井口健二のOn the Production
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2015年12月13日(日) フォースの覚醒記者会見、これが私の人生設計、白鯨との闘い、オートマタ、ゾンビスクール!、ジェンダー・マリアージュ

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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「スター・ウォーズ/フォースの覚醒記者会見」
12月18日18:30の世界一斉公開を目前に、監督と主演者3人
による来日記者会見が行われた。
とは言うものの、本編の試写は行われておらず、作品を観て
いない状況での質問というのは至難の業だ。そんな中での記
者会見だったが、案の定、出てくる質問は日本の印象など他
愛のないものばかり。
それに対する主演の若い2人の回答も、原宿が楽しかっただ
の、秋葉原で沢山買い物をしただので、これでは質問は作品
に関するものに限るという事前の取り決めにも反するのでは
ないかという感じだった。
因に僕は監督に対して「原案はジョージ・ルーカスというこ
とだが、その原案の創られたのはいつ頃だと思うか?」とい
う質問をしたかったが、質問がテレビのレポーター優先で、
しかもその数3問で終わりでは…。
とは言うものの収穫が全くなかった訳ではなくて、「全く明
かされていない物語の中に何か日本向けのものはないか?」
という質問に対して、一旦は「No!」と答えた監督が「実は
惑星の名前に日本の地名を付けた」とのことだ。
その地名は会見場では実名が出されたが、監督が初めて来日
した際に宿泊した場所とのこと。皆さんには本編が公開され
たらそれを観て気付いて欲しいものだ。
そしてもう1点、会見最後の写真撮影に登場したドロイドの
BB−8には正しく度肝を抜かれた。
このドロイドは予告編にも出てきているので、その動きなど
は承知していたが、それは多分CGIだろうと思っていた。
ところが会見場に登場したドロイドが、正にその通りの動き
を目の前でして見せたのだ。
それは着ぐるみなどではない純粋にメカニカルなもので、吊
りワイアーなどもなかったが。それが多分リモコン操作で実
に軽快に会場を動き回って見せた。その動きを観られただけ
でもこの会見に来た価値を見い出せたものだ。
試写を観られないので多分今後も本編の紹介はできないが、
記者会見の報告だけさせて貰っておく。

『これが私の人生設計』“Scusate se esisto!”
1970−80年代にローマ郊外に建設された集合住宅の再生計画
を背景に、様々な社会状況を軽快なタッチで感動的に描き上
げたイタリアンコメディ。
主人公は田舎町の出身だが建築を学んで海外に雄飛し、特に
ロンドンで実績を積んだ女性建築士。そんな彼女が母国イタ
リアに帰って新たな挑戦を始めようとするが…。女性は恋愛
の対象としか考えない男性社会では中々思うようには成果を
上げられない。
そんな中で集合住宅の再生計画に応募した彼女は、男性社会
で勝ち抜くためのある秘策を考え着く。ところがそれが様々
な波紋を呼んでゆき、さらには大きく社会を動かして行くこ
とになる。そんな未来のために奮闘する女性の姿がユーモア
たっぷりに暖かく描かれる。

監督は、「イタリア映画祭2014」で上映された『ようこそ、
大統領!』などのリッカルド・ミラーニ。主演は監督夫人の
パオラ・コルッテレージ。他に2010年9月紹介『シチリア!
シチリア!』などのラウル・ボヴァ、2012年『K2〜初登頂
の真実〜』などのマルコ・ボッチらが脇を固めている。
物語には保守的社会におけるマイノリティの問題も深く描か
れており、それがクライマックスを迎えるシーンはかなり感
動的なものだった。その中には僕自身が弱小チームのサポー
ターとして「成程、そうなのか」とニヤリとするものも含ま
れており、胸を突かれたものだ。

公開は2016年3月5日より、東京は新宿ピカデリーほかにて
ロードショウとなる。

『白鯨との闘い』“In the Heart of the Sea”
ハーマン・メルヴィルが『白鯨』を執筆するために取材した
実話に基づくとされる3Dドラマ作品。
時は1850年、ナサニエル・ホーソーンの『緋文学』が話題を
呼んでいるアメリカ文学界で1人の作家が次作の構想を巡ら
してた。彼の名はハーマン・メルヴィル。捕鯨船に乗り組ん
だこともあるという作家は、捕鯨船員に伝わる伝説を物語に
しようとしていた。
ところが彼が訪ねた伝説の起源を知るとされる老船員は中々
重い口を開こうとしない。しかし作家の熱意に触れた老船員
は長年連れ添った妻にも話せなかった航海の話を始めるが。
それは巨大な白い鯨との遭遇を軸に、人間性の極限にも関る
重大な物語だった。

出演は『マイティ・ソー』などのクリス・ヘムズワースと、
2012年8月紹介『リンカーン/秘密の書』などのベンジャミ
ン・ウォーカー、2014年5月紹介『トランセンデンス』など
のキリアン・マーフィ。他にベン・ウィショー、ブレンダン
・グリースンらが脇を固めている。
監督はオスカー受賞者のロン・ハワード、ストーリーと脚本
は2002年4月紹介『光の旅人』などのチャールズ・レヴィッ
トが担当した。
物語はメルヴィルの時代には口にすることも憚られるような
出来事を描いたもので、その辺は現代の映画だから描くこと
ができるということなのかもしれない。でもそれをちゃんと
描いたというところも評価すべきだろう。
それに加えて本作の物語とメルヴィルの『白鯨』との繋げ方
も巧みなところで、成程これならと納得できるものだった。
この辺の巧みなドラマ作りにも感心する作品だった。

公開は2016年1月16日より、東京は新宿ピカデリーほかにて
2D/3Dロードショウとなる。

『オートマタ』“Automata”
試写会場でアントニオ・バンデラス初の本格SF作品と紹介
された作品。
時は2044年、太陽風の異変によって地表は砂漠化し、人類は
ロボットの助けなしには生きて行けない状況となっている。
そんな状況下で開発されたロボットには、1:生命体に危害
を加えてはいけない。2:自らを修理改造してはいけない。
という制御機能が組み込まれた。
そして主人公は、そんなロボットの開発会社から派遣される
調査員。彼はロボット嫌いの刑事に破壊されたロボットを調
査する内、そのロボットが何者かの手で改造され、制御機能
2が無効にされていた事実を突き止める。
そこでさらなる調査に乗り出した主人公だったが、謎の組織
に襲撃されてカーチェイスの末に砂漠で車が横転。気を失っ
た主人公が目覚めたとき、彼はロボットの一団と共に砂漠を
何処へともなく進んでいるところだった。

共演はデンマーク出身のビアギッテ・ヨート・スレンセン。
さらに1988年『ワーキング・ガール』でオスカー候補のメラ
ニー・グリフィス、共に2015年9月紹介『サバイバー』に出
演のディラン・マクダーモットとロバート・フォースターら
が脇を固めている。
脚本と監督は、2008年『シャッター・ラビリンス』で長編デ
ビューのガベ・イバニェスが担当した。
宣伝はロボット物で売るのだろうが、SFファンとして観え
る物語は人類とA.I.の関係を描いたものだ。それは物語の最
後に流れる音楽がそれを示しているもので、そこで流れるの
は“Daisy Bell”。
これは1961年にベル研究所のコンピュータが初めて歌った曲
であり、『2001年宇宙の旅』で機能停止されるHAL 9000が最
後に歌う歌なのだ。つまりこれは本作の物語が人類とA.I.の
関係を描いたものであることを示している。
そこで翻って本作を考えると、主人公とロボットの一団の砂
漠の旅は『2001年』で木星に向かう旅であり、目的地の直前
での戦いはボーマンとHAL 9000の戦いにも重なってくる。そ
してその結末は…。そんな意味も感じられる作品だ。
さらに本作は、長年ロボットSFの決まりだった「アシモフ
の3原則」を覆した作品でもあり、これはA.I.時代の新たな
ロボット像を描いた作品と言えるものにもなっている。SF
ファンは見逃してはいけない作品だ。

公開は2016年3月5日より、東京は新宿ピカデリーほかにて
全国ロードショウとなる。

『ゾンビスクール!』“Cooties”
製作総指揮に『スター・ウォーズ』のヘイデン・クリステン
セン、製作に『パラノーマル・アクティビティ』のスティー
ヴン・シュナイダーと、主演も務めるイライジャ・ウッドが
名を連ねるというゾンビ映画。
主人公は地元の小学校に国語の教師としてやってきた男性。
実は小説家を目指してNYに出たが、夢を諦めて故郷に舞い
戻ったのだ。そんな彼は教員室で昔の恋人とも再会するが、
彼女にはすでに体育教師のマッチョな婚約者がいた。
そしてその日の給食に出たのは地元名産のチキンナゲット。
ところがそれを食べた生徒たちに異変が起きる。突然子供た
ちが凶暴になり、先生たちを襲い始めたのだ。しかもその標
的は校外にも向き始め…。

共演は、2011年4月紹介『スコット・ピルグリムvs.邪悪な
元カレ軍団』などのアリスン・ピル、2011年5月紹介『メタ
ルヘッド』などのレイン・ウィルスン。
そして本作では脚本と製作総指揮も務める『ソウ』シリーズ
などのリー・ワネルと、2011年9月紹介『グリー/ザ・コン
サート』などのイアン・ブレナンらが脇を固めている。
子供が大人を襲うというテーマでは、1976年の『ザ・チャイ
ルド』など著名な作品もあるが、本作はそれを継ぐものにな
れるのかな。取り敢えずPTAが顔をしかめそうな作品には
なっている。
しかも、そこにこのスタッフ・キャストの顔触れが揃ったと
いうのも凄い作品だ。

公開は2016年2月20日より、東京はシネマサンシャイン池袋
ほかにて全国ロードショウとなる。

『ジェンダー・マリアージュ全米を揺るがした同性婚裁判』
                “The Case Against 8”
2005年5月に一度は合法とされたカリフォルニア州の同性婚
だが、同年11月オバマが当選した大統領選挙と一緒に行われ
た住民投票でその禁止法(提案8号)が可決される。その是
非を巡って5年に及んだ裁判を描いたドキュメンタリー。
映画はAmerican Foundation for Equal Rights(AFER)
という団体が訴訟を決めるところから始まる。この団体は当
初よりこの訴訟のために作られたものではあったが、そこに
2人の強力な助っ人が現れる。その2人は弁護士のテッド・
オルスンとデイヴィッド・ボイス。
彼らは2000年に行われたブッシュ対ゴアの大統領選挙に関連
して、その投票の有効性を巡る裁判を両陣営に分れて争って
きた関係者で、特にブッシュ陣営のボイスが今回の弁護団に
入ることは予想されていなかった。
しかし彼らが参画したことで裁判の行方は一気に全米の注目
を浴びることになる。そしてまず原告の選考が開始される。
ここで原告は純粋に同性婚を求める人でなければならず、さ
らに相手から無用な追及を受けないことが重要とされる。
斯くして2組カップル4人の原告が選出され、弁護士と共に
カリフォルニア州最高裁から裁判が開始される。しかしこの
裁判は被告側にあの手この手の画策によって、連邦最高裁ま
で5年に及ぶものになってしまうのだ。
因に映画ファン的には、裁判の被告が当時のカリフォルニア
州知事アーノルド・シュワルツェネッガーだったことは記し
ておきたい。ただしこれは手続き上のもので、シュワルツェ
ネッガー本人は映像には登場しない。
そして映画では、正にドラマティックな展開も含めて裁判の
顛末と、そこに至るまで舞台裏の状況などが克明に描かれて
行く。それは百戦錬磨の弁護士までもが感動を表明するほど
の見事な作品だった。

製作と監督は、2013年11月紹介『愛しのフリーダ』などを手
掛けたライアン・ホワイトと、2006年『不都合な真実』にも
携わったというベン・コトナー。作品は正に裁判の最初から
最後までを克明に綴ったものだ。
日本でも東京の渋谷区や世田谷区で同性パートナーの権利が
登録によって認められる運びとなっているが、本作はさらに
同性を婚姻として認めるというもので、日本とアメリカの意
識の違いを見るなり突きつけられてしまった。
今回先に紹介した『これが私の人生設計』でもマイノリティ
の問題が扱われているが、正にこれらが差別の問題であるこ
とを日本人の観客は明確に理解しなければいけない。そこに
ある差別の意識が全てに関ることなのだ。
しかもそれを我関せずという態度で見過ごすことも、さらに
差別を増長させるということも理解しなければいけない。未
だに差別発言を平然と繰り返す政治家がまかり通っている日
本の現状も考えさせられる作品だ。

公開は2016年1月30日より、東京はシネマート新宿、大阪は
シネマート心斎橋ほかにて、全国順次ロードショウとなる。

この他に今週は
『クーパー家の晩餐会』“Love the Coopers”
『リリーのすべて』“The Danish Girl”
『ロイヤル・コンセルトヘボウオーケストラがやって来る』
           “Om de wereld in 50 concerten”
『ニューヨーク眺めのいい部屋売ります』“5 Flights Up”
『背徳の王宮』“간신”
『再会−禁じられた大人の恋』
を観たが全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二