井口健二のOn the Production
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2015年10月18日(日) X年後2

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『X年後2』
2012年7月に紹介した愛媛県・南海放送製作のドキュメンタ
リーの続編。
前作では、1950年代にビキニ環礁で行われた米英の水爆実験
で被爆したマグロ漁船が第五福龍丸だけではなかったことを
明らかにし、広島長崎に継ぐ第3の被曝者である漁師たちが
何らの賠償も受けられないまま今日に至っていることを訴え
ていた。
しかし前作では、その重大な事実は訴えられているものの、
その余りな重大さ故にそれに関った人間(漁師)の姿が少し
希薄になっている感じがした。ただしそこには、肝心の漁師
たち自身がその事実に対して口を噤んでしまっていたという
現実もあったものだ。
それを踏まえて本作では、見事にその人間の姿が描かれて行
く。そこに登場するのが、父親がマグロ漁師だったという高
知県出身の女性。小学生の時に父親が死去し苦労して現在に
至ったという女性は、しかし父の死因が何であるかを理解し
ていなかった。
それは周囲からはずっと酒の飲み過ぎと言われ続け、恐らく
は女性自身もそう思い込まされて負い目にも感じていたので
あろうことが、前作の上映を観て初めて隠された真実を知ら
されたのだ。そして女性はその事実を踏まえて生存する漁師
たちへの聞き取り調査を開始する。
その調査は初めて地元の漁師の遺児が行うものであり、前作
では口を噤んでいた人たちが重い口を開き始める。そこには
なぜ彼らが口を噤まなければならなかったか…という、重大
な経緯も語り始められるものだ。それは勿論前作でも薄々は
理解されたが、本作でそれが明確にされる。
そしてもう1人、映画やテレビ化もされた漫画『女帝』の作
画家である和気一作も漁師だった父親の真実を調べ始める。
彼もまた若くして亡くなった父親の受けた被害の事実を前作
を観るまで知らなかった。何故そこまで漁師たちが口を噤む
のか? そんな真実が綴られて行く。

公開は11月7日より愛媛:シネマサンシャイン大街道で先行
上映の後、東京は11月21日からポレポレ東中野。以後は全国
順次公開となる。なおポレポレ東中野では初日から3日間と
上映期間中に様々なトークイヴェントも開催される。
前作を観た後では、当時に放射能汚染されたまま市場に流れ
たマグロを食した我々国民に及ぼされた被爆の状況が不安に
なった。今回第2作を観るに当ってはその辺の情報も期待し
たが、今回は取り敢えずその方向ではなかった。でも本作に
描かれた内容こそも国民が知るべきものだ。
さらに続編も期待したい。


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井口健二