井口健二のOn the Production
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2015年11月15日(日) リザとキツネと恋する死者たち

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『リザとキツネと恋する死者たち』“Liza, a rókatündér”
ハンガリー国内で11年間に150本以上のCMを手掛けてきた
というウッイ・メーサーロシュ・カーロイ監督が日本文化に
触発されて、初めて長編として完成させた正しく珍品と呼べ
そうな怪作。
背景は1970年代のハンガリーの首都ブダペスト。元日本大使
の未亡人の家に住み込みの看護士として働くリザは、未亡人
がこよなく愛する日本の恋愛小説や歌謡曲に囲まれて暮らし
ていた。しかし未亡人がカセットで歌謡曲を聴くとき現れる
謎の幽霊は、リザにしか見えない存在だった。
そんなリザの30歳の誕生日、彼女は初めての休暇を願い出て
お洒落をし、浮き浮きした気分で町へと繰り出す。その姿を
幽霊は複雑な顔つきで見送っていた。斯くしてリザの留守中
に惨劇が起きる。ベッドからお菓子を取ろうとした未亡人が
転落し死亡してしまったのだ。
しかも葬儀に集まった遺族は、遺産の全てがリザに贈られる
と知るや、リザを殺人者として警察に訴える。この訴えに警
察は地方から赴任してきた刑事に捜査を命じるのだが、その
後もリザの周りでは死亡事件が相次ぐことに…。そして刑事
は自ら被害に遭いながらも誠実に捜査を進めて行く。
物語は日本の九尾の狐伝説をベースにしたもので、妖怪の呪
いで恋する人を次々に奪われてしまう女性が、その呪いを解
いて恋を成就させようとする姿を描いている。ただし舞台は
東欧、そこに日本風の狐の影が写し出されるというのも摩訶
不思議な感覚の作品だ。

出演は、19世紀から続くハンガリーの国立劇団に主演女優と
して所属し同国の舞台やテレビでも活躍しているモーニカ・
バルシャイと、デンマーク生まれで日本人の母を持ち一時は
日本で修行の後、現在はハリウッドでアクション俳優として
活動しているというデヴィッド・サクライ。
他には、ハンガリーの舞台演劇などで活躍するベテラン俳優
のサボルチ・ベデ=ファゼカシュ、ガーボル・デヴィッキら
が脇を固めている。
劇中には何曲もの昭和歌謡風の楽曲が流れるが、プレス資料
にはその歌詞が掲載されている。すなわちこれらはJASRACの
承認不要で、つまり全てオリジナルのもの。しかも日本語の
歌詞はカーロイ監督自らがハンガリー在住の日本人と相談し
て書いたとのことで、傾注ぶりが伺える。
そしてその歌手という設定のサクライが演じる幽霊の名前は
トミー谷。ソロバンは持っていないが往年のトニー谷を彷彿
させる。因にメガネは太い黒縁も考えたが本作の設定に合わ
せて大人しめにしたのだそうだ。音楽も昭和歌謡風に巧みに
創作されており、思わずニヤリだった。

公開は12月19日より、東京は新宿シネマカリテ他にてレイト
ショウとなる。


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井口健二