井口健二のOn the Production
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2015年04月12日(日) ウィークエンド・チャンピオン モンテカルロ1971、樹氷侍/樹氷侍2

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『ウィークエンド・チャンピオン モンテカルロ1971』
              “Weekend of a Champion”
3度の年間ワールドチャンピオンにも輝いたF1レーサーの
ジャッキー・スチュワートが、友人である映画監督ロマン・
ポランスキーと共に、自身も3度優勝したモナコGPを背景
にF1レースについて語るドキュメンタリー。
元々はポランスキーの企画で1971年に製作され、翌年のベル
リン国際映画祭では特別賞にも輝いた作品だったが、ポラン
スキーの言葉によると「当時はドキュメンタリーは不遇で、
イギリスで1回テレビ放送され、フランスでも放送されたか
もしれないが、その後は忘れられた」とのことだ。
そんな作品の原板が数年前にイギリスの現像所で発見され、
レーサーの息子でドキュメンタリー製作者のマークの製作総
指揮の許、そのフィルムのリストアや資料映像を取り入れた
再編集、音響のリミックス、さらに追加撮影も行われて新た
に完成された作品になっている。
その見どころは、何と言っても当時では画期的と言えるオン
ボード・カメラによるサーキットの紹介。ドライバーは勿論
ジャッキー・スチュワートで、彼自身の解説付きで1971年の
モナコGPのコースと、現在のコースが2度に亙って紹介さ
れている。
そこでは、1971年当時は本当に真っ暗になって恐怖も感じさ
せるトンネルの様子や、寄り過ぎると車体が破損する恐れも
あった路肩の段差など、正しく時代を感じさせる映像も次々
に紹介される。それはノスタルジーであると共に、ここまで
F1が歩んできた歴史も描いているものだ。
そして後半にはレーサーと映画監督が語り合う現在の情景が
追加され、そこでは「5年生き延びるのは3分の1」と言わ
れる危険な環境だった当時に、次々に去って行った仲間たち
の思い出や、悲惨な事故の様子なども資料映像として綴り込
まれている。
そんな中で、ジャッキー・スチュワートが死亡事故の撲滅の
ために立ち上がり、要求し、実現してきた車体やサーキット
の改善の話は、先に逝ってしまった友やその遺された家族へ
の思いとも重なって、深い感動を描き尽したものにもなって
いる。
F1関連のドキュメンタリーでは、2010年9月『アイルトン
・セナ−音速の彼方へ−』なども紹介しているが、それとは
違った意味でF1の魅力を語った作品と言える。それに何よ
り、あのジャッキー・スチュワートの運転で巡るモナコGP
のサーキット。この映像は宝物だ。

公開は初夏。東京は渋谷シアター・イメージフォーラムにて
モーニング&レイトショウとなる。

『樹氷侍/樹氷侍2』
先日、ベルマーレの応援で山形に行った際に、この2作品の
上映イヴェントに遭遇した。従って試写を観たものではない
が、本作の情報は他の映画サイトにも出てこないようだし、
僕自身が内容的にも気になったので、ここに紹介する。
作品は13分程度の短編と、70分弱の中編の2本立てとなって
いるが、それぞれは独立した作品で物語が繋がっているもの
でもない。単に主人公となるキャラクターが共通していると
いうものだ。
そのキャラクターは「樹氷家族」。山形県山形市にある蔵王
温泉スキー場で、樹氷をイメージして平成24年に誕生したと
いう「じゅっきーくん」と、その両親の「たいきくん」「む
ひょこちゃん」の3人が悪漢相手に死闘を繰り広げる。
その1作目の短編は2014年に発表されたもので、山奥に潜む
悪の集団キツネと「樹氷家族」が戦うというもの。その戦い
振りにはいろいろ仕掛けもあって楽しませてくれるが、如何
せん上映時間が短くて敵の背景などが不明で気になった。
その不満を解消してくれるのが、この日が初公開の第2作。
こちらでは物語にも時間を掛け、主人公や副主人公の様々な
経緯なども描かれ、さらには戦い振りやその流れの中での変
化球などもあって、たっぷりと楽しませてくれた。
そこには突然のホラー風の味付けがあったり、「樹氷家族」
以外の山形県各地のゆるキャラも登場して、正しくヴァラエ
ティに富んだ仕掛けが施されており、その旺盛なサーヴィス
精神にも感激した。
しかも全体のバランスが良く、この種の作品に多く見られる
作者の思い入れの部分が突出して鑑賞していて違和感を生じ
るようなこともなかった。つまり作品として存分に楽しめる
作品だったということだ。
その一方でこの2作は題名に『侍』とある通りのチャンバラ
が主眼。こちらは俳優向けの剣道場とされる魂刀流志伎会の
流れを汲む魂刀流山形殺陣剣術乃会という団体が協力して、
かなり本格的なチャンバラが展開される。
それは勿論、大手映画会社の作品のようにVFXなどが豪華
絢爛というものではないが、作品の全体を通して郷土愛や映
画愛などいろいろな意味での愛情が感じられ、心地良い気分
で作品を鑑賞することができた。

この様な作品に遭遇できたことに感謝したい。
なお公開はこの日1回だけだったようだが、今後は5月10日
に、酒田市にある酒田hopeにて昼夜2回の上映なども予定さ
れているようだ。


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井口健二