井口健二のOn the Production
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2015年12月28日(月) 未体験ゾーンの映画たち2016(ロスト・パトロール、スティンガー、コインロッカーの女、ディスクローザー)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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未体験ゾーンの映画たち2016
『ロスト・パトロール』“A Estrada 47”
第2次世界大戦でヨーロッパ戦線に従軍したブラジル軍兵士
を描き、リオデジャネイロ国際映画祭で主演男優賞と編集賞
を受賞したドラマ作品。
第2次世界大戦中、ドイツとイタリアの艦船に自国の商船を
襲撃されたブラジルは連合軍への参加を決断、25,000人を超
える若者がヨーロッパ戦線へ送られたそうだ。そんな彼らが
着任したのは冬の北部イタリア。南国育ちの若者たちを雪の
降りしきる極寒の世界が待ち受けていた。
しかも突然の敵襲に遭い本隊から逸れてしまった主人公たち
の部隊は、彼らの行動が脱走ではないことを証明するため、
本隊に先行してその進撃路に敷設された地雷を撤去すること
になる。そこにイタリア軍の脱走兵や負傷したドイツ軍人の
捕虜が加わり、死と隣り合わせの任務が遂行されて行く。

出演は、2008年『ファヴェーラの丘』などのダニエル・デ・
オリベイラ、ラッパーで2011年11月紹介『エリート・スクワ
ッド』などのThogun。さらに2007年5月紹介『イタリア的、
恋愛マニュアル』などのセルジオ・ルビーニらが脇を固めて
いる。
脚本と監督は、ドキュメンタリー映画出身のビセンテ・フェ
ラッツが担当した。
第2次世界大戦関連のブラジルに関しては、終結時の日系人
社会の混乱などは伝わっているが、実際に兵士がヨーロッパ
に出兵したとは知らなかった。しかしその事実関係の記録が
ほとんど残っていないというのも、本作に描かれている通り
なのだろう。
そんな日本人の知らない歴史を教えてくれるのも映画の役割
と思えるものだ。ただ映画の字幕で「枢軸国への参戦」とあ
るのは、「枢軸国との闘いへの参戦」と明確にすべきではな
いかな。字幕のままでは枢軸国側に参加したようにも取れて
誤った認識になってしまいそうだ。

公開は2月2日より、東京はヒューマントラストシネマ渋谷
他でロードショウとなる「未体験ゾーンの映画たち2016」の
1本として上映される。

『スティンガー』“Скольжение”
モスクワ郊外の闇社会を舞台にしたロシアン・ノアールとで
も呼べそうな作品。
開幕は郊外の住宅を包囲する警察隊。麻薬流通監督庁と連邦
保安庁(F.S.B)の共同作戦で麻薬組織のアジトを急襲
する計画は、あと一歩のところで齟齬をきたし、潜入捜査官
の身に危険が迫ることに。
一方、FSBの内部ではおとり捜査のために調達した麻薬の
手当で問題が起きてしまう。さらにはその調達に使った裏金
の始末など、様々な事情が絡まり始める。そして潜入捜査官
は辛くも危機を脱するが…。

出演は、ウラジスラフ・アバシンとアレクセイ・イグナチェ
フ。脚本と監督は、本作が長編デビュー作のアントン・ロー
ゼンバーグが担当した。
物語は麻薬流通監督庁と連邦保安庁、それに麻薬マフィアの
三つ巴のもので、さらには保安庁内部の汚職なども絡むから
かなり複雑。正直には1回観ただけでは充分には理解できて
いないものだ。でも雰囲気などは存分に楽しめるもので、正
しくノアールという感じの作品になっている。
ロシア映画も今後はこんな作品が増えてくるのかな。

公開は2月2日より、東京はヒューマントラストシネマ渋谷
他でロードショウとなる「未体験ゾーンの映画たち2016」の
1本として上映される。

『コインロッカーの女』“차이나타운”
2015年カンヌ国際映画祭の批評家週間に出品され、韓国公開
では自国映画の初登場第1位を記録したという作品。
主人公は、10番のコインロッカーに捨てられていたことから
イリョン(韓国語で10の意味)と名付けられた少女。ホーム
レスの間で育てられたが、手入れの際に警察に保護される。
ところがその警察からとある女性の許へ。その女性は高利貸
しだが、集金が滞ると負債者の臓器を売って回収するという
悪魔のような女だった。
こうして少女は魔窟のような社会で成長して行くが、ある日
集金に訪れた若い男性の優しい心根に触れてしまう。そして
彼女の運命が回転し始める。

主演は、続けてイ・ビョンホン共演の『MEMORIES追憶の剣』
という作品も日本公開されるキム・ゴウン。共演には2014年
公開『観相師』などのキム・ヘス。さらに『のだめカンター
ビレ』の韓国版に出演のパク・ボゴム、コ・ギョンピョらが
脇を固めている。
脚本と監督は本作が長編デビューというハン・ジュニ。
「大切な人は、みんな死んでいく」というのが宣伝コピーだ
が、その内のかなりの部分には主人公自身が関与しているの
だから、これは強烈な作品だ。しかも見事なドラマが構築さ
れている。終盤には観客を震撼とさせるシーンも用意されて
おり、これなら批評家週間の上映も納得の作品だった。

公開は2月16日より、東京はヒューマントラストシネマ渋谷
他でロードショウとなる「未体験ゾーンの映画たち2016」の
1本として上映される。

『ディスクローザー』“Felony”
2013年1月紹介『ゼロ・ダーク・サーティ』などのジョエル
・エドガートンの製作・脚本・主演でオーストラリアの警官
を描いたドラマ作品。
主人公は銃撃戦の中を身の危険も顧みず突撃して犯人を逮捕
してしまうような熱血刑事。そんな彼がある事件を解決し、
同僚たちと酒を酌み交わし車での帰宅中を悲劇が襲う。彼の
車の前に飛び出してきた自転車の少年を避け切れず、跳ねて
しまったのだ。
しかも彼は正直に事故を報告せず、ひき逃げ事件の目撃者を
装ってしまう。それでも何となく事は収まりそうだったが、
そんな彼の様子を新たに着任した刑事が疑いの目を持って追
求し始める。ところがその刑事の行動は上司によって妨害さ
れ、斯くして事件は闇へ葬られようとしたが…。

共演は、2013年7月紹介『ローン・レンジャー』などのトム
・ウィルキンスン、2015年7月紹介『ターミネーター:新起
動/ジェニシス』などのジェイ・コートニー、2009年6月紹
介『30デイズ・ナイト』などのメリッサ・ジョージ。
監督は、テレビシリーズを多数手掛け、本作が長編2作目の
マシュー・サヴィエルが担当した。
実は2015年5月に「カリテ・ファンタスティック!シネマコ
レクション2015」を紹介した際に提供されたサンプルDVD
はあと3作品ほどあって、その1本の『最後まで行く』とい
う韓国映画がよく似た内容だった。
ただし韓国映画の方がもう少しどぎついというか、人間模様
などがかなり複雑で、その点で言うと本作の方が理解し易い
かな。でもその辺は観る人の好き好きにもよるといった感じ
のものだ。因に製作年度は本作が先に出来ている。

公開は2月20日より、東京はヒューマントラストシネマ渋谷
他でロードショウとなる「未体験ゾーンの映画たち2016」の
1本として上映される。
        *         *
 来年の「未体験ゾーンの映画たち2016」では全部で50本が
上映される予定で、その内から本ページでは11月29日付紹介
2本を併せて10作品を紹介できた。
 ただし今回紹介した中では、SF映画ファン向けと言える
作品が『エリザベス 神なき遺伝子』『アフターデイズ・ボ
ディ』『ラバランチュラ』くらいしかなく、その点では少し
残念だったが、元々このシリーズは「ファンタスティック映
画祭」ではないのだから、これは仕方ないことだろう。
 それよりも今回の上映では『ロスト・パトロール』『コイ
ンロッカーの女』のように、一般興行でも通用しそうな作品
が増えてきているもので、これは今後の展開にも期待したく
なってくるものだった。良い映画をたくさん観られるのは、
何と言っても嬉しいことだ。


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井口健二