
2位:ボーダレス ぼくの船の国境線
      (2014年11月3日紹介ゼロ地帯の子どもたち)
3位:ロシアン・スナイパー(9月27日紹介)
4位:カフェ・ド・フロール(2014年11月30日紹介)
5位:Mommy マミー(3月8日紹介)
 こちらもいわゆる大作は選べなかったが、いずれも僕の心
に深く残った作品と言えるものだ。特に1位はドキュメンタ
リーだが、観ている間にいろいろなものが錯綜して深く残る
作品になった。
 2位は、ある意味1位と真逆な作品だが、こういう作品が
今の時代に必要と感じられた。3位は、本来この種の戦争を
描いた作品は僕は評価しないつもりだったが、この作品には
感心したものだ。
 そして4位、5位はどちらも正しく映画と呼べる作品で、
2015年度の映画の中で僕が最も好きな作品と言い切れるもの
だ。しかし映画の評価はそれだけではないということでこの
順位とした。

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『ザ・ウォーク』“The Walk”
2009年4月紹介のドキュメンタリー作品『マン・オン・ワイ
ヤー』を、2009年11月紹介『クリスマス・キャロル』などの
ロバート・ゼメキス監督が3D映像でドラマ化した作品。
フランス人の大道芸人プティは綱渡りを生業としていたが、
自分の目標とするものを決められないでいた。そんな彼が目
にしたのはニューヨーク・ワールド・トレード・センターの
建設記事。そのツインタワーの姿に魅せられたプティは、そ
の棟の間に綱を張って渡り切ることを夢見るようになる。
そして大道芸で知り合った恋人や仲間と共に準備を重ね遂に
その日を迎えるが…。

出演は、2010年7月紹介『インセプション』などのジョセフ
・ゴードン=レヴェット、2013年5月紹介『恋のベビーカー
大作戦』などのシャルロット・ルポン。他に、ベン・キング
スレー、2007年9月紹介『アヴリルの恋』などのクレマン・
シボニーらが脇を固めている。
実は以前のドキュメンタリーの紹介文を読み返して、自分が
かなり批判的に書いていたことに驚いてしまった。それは多
分、記録映像に挟まる再現ドラマという手法が納得できなか
ったもので、今回はそれが全編ドラマ化となったものだ。
ということで改めてドラマ化作品を観ると、これなら納得で
きるという感じだった。特に再現ドラマでは「そんなこと有
かよ!」と思っていた部分が、今回の作品の中にもあって、
それはもうその通りだったんだと思えたりもした。
そして最後に出てくる‘Forever’という言葉には、思わず
居ずまいを正してしまった。恐らくゼメキスの言いたかった
ことは、この一言に尽きるのではないかな。そんな思いもす
る作品だった。

公開は1月23日より、全国一斉の2D/3Dロードショウと
なる。

『ジョギング渡り鳥』
東京・渋谷にある映画専門学校・映画美学校が製作した上映
時間2時間37分の作品。
映画の初めの方に空飛ぶ円盤の不時着シーンがあって、そこ
から異星人らしき連中がぞろぞろ出てくるという展開。ただ
し彼らの姿は地球人には見えないらしく、そんな設定の中で
異星人による人間観察が開始される。
というお話で、最初はもっとSF的な展開を期待したが、制
作者にはあまりそういう意図はないらしく、ただ不可視の異
星人という設定を利用した人間ドラマが展開されるものだ。
さらにそれがジョギングという共通テーマの中で複数のドラ
マがアンサンブル的に描かれるものになっていた。
まあそのドラマの一部として異星人による「神」探しという
のはあるのだけれど、それが意味を持つほどには描かれてい
ない。結末は一応その方向で着いてはいるのだけれど…。全
体は普通の人間ドラマを錯綜させて描いた作品だ。

監督は、2013年10月紹介『楽隊のうさぎ』などの鈴木卓爾。
2011年5月に開校した映画美学校アクターズ・コースで講師
を務める監督が、その第1期生たちのキャスト&スタッフで
作り上げた作品ということだ。
鈴木監督には『楽隊のうさぎ』でも、1952年『ハーヴェイ』
のような展開を期待していたらはぐらかされたもので、結局
そういう資質なのだろう。ただ本当はファンタシーが好きな
のかもという感じもあって、その辺が歯痒いところだ。
それから、実は本作の映画製作のスタッフ欄に「脚本」がい
なくて、監督に「場面構成」という肩書と、「人物造形・台
詞」としてアクターズ・コース第1期生と記載されている。
つまり本作はほとんどアドリブで作られたもののようだ。
で、その良し悪しを問題にするつもりはないが、ただ本作の
ようなアンサンブル劇では、全体的なバランスなどを考える
とあまり効果的ではなかったのではないかな。そんな風には
感じられた。
なおよく似た傾向では、『ハッピーアワー』という作品が神
戸ワークショップシネマプロジェクトというところから発表
されていて、12月12日公開された上映時間5時間17分のその
作品はそれなりにまとまりを持って作られていた。
そちらは監督を含む3人の作者による脚本が用意されていた
もので、SFではないので紹介は割愛したが長尺を飽きさせ
ずに観せられたものだ。今回は、やはり脚本は大事だとも思
わせてくれた。

公開は3月に、東京は新宿K's cinemaにてロードショウさ
れる。

『ミラクル・ニール!』“Absolutely Anything”
元モンティー・パイソンのテリー・ジョーンズが、劇場用長
編映画としては1996年“The Wind in the Willows”以来の
約20年ぶりに手掛けたSFコメディ作品。
物語の発端は大宇宙の何処か。形態もサイズも様々な5人の
エイリアンが「地球」と呼ばれる惑星の審査を行っていた。
それは「銀河法」の定めに従ったもので、その審査にパスす
ればその惑星は宇宙社会の一員に迎えられるのだ。
その審査の方法は、惑星の住人の1人に全ての願いが叶う能
力を与え、その住人が正しい行いをすればパスとなるもの。
ただし一度でも悪い行いに走ると、その惑星は即破壊となっ
てしまう。そして主人公にその能力が与えられるが…。

出演は、『スター・トレック』『ミッション:インポッシブ
ル』や2015年5月紹介『殺し屋チャーリーと6人の悪党』な
どのサイモン・ペッグ、2012年8月紹介『トータル・リコー
ル』などのケイト・ベッキンセール。
他に、2011年10月紹介『ロンドン・ブルバード』に出ていた
サンジーヴ・バスカー、2015年公開『帰ってきたMr.ダマー
バカMAX!』に出ていたロブ・リグルらが脇を固めている。
そしてさらにエイリアンの声の出演で、ジョン・クリース、
テリー・ギリアム、エリック・アイドルらの往年のモンティ
ー・パイソンのメムバーが揃うのも嬉しいところだ。また主
人公の愛犬の声を2014年に他界したロビン・ウィリアムスが
当てている。
普通の人間が全能の力を手にする話は、2003年10月紹介『ブ
ルース・オールマイティ』など数多くあると思うが、そこに
SFという味付けでは、本作はかなりの出来栄えと思える。
それはSF的なセンスの問題でもあるもので、その点でイギ
リス人はさすがなのだ。特に能力が途切れた時の出来事など
が、成程これは上手いと思えた。日本映画でもこんなセンス
を観てみたいのだが…。

公開は4月に、全国ロードショウが予定されている。

なお今回は御用納め最後の週に観た作品を中心に紹介した。
この週は他に
『さらば あぶない刑事』
『探偵なふたり』“탐정: 더 비기닝”
『ブラック・スキャンダル』“Black Mass”
『キャロル』“Carol”
を観たが全部は紹介できなかった。申し訳ない。

 今年もこんな調子でやっていきますので、どうぞよろしく
お願いいたします。


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井口健二