井口健二のOn the Production
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2015年11月22日(日) 母と暮らせば

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『母と暮らせば』
2013年12月紹介『小さいおうち』などの山田洋次監督が長崎
原爆について描いた作品。
主人公は、戦後間もない時期の長崎の郊外に暮らす女性。兵
士だった夫と長男を戦場で亡くした彼女は、医大生になった
次男は戦場に行かなくて済むと思っていたが、医大のすぐそ
ばに投下された原爆がその夢を打ち砕く。
そんな彼女は遺品も遺骨の欠片さえ見つからない次男の死を
なかなか受け入れられなかったが、献身的に支えてくれる次
男の婚約者だった女性の姿に、最早次男の影を追わないこと
を決心する。ところがそこに次男の幽霊が現れる。
こうして登場した次男の幽霊との対話によって新たな生きが
いの生じた彼女は、周囲にもその影響を与えるようになって
行くが…

出演は、吉永小百合、人気グループ嵐の二宮和也、『小さい
おうち』でブレイクした黒木華。さらに浅野忠信、映画出演
は約30年ぶりという紫綬褒章受章の舞台俳優・加藤健一らが
脇を固めている。
山田監督については以前にも書いたかもしれないが、かなり
昔にSF映画本の編集に携わっていた際、『スター・ウォー
ズ』の披露試写後に出てきた監督に編集者がコメントを求め
たところ、「僕には関係ない映画ですね」とすげなくされた
ということだ。
これに対して当時の僕は「それならこっちも関係ないな」と
思っていたところがある。本作はそんな監督の幽霊譚という
ことで、それが純粋なファンタシーではないとは言え、その
描き方などに興味を持ったものだ。
そんな気分で観に行ったのだが…。観始めてすぐに気が付く
のは、この作品がファンタシーのオブラートに包まれた反戦
映画だということだった。それは長崎原爆という未曾有の事
態に対して純粋な反戦を描いている。
これは「戦闘を描写したら反戦は描けない」という僕の持論
にも合致して納得できる作品だった。そこで翻って先の監督
のコメントを考えると、『スター・ウォーズ』は題名の通り
戦闘を描いたものであり、それは山田監督には関係のない作
品だったとも言えるのだろう。
勿論『スター・ウォーズ』はSF映画であって戦争映画では
ないという反論もできるが、それはSF映画ファンの言い分
であって、一般の観客にそれは通用しないのだ。
その一方で本作には、幽霊の存在が主人公だけの幻想ではな
いとする「仕掛け」があるのだが。それが映画の途中で仄め
かされて結末で明示される展開で、さらにその瞬間に映画の
前半のシーンが甦ってくる。そんなドラマの巧みさにも感動
を覚える作品だった。

公開は12月12日より、全国一斉ロードショウとなる。


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井口健二