井口健二のOn the Production
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2015年12月20日(日) ザ・ガンマン、鉄の子、アイリス・アプフェル、ディーパンの闘い、新劇場版 頭文字D

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『ザ・ガンマン』“The Gunman”
2012年2月紹介『きっとここが帰る場所』などのショーン・
ペンが初めてアクション映画に挑戦したという作品。
物語の背景はコンゴ民主共和国の内戦。その紛争地帯で主人
公はヨーロッパの民間警備会社から派遣され、空港建設工事
の警備に従事していた。しかしそれは表向きで、その裏側で
は別の任務の準備が進んでいたのだ。その一方で彼には、現
地で医療に携わる恋人もいたが…。
遂に本社から指令が届き、主人公はスナイパーとして政府要
人の暗殺を実行することになる。しかもその任務の遂行後は
直ちにアフリカ大陸からの退去が命じられており、主人公は
恋人に別れも告げぬまま現地を離れなければならなくなる。
それから8年の歳月が流れる。
主人公は再びアフリカの地に舞い戻り、今度は銃を持たずに
NGOで井戸掘りの作業に従事していた。しかしその作業場
が襲われ、反撃に転じて襲撃者を撃破した主人公は、彼らの
目標が自分自身であった確証を得る。斯くしてヨーロッパに
戻った彼前で8年前の関係者が次々殺されていった。

共演は、2008年3月紹介『ノー・カントリー』などのハヴィ
エル・バルデム、2001年12月紹介『息子の部屋』などのジャ
スミン・トリンカ。他に、2013年7月紹介『パシフィック・
リム』などのイドリス・エルバ、2012年6月紹介『スノーホ
ワイト』などのレイ・ウィンストンらが脇を固めている。
監督は2009年6月紹介『96時間』でリーアム・ニースンを
アクションスターにしたピエール・モレル。制作会社はニー
スン主演で2014年7月紹介『フライト・ゲーム』を発表した
シルヴァ・ピクチャーズ。元々『マトリックス』シリーズな
どで一世風靡した会社だが、また勢い付いてきたようだ。
そして脚本は、ジャン=パトリック・マンシェット原作『眠
りなき狙撃』に基づくもので、その原作からペンと、2008年
2月紹介『バンテージ・ポイント』などの監督のピート・ト
ラヴィス、さらに1998年版『アベンジャーズ』などのドン・
マクファーソンらが脚色している。
「ショーン・ペンが初めてアクション映画に挑戦した」とい
うフレーズは試写前に宣伝担当者が言ったものだが、確かに
シルヴァ作品への参加という点ではその通りだろう。しかし
本作には様々なアクションシーンも描かれているものの、物
語の本質は世界情勢も背景としたかなりポリティカルなもの
だ。そしてペンは本作の脚本、製作にも名を連ねている。
それはこの脚本がペン自身の体験にも基づいているからだそ
うで、実際にハイチでの救援活動などにも熱心なペンが、現
地で交流した元特殊部隊員などの話を織り込んで脚本が創ら
れているのだそうだ。そんなオスカー俳優の思いも込められ
た作品になっている。

公開は2月6日より、東京は新宿バルト9ほかで全国ロード
ショーとなる。

『鉄の子』
オールドファンには『キューポラのある町』で知られる埼玉
県川口市を舞台にした子供の成長が主題の家族ドラマ。
主人公は鋳物工場が並ぶ町で母親と2人暮らしだった少年。
そこに同年の少女連れの男性が母親の再婚相手としてやって
くる。しかもその少女と同級生となった少年は、最初は反発
するがやがて少女も同じ思いと気付き、再婚した両親を離婚
させるべく共同戦線を張ることにする、が…。

出演は、ボーイズ集団EBiDAN所属の佐藤大志と、2010年12月
紹介『毎日かあさん』などの小西舞優。それに田畑智子と、
2012年11月紹介『ユダ』などの裴ジョンミョン。さらにお笑
いのスギちゃんらが脇を固めている。
脚本と監督は、埼玉中心の活動で本作が3作目の福山功起。
因に試写前の挨拶によると、本作は監督の実体験に基づいて
いるのだそうだ。
思春期の子供たちが巻き起こす大人の想像を超えた行動を描
く作品ということでは、2012年3月紹介『先生を流産させる
会』などもあるが、本作はさらに現実的に子供たちの身辺に
起きる出来事として考えさせられるものになっている。
ただし本作では物語がその点に絞り込まれておらず、結末も
両親の生活態度など子供たちの行動とは異なる次元の話で進
んでしまうもので、その点が少し歯痒くも感じてしまった。
監督の実体験に基づくのであれば、もっといろいろな思いも
込められたと思えるし、その辺で少し物足りない感じもして
しまう作品だった。
しかも母親が夜の商売というのは…。川口という土地柄の反
映なのかも知れないが、内容的にはPTA的な方向も考えて
もよかったのではないかな。そんなことも考えてしまった。
老婆心ながら。

公開は2月13日より、東京は角川シネマ新宿、また埼玉県は
MOVIX川口ほかで全国順次上映となる。

『アイリス・アプフェル!94歳のニューヨーカー』“Iris”
1921年生まれ、94歳にしてニューヨークのファッションアイ
コンと呼ばれる女性の姿を追ったドキュメンタリー作品。
アイリスはニューヨーク州クィーンズでロシア系ユダヤ人夫
妻の1人娘として生れた。一家はガラスと鏡のビジネスで成
功していたようで、母親はファッションブティックも営んで
いたという。
そんな環境で育った彼女は、ニューヨーク大学で美術史を学
んだ後に美術学校にも通い、卒業後はインエリアデザイナー
の助手なども務める。そして結婚した夫と共に織物工場を立
ち上げ、伝統的なデザインに基づく様々な意匠を考案。
さらにその研究のために世界中を旅して各国々の衣装やイン
テリアなどを収集して行く。こうして独特のファッションセ
ンスを磨いたアイリスは、メトロポリタン美術館で特集を組
まれるほどの名声を築いたのだ。
そんなアイリスの行動や生活、さらに意見などが見事に集約
されたドキュメンタリーになっている。

監督は、1969年『ローリング・ストーンズ・イン・ギミー・
シェルター』などのアルバート・メイズルス。2015年3月に
他界した監督の最後の作品となったようだ。
高齢化の進む近年では、いろいろな境遇にいる高齢者の姿を
追ったドキュメンタリーは何本も観ている気がするが、自分
自身がそちら側に近い年齢になっていると、痛々しいという
か、何となく観ていて辛い気分にもなってしまう。
その点で言うと本作に登場する94歳の女性は、正しくそんな
高齢者に勇気を与えてくれる存在と言えそうだ。しかも本作
では、その女性に対し見事にファッションアイコンとしての
リスペクトを持って捉え切っている。
観ていて元気が貰えるような作品だった。

公開は3月5日より、東京は角川シネマ有楽町ほかでロード
ショウとなる。

『ディーパンの闘い』“Dheepan”
戦乱の母国を逃れてヨーロッパで暮らす難民の姿を描き、昨
年のカンヌ国際映画祭でパルムドールに輝いたドラマ作品。
主人公はスリランカで反政府系の戦闘員だったが、政府軍に
追い込まれ、とっさに女性とその女性が連れてきた女の子を
家族に仕立ててヨーロッパへと脱出する。そして辿り着いた
フランスでは、郊外のアパート団地で管理人の職を得て生活
の基盤を得る。
ところが彼の担当する棟の集会スペースは不良のたまり場と
化しており、その団地の向いの棟にはギャング団らしき連中
が出入りしていた。そんな中でも連れてきた少女を学校に通
わせ、女性にも向いの棟に住む老人の介護の職が来て貧しい
ながらも生活も安定して行くが…。
そんな彼の生活に新たな試練が襲い掛かってくる。

出演は、実際にスリランカの反政府軍「解放の虎」に入隊し
ていたというアントニーターサン・ジェスターサン、南イン
ドの劇団に所属していたカレアスワリ、スリニバサン、それ
に撮影時9歳のカラウタヤニ・ヴィナシタンビ。
脚本と監督は、2012年12月紹介『君と歩く世界』などのジャ
ック・オディアール。今回はタミル語を話す俳優たちと通訳
を介しての演出で、新たな世界を繰り広げている。
元々はサム・ペキンパーの『わらの犬』のような構想だった
そうだが、そこに難民問題を織り込むことで物語は大幅に変
化している。その難民は現在のヨーロッパでは重大な社会問
題であり、そこに一石を投じる作品にもなりそうだ。
難民問題に関しては、政府の方針が国際基準を満たしていな
い日本では、なかなかその状況を理解し難いが、大量難民を
受け入れる一方でテロにも遭うヨーロッパの現状をこういう
映画を観て少しでも理解したいものだ。
それにしても日本の観客は、エピローグのこの映像で主人公
らがどこに行ったのか理解できるのかな?

公開は2月12日より、東京は日比谷のTOHOシネマズシャンテ
ほかで全国公開となる。

『新劇場版 頭文字D Legend 3−夢現−』
2005年6月紹介『頭文字D』と同じ原作を映像化する劇場用
アニメーション作品。
漫画家のしげの秀一が1995年から2013年まで発表した原作の
映像化に関しては、テレビのアニメシリーズやその劇場版、
さらにOVAなどで多様に展開されているようだが、本作は
2014年から『新劇場版』として新たに展開されているもの。
ただし前2作『Legend 1−覚醒−』と『Legend 2−闘走−』
は試写の案内が貰えなかった。
ということで今回は『Legend 3−夢現−』が初観賞になった
が、冒頭には前2作のダイジェストが添えられており、その
間の経緯などは理解できるようになっていた。とは言うもの
の、元々が峠のレースバトルを様々なテクニックを駆使して
勝利して行くことが主題の作品だから、その過程を観られな
いのは多少残念には思えたものだ。
でもまあそれらは原作の通りなのだから、読者ファンならそ
れでもOKなのかな。そして本作ではそれらのバトルで注目
を集めるようになった主人公と、赤城最速と言われた男との
究極のレースが描かれる。

監督は『ポケモン』などを手掛ける日高政光の総監督の許、
前作も担当した中智仁が務めている。
またドライヴィングなどのテクニックの監修には現役レース
ドライヴァーが起用され、重量感や物理法則の則った車両の
動きなどが3DCGによって忠実に再現されているそうだ。
さらにエンジン音や走行音なども実際の走行で生収録した音
が使用されている。
という迫力の作品だが、さらに公開時には今月初めの『ボク
ソール★ライドショー』でも紹介した4DXでの上映も行わ
れる。実は本作の4DXによる完成披露試写会が来年1月末
に予定されており、それも観に行くつもりなので、その報告
は改めてしたいと思っている。

公開は2月6日より、全国ロードショーとなる。

この他に今週は
『蜃気楼の舟』
『ふたりの死刑囚』
『別れた女房の恋人』
『牡蠣工場』
『ネコのお葬式』
を観たが全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二